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ワールドカップラグビーとビデオ判定とスポーツ

フランスの運命を決めたビデオ判定

 10月20日、日本の敗退が決まったに日本対南アフリカ戦に先立って行われた準々決勝ウェールズ対フランス戦。試合は大方の予想に反してフランスが先制し、その後もシャンパンラグビーのニックネームの通り、泡が湧き出るように次々と選手がサポートするスタイルで試合を支配しました。問題のシーンは、19対10でフランスリードで迎えた後半7分、ウェールズゴールライン付近の密集の中で起こりました。

 フランスの身長206cmの巨漢フォワード、セバスティアン・ヴァーマイナ選手が相手選手に強烈な肘鉄を食らわせたのです。主審ヤコ・ペイパー氏は、このプレーをビデオ判定システム=TMO(テレビジョンマッチオフィシャル)で確認した後、ヴァーマイナ選手にレッドカードを示しフランスは残り時間を14人で戦わなくてはならなくなりました。数的に不利になったフランスを、ウェールズは残り2分で逆転をして準決勝への切符を手にしたのです。

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 ヴァーマイナ選手の肘鉄は、あまりに激しく映像を見る者は驚きの声をあげるほどでした。またリプレイ映像では、彼の視線から彼が故意に行ったことも見てとれます。

 しかし、恐らくですがペイパー主審はこの行為にリアルタイムでは気づいていません。ファールの後もしばらくプレーが続き別の反則でプレーを止めています。

 気になるのは、ここからビデオ判定が使われるまでの流れです。中継の様子からだと、先にプレーのリプレイが場内に流され、その映像に対する観客の反応をがあって、それから主審がビデオ判定を指示したように見えました。ラグビーの場合、ビデオ判定を利用するかどうかの最終判断は主審にあるはずで、選手やチームスタッフ、もちろん観客に促されることがあってはならないはずです。 

ラグビーとビデオ判定の親和性は?

 ラグビーワールドカップでは2003年の大会からビデオ判定が採用されているそうですが、そもそもラグビーはあらゆる競技の中で、最もこうしたシステムの恩恵を受ける競技だと思います。何しろ、片方のチームだけで15人、両チーム合わせて30人という主な競技で最大人数でのプレーをわずか3人でジャッジしているのです。しかも、密集があって選手の様子もボールも審判から見えづらいシーンが常となっています。試合の流れが途切れたり、試合時間が長くなるなど他の競技同様にマイナスの影響を指摘する声もありますが、ラグビーの場合はジャッジの精度を上げるのに貢献していることは間違いないはずです。他の競技から見ると、インターバルが多く、比較的長いラグビーという競技は、ビデオ判定との親和性が高いと思います。

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  今回の問題のシーンも、大きな密集のプレーが続く中、主審がいるのとは反対側で起こっていて、審判が特に足元の動きやボールの位置などを見ていたとしたら、気づくことができなくて当然だと思います。実はウェールズの選手たちもやられた本人以外は、気づいていないか、それほど問題にしていないかのどちらかの様子でした。ですから今回のワンプレーだけを見ても、ビデオ判定の効果は非常に大きく、これが故意のファールに対する抑止力となっているだろうことも想像できます。

多くの競技のビデオ判定の現状は

 現在では、多くの競技で映像を使って判定の確認が行われています。その中で最も早くに導入したのが、大相撲だったのかもしれません。大相撲では、土俵の周りに6人の審判員が座り取り組みを見ています。審判である行司の勝負結果に対するジャッジが間違っていると判断された場合、彼らが申し出て勝負結果について協議します。その時に映像を見ているのです。このシステムが採用されたのはなんと1969年。テレビ中継の映像を使って始められたそうです。

 それ他の競技で最も早く導入したのが、1999年のアメリカンフットボールNFLだそうです。合理性を記録を重視するアメリカンスポーツらしく、「やっぱりな」という気がしますが、ジャッジに納得できないチームの監督が最大3回ビデオ判定を要求できる"チャレンジ"など、その後の他の競技のビデオ判定のルールに大きな影響を与えています。

 筆者が最も印象的だったのは、テニスのメジャー大会で採用されたラインのインアウトをグラフィックで再現するシステムです。その再現スピードも含めた観客や視聴者にも十分配慮したシステムは秀逸だと思われます。単に映像を再生するのとは一線を画しています。

 野球、バスケットボールなど多くの競技で導入された中で、サッカーも昨年のワールドカップから本格的に採用されました。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)というビデオ判定システムとゴールラインテクノロジーと呼ばれるゴールの有無を判定するセンサーを使ったシステムの併用が行われ、大会中勝敗を左右する多くの大事なシーンで利用されましたが、審判間の利用の方法や基準の不統一やシステムエラーなどがあり、多くの課題を残しています。

 このサッカーのVARはその名の通り、他の競技と決定的に違う点があります。ビデオ専門の審判がいて、主審の意思に関わりなく積極的にジャッジに関わっているシステムです。先にあげた今回のラグビーワールドカップでも同様のシステムが使われている可能性もありそうですが、確認できていません。サッカーの場合、本来、ゴールの有無や退場など決定的シーンでの誤審の場合にのみ介入すべきところ、これまでの大会、試合ではそれ以上の介入があり、混乱を招いているようです。その辺りを丁寧に解説した記事を見つけましたので読んでみてください。

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 この記事のリリースの後、9月下旬の理事会でJ1のみVARの来季2020シーズンの導入が決定されました。それに先立って試験的に使用された昨日のルヴァンカップ決勝の影響で、VARの運用についてよりユーザーフレンドリーな変更が決まりそうです。

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 ラグビーワールドカップと並行するタイミングで日本で開催されたバレーボールのワールドカップでもビデオ判定が使われています。ボールのインアウトの判定については、おそらくテニスを同じシステムを使用しているようで分かり易いですが、タッチネットやワンタッチなどのネット周辺のプレーについては、単純に映像を再現しています。しかし、その映像の角度や画質が微妙で、テレビで見る限り「それでわかるのかよ!」と思うことが数多くありました。このレベルのものを場内に流して、両チームのベンチ、選手さらには観客が納得できるとは思えないのです。このあたりは、サッカー同様センサーを使ったシステムを併用できると良いと思いますが、開発と運用には資金がかかりますから、その競技が持っている資金力に左右されるのは致し方がないものだろうと思います。

 

 今後の映像や様々な技術の進歩でさらに映像とジャッジがリアルにリンクしていく可能性があります。そうした進歩がそれぞれの競技にどのような影響を与えていくのでしょう? ぜひ、そうした発展がより分かり易く正しいジャッジに貢献してほしいものです。また、観客や視聴者も仲間外れしないシステムであることも希望したいものです。