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野球人気にまつわる二つのリーグについての二つの記事

 野球の人気は、日本とアメリカのプロリーグ、NPBMLBに支えられていると言っていいと思います。どちらも多くの外国人選手がプレーし、特にMLBアメリカ出身の選手が全体3分の1程度で、そういう意味では国際化は進んでいますし、台湾、韓国、中米のリーグも盛んですが、プロスポーツの人気としてはこの二カ国、二つのリーグが支えていると言って過言ではないと思います。

 その二つの国の野球に人気のついて相次いでネガティブな記事が掲載されました。まずは日本のNPBについてです。

news.yahoo.co.jp

 この記事では、タイトルの通り日本のプロ野球全てではなく、巨人の試合中継が関東のテレビ局にとって価値低下が激しいことがデータを元に指摘されています。念のため書いておくと「オワコン」とは終わったコンテンツの略語です。この記事の見る限り、今年の日本シリーズの視聴率がワールドカップラグビーの日本戦はおろか、海外チーム同士の中継、またバレーボールのワールドカップ中継にも及ばなかったと書かれています。かつての巨人戦中継が一般家庭の夕食時の最大の楽しみだった時代を知っている者としてはやはり衝撃です。

 この記事にもある長嶋茂雄氏が引退のグランドで「我が巨人軍は永遠に不滅です」と発したこの時代、1970年代から80年代は巨人戦はプロ野球にとってドル箱でした。いつもは閑古鳥が泣くようなガラガラのスタンドも一度巨人戦となれば超満員だったし、巨人戦のある日は、テレビのスイッチを入れれば必ずどこかのチャンネルで中継がされていました。一方、巨人戦の無いパ・リーグの試合は、いつもスタンドはガラガラで、テレビと新聞しか情報源のない時代に、選手の名前を覚えてもらえるのも大変だったと思います。

 その様子が変わってきたのは、この記事にもあるように、1993年のJリーグの創設かもしれません。ホームタウンと呼ぶ主催地域を大切にしたリーグの運営方針は、今まで東京中心のプロ野球、特に巨人と野球メディアとは一線を画したものでした。

 また野球界でもこの時期にパ・リーグ近鉄バファローズに野茂英雄が登場し、圧巻の投球を見せた後、アメリカに渡ってメジャーリーグで活躍を見せたり、天才打者イチローを擁する同じパ・リーグオリックスバッファローズ阪神大震災後「がんばれ!神戸」のエンブレムを肩に付けて全国各地でプレーしたあたりから、少しずつ様相が変わってきました。

 野茂、イチローというパイオニアが奇しくも同じパ・リーグから誕生したこと自体が、その後の変化を予兆していたのかもしれません。

 それでも、2005年にセパ交流戦が始まる際には、結果的に巨人との試合数が減るセ・リーグの各チームが交流戦の実施に反対をしました。

 一方で、ソフトバンク日本ハムと地方都市に拠点を移したチーム、さらに仙台を拠点に選んで誕生した楽天が、それぞれ地域重視路線でマーケティングに成功したことがテレビやマーケティング的な巨人離れを後押しをしました。さらに最近ではDeNAの観客動員力のための様々な仕掛けも見逃せません。

 それまで、巨人戦に限られていたテレビ中継が、動画配信によって多くのチームの試合が見れるようになったことを変化の理由にあげる方が多いですが、2011年に完全移行された地上波のデジタル化によって、ずっと地元プロ野球チームの試合をグッドコンテンツとして中継してきた地方U局が、キー局などV局と変わらない環境で見れるようになったことも大きかったと思われます。

 今回ご紹介した記事には、テレビの視聴率以外、ネットでのライブ配信のデータが書かれていないので、ネット配信に親和性の高い若い世代の人気が本当にここに書かれているほど落ち込んでいるかは分かりませんが、かつてほどの話題性も人気もないことは間違い無いでしょう。

 その一つにはやはり人気選手の存在があると思います。スペインの至宝と呼ばれたイニエスタが神戸に加入したことによって、神戸だけでなくJリーグ全体の観客数を増えたと言われていますが、イチロー大谷翔平のようなスター性のある選手が、巨人に長く在籍をしていたら事情は変わってくるでしょうか? 人気絶頂期も王貞治長嶋茂雄の二大スターあっての巨人だったかもしれません。現代は、そういう高いレベルの選手がアメリカ行きを蹴ってでも行きたいと思える、選手にとっても魅力のあるチーム作りをすることが必要になのでしょう。

 一方、本場アメリカのMLBについては次のような記事がアップされています。

www.baseballchannel.jp

 まず断っておきますが、ベースボールチャンネルという日本の野球専門チャンネルが、アメリカ発信ではなく自前の記事としてアップしているものですから、どこまでリアリティがあるものかは別にしておきます。

 ただ、この記事を見る限り、MLB特にワールドシリーズが最近の全国区のコンテンツではないことは間違い無いようです。ただ今年の限って言えば、ヤンキースレッドソックスドジャースなどのメジャー球団が、ワールドシリーズに進めていないことも大きな理由にあげられると思います。

 ここに上がられている試合時間の長さも要因の一つかもしれません。ただ、この記事が間違っている点は、ここに書かれている時間はプレイングタイムで、ハーフタイムやインターバルが一切含まれていないので、NFLNBAも試合開始から終了まで2時間半から3時間程度はかかると思っていいと思います。野球以上に時間にばらつきがあって男子のグランドスラムでは4時間を超える試合もあるテニスもまたアメリカで人気スポーツであることを考えると、試合時間が決定的な要因とは言えないと思います。一方、現在のMLBではアメリカ出身の選手の占める割合が減っていることも、人気低下の要因の一つとして指摘されています。

 ただ、そもそもMLBは、アメリカ4大スポーツのうち、他を圧倒するNFL(アメリカンフットボール)に続いて、NBA(バスケットボール)と人気を争うリーグです。NHL(アイスホッケー)は、カナダを含めて人気が北部に偏りがちですので、事実上、長くNBAMLBがナンバー2の座を争う状態が続いていると言っていいと思います。危惧をするとすれば、後ろにMLS(サッカー)が迫ってきていることでしょう。平均観客数だけで言えば、MLSの平均観客数は21,875人と、既にアリーナで行われるNBAの17,987人、NHLの17,446人を超えて、徐々にMLBの28,830人に迫りつつあります。

 ※数字はいずれも18.com;https://the18.com/ から

 観客数では、日本のNPBの観客動員数は近年増え続け最新の2019年には30,929人で、今年のMLBの動員数28,199人を3000人近く超えています。

NPBNPB公式サイト:http://npb.jp/MLBhttps://www.baseball-reference.com/から

 やはり日本の野球の人気の落ち込みは巨人限定なのかもしれません。とは言え、アメリカにMLSのほか次々と新しいプロスポーツが登場し、既存のスポーツの人気を脅かしているのと同様に、日本では、バスケットボールのプロリーグのBリーグが立ち上げに成功し、卓球も本格的にプロリーグ化を図っています。世界的にはメジャー感のあるラグビーがワールドカップの自国開催の成功を後どのように展開するかも注目です。多様性を求められる時代に、スポーツの好みが多様化するのも当然で、それに呼応するかのようにネット配信などの情報発信のツールも多様化しています。そうした時代に、巨人のような伝統的なコンテンツが自らのバリューを保ち高めていくことができるか、分岐点に立っているのかもしれません。