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奈良クラブの観客数の水増しは何が悪いのか?

※1月11日に加筆しました。

観客数の水増しをドーピングにあてはめて考えてみます

 昨年12月26日に、サッカーのJリーグの下の全国リーグであるJFLに加盟する奈良クラブが、5年間に渡って公式戦の観客数を水増して報告、発表していたことについて、JFLから奈良クラブの処分が発表されました。

【JFLオフィシャルサイト】お知らせ「奈良クラブ入場者数の水増し行為に対するJFLの対応について」

 今回の「水増し行為」によるリーグとしての処分は、制裁金100万円とけん責処分、さらには水増しの中心となった現在と前の二人の代表取締役の内、現在の代表取締役の新シーズンの公式戦1節から10節までのフィールドやチームエリアの立ち入りの禁止となっています。  

 奈良クラブの観客数の割増は何が悪いのか、もう一度考えてみましょう。問題点はドーピングに当てはめてみるとよくわかります。

 ドーピングが悪い理由は、下記の4つだと言われています。

・フェアプレイの精神に反する
・健康を害する
・反社会的行為
・スポーツの価値を損なう

 アンチドーピングガイドブック|JADA

フェアプレイの精神に反する

 一つ目のフェアプレイの精神に反するという点では説明の必要はないでしょう。決められたルールの下で正々堂々と戦うというスポーツ本来の精神が明らかに失われています。それが5年も続いたとすれば「常習」的にフェアプレイが踏みにじまれてきたことになります。

 また、同じJFL東京武蔵野シティFCが、昨年観客数が僅かに足りないことで、J3リーグ昇格を諦めざるを得なかったことを思い起こせば、「正直者が馬鹿を見る」状況は、フィアプレイの精神に反していることは明らかだと思います。

再び、観客5284人の意味を考える! 東京武蔵野シティFCのその後の対応と未来 - スポーツについて考えよう!

健康を害する

 二つ目は健康です。企業でいう健康をあえて定義づけると、社会的に価値のある理念の実現を目指して、透明性が担保された環境の下、収支のバランスが取れた状態で経営されていることです。今回のように秘密裏に虚偽を働いていることは、自らが掲げた理念に反する行為であり、最終的に入場者や協賛金などの減少に繋がって収支を悪化させる可能性が高いでしょう。もちろん、チームのスタッフの精神にとっても健全な状況でないことも指摘できます。

反社会的行為

 三つ目の反社会的行為は言葉の定義が難しいですが、ここでも虚偽という点に着目したいと思います。スポーツチームやアスリートは望むと望まざるとに関わらず社会の規範になるべき存在です。子供たちにとってお手本でなければなりません。その存在が自分の業績、実績について社会に向かって嘘の発表をしていたらどうなるでしょう。これは社会を欺く行為と言えるでしょう。

 例えば、上場企業には自らの業績を正しく発表し、その情報が社会に公平に共有される義務があります。もし、それに反した行為をしたとしたらどうなるでしょう。それは社会に対する裏切り行為です。おそらく反社会の本来の意味とはずれると思いますが、社会を裏切るという意味で、反社会的行為と言えるでしょう。

スポーツの価値を損なう

 上記の三点で、チームの価値を損ない、サッカーの価値を損ない、スポーツの価値を損なうことは理解できると思います。

 加えて言えば、チームを応援してくださる企業は、一定の理由があって、チームを協賛してくださるはずです。理念に共感したり、一緒に地域の貢献を目指したりと理由は様々だろうと思いますが、テレビ中継がほとんどないJFLのレベルでは、たとえ1試合2000人程度であっても、観客数は、協賛を決めたり継続していくための大切な指標のひとつであるはずです。そこに虚偽があれば信頼関係は失われ、協賛企業にとっても一緒に活動していく価値を失うことに繋がるはずです。

 また一つのチームが起こしたことが、他のチームにも影響を与える可能性があります。奈良クラブの行為によってJFLの他のチームやリーグが信用を損なう可能性もあるのです。

もう一つ大切なこと 〜 選手から見れば裏切り行為です。

 選手や監督や現場スタッフは、J3昇格を目指して日々たゆまぬトレーニングを積んで、応援してくれる人たちの前で、相手ゴールを狙い、自ゴールを死守します。その全力の一つ一つのプレーで、勝利を積み重ねて行く以外にできることはありません。もし、それ以外にできる方法があるとすれば、それをドーピングと呼びます。

 決してごまかしのきかない戦いの中にいる選手や現場スタッフは、今回のフロントの行為をどんな風に感じるでしょう。

「いい加減なことしてんじゃねえよ!」「ふざけんなよ!」というのが本音ではないでしょうか?

 フロントは、決して選手や現場スタッフの足を引っ張るように行為をしていけません。全力で戦う彼らを、公正明大な方法で、全力でサポートしなければならないのです。

処分の妥当性と再発防止策 

www.nikkei.com

 2010年、大宮アルディージャでも過去4年間に渡る観客数の水増しが発覚し、制裁金2000万円の処分を受けています。アルディージャ奈良クラブの事業規模を比較すると、今回の処分はこれに倣ったものだと想像されますが、2010年当時、アルディージャに対する処分が軽過ぎるという意見が多数あったのは事実です。

 言わば社会問題的に各メディアが大きく取り上げたアルディージャの時とは違い、今回のJFLの地方チームの行為に対しては、ニュースとしても取り上げたメディアは非常に少なかったように思います。だからと言って重大性に違いがあるわけではありません。

 過失ではなく故意に、しかも多年に渡って、サポーター、スポンサー、地元自治体、社会を欺いてきた行為に対しては、もっと厳格な処分の必要性を感じると同時に、リーグとしても具体的な再発防止策を打ち出す必要があると筆者は思いますが、JFLとしては現在のところ具体的なアクションはないようです。

 

news.yahoo.co.jp