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プロスポーツの新型コロナウイルスからの出口戦略

新型コロナ自粛からのプロスポーツの出口戦略

 自粛を強制されたゴールデンウイークが明けて、毎日発表されてきた感染者数が明らかに下降線をたどるに連れて、スポーツ界も中断していた活動の再開のタイミングを探しています。海外では、台湾、韓国のプロ野球が開幕し、ドイツのサッカーリーグも近く再開することが発表されました。そこで、今まさに模索を続ける国内の各スポーツの出口戦略をまとめてみます。

 全国的な緊急事態宣言の終了が、当初の5月6日から5月31日に延期されたものの、日本の2大スポーツとも言える、プロ野球NPBとサッカーJリーグは1日も早い公式戦開催を目指しています。それは、今シーズンの間に何試合を消化できるかで、各チームの収入に大きな差が生じる可能性があるからです。

緊急事態宣言解除に向けたプロ野球の出口戦略

 NPBはすでに、セ・パ交流戦オールスターゲームの中止を発表しています。交流戦の中止のよって昨年に比べて各チームで18試合、全体で216試合が減ったことになります。開幕前に開始が延期されたペナントレースは、最短6月18日からの開始を目指しているようです。本来であれば143試合が行われる予定でしたが、現在120試合程度の開催を目指して準備を行なっていると報道されています。

 ・プロ野球開幕目標、最短6・19 6・26、7・3案も - 野球 - SANSPO.COM(サンスポ)

 10月24日から開催予定のクライマックスシリーズ、11月7日から開催予定の日本シリーズを含めて、できる限りを多くの試合を開催できるように、最近は日本では見ることがなかったダブルヘッダーも織り込んで、日程調整が行われているようです。

 再開当初は無観客での開催の可能性が高く、近年地上波キー局のゴールデンタイムでの放送がほとんどなくなって放送権料による収入が減り、入場料収入に依存する比率が高まっているだけに、無観客試合での開催は各チームの収入に大きな影響を与えることになるでしょう。入場料収入が見込めない中で、球場使用料や試合運営費との収支のバランスをいかにとるかも課題となってくるはずです。

 また、そうした減収の結果、選手の年棒やスタッフの給与にどのような影響を与えるかは、これからの話だろうと思われます。チーム状況によって、最初に決めたからと押し通す状況になるかもしれません。

 プロ野球の12球団は、全てが大手企業の子会社で、40年以上に渡って黒字を続ける広島カープをはじめ数少ない黒字の球団を除くほとんどの球団が、毎年のように親会社の赤字補填を受けています。今回、試合数が大幅に減り減収に繋がっても、毎年のルーティーンが金額を変えて行われるだけだろうと考えられます。むしろ黒字を続けてきた広島は、自動車メーカーのマツダが3分の1以上の株を所有するものの、非連結子会社にしているため、他の球団のように自動的に補填を受けられる状況ではないので、減収の状況でも黒字経営を求められるかもしれません。経済活動の停滞はあらゆるジャンルに及んでいますので、広島以外の球団も親会社の経営そのものが苦境の陥った場合には、球団経営に大きな影響を与える可能性があります。

模索が続けられるペナントレースの開催方法

 そうした中、セ・リーグパ・リーグで関東、関西で集中開催を模索しているという記事が出ています。これ自体は、あまり現実的とは思えませんが、出来るだけ移動を減らして、効率よく移動できるように日程を見直す必要があるとは思います。

 ・「セは東、パは西」地域集中開催案 “分割”なら「移動のリスク」大幅減― スポニチ Sponichi Annex 野球

 日程の見直しにも大きな課題があります。プロ野球が使用している球場の多くは公共施設で、占有使用できるスタジアムはあまり多くありません。指定管理者制度で球団が球場を管理しているスタジアムもありますが、だからこそ、こうした状況下では、プロ球団の試合開催よりも、地元住民の健康のための施設利用を促すべきという一面もあります。プロ野球の開催ばかりを優先しようすると、大きなしっぺ返しに会うかもしれません。

 また、チーム数が多い関東、関西の球団に比べ、地方の球団、例えば北海道や九州の球団は、遠征の期間が長くなりがちなので、関東や関西の球団と比べて選手のコンディションに差が生じる可能性もあります。プロ野球は、シーズン中はホーム、ビジターに関わらず、試合会場の球場で練習をすることが慣例になっていますので、その点では問題はないかもしれませんが、長期の遠征で例えば家族に会えないことによるストレスや、慣れない環境での長期の生活で、新型コロナウイルスの感染リスクが高まる可能性もあるはずです。

より大きな影響を受けるであろう独立リーグ

 一方、独立リーグはどのような状況なのでしょう。現在独立リーグは、北関東、信越12球団のBCリーグと四国4県の4球団のアイランドリーグ、さらに今年2球団で始まった北海道独立リーグがありますが、いずれの球団もNPBに比べてはるかに経営規模が小さく、今回の試合自粛などの影響はNPBに比べてはるかに大きいと想像されます。

 野球に限らず、日本のプロスポーツチームは経営規模が小さくなると中小企業など小規模な組織からの協賛への依存度が高まります。さらに地方に行けば行くほどこの傾向は高まります。独立リーグのようなレベルでは地域貢献のために協賛しているので、試合が開催されなくても協賛金額は減らないという記事もありますが、事実上3ヶ月近い経済活動の停滞は、地方経済に致命的な影響を与えている可能性もあります。球団を応援している中小企業や商店が存続の危機に晒されている可能性もあります。中には倒産してしまう企業もあるかもしれません。

 こうした状況下で、これまでと同じような営業成果が上げられるとはとても考えられず、今後の経営に不安が募っていることでしょう。独立リーグの球団についての具体的な情報はありませんが、リーグ戦が再開が具体的になった時に、すでに参加することができないチームがあっても驚きではありません。

 リーグや球団の関係者の皆さんには、「大丈夫」を前提ではなく「最悪」を前提にしたリスク管理で、この大波を乗り切って欲しいと望みます。

なかなか見定まらないJリーグの出口戦略と再開時期

 JリーグNPB同様、再開のタイミングを模索しています。リーグ戦と並行して行われるカップ戦(ルヴァンカップ)の試合数をなんと維持しようとする努力がおこなわれているようです。具体的な日程は、専門家委員会からの提言待ちになっているようです。しかし、緊急事態宣言が5月31日まで延長された時点で、いずれにしても再開は6月以降になることは明らかにしています。

 ・村井チェアマン各クラブへJ再開準備要望 7月メド - サッカー : 日刊スポーツ

 Jリーグプロ野球では、公式戦開催までのロードマップに決定的な違いがあります。プロ野球はほとんどの球団で緊急事態宣言の期間中も、自主練習と称して球場や通常の練習施設を使ってトレーニングを続けていたのに対して、Jリーグ全54クラブは、早いクラブでは緊急事態宣言発令前の3月下旬から、遅いクラブでも4月15日の緊急事態宣言発令を期に、全ての練習を停止し、自宅待機にしてきたのです。

 特定警戒都道府県以外の早期解除が示唆されて、現在は一部のクラブが練習を再開していますが、5月31日まで緊急事態宣言が続くであろう首都圏や関西圏のクラブでは今も練習再開の目処は立っていません。

 5月31日に全国の緊急事態宣言が解除され、ようやく全てのクラブが練習に復帰するのです。つまり、プロ野球とはスタート地点が異なるのです。

 このため、全てのクラブが練習できるようになってから公式戦を開催できるまでの準備期間を、各チームと連携して調整しているのが現状です。

 Jリーグではありませんが、1月1日決勝戦が行われる、都道府県代表チームとJリーグクラブで日本一のチームを競う天皇杯は、既に大幅に試合数を減らし、都道府県代表の決定方法やリーグ戦を優先するJクラブの参加数を大幅に変更して、当初5月からの開催予定だった全国大会が、9月からに変更されての開催が決定しています。

 ・天皇杯 JFA 第100回全日本サッカー選手権大会 大会方式について|JFA|公益財団法人日本サッカー協会

Jクラブの減収を減らし影響を小さくしようとする努力

 新型コロナ感染拡大によって、各クラブ、リーグの減収は避けられませんが、試合数を維持できるかどうかによってその幅が大きく違ってくるようです。試合数が減少した場合、各試合の入場料収入の減少に加え、協賛金の減収(返金)も避けられないと言われています。スケジュールをタイトにしてでも、当初の試合数をできる限り維持しようとするのはこのためです。

 さらに試合数の維持するためには、土曜、日曜、祝日に開催されるはずだった試合の多くを平日にも開催することを余儀なくされ、これにより入場者数が大幅に減少すると思われます。

 さらに試合数やリーグやクラブの状況に関係なく、協賛する企業の経営状態によっては当初の契約通りに協賛金が支払われない可能性があります。契約書に従えば減額、返金の必要のない場合でも、現在の社会状況を考えれば、協賛企業の意に沿った決断をしなければいけないことも多くあると思います。

 これは他のスポーツにも共通することですが、2008年のリーマンショック以上とも言われる今回の経済的なダメージは多年に及び、長期に渡って今後の活動に大きなマイナス影響を及ぼす可能性があります。

 Jリーグには責任企業と言ってプロ野球の親会社のように、毎年赤字を補填してくれる企業を持つクラブがJ1を中心に数多くありますが、その一方で完全に独立した経営をしているクラブもあります。そうしたクラブには経営規模の小さなクラブが多く、野球の独立リーグと同様に小規模なクラブほど、地元の中小企業や商店からの協賛金の依存度が高くなります。また、収入に締める入場料収入の割合が多いクラブもあり、その結果、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けやすくなっています。賞金をはじめとするリーグからの分配金が、強いチーム=経営規模が大きいクラブにより手厚く分配されるシステムによって、経営規模の格差の拡大が生じていることで、小規模クラブのクラブ運営を難しくしている点もあるようです。

 Jリーグは既に多くの対応を行なっています。リーグ戦が再開された場合、リーグ間で昇格だけを行い、降格は行わないことが今シーズンの特別ルールとして決定されています。また、元々あった経営的に厳しくなったクラブに対する融資制度を、融資総額を増やした上で特例制度を設けて各クラブが融資を受けやすくしています。

 ・リーグ戦安定開催融資規程に関する特例措置について:Jリーグ.jp

 一方、Jリーグのクラブが対象ではありませんが、日本サッカー協会は登録している全てのチームを対象とした、最大500万円の助成金の制度をスタートしています。

 ・JFAサッカーファミリー支援窓口 | JFA|公益財団法人日本サッカー協会

 他のスポーツには見られない手厚い数々の対応が行われているJリーグですが、今後、日程が明確になり、シーズン終了後の決算期までの期間が少なくなるつれて、影響が明確になっていくはずです。

勝武士関のコロナ死と見えない大相撲の出口戦略

 5月13日には、4月上旬から新型コロナウイルス感染のために入院していた現役力士・勝武士さんが亡くなったことが発表され、28歳の現役アスリートの死亡に大きな衝撃が走りました。糖尿病の基礎疾患があったとは言え、28歳での死亡は日本国内の新型コロナによる死亡例としては最年少だそうです。

 ・高田川部屋の勝武士がコロナ感染死 28歳 - 大相撲 : 日刊スポーツ

 勝武士さんが亡くなったことを受けて、相撲協会は力士、親方衆他、協会の全関係者900人超を対象に、新型コロナウイルスの抗体検査を行うことを決めています。プロ野球JリーグBリーグなど他の競技でも新型コロナウイルスの感染が公表されていますが、全員の対象として検査が決められたのはこれが初めてで、他の競技団体などにも影響が及ぶものと思われます。

 ただし、抗体検査でもPCR検査でも、出された検査結果に対して、組織としてどのような判断とアクションするかを決めておかなければ、結果次第では大きな混乱を招くことになります。

 大相撲では、5月24日に延期していた5月場所を中止し、さらに例年7月に名古屋で開催されてる名古屋場所を東京・国技館に場所を移して、無観客で開催することを決定しています。

 5月場所の中止は現在の趨勢として致し方がない判断でしょう。また、名古屋場所の東京開催も同様です。全ての部屋が東京を中心に南関東にあることから、東京での開催は移動のリスクを軽減することができます。さらに、地方で開催では、部屋ごとに開催場所近くに場所を借りて本番の数週間前から稽古を行います。言わば合宿のようなものです。本来とは部屋とは違う環境に移動して稽古や生活をすることで、感染リスクが高まる可能性があります。

 このほか、3月の春巡業、9月からの秋巡業の全てが中止になっています。

 ※例年、7月から8月に開催される夏巡業は東京オリンピックパラリンピックが開催予定だったために予定が組まれていなかった。

 大相撲は相撲協会が胴元となる形で、力士や親方、行司などへの給料、部屋の運営に必要な経費も相撲協会が支払っています。本場所での入場料と巡業招致の報酬が、主な収益源となりますが、その2つが失われている中で、どのようにこの大所帯を維持していくのか、協会幹部の手腕の見せ所になります。

 さらに9月場所以降の開催を今後どのように判断していくのか。力士の死に遭遇してしまった相撲協会が、どのような判断をしていくのか注目が集まります。

届いてこないその他のスポーツの新型コロナ対策の情報と再開戦略

 バスケットボールのBリーグは、リーグ戦を2月下旬で中断し、その後のポストシーズンも含めて、再開を断念したまま2019ー2020シーズンを終了しています。現在はシーズンオフになりますが、新シーズンを例年通り10月に再開できるかが焦点になります。大手企業の子会社や独立した法人や経営形態は様々ですが、それぞれを経営規模から見ると、サッカーのJリーグのJ2の中堅以下のチームばかりですから、大企業に頼らず独立した経営を行うチームを中心に大きな影響を受けていると考えられます。

 ラグビートップリーグやバレーボールのVリーグをはじめする他のスポーツは、チームの多くが企業スポーツやそれに準ずる組織で運営されていますので、まずはベースとなる母企業の経営状態次第ということになるでしょう。経営状態が悪化した企業では、CSRや福利厚生をベースにするスポーツ活動や広報活動の予算削減が行われ、その影響を受けるチームがあるかもしれません。

 ラグビーは、昨年、日本で行われたワールドカップの勢いにのって、大幅なファンや競技人口の拡大、リーグのプロ化を目指していましたが、一気に冷や水を浴びせられた形になり、戦略の見直しが必要となるでしょう。2021年秋からのシーズンでのプロリーグ化を目指していましたが、協会関係者からは、すでに2022年シーズン目標に切り替えることを示唆する声が出ているようです。

 男女のゴルフツアーは概ね6月までのトーナメントの中止を発表していますが、こちらも再開のタイミングを模索しているはずです。スタジアムやアリーナでの競技に比べれば無観客などの対策がしやすい競技なので、早急の再開(正確には開幕)が期待されています。

 ただ、いずれのスポーツも具体的な内容の情報発信が、あまりされていないように感じられます。メディアからの注目度が低いことに比例する場合もあると思いますが、現在は、自らの発信する方法はいくらでもあります。

 積極的な情報収拾と発信は危機管理に基本であり、終息後の回復に不可欠です。競技団体の方々は、会員(選手、スタッフ、関係者)とともにこの難局を乗り越える意思と体制作りが必要です。

緊急時代宣言解除に向けて大切なプライオリティの判断

 学校スポーツを除く多くのスポーツイベントはエンターテイメントです、経済活動や文化的な側面を強く主張する方も多くいらっしゃるようですが、特にプロスポーツや巨大スポーツイベントはエンターテイメントビジネスであることが前提とすべきです。

 感染拡大は終息方向に向かっているとは言え、そうしたエンターテイメントイベントを大観衆を集めて開催するためには、今の状況特有の準備が必要です。例えば、来場者全員の使用に耐えられるだけの量の消毒液やスタッフ全員分のマスクです。プロ野球Jリーグの全会場、全試合分を用意するといったいどれだけの量が必要となるでしょう。

 マスクの供給は一時に比べれば増えてきたとは言え、医療現場で使用できるレベルの製品の供給はまだまだ少なく、消毒液などは全く生産が追いついていない状況です。そうした状況で、大規模なスポーツイベントを開催することで、不足しているマスクや消毒液を大量に使用することは、医療現場の状況悪化を後押し行為でしかありません。

 すべての経済活動は連動しています。危機管理の中では、多くの経済活動の中で優先順位を決めなければなりません。今、大規模なスポーツイベントを開催することが、社会全体の中でのプラオリティを見極める必要があります。

第2波感染拡大に向けての準備と支援体制

 多くの専門家の話によると、今回の新型コロナウイルスの感染拡大はこのまま終息することはないようです。気温の上昇とともに感染力が弱まって一時的に感染者数が減少するものの、秋になって気温が低下すると感染力が高まり、第2波の感染拡大が発生する可能性が高いそうです。これに対応して、再び人の移動や経済活動の縮小して抑え込む必要が起こります。ワクチンの開発などの治療方法が確立するまではこれを繰り返すということです。

 このため、スポーツ界も第2波以降の発生に備えて準備をする必要がありますが、経済活動として具体的な計画が必要です。そのために、対応策だけでなく生き残る財政的な体力も必要でしょう。

 日本サッカー協会が行なっているように競技団体として経済支援ができれば理想ですが、現在の日本ではおそらく財政規模が著しく大きいサッカー協会だからできることです。マイナー競技も含めてより幅広く支援の体制を作るには、JOC日本体育協会などが総合的に支援できる体制を作る必要があると思います。特にJOCは、国内の全てのオリンピックスポーツを統括し、健全運営を促す立場として、果たすべき責任があるはずです。

  

 

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4月〜
1月〜3月