スポーツについて考えよう!

日々、発信されるスポーツの情報について考えよう

東京オリンピックのマラソンと競歩の札幌開催が決まりましたね。その2

ラソン競歩の札幌開催は誰のため?

 10月半ばに突然IOC(国際オリンピック委員会)が発表したマラソン競歩の札幌開催。10月30日から11月1日まで関係者が出席して行われた調整会議で正式に決定しました。移転の理由はアスリートファースト。高温多湿の東京での開催は、選手にとって過酷過ぎて死者が出るかもしれないという。9月末にドーハで開催された世界陸上選手権の影響が大きいと言われています。この大会では東京同様またはそれ以上に高温多湿の環境で開催されたため、深夜にスタートするという異例の処置が取られましたが、女子マラソンでは約40%がリタイヤ、50キロ競歩でも半数近くの選手がゴールまでたどり着けませんでした。

www.jiji.com

 東京はオリンピック招致の段階では立候補ファイルに「温暖で快適な環境」と書いていましたが、東京の夏が猛暑であることは日本人だけでなく海外の人にも周知のことです。オリンピックに向けて暑さ対策が準備されてきました。

 遮熱舗装やミストシャワー、さらに早朝の競技スタートなど組織委員会と東京都が中心になって耐暑対策を行われて、IOCや国際陸上連盟もこれを承認してきましたが、一転これまでの準備が否定された形になりました。

 小池都知事もこれまでIOCの担当者との相談と承認を得ながら進めてきたはずだと不満を述べています。

 ドーハで行われた世界陸上の悲惨な状況は、大会の中継映像だけでなく、世界の主要メディアが映像や写真入りで伝えました。目も虚ろな状態でコースに横たわっていたり、車椅子の上でぐったりとして運ばれる選手たち。これが世界一を決めるレースであることを加味されて、世界中の多くの人々に衝撃を与えたことでしょう。

 現在の世界陸上連盟のトップで2012年ロンドンオリンピック組織委員会の会長を務めたセバスチャン・コー氏は、大会直後にはこの大会の運営に問題は無かったと語っていたそうですが、IOCのみなさんがこの状況を東京で繰り返してはならないと思ったとしても不思議ではありません。その姿はオリンピックのマーケティング価値を損なうものに他ならないからです。主要スポンサーから厳しい要求が入っていたとしても当然です。

 もし、IOCが彼らの言葉通り本当のアスリートファーストを考えていたのであれば、もっと早くこの案を出していたでしょう。彼らは分散開催されることのコスト、開催都市にとってのマーケティングの価値の低下、そして、盛り上がりを、アスリートファーストと天秤にかけて、今までは東京開催を進めていたのです。それがドーハの映像や画像、メディアの評価を見て、どうやらオリンピックのイメージ、マーケティング的にもこのままではまずいと考えて重い腰をあげることにしたのでしょう。

 さて、札幌開催が選手たちにとって本当にハッピーなのか、それぞれの捉え方が違うようです。

headlines.yahoo.co.jp

 本当に他の競技は会場を変更しなくて良いでしょうか?

 今回の調整委員会でIOCが東京都に出した条件の中に、マラソン競歩以外の競技は会場を変更しないという項目があります。しかし、本当にそれでよいのでしょうか。 

 高温多湿の東京都内での開催が問題視される競技はマラソン競歩以外にもあります。今年夏にテストイベントが開催されたオープンウォータースイミングトライアスロンがその筆頭です。オープンウォータースイミングは、筆者のような素人は水の中だから大丈夫だと思ってしまいますが、気温が30度を超えると競技が中止になるルールがあるように温度にシビアな競技のようです。実際に競技を見てみると水の中に泳ぐ選手に、船上などから給水が行われ、マラソンと同様に水分補給が必要なこともわかります。8月にお台場で行われたテスト大会ではあまりの暑さに体調を崩す選手が出たそうです。またトライアスロンの今年のテストイベントでは、猛暑対策として女子の最後のランが10キロから5キロに短縮されました。

www.afpbb.com

 やはり、選手のコンディションが心配されているがテニスです。東京オリンピックのテニス会場として使用される有明テニスの森は、インドアコートはいわゆるセンターコートとして使われる有明コロシアムの1面しかありません。他のコートの試合は、炎天下の中、午前中から日中試合が行われます。試合時間は3時間を超える場合もあります。一部には海の近くなので風があって気温ほど暑さを感じないという方がいますが、筆者は仕事の関係であの辺りの様子を知っていますが、朝夕こそ風がある日が多いですが、日中は都心と変わりはありません。

 オリンピックには賞金がありません。男女ともに世界のテニスツアーの予定に組み込まれていますが、年間ランキングのポイントはつきません。つまり名誉だけの大会なのです。おそらく、多くのトッププレーヤーが、暑さの影響や試合後のダメージを考慮して東京オリンピックを回避するのではないでしょうか。

 同様のことがゴルフにも言えます。会場となっている霞ヶ浦ゴルフカンツリー倶楽部のある所沢市は、日本一暑いと言われる熊谷のすぐ南側。同じような内陸の気候でオリンピックの開催時期には高温多湿が予想されます。

 他にも大井ホッケー場で開催されるホッケー、お台場の潮浜公園の砂浜で行われるビーチバレー。いずれも昼間に試合の予定が組まれています。暑さが苦手な馬が参加する馬術競技も東京の夏に相応しい競技と言えないでしょう。期間中、世界から集まった馬たちが生活する厩舎のコンディションも気になるところです。十分な空調が用意されているのでしょうか?

 言い換えれば、アウトドアで昼間開催される競技のほとんどが、大きなリスクをかかえていることになります。

 結局、真夏の東京でオリンピックを開催することに無理があるという結論に繋がりますね。そして、IOCが本当にアスリートファーストを考えるのであれば、こうした競技のすべてについて会場変更など抜本的な変更を、もっと早い段階で検討し命じていたずでしょう。

本当にマラソン競歩は札幌で開催できるのでしょうか?

 開催まで9ケ月となったこの時期の会場変更は、大きな混乱を産んでいます。課題として大きく分けて次のような項目が想定されるでしょうか?

  1. スタートゴールの会場を含めたコース設定
  2. 競技などの日程調整
  3. 選手、選手スタッフ、運営スタッフなどの宿泊施設
  4. 警備、ボランティアの手配
  5. コストを誰が負担するのか
  6. 販売済みのチケットの所持者はどうすればよいのか?

 一つ一つ見ていきましょう。

1.スタートゴールの会場を含めたコース設定

 コースについては、当初IOCが希望していた札幌ドームのスタート、ゴールではなく、大通公園をスタート、ゴールにする案が濃厚になりつつあるようです。

 大きな観客席があるスタジアムでゴールというのが、オリンピックのマラソンのイメージですが、札幌ドームの改修には多額の費用がかかる上に、現在プロ野球日本ハムファイターズJリーグコンサドーレ札幌が、札幌ドームをホームスタジムアムとして年間80日以上使用していることを考えると、日程的に大規模な改修は難しいでしょう。また、無理にそこで実施しようとした場合、両チームから営業補償を求められる可能性もあり得策とは言えません。また、短時間で国際陸連がコースの公認手続きを終了するにも、公認レースである北海道マラソンのコースをベースにする大通公園案の方が現実的だろうと思われます。

 一方、大通公園で開催する場合にも多くの課題があります。まず、この期間中この公園では恒例となっている札幌夏祭りが開催されています。市民だけでなく多くの観光客およそ200万人を集める恒例イベントが事実上開催できなくなるかもしれません。札幌市が2030年の冬季オリンピック招致を目指していることと関連してきますが、市民の全てがオリンピック招致に賛成しているはずがありません。市民にとって人気の恒例行事を犠牲にすることで、オリンピック招致に大きな禍根を残す可能性がありますから、札幌市としては慎重な判断が求めれるでしょう。

 そして、大通公園での開催の場合、大規模なスタンドの設置が難しいという意見が大方です。その場合は、チケットは販売せずにコースでレースを見るということになりそうです。

 また、マラソン大通公園発着で行われる場合、競歩大通公園の周回コースを中心としたコースで検討されているようです。競歩は実績がないのでコースの公認のための手続きが時間的にきびしいかもしれません。ただ、いずれの競技もコース自体の公認は世界陸連の中のことですから、強引に進めてしまうでしょう。  

www.yomiuri.co.jp

 2.競技などの日程調整

 一方、日程については国際陸上連盟が日本時間10月30日の段階で、各国の陸上競技連盟に下記のような日程案のアンケートを送っているそうです。

1つは8月7日に男女20キロ競歩、8日に男子50キロ競歩、9日に男女マラソン。2つ目の案は男女マラソン、男女20キロ競歩をそれぞれ同日開催するとし、男子50キロ競歩も含め7月27~29日、または7月28日~30日に実施するもの。この場合は、7月31日から新国立競技場で始まるトラック、フィールド種目とかぶらない日程となる。

マラソンと競歩、開催地変更の他に日程変更案が進行 - 陸上 : 日刊スポーツ

 ちなみにこのアンケートが各国の陸連が送られたのが日本時間の10月30日で、回答期限は翌日の31日です。会場の最終決定を見ない段階であることも含めて懸命なやり方とは思えませんね。国際陸連セバスチャン・コー会長はロンドンオリンピック組織委員会委員長として、この大会を成功に導いた立役者ですが 、IOCとともに開催地の変更を強引に推進したことは非難の対象となるかもしれませんね。

 いずれにしても、日程もIOC国際陸連の中での問題ですから、やるとなったら彼らなりにベストと判断される日程を決めてしまうでしょう。あとは会場を提供する形になった北海度、札幌の対応次第です。

3.選手、選手スタッフ、運営スタッフなどの宿泊施設

 北海道観光のトップシーズンである、7月、8月の札幌で開催することの最大のリスクは、宿泊施設と移動手段の確保かもしれません。このブログでは何度も書いていますが、こうした観光地のトップシーズンのホテルは、1年前に大かたは埋まっているはずです。7月29日まで札幌ドームで開催されているサッカー競技の選手村を延長利用するという記事もありますが、終われば可能な限り早く一般のお客の予約を入れているはずです。そこに割り込む形になるわけですが、それぞれのホテルはどのように対応するのでしょう。長年毎年来館しているお客を1年限りのイベントのために断ることなどは本来のホスピタリティとして絶対にあり得ないことです。札幌のホテルは本当の意味で、おもてなしを試されるのかもしれません。

www.nikkansports.com

 移動手段の確保も重要です。大会スタッフや選手とその周囲はおそらく東京から札幌に入ることが多いと思われます。また、組織委員会は3000人と言われているマラソン競歩のボランティアを追加募集しないと公表しています。だとすれば、おそらくその多くが関東地方からの移動することになるでしょう。なぜかというと、そもそも組織委員会のボランティアの条件の中に、宿泊の必要がないか宿泊が必要な場合は自分で用意することが書かれているからです。ですから、ボランティアのほとんどは東京周辺の会場へ当日自宅から迎える人たちです。警備についても基本的には状況は同じはずです。

 ということで、通常でもチケットが取りづらい8月の上旬に、東京ー千歳間の航空券を確保する必要があります。しかし飛行機の場合は貸切をいう方法もあります。組織委員会のパートナーの企業にチャーター機を出させて解決させてしまうという方法もあります。

4.警備、ボランティアの手配

 ロードレースであるマラソン競歩は非常に多くの警備員とボランティアを必要する競技です。警備員に関しては最終的にお金の問題です。厳冬期ならいざしらず、気候の比較的よいこの期間に、北海道地区で開催日プラスアルファの雇用が確保できないとは思えません。もしかすると人数を確保するために、夏休み期間中の学生のアルバイトを大量動員という方法を取るかもしれません。

 運用については北海道マラソンの実績が生きるでしょう。北海道マラソン組織委員会の警備会社が同じであるかはわかりませんが、警備計画は、大会本部や北海道警察、札幌市警察と共有されているはずですから、それをベースにオリピック仕様を加えていくことになります。ここでもやはり、実績のない競歩の方が難しいので、こうした観点からも対応エリアが狭くて済みスタッフの数を抑えられる、一周の距離が短い周回コースになる可能性が高いかもしれません。

 マラソンで3000人必要だと言われているボランティアは、東京開催のために準備をしていたメンバーを前提に準備を進めるようです。ブラックが指摘される組織委員会のボランティアですが、流石に自前で北海道に移動しろと言わないでしょう。

5.コストを誰が負担するのか

 札幌開催によって生じる追加費用はどこが負担するのでしょう。

 4者による調整会議では東京都が負担しないことは明確になりましたが、実際にどこが負担するかははっきりしていません。支払うところが決まらないということは予算=使えるお金が見えないということで、にも関わらず完成形だけを決めて動き出すことは本来、プロジェクトとしてあってはならないことですが、IOCにはそういう感覚はないようです。必要であれば誰かが負担するだろうとたかをくくっているでしょう。IOC組織委員会が考えることだと言っているという情報もあれば、IOCが負担するしかないと言っているという情報もあります。一方で、IOCが事実上開催都市となった北海道と札幌市と費用負担についての交渉に入るという情報もあります。

 こうした状況を考えると北海道と札幌市は、当初から積極的に受け入れる姿勢を取るべきではなかったでしょう。ポーズとしてだけでも渋々受け入れる、市民感情は諸手をあげて賛成ではないという姿勢を示していれば、IOCとの交渉もしやすかったものを、交渉ベタの日本人気質が出てしまったのかもしれません。今になって、知事や市長の会見などでの硬い表情が今の難しい状況を表しています。

www.sankeibiz.jp

6.発売済みのチケットの所有者はどうすればよいのか?

 既にチケットの一次発売は行われ、支払いは終了しています。 競歩皇居外苑をコースにしていて、元々チケットの発売はありませんが、男女マラソンは、日本人がマラソン好きなことに加え、この大会の目玉と言える新国立競技場をスタートゴールだったことを考えれば、とても人気の高いチケットだったはずです。ただ、最終的に札幌のコースが決定し、チケットが発売されるかどうか等が決まらないと現状のチケットについての判断もできないとは思いますが、とりあえず10月30日の段階での情報は下記の記事の通りです。

www.nikkansports.com

 

続けて掲載予定だった

オリンピックとは何か? 開催都市とは何か? を考える機会に

はまた改めて掲載します。