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プロスポーツの新型コロナからの出口戦略 海外と国内の比較

 5月15日に政府が緊急事態宣言を、北海道、南関東、関西の8都道府県を除き、39県で解除したことによって、国内のスポーツ界の出口戦略もわずかな期間で状況が変化しましたので、海外と比べながら、今後の可能性を検証してみます。

海外の状況 新型コロナウイルス対策の中での開幕

 世界各国でも多くの対策が功を奏して感染者数が減って、状況は改善の方向に向かっているようです。その中で世界でも最も早く開幕(または再開)したスポーツは、台湾のプロ野球だと言われています。各国が都市のロックダウンをしている最中の4月12日に開幕、さらに5月7日からは少人数ながら観客を入れて開催しています。

 韓国もプロ野球が5月5日に開幕したのを皮切りに、サッカーのKリーグが12日、女子ゴルフが14日にスタートしています。プロ野球は8日には早くも観客を入れて開催されています。

 プロ野球の試合開催に向けてのマニュアルがネットに公開されていて、その一部が翻訳されている内容を確認すると、選手、スタッフが第三者接触しないための導線の確保と、選手のコンディションの管理の徹底が主な内容です。またプレーする選手以外は審判も含めてマスクの着用を義務付けているようです。選手のコンディションに異常があった場合に、最寄りの施設にPCR検査ができる体制を取っていてそれがこのガイドラインの特徴ではありますが、本来予防策が重要なのでこのこと自体は大きなポイントではないでしょう。

 観客を入れた際のガイドラインも決められていますが、実際にガイドライン通りに客同士の距離を十分にあけて座った様子は、閑散としていると言っていいほどです。

台湾・韓国 プロ野球開幕!コロナ対策は? | 国際報道2020 [特集] | NHK BS1

 Kリーグについてもほぼ同様のガイドラインのようです。

 14日から始まったJLPGAゴルフ選手権もネット上にマニュアルの一部が公開され、日本語のサイトでも内容の一部が紹介されています。下記の記事によると次の10章からなり、試合会場ではこちらも導線の確保と選手のコンディションの検査体制が主になっていますが、コンディション管理が、体温チェック以外は自己申告性である点が十分とは言えませんが、これが限界なのかもしれません。

KLPGAのガイドライン

(1)コロナウイルスの基本事項
(2)KLPGAの方針
(3)KLPGAのコロナウイルス対策プロジェクトチームの運営
(4)選手及びキャディの予防策
(5)大会関係者(協会、運営スタッフ、放送局)らの予防策
(6)陽性者発生時の対応
(7)外国人選手の入国管理
(8)レギュラーツアーの運営
(9)下部ツアーの運営
(10)マスコミ取材のガイドライン

世界に先駆けて開催 韓国ゴルフ界が示す感染防止のガイドライン|GDO ゴルフダイジェスト・オンライン

 先行した台湾と韓国は、明らかな共通点があります。それは国土が狭く、その気になればバスや車で国土の隅々まで移動が可能なことです。電車や飛行機を使う場合に比べて、明らかに第三者との接触が少なくなり感染リスクが低くなることは、感染対策の上でアドバンテージです。

選手全員にPCR検査を義務付けたドイツのサッカーリーグ

 一方、16日に無観客でリーグ戦を再開したドイツのサッカーリーグはさらに厳しくなっています。最も大きな特徴は、試合前日に選手全員にPCR検査を義務付けていることです。さらに、一定の期間毎に選手の家族もPCR検査を受けるそうです。また試合の1週間前からホテルなどで隔離し、家族との面会も制限するという徹底ぶりです。会場でも無観客のスタンドを使ってマスクを着けた控え選手が距離を置いて座っていたり、ドリンクボトルの共有を禁止して一人一人名前入りのボトルを用意するなどの細かい対応を行なっています。

 ドイツのサッカーリーグのガイドラインが韓国のガイドラインよりも厳格になっているのは、ドイツの感染状況が韓国よりはるかに深刻だったことと、世論調査過半数以上の国民が再開に反対をしているという背景があるからだろうと想像できます。

 ヨーロッパのサッカーは、オランダ、ベルギーなどのリーグが今シーズンの残り試合の開催を断念し、リーグを終了しているのに対して、イングランド、スペイン、イタリアなどでは再開への模索が続いています。ドイツも含めて感染者数が多かった国ばかりです。1試合あたりの観戦者数が他のリーグに比べて圧倒的に多く、巨大スタジアムも多いドイツのガイドラインは、今後の他の国々のリーグのモデルとなるはずです。

ドイツリーグ厳格ガイドライン 世界の主要プロスポーツリーグの先陣切って再開:イザ!

日本のプロスポーツの再開に向けた具体的なプラン

 日本では、ほとんどの競技で再開の日程やプランが明確になっていません。そうした中で13日には、Jリーグが再開に向けたガイドライン案を発表しています。内容は下記の公式サイトで誰でも確認できます。

Jリーグ 新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン案|Jリーグ公式サイト

 専門家を交えて作成中のもので、内容的には下記の6つに分けられてます。しかし、この発表段階では、再開に向けたアクションの導入部分となる、現状の把握と再開に向けて日々行うべき健康管理等の作業が書かれているだけで、具体的にどのような準備をし条件が整えば再開するのか、また再開時の試合運用の方法あどは具体的に記載されていません。早急な完成が望まれます。また、こうした内容の明文化は、他の競技では明らかになっていないことから、完成したJリーグガイドラインが、国内の他の全ての競技にとってもガイドラインの役割を果たすことなるだろうと思われます。

Jリーグ 新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン案の骨子

プロトコル 1:予防。発症時の相談、受診。感染時の対応
プロトコル 2:情報開示
プロトコル 3:サッカーのトレーニング(検討中
プロトコル 4:チームの移動、宿泊(検討中)
プロトコル 5:無観客での試合開催(検討中)
プロトコル 6:制限付きの試合開催(検討中) 

Jリーグ 新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン案|Jリーグ公式サイト

 そのほかのスポーツで唯一アクションを明らかにしているが大相撲です。13日に現役力士のコロナ死が明らかになった大相撲協会は、全力士を対象とした抗体検査を決定しています。抗体検査は既往歴を明らかにするもので、リアルタイムで感染の有無を調べることはできませんが、未だにPCR検査の拡大に二の足を日本政府の下では精一杯と言えるのかもしれません。また、例年7月に名古屋で開催される名古屋場所を、自らの運営する両国国技館で無観客で開催することを決定しています。所有の施設で開催することで使用料などのコストを抑えると同時に、施設内での感染予防対策を徹底することが可能になり、また関東から名古屋への移動に伴うリスクも排除することができます。

 大相撲はすでに3月場所を無観客で開催して、感染防止と無観客試合についての経験値があるだけに、その経験を生かして、さらに質の高い感染予防と競技の両立を目指して頂きたいと思います。

感染対策がしやすいゴルフは先行して開幕してほしい

 筆者が気になっているのは、国内ゴルフの反応のにぶさです。

 本来、ゴルフの試合は他の競技に比べて謂わゆる三密の回避が容易な競技です。プレーヤーが競技中に接触しなければいけないのはキャディだけ、選手同士も一定の距離を置くことができます。唯一、接触の機会があるとすればロッカールームやシャワールームでしょう。韓国ではシャワールームの使用を禁止しているようですが、使用していないレストランのスペースの利用やプレハブやテントを建てて、スペースを拡大した上で、時間でコントロールすることで解消が可能です。

 ゴルフのもう1つの特徴は、観客の有無の影響が少ない競技だというです。もちろん観客が多いに限ります。多くの観客が会場に訪れ、多く観客を引き連れてラウンドする選手もいて、その盛り上がりはプロスポーツとしての醍醐味の一部ではあります。しかし、大会によっては極めて観客が少なく、全く誰も見られずにプレーする選手がいるスポーツでもあります。そうした意味では、他のスポーツから比べれば無観客での開催に対する違和感は少ないでしょう。

 日本の男女のゴルフトーナメントは既に今シーズンの半分の試合の中止を発表していますが、1日も早く開幕までのプロセスとガイドラインを明らかにし、それに沿ってアクションできる環境を整えるべきでしょう。

 特に、ゴルフの場合は、メジャー大会を除くほとんどの大会がスポンサー=大会主催者という特殊な構造もありますので、トーナメント主催者(協会)、各大会主催者、そして選手の間の共通理解を高めて安全で安心な大会運営と競技に集中するために、より具体的な内容を盛り込んだガイドラインの策定は不可欠であり急務と言えるでしょう。

日本での再開に向けたポイントはPCR検査と徹底した感染予防

 海外の状況を見た上で、今後の日本にあてはめて考えた時のポイントは大きく2つです。

 1つ目は全選手、スタッフ、審判などを対象としたPCR検査の実施です。

 ドイツでは、毎週試合前日に全選手のPCR検査を義務付けているそうですが、安全に試合、イベント運営をしていくためには当然のことでしょう。安全を担保していくには、感染の有無を確認することが絶対必要条件です。しかし韓国のように一般的に多くのPCR検査が可能な国でもそれができていないとすれば、日本のように医師が必要と判断した場合でもPCR検査を受けられない状況では、予防措置としてのPCR検査など夢のような話です。今後コストも含めてPCR検査の是非についての議論が出ると思いますが、安全を担保するということはどういうことなのか、どのようにすれば安心して競技や観戦に集中できるのか、厚生労働書、スポーツ庁なども交えてしっかりと検討すべきだと思います。

 2つ目は決められた感染予防対策を徹底できるかです。ガイドラインやマニュアルも大切ですが、そのマニュアル通り実施できるかどうかが重要なのです。

 プロ野球はわずか12球団、同日に開催される試合もわずか6試合で、各球団も資金的にも余裕があるので、基本的には実施は可能だと思れますし、またリーグとしてのチェック機能も働くでしょう。

 しかし、同じプロスポーツでも、全部で56チーム(J1:18チーム、J2:22チーム、J3:16チーム)があるJリーグや、48チーム(B1:20チーム、B2:16チーム、B3:12チーム)あるBリーグの場合は事情が違ってきます。資金的にも人的にも余裕のある上位チームはともかく、下位のチームの中には、通常の試合運営だけでも精一杯というチームも決して少なく無いはずです。

 そうしたチームでは、試合の準備や運営を選手が分担しているチームも少なくなく、交雑した環境下で選手とスタッフ、ボランティア等が接触するのが日常です。さらに、現在の試合自粛で経営的にも厳しくなっているです。そうした状況下で、マニュアル通りに感染予防策を徹底することは困難と言っても過言ではありません。

 しかも、チーム数が多く試合数が多いだけにリーグのチェック機能も働きづらくなるはずです。感染予防策を徹底するためには、リーグからのお金と人の支援が不可欠ではないでしょうか。

 いずれの競技の場合も、最悪なパターンは、再開したのは良いが、選手の中に感染が発生することです。それを防止するために、試合だけでなく日常生活やトレーニングも含めたガイドラインを作成、マニュアル化して、その徹底を図ることが求められています。

 

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