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東京オリンピックは本当に7月24日に開幕するのか?

東京オリンピックの中止、延期に現実味が帯びてきた

 東京オリンピックパラリンピックの中止、延期、無観客などの可能性が、ここにきて具体的になってきました。

 ネット民や噂の範囲では早くから囁かれてきましたが、中止や延期の可能性を現実的にしたのは、2月25日に配信されたIOCのベテラン理事のディック・パウンド氏の下記の記事です。
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 パウンド氏はあくまでも「もし新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大したら」のレベルで語ったようですが、それに対して、IOCのトマス・バッハ会長がすぐに中止、延期は全く想定していないという否定的なコメントを出し、日本でも組織委員会の森会長が、中止、延期など考えてないと強調するコメントを出して、パウンド氏のコメントを全面的に否定しました。

 パウンド氏の最初の発言から2週間ほどで、彼の「もし」は現実のものになろうとしています。3月12日WHO(世界保健機関)は、世界的な流行を示すパンデミックを認定し、これによってIOCも対応しなくていけない状況になりました。

 橋下五輪担当大臣、小池知事は、7月24日開幕の既定通りの開催を強調し、火消しに躍起になっています。一方、IOCバッハ会長は、WHOの発表当日に、今後WHOの勧告に従うことをインタビューで答えています。

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 過去にオリンピックが延期されたことはない

 1896年にアテネで第1回近代オリンピックが開催されて以来、オリンピックが中止になったのは次の5大会で、いずれも戦争の激化が理由です。

  • 1916年 第6回 ベルリン夏季大会(第1次世界大戦)
  • 1940年 第12回  東京夏季大会(第2次世界大戦)
  • 1940年 第5回 札幌冬季大会(第2次世界大戦)
  • 1944年 第13回  ロンドン夏季大会(第2次世界大戦)
  • 1944年 第5回 コルティーナ・ダンペッツォ冬季大会(第2次世界大戦)

 日本ではあまり知られてはいないようですが、日中戦争の激化で東京大会を返上した日本体育協会は、同時に東京大会と同じ1940年に開催予定だった札幌での冬季大会も返上しています。

 1944年のロンドン大会は、翌年5月にイタリア、ドイツが相次いで降伏し、ヨーロッパ戦線が終戦、8月には日本も降伏して終戦したことから、4年後の1948年に連合軍の戦勝を祝う国際イベントとしてロンドンでの開催しています。一部には延期などの表現がありますが、オリンピックの歴史上では1944年は第13回大会、1948年大会は第14回大会と分けられていて、延期、順延でなく別の大会とされています。

 これまでオリンピックは、夏季、冬季問わず延期されたことはありません。

東京オリンピックはなぜ今年開催される予定だったのか

 オリンピックの開催年を定めているのは、IOCの内規とも言えるオリンピック憲章の存在です。このオリンピック憲章は、1925年にIOCで最初に採択され、その後度重なる改訂を経て現在に至っています。

 この中で、古代オリンピックの故事に倣った近代オリンピックは、4年を1つとするオリンピヤードと呼ぶ暦の中で、その最初の年に行われる祭典とされています。

規則 6 付属細則

1. オリンピアードは連続する4つの暦年からなる期間である。それは最初の年の1月1日に始まり、4年目の年の12 月31日に終了する。

2.オリンピアードは、1896年にアテネで開催された第1回オリンピアード競技大会から順に連続して番号が付けられる。第29次オリンピアードは2008年1月1日に始まった。

    ※オリンピヤード競技大会とは夏季大会のこと

第5章 オリンピック競技大会

32 オリンピック競技大会の開催

1.オリンピアード競技大会オリンピアードの最初の年に開催され、オリンピック冬季競技大会はその3年目に開催される。

オリンピック憲章 Olympic Charter 2019年版・英和対訳(2019年6月26日から有効)

 しかし、このオリンピック憲章自体が、時代やオリンピックを取り巻く環境に合わせて毎年のように変更されているので、ここに書かれている規定が、東京オリンピックの延期にそれほど大きな障害とはならないでしょう。

東京オリンピックは中止にできるのか?

 かつて、1940年や1944年のオリンピックが中止された際も、中止までの過程で代替地を探してなんとか開催しようという動きがあったようですが、最終的に中止を余儀なくされています。

 当時と現在との決定的な違いは、スポンサー料と放送権料の存在です。オリンピックというスポーツイベントがスポンサー料を受け取り、テレビ放送する権利を初めて販売したのは1984年に開催されたロサンゼルス大会だと言われています。それまでのオリンピックは多額の公金が投入され開催されていて、特に1976年のモントリオール大会では多額の赤字が発生し、モントリオール市民は21世紀までその編成を続けることになりました。

 ロサンゼルス大会の大会組織委員長だったユベロス氏は、公金を全く利用しない徹底的した商業主義を導入し、スポンサー料とテレビの放送権料でこの大会を黒字に導いたのです。1970年代から急速に進んだ北米大陸のテレビネットワークの充実が、この大会の開催とタイミング的に一致したことがこの大会の経営的な成功の大きな要因だったと言えます。

 ロサンゼルス大会では大会の組織委員会がスポンサー料と放送権料を受け取るシステムでしたが、その後IOCが主催者として受領するようなシステムになり、共に増額を重ねてIOCの収入の大部分を占めるようになりました。現在は夏季大会と冬季大会の複数の大会が1つのパッケージで販売されて、東京大会だけの放送権料を単体で算出するのは難しいのですが、2018年平昌大会とのパッケージで、総額3700億円程度だと言われています。

 東京大会が中止になった場合、IOCはその半分以上を失うことになるかもしれません。来年以降に延期された場合には、ペナルティもある程度あるかもしれませんが、中止になった場合よりははるかにダメージが少ないはずです。だから、IOCとして東京大会を中止にする選択肢は考えられないはずです。

IOCと日本政府は予定通りの開催を目指す

 F1を主催するFIAが、参加する多くのチームから中止の要望があったにも関わらず、開幕戦当日まで開催を目指しましたが、開催前日にチームスタッフに感染者が出て、ようやく開催を断念する判断をしました。

 フィギュアスケート世界選手権を主催するISUもまた強硬に通常通りの開催を進めていましたが、会場の地元自治体の州政府から開催キャンセルを一方的に通告されて開催を諦めることになりました。スポーツイベントを主催する国際的な競技団体は事実上の営利団体であると言って過言ではなく、その多くがアスリートや観客よりも利益を優先し、現在のような新型コロナウイルス感染拡大の状況を無視して、どこまでも開催を目指すことは十分に予想されてきたことです。

 同様におそらくIOCもどこまで通常開催を目指すでしょう。バッハ体制のIOCは予定されたスポンサー収入、放送権料を一円足りとも取り逃さないために全力を尽くすことは十分に想像できます。

 12日にはIOCトマス・バッハ会長は、WHOから中止の勧告を受けた場合はそれに従うと発言していますが、専門的な分析よりも政治的な配慮でコメントする現在のWHOに対して、IOCがそうした発表をさせないことは造作ないことだと思われます。

 また、再選を目指すトマス・バッハ会長としても、自分の任期中に中止、延期をして、IOCの経営にリスクを負わせることは絶対に避けたいはずです。

 そのIOCと利害関係が一致するのが、安倍政権と小池都政です。戦後最長の長期政権の成功のシンボルとしてオリンピックの開催し、歴史に残したい安倍晋三首相。この思いは自民党としての意向とも一致するでしょう。一方小池百合子都知事はオリンピックの成功を公約に6月の都知事選挙で再選を目指したいでしょう。現在の小池知事はそれ以外に都民に訴えるすべを持ちません。

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東京オリンピック開催のリスク

 しかし、東京オリンピックIOCと日本政府、東京都だけで開催できるわけではありまません。

 もし、このまま新型コロナウイルスの蔓延が続いた場合、世界各国が今以上に世界的な人の移動を厳しく制限される可能性が高いはずです。そのような状況下で、 感染のリスクも高い中で、各国が日本に選手を送り出すでしょうか。また個人的にも参加を見合わせる選手も少なくないでしょう。競技役員なども同じです。その結果、これまで私たちが見てきたオリンピックとは全く違った大会になる可能性があります。

 新型コロナウイルスの蔓延は世界的に経済的なダメージを与えています。世界的な株価の急落は大手企業ほど大きなダメージを与えます。そうなった時にスポンサーが当初の通りスポンサー料を払えるか、スポンサーを継続できるかは未知数です。これは東京大会のローカルスポンサーも同じです。

 企業の経営状況がスポンサーを続けることを許さない場合と、予定通りの開催を強行するオリンピックのスポンサーを続けることがマイナスイメージに繋がると考える場合があるでしょう。どちらの場合も現在組織委員会に出向させている社員を引き上げることなどにも繋がってきます。

 そして、2つ目がもっと深刻です。経済的なダメージが個人個人に届いた場合、オリンピックを応援するどころではないかもしれません。ボランティアも経済的な負担が大きいですから、生活のためにボランティアができないということが起こるかもしれません。

 多くのエコノミストと呼ばれる人たちが、東京オリンピック開催の多額の経済効果を語り、オリンピックが開催されなかった時の損失をあげていますが、オリンピックを開催することが日本にとって、日本経済にとって、必ずしもプラスになるとは限らないのです。財政出動などをして無理して開催に漕ぎ着けても、その反動はオリンピック不況として、日本経済にさらに深いダメージを与え、膨れ上がった借金は日本経済の復活の大きな足かせになるでしょう。

 

 オリンピックを開催することが、すでに失われつつある私たちの日常生活や経済活動を取り戻すために、プラスになるのか、マイナスになるのか。慎重に見極めるべき段階にきているのかもしれません。