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新型コロナウイルス感染拡大のスポーツにおける影響を整理する 3

3.選手個人と競技団体の危機

コンサドーレ札幌の選手たちがギャラの自主返納

 自分のチームが経営的に困難な状況に迎えると考えたJリーグコンサドーレ札幌の選手全員が、年棒の1割を自ら返上すると発表しました。その総額は約1億円と言われています。コンサドーレ野々村芳和社長によると今回の新型コロナウイルスの影響によるチームの損失は5億円にのぼるそうで、そうした状況に危惧した選手たちの行動だったようです。

 おそらく、スペインのバルセロナの選手たちが、スタッフが100%の収入を得るためにと行なった同様の行為に触発されたものだと思われます。

 バルセロナの平均年棒は世界のサッカーチームのトップで約13億円。一方のコンサドーレはJ1でも下から数えた方が早い約2000万円だそうです。

 しかし、このコンサドーレもその他のチームも今後の状況によっては、さらに経営が悪化する可能性があります。Jリーグはすでに試合数を減らす前提で準備をしているという情報もあって、それが現実になった場合にはさらに大きな損失が見込まれます。その結果、選手へのギャラに支払いに大きな障害が生まれる可能性があります。

多くのJリーガーは競技存続の危機に直面する

 Jリーグの平均年棒はJ2では400万円程度、J3はわずかに100万円台だと言われています。バルセロナのような世界的なチームとは違って、日本では選手の減給がそのまま選手の生活を脅かすのです。もし本当にギャラのカットが発生した場合、それをきっかけに競技生活を諦める選手が多発してもおかしくはない状況です。

 プロ野球では選手会の呼びかけで、医療関係者を支援する1億円を目標にした募金を行なっているそうですが、これができるのも平均年棒が5000万円に届こうというプロ野球ならではのことと言えるのです。

 Jリーグだけでなく、プロ野球を除いて、日本国内のすべてのプロのチームスポーツの状況はJリーグと変わりがないでしょう。むしろ、プロリーグよりも大手企業が事業として運営する日本伝統とも言える実業団スタイルのリーグ、ラグビートップリーグ、バレーボールのVリーグなどの方が、この大波には強いかもしれません。とは言っていても、親会社の本業に大きな損失があった場合にはやはり厳しい立場におかれることに変わりはありません。

個人スポーツはさらなる苦境へ

 ここまではチームスポーツを説明してきましたが、ゴルフ、テニスのようなツアー型の個人競技は、さらに厳しい状況に置かれています。海外と同様、日本のゴルフツアーは今シーズンの試合が1試合も行われていません。

 ゴルフの選手は、スポンサー契約によってサポート受けている選手も数多くいますが、基本的には大会の賞金を元手にして、自力でツアーを転戦しています。自転車操業のように、大会で得た賞金が次のツアーに参加するために交通費や宿泊費になっているのです。もちろん、前年に多くの賞金を獲得して、今年は余裕をもってシーズンに臨んでいる選手もいるでしょう。しかし多くの選手はギリギリの状態でツアーを回っているにも関わらず、試合ができない状況が続いるのです。テニスもしくみはほとんど同じです。賞金額がゴルフより少ない分、選手にかかるリスクも大きくなります。

 今後、試合を開始する見込みがなく、さらにできる状況になったとしても試合のスポンサーの撤退で試合が開催できなくなる可能性もあります。来年以降にこれまでと同様な環境でツアーを開催するためには、ツアーの主催者や選手協会が、試合スポンサーとの契約の見直しや選手の経済的な援助を行う必要性があります。

競技団体も危機を迎えている

 おそらく、今後の競技環境の急激な悪化に備えて、競技団体は全力でその対応に当たる必要があるでしょう。日本経済が失うものはあまりに大きく、スポーツどころでなくなる可能性も少なくありません。ウイルスが蔓延する以前までの競技環境を取り戻すには、これまでのような国頼み、行政頼りでは解決できないはずです。

 しかし、競技団体自身も無傷では済まされません。競技団体が主催する多くの大会が中止また延期を余儀なくされていて、すでに競技団体の収入源である協賛金や参加費が入らなくなっています。競技団体の中にも存続の危機に直面する団体があるかもしれません。元々、競技団体の多くはまだまだ人材に不足しいて、ガバナンスやマネジメント力に欠ける組織が多くあります。日々の運営的にもスタッフの手弁当に頼っているような組織も少なくありません。そうした組織にとっては、来年開催にされる予定の東京オリンピックパラリンピックに向けて、生き残りをかけた戦いが始まっているのです。

競技団体とアスリート個人のもう1つの危機

 競技団体にとってもアスリート個人にとっても、最も重大な危機があります。それは、選手、関係者の感染です。日本サッカー協会の田嶋会長の感染は有名ですが、日本で最も大きな競技団体のトップの感染は、その組織の大きさとポジションの高さゆえ、協会内のクラスターには繋がらなかったようです。

 しかし、多くの選手の感染を発表したbリーグは、残り全てのリーグ戦の開催を諦めるしかなくなりました。プロ野球Jリーグも選手の感染を発表しています。このことが、今後の開幕、再開にどのように影響を与えるかは今の時点では未知数です。

 全日本柔道連盟では専務理事をはじめ12人を超える役員、スタッフの感染が報道されています。蔓延初期であればいざしらず、この段階での集団感染は、組織としての危機意識の欠如と言わざるを得ません。幸い今のところ選手や現場スタッフへの感染は報告されていません。

 4月10日に力士1名の感染を発表した大相撲協会は、すで2週間の延期を決めている5月場所のさらなる延期または中止の検討に入っていると伝えられています。相撲という接触率が高く団体行動の時間が長い、極めて感染の可能性が高い競技では、当然の処置だろうと考えられます。

 選手の感染は、大会などのイベント面だけでなく、選手強化の面でも大きくマイナスです。症状が出た選手自身が入院を余儀なくされる上に、本人だけでなく濃厚接触者とされる選手やスタッフも、感染の有無に関わらず2週間の間、チームメイトやコーチらとの接触ができなくなります。こうした期間がトレーニングやコンディションにどの程度影響するかは、競技や個人によって違いがあると思いますが、大きなマイナスであることは間違いなく、対応を間違えばさらに負の連鎖を産むでしょう。

 プロ野球選手の感染では、自粛の要請の最中に、大人数のいわゆる合コンに参加し、そこで感染した可能性が高いことが明らかになっています。選手個人の自覚のない不注意な行動が、チームや関係者に大きな影響を与える結果になっています。一般人以上に、当事者意識をもった行動を必要で、そのために競技団体やチームの徹底的な指導と管理が必要になります。

 

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4月〜
1月〜3月