スポーツについて考えよう!

日々、発信されるスポーツの情報について考えよう

ラグビー日本代表を見習ってサッカーも強化しよう!

ラグビー日本代表はチームとして鍛えることで結果を残した

 U-22日本代表と日本代表での連敗で批判の矢面に立たされている森保一監督。U-22代表のコロンビア戦、A代表のベネゼエラ戦での二つの強化試合での完敗はかなり衝撃的でした。U-22の方はその前のブラジル戦での勝利が吹き飛んでしまいました。A代表の方はワールドカップ予選でダジキスタン、キリギス相手に完封で連勝はしたものの、ピリッとしない勝ち方だったことも影響しているかもしれません。代表監督としての森保監督の戦術やスタイルには筆者も疑問がたくさんありますが、今回の全く別の視点で代表チームの強化の方法についての書きたいと思います。

 ラグビーワールドカップで念願のベスト8入りを果たした日本代表の強化について、日本のサッカーの育成、強化に携わる人で、驚きがなかった人がいたらそれ自体が驚きです。その理由は、大の男をひとまとめにしてこんなにレベルアップさせられるんだということです。しかもトレーニングの日数は、日本ラグビー協会のニュースページで、代表チームの日程をざっと数えるだけで、今年だけでも、昨シーズンが終わった2月からワールドカップ本番前までの約8ヶ月間に海外遠征を含めて100日以上を数えます。しかも、合宿期間は朝から夜までラグビー漬けの日々だったようです。

www.nhk.or.jp

 これまでも、例えばアーティスティックスイミング(シンクロナイトスイミング)や新体操など主に女子の競技では、代表選手として選ばれる年齢になってからも長期間、連日トレーニングをして、チームとして鍛え上げる方法で、代表チームでも結果を出してきました。しかも伝え聞く練習内容は、チーム全体のトレーニングだけでなく、チーム内の厳しい競争を促しながらむしろ個人のレベルアップに視点が置かれているようです。チーム競技ではありませんが、卓球やバドミントンも代表チームとしてトレーニングする期間が長くすることで、現在のような国際的な高い競争力を得ています。しかし、こうした成果をあげてきた競技では、対象になる選手の年齢が比較的若いことやこれまでは女子の競技が多かったこともあって、サッカーの関係者はこのような代表選手やチームの強化方法には否定的だったように思います。

Jリーガーは時間をもてあましてる?

 日本のサッカーの強化の考え方を総じて言えば、個々のスキルアップは20歳から22歳で終了するという考え方です。もちろん、個人差はありますがそこからは体力や経験値をアップしていくもので、コンディション管理以外はほとんど個々の選手に任せているチームが多いはずです。

 サッカーはチームとしての練習時間も短く、プロサッカー選手がサッカーに触れている時間は他のスポーツと比べて極端に短いだろうと思います。シーズン前や試合のない期間はともかく、シーズン中は午前、午後ともに練習するチームはあまりありません。午前練習にするか、午後練習にするかは、試合のスケジュールや選手のコンディションなどから監督やスタッフが決めています。私が知っている外国人監督の中には、午後練習にすると日本人は生活が乱れると言ってから、午前9時から練習を続けていた監督がいました。

 例えば、午前10時から練習の場合、選手は30分くらい前にクラブハウスに着いて、着替えてグランドに出て、10時スタートに合わせてウォーミングアップをします。中にはウォーミングアップの時間も関係なく、練習スタート時間ちょうどにグランドに現れる選手や遅刻する選手もいる一方、練習時間前にトレーナーからマッサージを受けたりストレッチの指導を受けてから全体に練習に臨む選手もいます。

 全体練習の時間はおおよそ2時間くらい。長くても2時間半です。大概は昼食前に終わります。全体練習のあとに居残り練習をする選手もいますが、いても15分から30分程度でしょう。選手の個人の判断次第の場合もありますが、監督やフィジカルコーチが全体練習以外に負荷のかかる練習を禁止するチームもあります。

 全体練習後の行動は、チームの施設の状況によって大きく異なります。グランドに隣接してクラブハウスがあって、食堂やマシンなどのトレーニング施設がある場合は、シャワーが終わった選手から食事を取った後、マシントレーニングなどに汗を流します。もちろん逆の場合もあります。J1の上位のチームや現在はJ2でもかつて早い時期からJ1にいたチームは、大概こうした環境です。一方、そうした環境がないチームもあり、そうしたチームの選手はまちまちに昼食をとります。J2、J3ではコンビの弁当で済ませる選手も少なくないそうです。選手ごとに食事をして、その後クラブハウス戻るかどうかも選手次第になります。事実上、練習場がジプシーのチームも中にはありますから、そういうチームは選手任せの部分がさらに多くなります。

 概して都会のチームは選手たちは早々にクラブハウスを後にして、田舎のチームほど選手たちはずっとクラブハウスにいる傾向があるように思います。理由はわかりますよね。

 いずれにしても、選手たちは遅くとも15時には自由になり、そのあとは自由になります。野球の選手がオフシーズンにゴルフをすることは有名ですが、サッカーの選手もゴルフが好きな選手は少なくありません。シーズン中も車にゴルフバッグが乗せてあって、練習帰りにいつも打ちっ放しに寄って帰るという選手を私は何人も知っていました。引退後、プロテストを受けた選手もいるようですが、合格したという話は聞いたことがありません。

 こうやって整理してみると、Jリーガーがサッカーのために使っている時間は、おそらく1日3時間、長い選手でも4時間程度です。残りの時間は基本的にフリーです。あるJ1のチームに「サッカー選手は暇ですよ」と言っていた選手がいました。その選手はそのチームの主力選手でしたが、引退後に備えて英会話教室に行ったり、資格を取る勉強をしていると言っていました。

 また、サッカーのトレーニングは、日常的に体力的にも負荷をかけません。多くの競技は試合当日が一番体力的に楽だと言いますが、サッカーの場合は試合の日が一番体力的に厳しいと選手は言います。

ベテランよりも若手の方が練習時間は短い

 さらに大きな問題があります。高校卒業で入ったばかりの18歳の選手から30代半ばの引退の見えたベテラン選手まで、こうした生活は変わりません。負荷をかけるジム系のトレーニングを若い選手をさせるチームや指導者も中にはいますが、時間的も限られています。逆に引退が見えてきたベテラン選手の方が、体のケアに時間をかけ筋肉系のトレーニングもしっかりやるという逆転現象すら起こっています。

 とても古い話で恐縮ですが、1996年トヨタカップのために来日したヨーロッパチャンピオン、ユヴェントスの練習を見る機会がありました。シーズン中のタイトスケジュールで来日していたことを考えると、おそらく試合前日だったのだろうと思います。明るい時間に行われた全体練習のあと、筆者はリッピ監督の話を聞くことも出来、幸運に感謝しながらクラブハウスを出ると、すでに照明が点いたグランドで二人の選手がコーチと練習をしていたのです。そのうちの一人が、ユヴェントスのヨーロッパ制覇の中心となったアレッサンドロ・デル・ピエロだったのです。聞けば、その年齢のイタリアの選手に決められたトレーニングプログラムをやっているのだというのです。この時、デル・ピエロは22歳。とは言え、スーパースターの仲間入りをしていて、この年のトヨタカップでは10番を付けていました。そんなスーパースターが、遠征先の日本で全体練習のあと、年齢で決められたトレーニングプログラムをこなしていることは衝撃的でした。

 あれから、20年以上が経ち、今もイタリアにそうしたプログラムがあるかは筆者は知りませんが、一方日本にはそうしたプログラムを構築したという話も聞いていません。だから練習で余った体力をゴルフに使う有様なのです。

www.youtube.com

オリンピック代表を4年間、長期合宿を繰り返して鍛える

 そこで、話が最初に戻ります。サッカーの日本代表も、ラグビーを見習って、長期間チームを組んで、個人レベルから徹底的なスキルアップを図ったらどうでしょうか。但しA代表は難しいと思います。海外のチームに所属する選手が多いこともありますし、プロチームに所属するプロ選手である以上、チームでの試合の優先されるから代表での長期合宿は難しいです。ラグビーがそれができたのは、チームがアマチュアでリーグも企業スポーツのリーグだからです。プロリーグでは原則、全ての試合でベストメンバーを組み、選手はリーグ戦の試合に合わせてベストコンディションにすることを求められるからです。その原則が守られなければ八百長も簡単にできてしまいます。ラグビーではシーズン的にオフの期間をうまく使っていましたが、Jリーグの場合のオフは実質2ヶ月半程度しかありません。

 だから、サッカーの場合はオリンピック代表チームを対象にすると良いのではないでしょうか。19歳くらいから22、3歳まで、1年に数ヶ月合宿を組んで、チームとしても個人としてもしっかりと鍛え上げるのです。プロの選手が難しければ、全員大学生の選手にしてもよいでしょう。早い段階からわかっていれば、可能性の高い選手は大学に進学させればよいのです。

 大学であればチームを必ずしも優先する必要はないし、大学卒業までの4年間でしっかりと鍛えることも可能です。本来U-23ですが、大学は22歳で卒業してしまいますから、22歳以下に割り切って強化した上で、23歳の選手を何人か加える方法もあると思います。

 現在の森保ジャパンのように、その時の調子の良い選手を集めて、集まった選手がプレーし易いサッカーをさせることも代表チームの手法として有効な選択肢ではあります。しかし、日本代表を進化させ、これまでより上のステージに進ませるためには、世代を超えた明確な代表チームとしてビジョンの下、リアリティの高いメソッドでしっかりと鍛え上げていく。そうした改革も真剣に取り入れていく必要があると思います。