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再び、観客5284人の意味を考える! 東京武蔵野シティFCのその後の対応と未来

再び、観客5284人の意味を考える! 東京武蔵野シティFCのその後の対応と未来


 前回書いた、「観客5284人の意味を考える」は拙文ながらたくさんの方にお読み頂きありがとうございます。ツイッターでもたくさんのリツートをして頂きました。こちらもありがとうございます。

観客5284人の意味を考える〜東京武蔵野シティFCの挑戦〜 - スポーツについて考えよう!

 ということで、調子に乗って続編を書かせて頂きます。

J昇格断念の判断は誤りだったのだろうか? 断念は早過ぎたのか?

 東京武蔵野シティフットボールクラブは、11月10日の試合で定員オーバーの観客を集めた影響で、12日の時点で今季のJ3昇格を断念したことを発表しました。

www.tokyo-musashinocity.com

 前回のコラムはここまででした。

 しかし、その後、東京武蔵野シティフットボールクラブの周辺がざわついてるようです。チームが早々に昇格を断念したことに対して批判的な方々が少なからずいらっしゃるようです。

 昇格断念に至った理由は大きく2つ挙げられます。

 一つ目は、定員オーバーの観客を集めてしまったことです。これはスポーツに限らずイベント主催者としてあってはいけないミスです。おそらくすぐに罰則があるものではありませんが、場合によっては警察、消防が指導を受けるかもしれません。不注意でしたと言ってしまえばそれまでですが、応援してくださっている皆さん、支援を頂いている企業に対して、そこに至った経緯の説明とともにしっかりと頭を下げるべきものだと私は思います。

 もうひとつは、チームが最終戦を待たずに早々にJ3昇格を諦めたことに対して批判があるように聞いています。

 関係者の話によると、スタジアムの定員オーバーに気づいたのJリーグ側だったようです。施設の収容人数を超えて集客することは、安全管理上由々しき事態ですから、当然と言えば当然ですが、Jリーグも昇格を希望しているチームをしっかりとチェックしているんだなと、それを聞いて筆者は感心しました。

 Jリーグから指摘があった後、12月1日の最終戦武蔵野陸上競技場で開催する限り、昇格条件の年間30000人に及ばないため、チームは他のスタジアムでの開催や仮設スタンドの設置も検討したようですがこれも実現できなかったと聞いています。10日の試合で定員オーバーを指摘したJリーグがこの事実を知っていたということは、他会場での開催ができなことが明確になった時点で、18日に発表されたJ3昇格承認クラブの発表でFC今治と並んで東京武蔵野シティフットボールクラブの名前が載ることはなかったということです。

 それがわかっていたからこそ、チームスタッフは応援していた人たちに1日も早く事実を伝えたかったのでしょう。私からに見るとその判断は決して悪いとは思えません。

 例えば18日のJリーグ理事会の直前まで代わりのスタジアムを探す努力も必要だったという意見もあるかもしれませんが、東京都内で現在の規定でJFLの試合が開催できて、武蔵野陸上競技場より収容できる競技場は私の知る限り5つしかありませんから、すぐに結論が出るはずです。極端な話、電話5本。直近の日程ですから各施設のホームページで見るだけで作業は終わるかもしれません。一方で東京都外に出てしまったら、10日の試合で武蔵野陸上競技場で集めた5000人を、そこで集めるのは不可能と言っていいはずです。残された選択肢はなかったのでしょう。

年間通して30000人を集める努力と観戦に向かう思いが必要だった

 J3昇格に必要なのはわずか3試合で15000人を集めることや最大人数を一度に集めることでなく、年間を通して15試合を全て通して30000人、全ての試合で2000人以上の観客を集めることです。それができれば、今回のスタジアムの定員の問題も発生することありません。残り3試合で●●●●●人と煽ったチームにも責任がありますが、応援する側もシーズン終盤だけ観戦するのはなく1年間を通してコンスタントに会場に足を運ぶ必要があるということです。

 ここからはさらに筆者の推測ですが、昇格断念の発表前後のチームの対応が適切でなかった可能性もあります。危機管理ということに繋がるのだろうと思いますが、このような事態を、相手の立場を鑑みながら、どのように伝えていくか。発信していくか。タイミングも含めてこうした見極めのような本質とは別のこうしたところで組織としての力量が発揮されて、ダメージの大きさが左右される場合があります。

 理事長の井草直人氏は試合後のスピーチなどをお聞きしたことはありますが、人柄の良さが滲み出るものの、お世辞にも弁舌鋭いとは言えません。事務局長の方も、ご自身の主観的な意見を繰り返すばかりで、説得力のある話ができるタイプではないという記憶しています。要職に就くお二人がこれでは、失礼ながら他のスタッフも推して知るべしでしょう。もちろん、上のお二人も含めて、皆さん人柄やエネルギーで周囲を巻き込む力をお持ちなのだろうと思います。

 だからこそ、5284人を集められたわけですし、そういうチームの状況だからこそ、前回のコラムでは、5284人の集客を歴史と人と人との繋がりの成果ではないかと書かせていただいわけです。

歴史があるからこそ立場で異なる判断への評価

 今回の5284人の観客が集まったこととその後のJ3昇格を断念することにしたクラブの対応への評価は、立場によって大きく異なりそうです。

 まず筆者の場合で言うと、東京にあるサッカークラブの1つとしてこのクラブがJFLに昇格した1999年から時折会場に足を運び、傍観者として眺めてきました。その間に多くのクラブがこのリーグを通り過ぎて、Jリーグに昇格していく姿も見てきました。その立場からすると、この5284人という数字は、ようやくこのクラブもここまで来たのかというある種、感慨のようなものがありました。その後の顛末も、そういうこともあるよね。来年またがんばろう!という感じです。だって、昨年まで平均1000人にも届かず、2000人を超えることも何年かに1度あるかないかというチームが、いきなり3000人を超えたかと思えば、次の試合では5000人を突破です。正直に言ってびっくりですし、その結果、想定外の色々なことがあって当然です。

 想像の範囲で恐縮ですが、長くスタンドに足を運んできたファンの方や、横河電機をはじめとする長期に渡って支援されてきた企業の関係者の方々も、同じように感じられたのではないでしょう。

 井草理事長は、全国リーグに昇格する前のこのチームで社員選手としてプレーし、引退後にチームの運営に参加して、今の職に就いたと聞いていますので、その感慨は一入だったことでしょう。

 近年、Jリーグに昇格することを目標に立ち上げられたチームとは違い、1939年以来の長い歴史のあるチームならではの話ですが、私の知る20年の間にも多くの変化があります。

 私が一番感じる違いは、何よりスタンドの様子です。以前はもっとスタンドが賑やかでした。おそらく横河電機の社員の方々でしょう。子供連れのグループでスタンドに集まってワイワイガヤガヤと選手の名前を呼びながら応援の声をあげていました。今はほとんど見なくなったレプリカユニホームをまとったサポーターらしい人たちもかなりの数がいて、試合中、ずっと応援歌を歌っていたような記憶があります。彼らは試合の結果によっては、選手たちに辛辣な言葉も浴びせていました。スタジアムでの観戦とテレビ観戦の一番の違いは一体感だと言っていいですが、以前のこのチームのスタンドは、満席ではなくても、Jリーグを目指していなくても、十分にサッカーというスポーツのスタジアムの一体感を味わえる場所でした。

 あの横河電機の社員やサポーターの皆さんはどこに行ってしまったのでしょう。20年という時間は長いです。20歳だった大学生が結婚をし、子供が出来て、その子供も小学校高学年か中学生。40歳の働き盛りだった人は定年を迎えているんですね。もしかすると、もう大声で選手の名前を呼んだり、声をあげて応援歌を歌う年齢ではなくなって、スタンドの片隅でひっそりと静かにご覧になっているのかもしれませんね。

東京都内でJ昇格を目指すクラブを応援するには覚悟が必要

 立場の違いの話に戻ります。一方で、ここ数年、特に東京武蔵野フットボールクラブがJリーグを目指すことを表明してから、応援を始めた皆さん、支援を始めた企業の方々の捉え方はそれとは全く違う可能性があります。一直線に少しでも早くJリーグに昇格することを願って応援されたり、支援をされていますから、今回の判断は大きなつまづきと感じるかもしれません。

 特に今シーズンの昇格を願い、真剣に11月からの3試合で年間観客数30000人突破をめざして、実際にたくさんの人に声をかけたり、情報発信をしたような方々にとっては、裏切りとも思える判断だったかもしれません。

 同じことが東京武蔵野シティフットボールクラブのチーム内でも同じことが起こっていたとしても不思議ではありません。前述した井草理事長のように、長くチームを支えた来た方と、このチームをJリーグに昇格させたい思って最近このチームに加わったスタッフでは、受け止め方に大きな違いがあるはずです。その違いが、周囲の反応に影響を与えている可能性もあります。

 スポーツシーンでは、応援をする人たちから見ると、アスリートやチーム側には自分たちの期待に応える義務があるように感じるかもしれません。

 しかし、実際には期待と裏切りの繰り返しである方が当たり前ではないでしょうか。もちろん、まっすぐ一本道のように期待に応え続けてくれる稀有な例もあるとは思いますが、ほとんどの場合は裏切りとも仲良くしなくてはなりません。長くアスリートやチームを応援し続けることはそういうことで、それも含めて付き合うことが必要なはずです。

 東京武蔵野シティフットボールクラブのような身近な存在のチームの場合は、応援やお金の支援だけでなく、もっと色々な形のサポートも考えて実行に移すことが、裏切られる率を下げることに繋がるかもしれません。例えば個人であればボランティア、企業であれば人的支援なども、長くチームを支え安定させる方法のひとつです。

 一方で、チームのスタッフ、選手、関係者は、もう一度5284人という数の意味をしっかりと考え、少なくとも来シーズンが終わるまでは決して忘れてはなりません。この5284という数字は、5324の期待と夢の集まりです。その5284の夢と期待を原動力にして、それに応えるためにJ3昇格という最初のハードルを乗り越えりことがこのチームの責任です。

昇格の向こうに立ちはだかるスタジアム問題

 東京武蔵野シティフットボールクラブを応援する人、企業は、その向こうに待つ大きなハードルにも目を向けなければなりません。もし来シーズンに必要な課題をクリアしてJ3に昇格することができたとしても、2023年シーズンからは武蔵野陸上競技場をホームグランドとして使用できなくなるのです。レギュレーションの変更でJ3のホームグランドもこの年から照明設備が必要になるからです。

 それまでに、武蔵野陸上競技場に照明を付ければ良いという声もあるかもしれませんが、この競技場のように住宅地の真ん中にあるスタジアムでは、通常、僅か2、3年でできるものではありません。

 照明の設置=ナイターでの試合開催は、周辺住民の方々には生活環境、居住環境の大きな変化を意味します。おそらく、1年以上の環境アセスメントと地域住民の方々とのタウンミーティングの繰り返しを経て住民の一定の理解を得られた段階で、具体的に武蔵野市による調査、設計が行われます。その内容と工事方法について地域の方々の承認を経て、ようやく着工にたどり着くという長いプロセスが必要です。

 東京のスタジアム事情を考えると、照明問題は、武蔵野陸上競技場が使えないということに止まらず、チームの死活問題になる可能性があります。場合によってはその時点で自ら、JFLに戻る判断も必要なるかもしれません。

例外適用申請は新スタジアムの建設が伴う

 今年のようにスタジアムの例外適用申請を利用してJ3に昇格した場合には、昇格後3年以内にサッカー専用の新スタジアムの具体的な計画に用意し、5年以内にそれを完成させなければなりません。それができない場合、ペナルティとしてJFLに降格されると言われています。

www.jleague.jp

 言うまでもなく、現在の東京で新スタジアムの建設することは並大抵のことではありません。こちらの場合も、先ほど武蔵野陸上競技の照明設備と同様に多くのプロセスが必要となる可能性も高いでしょう。だからこそ、応援する皆さんの全ての人の知恵とエネルギー、応援する企業の財政的な支援が必要なのです。今、東京のサッカーチームを応援するということはそうした茨の道も一緒に歩く覚悟が必要だとも言えるかもしれません。

 そのためには、東京武蔵野シティフットボールクラブ自身が、スタジアムの構想も含めた中長期の計画をできるだけ早く発表し、応援していただいている皆さんと一緒になって、その計画の実現に向けての歩みを進める必要があるように思います。応援する皆さんと一緒に考え、行動する、そうした開かれた組織にすることも、今回の5284人に対するチームとしての前向きな答えと言えるような気がします。

 そう言えば、昨日、J2の水戸ホーリーホックの沼田邦郎社長が新スタジアム建設の計画を発表しましたね。内容的にはまだまだ構想の域を出てはいませんが、昨年の練習場の新設といい、かつては解散も噂されていたこのチームでは考えられないほどのアクティブな動きです。とは言え、僅か6億円の事業規模を見ればこのチームの状況はまだまだ油断できる状態ではないはずです。それでも積極的に前に進もうとする姿勢を東京武蔵野シティフットボールクラブも見習ってほしいものです。

 

 

 今回も最後までお読み頂きありがとうございます。今回ではまだまだ書き足りないこともあったので、12月1日の最終戦が終わった頃に「三度、観客5284人の意味を考える」を書かせて頂こうと思います。

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