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新型コロナウイルスの対応から見る日本政府の危機管理能力

<2月5日に一部加筆、訂正しました。>

日本は安全な国という固定概念が危機を招く

 日本は安全な国。日本人は長くそう考えて来ましたし、海外から来る人たちも多くはそう話します。

 以下のデータによると、人口10万人あたりの殺人事件の発生率は、世界の174の国と地域の中で168位で、最多のエルサルバドルの61.71に対してその257分の1の0.24です。悪質犯罪が減少したと言われるアメリカは65位で5.32、ヨーロッパで最も少ないのがルクセンブルグの165位で、日本の1.5倍。このデータの中には首を傾げたくなる国もたくさんあるにはありますが、この数字を信じるなら確かに日本は凶悪犯罪が少ない国と言えるかもしれません。しかし、犯罪が少ない=安全とは言い切れないのが、今の時代ではないでしょうか。

世界の殺人発生率 国別ランキング・推移 – Global Note

 最近のニュースを見ていると、筆者の若い頃とは比較にならないほど殺人や死亡事件が多くなった印象があります。以前は殺人事件のニュースは滅多にありませんでしたが、最近は毎日のようにそうしたニュースがあります。家庭内暴力など家族による凶悪な犯罪が多いのも最近の特徴かもしれません。

 そうした中で最近筆者が気になったニュースが、昨年11月に兵庫県尼崎市であった暴力団幹部の銃撃殺人事件です。山口組系の組同士の抗争だと言われていますが、その襲撃に使われたのが、軍用の自動小銃です。一人を殺すために、住宅街で自動小銃を撃ちまくったというのですから、今までの日本の殺人事件のイメージとは全く違う事件だったと言えるでしょう。

www.jiji.com

 この事件では、警察に追い詰められた犯人が投降したことで解決しましたが、もし、その犯人が自動小銃を使って逮捕から逃れようとしていたらどうなっていたでしょう。SWATはもちろん自衛隊の出動も必要とされたかもしれません。その自衛隊も、国内で自国民に武器を使うまでには大きなハードルと時間を要した可能性があります。

 映画の「シン・ゴジラ」や「空母いずも」では、最終的には開き直って勇気ある決断をする総理大臣が登場しますが、現実の世界ではなかなかそうはいかないことが予想されます。まあ、中には嬉々として武器使用の許可を出す総理大臣もいるような気もしますが。

 今回の事件に使われた自動小銃のような武器が、同じ暴力団にたった一丁しかなかったとは考えにくいです。貴重なものであれば、たった一人を殺すために持ち出すはずはありません。もちろん、相手の組に対する威嚇の意味もあるとは思いますが、他にも同等の武器があると考えるが普通です。問題は、こうした軍用の武器が、暴力団といえども民間の中に存在し、それがいつ使われるかわからない国になってしまったという事実です。果たして、日本の治安の体制はそれに耐えうるものなのでしょうか。

ボストンマラソン爆破事件に見たアメリカの危機管理

www.afpbb.com

 1878年から100年以上の歴史を誇り、世界でも指折りの権威のあるマラソンレースのボストンマラソンのゴール付近で爆発があって、5名が死亡、300人近い負傷者が出た爆弾テロが発生したのは2013年4月のことです。犯人はチェチェン出身のイスラム教徒の兄弟で、兄は事件発生5日後に警察との銃撃戦で死亡し、弟はその後重症の状態で逮捕され現在も裁判中です。

 この事件で驚くことは、事件発生後わずかな時間でマサチューセッツ州知事の指示で、ボストン市が完全に封鎖され、犯人の足取りがわかるとともに徐々に縮小されますが、最終的に犯人逮捕までその封鎖が続いたことです。その様子は2016年に「パトリオット・デイ」という作品で映画化されています。

 この映画にも出てきますが、上のAFPの記事の写真にもある警察の特殊部隊のまるで戦場の軍隊のような物々しい武装にも衝撃を受けました。

 911以降、テロを絶対に許さないアメリカの法体制やマニュアルが、こうした対応を可能にしているのだろうと思いますが、もし、このような事件が日本で起こったら、日本政府や自治体、警察は、例えば、このような過激な犯人の封締めや逮捕のためにどんな対応ができるのだろうかと思わざるを得ません。

 日本ではありっこないという人もいるかもしれませんが、人々の国境を超えた行き来がこれだけ日常化した現在、世界中でどこで起こっても不思議はありません。それは日本も例外ではありません。政府がインバウンド4000万人を目指す日本では、原則的に世界中どこから来る人もウエルカムです。そうした中で、オリンピックという世界中から注目されるイベントが開かれるのです。世界中のテロリストのターゲットになる可能性も十分にあるしょう。しかも尼崎の事件で、本格的な軍用の武器さえも日本に持ち込めることが証明されています。

 これまで、起こっていないからと言って安心はできません。むしろ、起こっていないからこそ、実際に起きた時には本当に十分な対応ができるのか、その対応に疑問符が付きます。これが、最初に書いた犯罪が少ないこと=安心な国ではない理由です。

 危機感の欠如が日本国内での新型コロナウイルスの蔓延を許す

 日本でには「平和ボケ」という言葉がありました。第二次世界大戦後、日米安保の傘の下で平和を享受し続け、危機感のない、日本国民や政府を揶揄する言葉ですが、今回の新型コロナウイルスに対する政府や政治家の対応を見ていると平和ボケという言葉がぴったりですね。

 日本で次々と感染者が見つかり、武漢からは感染の可能性のある日本国民を乗せたチャーター機が帰国しているのに、国会の予算委員会では、延々と桜を見る会についての質疑が続く。桜を見る会も、日本の国政の本質に関わる大きな問題ではありますが、プライオリティから判断すれば、いま議論すべきがその問題でないことは明らかです。

 現在の段階で、このウイルス自体が本当に大騒ぎするほど危険であるかどうかは別にして、ワクチンができるまでにまだ時間がかかり、その特性の今後の変化も分かりませんので、その対応のために政府がやるべきことはたくさんあるはずです。最悪のシナリオを想像して準備することが危機管理です。

 IOC(国際オリンピック委員会)が、WHO(国際保健期間)と協議し、IOC感染症対策は計画の重要な一部だ」と表明したことは、オリンピックまで半年を切ったこの時点ではあまりにも当然のことでしょう。日本政府の後手後手となっているアクションに業を煮やしたのかもしれません

www.tokyo-np.co.jp

 日本政府と同様に判断を先送りをしてきたWHOが、1月31日にようやく非常事態宣言を発表したことを受けて、日本政府も同日このウイルスを「指定感染症」に指定して、2月1日午前0時からウイルスの感染源と言われる武漢のある湖北省からの旅行者の入国を制限することを決めたことを安倍総理自ら発表しました。1月16日に国内で初めて感染者が確認されて以来、2週間以上が経ってからのようやくの決断です。

 2003年のSARSの流行によって、日本は既にこうしたウイルスに対応する法整備はできていました。しかし、危機感と決断力の欠如がその執行を遅らせ、ウイルスの蔓延を招くことになる可能性があります。

 さらに、2009年の新型ウイルスの流行のより「指定感染症」よりさらに強化された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が制定されていますが、現在のところ日本政府はその措置法に対応させることはないようです。

新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく特定接種の登録について/厚生労働省健康局結核感染症課

 その理由は、厚生労働省から毎日のように発表されるニュースリリース新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について」2月4日版の中の「国民の皆様へのメッセージ」の冒頭に書かれています。

新型コロナウイルス感染症は、我が国において、現在、流行が認められている状況ではありません。」

新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について令和2年2月3日版) 

東京オリンピックは開催可能な状況なのか? 日本自らが判断すべき時が来るかもしれない

 既に、中国では、2月に北京で開催予定だったアルペンスキー男子のワールドカップが中止されたほか、広東省で予定されていたバスケットボール女子の最終予選、武漢で予定されていたボクシングのアジア・オセアニア予選、女子サッカーアジア最終予選の開催地が中国国外に変更され、3月に江蘇省南京で開催予定だった陸上の世界室内選手権は来年に延期されました。また、多くの競技の国内大会も開催が延期または中止されているようです。

 今後、日本国内でもスポーツイベントの中止、延期の可能性が出てくるでしょう。また国際大会を開催しても参加予定の選手が来日しない可能性も出てきます。直近で行われる大きなスポーツイベントとしては、3月1日に開催予定の東京マラソンです。スタート前後には屋外と言えども数万人のランナーが近距離で時間を過ごすことになり、観戦型のスポーツイベントより感染拡大の温床になるリスクが高いと言えるのではないでしょうか。2003年のSARSの流行では、東京で開催予定だったフットサルの世界選手権が中止、台湾での開催に変更されています。

 7月24日のオリンピック開幕まで半年が過ぎ、今後の新型コロナウイルスへの日本政府の対応に、危機管理能力が世界中から問われています。

toyokeizai.net