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勝つ監督に必要な資質とは何か?

サッカー界に定着する年棒総額=成績という考え方

 数年前の話ですが、選手時代から付き合いのあった人物がJ2の監督に初就任したので、お祝いを兼ねてホーム開幕戦を訪れました。幸いIDで会場に入ることができたので、試合後ロッカールームの前で待っていると記者会見を終えたその人物に会うことができました。

 彼は、私が観戦に訪れたことに礼を言った後、その試合に敗因について話を始めると、しきりに選手のレベルの低さを嘆き始めました。このクラブの予算で集めたレベルの選手では、勝てるわけがないというのです。確かに現役時代から理屈っぽく、物事を理詰めで考え話す傾向がありましたが、初監督の開幕2戦目にも関わらず、この強化費では残留争いが精一杯だと言い切ったのです。

 さらに驚いたことに、その後お会いしたこのクラブの社長からも異口同音、同様のこと聞かされたのです。

 この二人の言葉通り、このチームはこの監督が在任中は残留争いを続けることになりました。

 この監督に限らず、最近はこうしたことを公然と口にする監督が多く見受けます。強化費=チームの成績という考え方です。もちろん、サポーターの前では言葉にする人は少ないとは思いますが、関係者や付き合いの長いメディア関係者には、口が軽くなるようです。

選手たちの能力を決めつけることは天に唾するのと同じ

 こうした考えを持っている監督や経営者に筆者は言いたい。

 まず、安い強化費、限られた予算のクラブの監督は、そういうクラブだから自分が招かれ、そのポジションにいるということを知るべきです。一方、経営者は自分の無能ぶりを吹聴していることと変わりはありません。彼らの言葉は天に向かって唾をするのと同じなのです。

 二つ目は、こうしたことを誰かに話せば、その監督や経営者の言葉は必ず選手に届きます。その言葉によって、選手は傷つき、監督やチームに裏切られたと感じるでしょう。そしてモチベーションを失います。監督や経営者自ら、選手たちの能力を押し下げているのです。

 最後に、強化費=チームの成績であれば、J1は、毎年、浦和レッズヴィッセル神戸が優勝することになります。ヨーロッパのフットボールリーグではラ・リーガ、プレミア、セリエAエールディヴィジョン、アン・・・、いずれも限られた金満チームがトロフィーを独占する傾向がありますが、そうした中でも、プレミアで岡崎慎司がいたレスターが優勝するようなドラマがあることも事実なのです。

 他のスポーツに目を向けてみましょう。NPBでは、昨年、一昨年パ・リーグで優勝した西武ライオンズの選手の年棒総額は、球界トップのソフトバンクホークスの約半分だと言われています。また、セ・リーグでも、一昨年まで3年連続でセ・リーグ優勝の広島カープ年棒総額は、リーグトップの巨人の60%以下だと言われています。

 アメリカに目を移すと、4大リーグどのリーグも戦力の均衡化を図るためのルールが数多くあるためか、必ずしもお金持ちのチームが優勝するとは限らない傾向が、ヨーロッパのスポーツよりも強いようです。

選手の実力を最大限に引き出し、最高のパフォーマンスを発揮させるのが監督の仕事

 今回のオリンピックアジア予選を兼ねたサッカーU23アジア選手権では、大会前半、FIFAランキングアジアトップの日本が、グループステージで1勝もできずに敗退したことと同じくらいに、前日本代表監督の西野朗監督が率いるタイ代表が、グループステージを突破したことが話題をさらいました。

 タイと同じ組の国は、FIFAランキング42位のオーストラリア、同70位イラク、同99位バーレーンで、113位のタイにとって強敵ばかりでした。それでも、1勝1敗1分けでグループステージを突破しています。それができた理由は何だったでしょう。

 もちろん、選手が精一杯頑張って、実力以上の力を発揮したことが直接な理由です。たまたま相手のコンディションが悪かった可能性も否定することはできませんし、格下相手に甘く見たこともあるかもしれません。

 しかし、何より必要なのは、選手たちが自分たちは勝てる、勝つ可能性があると信じることです。そのキーマンが、サッカーの場合は監督だと考えます。

 監督の仕事は、あらゆる手段を使って、選手たちが100%以上のパーフォーマンスを発揮できるようにすることです。相手チームを分析をして戦術を駆使し、時には奇策を使うこともあるかもしれません。しかし、何よりも大切なのは、選手たちに、自分たちはやれる、自分たちは勝てる可能性があると信じさせることではないでしょうか。それは監督だけでなく、スタッフ全員に言えることです。一人でも「無理だよ」と言ってしまえば、それで終わりになってしまうかもしれません。

 もし、冒頭で紹介した監督のように、監督が、この選手たちはこのレベルと決めつけてしまったらどうなるでしょう。彼らがパフォーマンスが最大限に発揮することは難しいでしょう。11人が1×11のパフォーマンスしか発揮できないとすれば、監督は仕事をしなかったのと同じです。

 西野監督は、1996年のフロリダでブラジル代表に勝利し、一昨年のロシアワールドカップでは優勝候補のベルギー相手の勝利にあと1歩のところに迫りました。彼のように選手に勝たせるためのメンタリティを持たせることができるのも、大切な監督の資質であり、大切な仕事と言えるのではないでしょうか。西野監督が言葉が直接通じないタイでもその能力を発揮できたことは、そのスキルが言葉だけではない、別の何かであることを示しているようです。

 

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