スポーツについて考えよう!

日々、発信されるスポーツの情報について考えよう

スポーツ界の新型コロナウイルス対策について考える

スポーツ界の新型コロナウイルス対策について考える

先行したJリーグの公式戦延期の決断

 2月25日、Jリーグは翌日に開催予定だったカップ戦も含めて、3月15日までの全ての公式戦の延期を発表しました。政府、厚生労働省が、具体的な規制も指針も示さず、主催者に判断を丸投げする中で、他のプロスポーツに先駆けての英断であり、興行として集める人数と社会的な意義を考えた時、当然の判断だったと思われます。

www.jleague.jp

 今シーズンのJリーグの公式戦は、2月8日のスーパーカップでスタートし、新型コロナウイルス感染拡大の危惧される中、リーグ戦も2月21日に開幕しました。開幕戦に向けては、各チームがマスクの着用やアルコール除菌の励行などを呼びかける対応したほか、応援歌、チャント(声を合わせた掛け声)、肩組みなどの観客同士の接触や鳴り物を使っての応援などを禁止する独自の対応をとったチームもありました。

 中継の映像を見る限り、マスクの着用は半分程度、おそらく試合後半のクライマックスに向かうにつれて、着用率が下がることは想像に容易いと思われます。またゴール裏では、大声をあげるリーダーの下、大きな口をあけて応援したり、応援歌を歌うなど、平常通りのJリーグの試合会場の様子も映し出されました。

 リーグ幹部もきっとそうした映像を見て、「こりゃ、やばい」と思ったことでしょう。

スポーツ観戦は日常生活よりも確実に感染リスクが高い

 今回のようなウイルス感染を想定した時に、スポーツの観戦は日常生活の比べてとても感染リスクの高い環境と言えると、筆者は素人なりに考えています。スポーツの試合観戦で、自分の椅子に座ったまま、じっと黙って観戦している人は稀です。大声をあげて応援したり、時には周囲に合わせて応援歌を歌いたくなります。見ず知らずの隣の席の人と肩を組んだり、ハイタッチをする人もいるかもしれません。試合が白熱すれば、尚のことでしょう。

 大きな声を出せば、ほとんどの人は無意識の内、つばを飛ばしているはずです。そのつばが前の席の人の頭髪や衣類に付着している可能性は高いでしょうし、手を触れる椅子なども付着するでしょう。口から直接かかるのに比べればウイルスの量は少ないかもしれませんが、それでも一定以上のリスクがあることは間違いありません。

 日本のサッカー場の多くは屋外なので、室内に比べればリスクは低いと言われていますが、直接ツバが付着してしまえば、屋外も屋内もリスクに差はありません。

 今の状況では、何万人の観客の中には、咳をしている感染者がいるリスクも十分想定されます。また、スタジアムで食事をしたり、不特定多数が使用するトイレを使用することで感染リスクはさらに高まります。

試合延期の直接的なダメージは限定的だが・・・

 一部、試合の延期によるチームの経済的な損失を危惧する記事を見受けられますが、延期であれば試合数自体に変動がなく、協賛金や放映権料の影響があるとは考えにくいでしょう。周到なJリーグのこと、事前にその辺りも根回しした上での発表だろうと想像されます。

 残るは入場料収入ですが、JリーグはJ1で平均約17%、J2で平均約12%、J1からJ3までの全体で平均約15%と、営業収入全体に対して入場料収入が占める割合は比較的低い上に最終的に開催する試合数自体は変わらず、しかも対象となる試合数は各チームのホームゲーム数で多くて3試合です。

 今後、代替日が平日夜に設定される可能性も高く、開幕直後の土日や休日の開催に比べれば、動員数の大幅な減少は否めないとは思いますが、年間シート購入などもあり、その影響は限定的だろうと思われます。

www.sankei.com

 むしろ、影響はスタジアムの売店や、スタジアムや最寄駅周辺の飲食店などの方が大きいかもしれません。そうしたお店では、シーズン開幕から試合開催日ごとに、観客をあてこんだ準備をしていたでしょう。そうした店舗の多くでは売り上げが激減することになります。また先ほども書いたように、代わりの開催日が平日夜になった場合には観客数の減少は確実で、しかも夜の開催の場合は周囲の店に立ち寄る人も少なくなります。さらに代替えの会場が当初とは違うスタジアムになる可能性も十分にあります。

 昨年10月の消費税増税で消費が冷え込んで外食が減り、さらに新型コロナウイルスのために、全体としても外食を控える傾向がある中での直撃は、個人経営などの小規模な店舗では死活問題にならないとは言い切れません。

なかなか結論が出せない他のプロスポーツの対応

 プロ野球は、2月25日の時点で、最初にジャイアンツが2月29日、3月1日の東京ドームでのオープン戦を無観客試合にすることを決めました。26日に開催される日本野球機構の12球団の代表者会議で、今後の日程を検討するそうですが、Jリーグが延期を決めた後では、通常開催という判断を出すことは困難だと思われます。

 元々、オープン戦は練習試合ですから、無観客または中止が望ましいと思われます。しかし、キャンプ地周辺など、シーズン中の公式戦では試合が見れない地域での開催も少なくなく、そうした地域のファンにとっては貴重な観戦の機会です。スタジアムや周囲の店舗にとっても、1年に1度の掻き入れ時となっている可能性もありますが、感染予防の観点から涙を呑んで頂くしかありません。

 一方、室内競技であり、観客同士が極めて近いことから開催の是非が早くから問われていた、3月8日から大阪で始まる大相撲3月場所に関しては未だ結論が出ていません。25日に協会幹部がインタビューに答えて、中止、無観客、通常開催の3つ可能性に言及したそうですが、この段階で通常開催が選択肢にあること自体が、この組織の危機管理の弱さを露呈してます。3月1日の臨時理事会で決定がなされるそうですが、対応が遅くなればなるほど影響は大きく、また逆風に晒される可能性が高いことも頭に入れておくべきです。

 大相撲の場合、その経営は入場料収入によるところが大きく、ひと場所15日は年間の本場所の6分の1に相当するわけですから、その判断に慎重なることは誰もが理解できると思います。

hochi.news

 そのほか、昨年のワールドカップの影響で、まだシーズンが始まったばかりのラグビートップリーグは、Jリーグの決定に煽られるかのように、今週末以降のリーグの開催について延期や無観客試合の開催の検討を始めたと報道されています。結論はいつどこで誰が出すのか? プロ化を目指す組織として、意思決定のプロセスを問う機会になっているのかもしれません。

www.jiji.com

 Bリーグも25日に緊急でWEBで代表者会議を行なったが、反対するチームがあって結論は持ち越されたという記事が一部のメディアのあがっていましたが、現在は削除されています。Bリーグは28日と1日にリーグ戦の最終節を残しています。代替開催が難しいなどの意見があるようで、あとちょっとだからこのままやらせてよって感じでしょうか。

 バレーボールのVリーグからは全く何も聞こえきません。Vリーグは2月29日男子のファイナルステージの最終戦、そのほか、男子の2部リーグの試合が2月28日から3月8日、その後に男子の入れ替え戦を残しています。20日の時点では全ての公式戦を予定通り行うと発表しています。

 この他、国際試合も国内、国外を問わず多くの変更が余儀なくされています。発表が直近なところからあげると、3月5日、6日に兵庫県で開催されるテニスの国別対抗戦デビスカップは、26日に無観客での開催が発表されました。

 そもそも、スポーツに限らず、大人数を集めるイベントでは、そのイベント自体もそうですが、行き帰りも含めて多くの人が集中して、感染リスクが高まります。しかも、このリスクは、そのイベントに行く人だけでなく、たまたま駅に居合わせた人、電車に乗り合わせた人のリスクも高めることになります。そうした社会的な影響も考慮に入れて、積極的な対応が求められるのです。

子供のスポーツ教室やスポーツクラブの対応

 前回このテーマで書いた時点は、子供の感染者がいなかったことで、子供たちを対象にした教室などの開催も、判断は主催者の自主的なもので良かったですが、子供に感染者が発生した北海道で全道の小学校、中学校の休校に向かう今の状況では、早めの判断が要求されることは間違いありません。自治体レベルで具体的に自粛要請をしているところもかなりあるようです。

 スポーツクラブでの感染はスポーツにとって痛いですね。メディアで専門家が指摘しているように、筆者も極めて感染リスクが高い環境だろうと想像します。

 3人の感染が確認されてる千葉県市川市のスポーツクラブの場合は、感染者がこの人数でおさまるとしたらラッキーでしょう。感染場所となったスポーツクラブは自主的に休業に入ったそうですが(休業しなくても客は来ないが)、スポーツに限らず行政がリスクの高い事業所などをピックアップして、積極的に感染予防のための指導を行なっていくシステムが必要だったかもしれませんが、その時期は過ぎているかもしれません。

自分が感染源にならないために最後の決めるのは自分

 こうした人から人にうつる病気は、自分だけの問題では済まされません。試合に行った本人やスポーツクラブに通う本人は健康で抵抗力もあり、たとえ感染しても無症状や軽度で済むかもしれませんが、自宅で待っている家族は違うかもしれません。近所には慢性的な病気を持っている人や高齢者が住んでいるかもしれません。そういう人が感染した場合、重篤な状況にならないとは言えません。そういう人たちに対して自分が感染源になるリスクも考えて行動する時だろうと思います。

 メディアに取り上げられているようなテレワークで自宅での仕事に変更できる人は、大手企業やIT系のそうした環境が元々あるごく僅かな企業に勤めている人に限られています。製造業をはじめほとんどの企業に勤めている人は、タイムシフトなど最大限の考慮をしながらリスクを承知で、会社まで通う必要があります。

 だからこそ、スポーツやライブなど「不要不急」でない場合は、外出は避ける時だろうと思います。

 

 文中のJリーグの入場料収入のデータは次の公式データから抽出、筆者が計算しました。

 2018年度 クラブ経営情報開示資料/Jリーグ

 

新型コロナウイルス対策とスポーツの関連記事】

新型肺炎への対応がスポーツの社会的な価値を世に問う

安倍首相のイベント中止要請はIOCからのメッセージへの返信か