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ユースオリンピックは若者のためのミニオリンピックではない

第3回冬季ユースオリンピックが始まりました

 1月9日、スイス・ローザンヌで、3回目となる冬季ユースオリンピックが始まりました。13日間の開催期間中、世界の79の国と地域から集まった約1900人の15歳から18歳のアスリートたちが各競技で競い合います。ユースオリンピックは、2010年シンガポールでの夏季大会から始まり、オリンピック同様4年ごとに夏季大会は2014年南京、2018年ブエノスアイレスの3回、冬季大会は。2012年のインスブルック大会、2016年リレハンメル大会に続いて今回のローザンヌと3回目を数えています。

 ユースオリンピックの名前からするとユース年代のためのオリンピックのミニチュア版として、この年代の世界一を目指す大会であり、トップアスリートの登竜門的に考えられがちですが、元々の開催の目的はもう少し別のところにあります。

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ユースオリンピックの目的は本来のオリンピックムーブメントの実現

 ユースオリンピックを開催する国際オリンピック委員会IOC)の日本支部にあたる日本オリンピック委員会のホームページには、ユースオリンピックについてのページがあり、そこには次のような記載があります。

ユースオリンピック競技大会の理想は、スポーツ・文化・教育が一体となったイベントを実現することにあります。文化・教育プログラムは、競技会と同等の重要な要素です。同プログラムでは様々な活動を行い、オリンピックの意義を実感し、友情や相互の尊重を表現できるようにすることを目的としています。

 ユースオリンピック競技大会 - JOC

  つまり、スポーツだけの大会でなく、文化や教育プログラムの実施も含まれているということです。オリンピックの憲法と言われる「オリンピック憲章」には、オリンピックの開催にあたっては、文化プログラムも実施するように記載があり、東京オリンピックでも実施されますが、この文化プログラムと全く内容がことなります。オリンピックの文化プログラムは一般を対象とした文化の醸成を目的したプログラムですが、ユースオリンピックでは、主に参加したアスリートを対象に、文化・教育プログラムが実施されるのです。

 先ほどのJOCのホームページに、もう少し具体的な内容が記載されているのでしょうかいしましょう。

文化・教育プログラムのコンセプト
「学び」
地球規模の課題やオリンピック・ムーブメント、オリンピズム、競技について深く学ぶ
「貢献」
文化・教育プログラムで得た意欲やエネルギーを元に環境の保護など地球規模の問題への取り組むに貢献する
「交流」
他の選手との交流を通じて尊敬の心や友情を育む
「称賛」
様々な国や人々を結びつけるオリンピック精神の力を体験し、オリンピックの意義や文化の多様性を称賛する

 

文化・教育プログラムの5つの教育テーマ
文化・教育プログラムは以下の5つの教育テーマに基づき、10日間の大会期間中に20を超える活動を実施します。

オリンピズム
オリンピック・ムーブメントの哲学と精神を正しく理解し、オリンピックの意義である「卓越性」「尊重」「友情」を実感し、表現することを学ぶ。
能力の開発
人生の過渡期での自身の管理や自己開発など、アスリートとしてのキャリアの様々な側面を学ぶ。
幸福で健康的なライフスタイル
ストレスへの対処法、選手としての正しい生活習慣を身につけ、健康へのリスクを最小限に抑えることで健康的な生活を送る方法を学ぶ。
社会的責任
自身の卓越性を自覚・理解し、ロールモデルとしての役割やコミュニティを代表する責任を学ぶ。
豊かな表現
デジタルメディアの利用方法、自身の体験を世界中で共有する方法、芸術を通じた自身の表現方法を学ぶ。

 ユースオリンピック競技大会 文化・教育プログラムの概要 - JOC

ユースオリンピックの特徴は

 オリンピックとの違いを具体的にあげてみましょう。

 1.選手村での選手の滞在期間

 オリンピックではそれぞれの競技に合わせて各国の選手団、またはアスリート本人の判断で選手村に入る期間を決めたり、中には選手村に入らないアスリートや国もありますが、ユースオリンピックでは、全選手が開会式から閉会式まで選手村に滞在します。

 これは競技とは別に、参加したアスリートが文化プログラムや教育プログラムを受けたり、選手たちがお互いに交流をする時間を作るためです。

 アスリート間の交流を一時的なものにしないために、YOGGERという携帯端末がアスリートやコーチ、スタッフ全員に配布されて、このYOGGERを通して、プロフィールや連絡先の情報が簡単に交換できるようになっています。

 2.競技以外に全選手が参加するプログラム

 上記と重なりますが、参加したアスリートたちを対象とした、オリンピック開催の理念であるオリンピズムを教育するプログラムのほか、平和、人種差別、アンチドーピングやプレス対応など様々な教育プログラムが実施されます。このほか、地元の子供達との交流を図るボランティアに参加するようなプログラムもあります。その指導には、過去のオリンピックのメダリストもファシエリテーターとして参加しています。下記には2018年にブエノスアイレス大会で実施されたプログラムの一部が記載されています。

 ブエノスアイレス大会での文化・教育プログラム(AEP活動)|JOC

 こうした活動は、英語やIOCの基軸言語のフランス語などが中心となるため、日本チームは独自に日本人の金メダリストを選手団に同行してもらって、若いアスリートと話をする機会を設けるようなアクションをしているようです。

 3.ヤング・リーダーズの存在

 「チェンジメーカー」など、これまで色々な名称で呼ばれてきた存在ですが、簡単に言えば、過去にユースオリンピックに参加して文化・教育プログラムで学んだアスリートや元アスリートがリーダーとして参加して、後輩のアスリートのためにワークショップを開催したり、ボランティアプログラムを進行したりするものです。これによって、オリンピックムーブメントのアスリート間の継承を目指しています。また、ヤング・リーダーズは、ユースオリンピックでの経験を元に、IOCが進める他のオリンピックムーブメントプログラムでリーダー的役割を担ったり、自国でオリンピズムのアンバサダー的な役割を負うことが期待されています。

IOC ヤング・リーダーズ|パナソニック公式オリンピックサイト Sharing the Passion | Panasonic

 一方、ユースオリンピックでは、ヤング・リーダーズ以外にも、開催地の若者が大会の運営を参加できるように、様々な取り組みが行われています。

 4.国や地域を超えた団体種目の実施

 ユースオリンピックでは、国、地域を超えた団体種目が多数実施されます。国や地域の違う選手が、ペアを組んだり、同じチームで競技を行う競技です。こうした種目の表彰式では、オリンピック旗が掲げられてオリンピックテーマ曲が流されます。このような種目は、オリンピック憲章(第1章第6項:オリンピック競技大会)に書かれている下記の理念を形にしたものだと考えられます。

オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない。

オリンピック憲章2019年版|JOC

 最近のオリンピックでは、男女混合の国別対抗の種目が増やされていて、ユースオリンピックでも同様の種目があります。具体的な種目を今回のローザンヌ大会の公式サイトからチェックすると男女混合や複数の国の選手が同じチームでプレーするMIXEDの名前で書かれている競技は12種目。その中で、複数の国のアスリートが同じチームでプレーする競技は5種目あるようです。一方で、フリースタイルのスキーとスノーボードのアスリートが同じチームで競うような新しい団体競技へのトライも行われています。

 ユースオリンピックローザンヌ大会公式サイト(英語)

今後のユースオリンピックのあり方が危惧されている

 こうしたユースオリンピックとしての独特の取り組みを知った上だと、最近報道された5人制平手打ち野球(ベースボール5)が、2022年の次回ダカール大会で導入されるというニュースも、印象が違ってくるはずです。

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 野球ソフトボール連盟と地元の要望があったとは言え、2018年に作られたばかりの新しい競技で、世界一を競う高い競技性を求めることは難しいことは、誰の目にも明らかです。IOCとしてはアスリート間のコニュニケーションとこうしたレベルの競技を開催についてのテストをするための実施だろうことが想像されます。

 2022年のダカール大会では、この他に空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンと24年パリオリンピックでの採用が見通されてるブレークダンスが新たに採用されることが既に決められていて、オリンピック同様に拡大路線が進められるようです。

 またこの大会では、ダカール周辺での分散開催になるため選手村が2箇所になるので、これまでの大会で行われてきた参加アスリートの交流や文化・教育プログラムが従来同様に実施できるかどうかに疑問の声があがっています。

 さらに2024年開催予定の冬季大会では、IOC朝鮮半島の南北共同開催を目指していると伝えられています。

  ユースオリンピックは、2013年までIOC会長を務めたジャック・ロゲ氏が、オリンピックの本来あるべき姿を目指して始めたと言われています。商業化、拡大路線を猛進し、政治的なアクションも厭わない現トマース・バッハ会長の体制の下で、今後どのような位置付けで開催されていくか注目する必要があるでしょう。

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