スポーツについて考えよう!

日々、発信されるスポーツの情報について考えよう

GSOMIAとプレミア12と韓国と日本

 11月22日、韓国政府が日本との間で軍事機密を共有する協定GSOMIAの破棄を、ぎりぎりのタイミングで見送ったことは多くの方がご存知だと思います。正式発表はその期限のわずか6時間前でした

 日本国内でも一部に嫌韓の思いがあるのは事実ですが、報道を通して知る韓国の様子は日本と比較にならない状況のようです。今回のGSOMIAについても、韓国の国内世論は半数以上が破棄に賛成だったそうです。元慰安婦や元徴用工などのいわゆる歴史問題や日本の輸出ルールの厳格化などの影響で、韓国人の中には日本に対して良い印象を持っていない方が多いようです。また、現在の文在寅政権はそうした世論も後押しにして日本との関係をギリギリまで追い込んできました。その流れの中で、日韓関係の大きな分岐点になるであろうと言われてきたのが、8月に韓国政府が延長破棄を表明したGSOMIAの失効期限だったのです。

 そんな日本と韓国のぎりぎりの関係の状況の中で行われていたのが、東京をメインの会場に行われていた野球の国際大会のプレミア12でした。来年の東京オリンピックの予選をかねた国際野球ソフトボール連盟の公式戦で、2015年に続いて今回で2回目の開催となりました。世界のトップとされる12カ国が参加していながら、メジャーリーガーはほとんど参加せず、ほぼ日本、韓国、台湾だけが国内のプロ選手でベストメンバーで臨んでいました。

 大会は、日本と韓国が決勝戦に進み、激しい試合の末に日本が勝利して優勝しました。来年の東京オリンピックには、開催国枠でもともと出場が決まっていた日本をのぞいて、準優勝の韓国と、それに次ぐ成績だったメキシコが出場権を獲得しています。 

 メジャーリーグで活躍する世界トップレベルの選手が参加しないなど、世界レベルの国際大会としての問題点が数多くあり、この大会で優勝しても世界一だと純粋に喜べない大会ではありましたが、このタイミングで韓国と日本の代表チームが対戦することができたのは大きな意味があったように思います。

 果たして先ほどあげたような状況で、韓国国内では野球の代表チームが日本を訪れ、日本と対戦することに対して異論は出なかったのでしょうか。少なくとも日本では皆無に近かった印象です。巨人がホームにする東京ドームを会場に、朝日新聞系のテレビ朝日毎日新聞系のTBSが中継するのだから、国内世論は封殺されるという考え方もあるようですが、それを抜きにしても、日本では両国の危機的な関係と関連づけられた報道はなかったという印象でした。

 11月17日に行われた日韓で行われた決勝戦だけを見れば、東京ドームは満員でしたし、視聴率の面でも、直前のラグビーワールドカップには遠く及ばないものの、日曜日のゴールデンタイムの18%台は悪くない数字だと言えます。

www.sanspo.com

 現在の政治状況から、日韓の両国の交流も中止に追い込まれてきました。日本から韓国への渡航する交流は安全面の配慮から中止され、逆の場合は両国の関係を憂慮し、それどころではないという判断や、周囲からの批判を意識して中止されてきました。スポーツでの交流も例外ではありません。

 そうした中で、韓国の野球の代表チームが激しい反対の声も受けずに来日し、純粋に野球という舞台で日本と韓国が全力で対戦できて、観客も日韓の対決を純粋に野球というスポーツの対決として楽しめたとすれば、それは野球というスポーツの日韓両国での歴史とパワーによって可能になったと言えます。

 そう言えば、8月末から行われたU-18世界選手権に出場するために韓国に遠征した18歳以下の日本代表も、移動中の服装で物議をかもしたものの、遠征自体は日韓両国で特に否定的な話もなく行われたように思います。これがマイナースポーツだとしたら、送り出す日本側も受け入れる韓国もこのようにスムーズには行かなかった可能性があります。

 一方、同じ野球でも最近恒例となっていた韓国プロ野球球団の日本国内でのキャンプが次々と中止となっているようです。すでに時期が終わった秋のキャンプで6球団が来日せず、春のキャンプもすでに3球団が中止を表明、他の球団も態度を保留しているそうです。その背景には文政権の強い意向があるという記事もあります。

jbpress.ismedia.jp

 筆者は何が何でも韓国と仲良くする必要があるとは思いませんが、海を隔てた隣国同士で、多くの競技で宿命の対決を繰り返してきた両国のスポーツが、途絶してしまうことはとても残念に思いますし、政府や政治家がそうしたことに積極的に介入したり、世論を先導するようなことは避けるべきだと思います。

 さきほど紹介したように韓国のプロ野球球団が日本国内でのキャンプを中止している一方で、少年野球のレベルでは交流に成功した例もあるようです。

www.okinawatimes.co.jp

 来月には男女サッカーの東アジアの国別の対抗戦、東アジアカップ(男子のみ今年からE-1選手権)が韓国で開催され、韓国はもちろん日本代表も参加します。直近では、10月15日に北朝鮮で開催された北朝鮮対韓国のワールドカップ予選が、無観客、中継映像なしで開催されるなど、サッカーはとかく国の意向、政治の色が付き易いスポーツです。日韓でも旭日旗の問題があり、またロンドンオリンピックで韓国選手が禁止されている政治的なアピールを行ってペナルティを受けています。それだけサッカーが多くの注目を集めていることの裏返しです。また、韓国という国自体も平昌冬季オリンピックで南北統一チームを結成した姿を見て分かるように、スポーツの政治利用に積極的な面があります。今回の東アジアカップでは、ぜひ野球と同様、純粋にスポーツを楽しむ大会になって、日韓の交流の橋渡しをしてほしいと思います。

W杯アジア2次予選の北朝鮮vs韓国「無事に帰れたのは奇跡」と韓国主将 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 今回の韓国のGSOMIA破棄の見送りは、韓国側の記者会見では条件付き保留と語っています。また、韓国政府が日本との関係改善を積極的に望んだわけではなく、アメリカ政府の圧力に屈し、トランプ大統領の怒りに怯えたというのが実情のようです。

 日本政府も韓国側の歴史問題での韓国政府の対応待ちの姿勢を変えておらず、また長い韓国との交渉で政府内にも嫌韓のムードが漂っているため、このまま関係改善に進むとは限りません。今後、一部に囁かれている東京オリンピックボイコットの声が韓国政府内や国民の中で高まる可能性もあり、スポーツを政治利用するお国柄だけに油断ができません。

 さらに万一そうした状況が発生した場合にたしなめるべきIOCも、現在のトーマス・バッハ会長就任以降の様子を見ると、これまでのIOCにはなかった政治的な関与の姿勢を見せてくるかもしれません。

 一方で日本政府も、文部科学省スポーツ庁は、totoの売上金を元にした助成金の配分など通して競技団体への介入の姿勢を強めています。そもそもはJOCを頂点にした国内の競技団体のガバナンスの不足が原因なので、スポーツ界側に否があって介入のきっかけを作っているのも事実ですが、今後、オリンピック、パラリンピックが近くにつれて、政権が人気浮揚にオリンピックやスポーツを利用することも多くなると思います。

 2020年は、政治とスポーツとは切って切れない関係があるということを私たちが再確認する年になるかもしれません。

www.newsweekjapan.jp