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新型コロナによる夏の甲子園中止の波紋

高校野球 夏の甲子園中止を決定

 5月20日、今年の夏の甲子園高校野球選手権大会の全国大会と49の代表校を決める予選大会の全てを中止することを、この日行われた理事会で決定されたことが、高校野球連盟と大会を主催する朝日新聞から発表されました。

・夏の甲子園大会は中止 代表49校を決める地方大会も - 高校野球:朝日新聞デジタル

 4月に始まった全国の緊急事態宣言が解除され、北海道と関東、関西の7都府県を除く39県で5月16日に解除され、舞台となる甲子園球場がある兵庫県を含む関西も、翌21日には解除が発表されるだろうというタイミングでの中止決定でした。

 この決定の1週間前、39の県で緊急事態宣言が解除が発表された同じ15日には、朝日新聞のライバル社である読売新聞グループのスポーツ報知が、中止を断定する記事をトップで報じていました。このため、選手や関係者の中ではある程度、覚悟されていた中での発表でした。

 記者会見で発表された中止の理由は概ね次の通りです。

  • 新型コロナウイルスの感染拡大は長期化し、2波、3波の可能性が指摘されている
  • 全国からの長時間の移動、長期の集団での宿泊で、三密による感染リスクを避けられない
  • すでに3月から長期間の活動自粛が続いていて選手の健康と安全が確保できない
  • 予選が開催できない地方があって49代表が揃わない可能性がある
  • これまで高校の授業が行われてこなかったため夏休みが大幅に短縮される可能性があり、授業に支障を及ぼしかねない

 主催者としては、無観客の上で、抽選会や開会式なども辞めて開催することを考えたそうですが、「高校野球を教育の一環とする限り、球児の心身の健全な発育と安全の確保は最優先」したと、高野連の八田会長は語っています。

 とは言うものの、イベント主催者として、リスクを負いたく無いのも本音でしょう。インターハイをはじめとする他の学校スポーツの全国大会がほぼ全て中止になっている中で、唯一開催して、万一、選手に感染者が出た場合には、組織としても大会としてもそのダメージは計り知れません。まだまだ未知の部分がある新型ウイルスを前に100%はあり得ないのです。

 インターハイをはじめとする高校の全国大会や大学関連の全国大会は、夏までに開催予定の大会のほとんどが既に中止が発表しています。ほとんど唯一残っていたのが甲子園と同じ高野連が主催し同時に中止が発表された軟式野球大会だったでしょう。夏の甲子園を主催する朝日新聞高校野球連盟が開催にこだわった結果、最悪のタイミングでの決定になりました。理事会では、決定を先送りする意見も出たそうですが、予選までの期間を考えれば、ギリギリのタイミングとも言えると思いますし、先送りしても開催ができない場合は、今以上の批判に晒されることは間違い無いでしょう。

今後、高校野球中止の是非に対して多くの議論が予想される

 春の大会に続いでの中止で、高校球児にとっての大きな目標が失われることになりました。特に3年生のとっては最後のチャンスが絶たれたことになります。これに対してテレビをはじめとする各メディアやSNSでは様々な意見が飛び交っています。

 現役の球児やOB、応援団の絶望感の漂うコメントは当然で、大人は彼らをその絶望から救い出さなくてはなりません。

 第三者からは、まだまだ感染のリスクがあることうあやインターハイが中止になっていることを考えれば当然という意見がある一方で、甲子園は特別だから開催すべきだという意見も少なくありません。春の大会が中止された時には、テレビや新聞などのメディアの中でも後者の意見が主流だったように感じます。感染の拡大が予見された時期の春の甲子園ですらそうですから、感染拡大が落ち着いた今の時期の夏の甲子園の中止決定は、一層議論が巻き起こることが想像されます。

甲子園が高校教育の一環であり部活であることを再認識することが重要

 甲子園大会は、高校教育の一環であり、高校の硬式野球の部活動の全国大会です。

 では、その部活動の前提となる学校の現場はどういう状況でしょう。全国的に見れば、緊急事態宣言が続いている地域を中心に、まだ授業を授業を再開できていない高校が数多くあることを前提に、全国大会までのステップは次の通りです。

      1.  学校授業の部分的な再開(人数を制限しながらの登校)
      2.  学校授業の全面的な再開(全員が揃っての通常授業)
      3.  部活の部分的な練習再開 ※但し、2と3は並行が可能か
      4.  部活の全面的な練習再開
      5.  練習試合など対外活動の実施
      6.  地方大会への参加
      7.  全国大会への参加

 上記のようなステップを、感染予防の対策を行いながら、時間をかけて進まなくてはなりません。教育現場として、部活より授業が優先され、通常授業に戻っても、自粛期間中の遅れを取り戻すために授業時間を増やし、その分部活の活動時間が減る可能性も高いはずです。そうした中で、夏休みまでの2ヶ月の段階で、参加を希望する全ての学生、例年参加していた全ての学校が、予選に参加するのはほぼ不可能と言えるはずです。それは、高校野球とて特別ではありません。

 部活動は授業と同等、またはそれ以上に密集が発生する可能性が高いと思われます。特に運動部の場合は更衣室の使用はリスクを高めます。また、人気のある部活では多くの人数が集まって行動することも多いはずです。

 授業が通常と違う状況で行われている中では、教員も部活まで目が届かないのが現実ではないでしょうか。全国大会の常連校のように専任の教員や指導者がいる学校の部活は別にして、大多数の学校は、普段授業を持っている先生が、顧問や部長、また監督やコーチとして指導しています。

 そうした中で、現実的に、本格的な部活の再開が可能でしょうか? 全国大会を目指して通常の練習が可能でしょうか? 練習を再開した多くの学校では、人数を制限したり、プログラムを簡易化して感染予防に努めながら、体力維持をするのが精一杯なはずです。もちろん、普段から教員が立ち会わずに練習をしている部活も数多くあるでしょう。そうした部活は、学校としては、安全のため、当面活動をやめさせる判断をするはずです。

 野球部の中には、地方を中心に自粛期間中も程度の違いはあれ、練習を続けてきた学校あるという話を聞きます。生徒の安全と健康を守るために高校生活のメインである授業ができないにも関わらず、部活動を続けていたとすれば、指導者や学校の判断の基準を再考して頂きたいと思います。競泳の瀬戸大也選手のようにオリンピックでメダルが確実視されるようなアスリートですら、自宅でのトレーニングをネット動画で公開している中で、プロ野球の各球団が緊急事態宣言の期間も球場などでの練習を止めず、「ステイ・ホーム」をしなかったことと無関係ではないと思います。その結果、高校野球関係者や学校関係者の中に、野球は特別だという意識が生じたのではないと筆者は推察しています。さらに甲子園は特別だという意識もあるでしょう。

甲子園中止、全国大会中止の影響

 甲子園の中止の発表は、まず選手たちに多くの心理的な影響を与えたことは言うまでもありません。但し、それはすでに4月中に中止が決定されたインターハイで行われる競技で出場を目指していた高校生たちも同様です。

 個々の高校生、選手たちにとって、甲子園だけが特別だということはありません。皆、家族を含めてそれぞれの最大限をかけて、出場や日本一を目指して日々の練習に取り組んできたのです。そうした高校生たちのメンタルのケアが、指導者や周囲の大人に腕の見せ所になります。彼らにとっての人生最大のピンチを乗り越えるすべの提供は、競技や学校の括りを抜きして行われてよいはずです。

 この文章では、甲子園が元のテーマですので高校だけを取り上げていますが、中学生、大学生も同様の立場におかれていることも忘れてはいけません。

 メンタルのケアとは別に、全国大会が無くなることが、そのまま進路に影響を受ける高校生がいます。最も顕著なのが、いわゆるスポーツ推薦で大学進学を目指す高校生たちです。スポーツ推薦を受け付ける大学の多くが、その条件に全国大会出場をあげています。中には全国大会ベスト○○以上、と書かれている大学も見たことがあります。そうした大学を目指す高校生にとって、条件のひとつである全国大会そのものが無くなったわけですから、大学側は早急の対応が必要です。とは言っても、大学側も優秀な学生を求めていますから、高校生側は焦らず、積極的なコンタクトと行動が肝心です。 

 甲子園をはじめ全国大会が無くなることのデメリットを書く記事で気になることがあります。全国大会が開催されなくなったことで、プロのスカウトなどにプレーを見てもらえる機会が失われて、進路が断たれるという論調のものです。マイナースポーツの場合は否定はしませんが、野球、サッカー、バスケットボール、トラック競技などでは、こうしたことは当てはまらないでしょう。現在は、プロや社会人のチームのスカウティング担当と熱心な各校の先生はネットワークみたいなもので繋がれていて、いい選手の情報は、すぐにスカウティングの担当者に届きます。サッカーの場合は、さらに都道府県や市町村のトレーニングセンターのシステムがあって、その指導者も可能性のある選手の情報を共有しています。

「いい子がいるんだけけど、今度見てもらえません?」
「だったら、とりあえず動画送ってもらえませんか?」
「明日スマホで撮って送ります」
のような会話やメールが日本中で交わされているはずです。

 ですから、全国大会に出場できるような選手やチームのデータはほとんど共有されていて、無名の選手がいきなり全国大会でスカウトされるようなことはほとんど夢物語です。可能性があるとすれば、むしろ、全国大会に出場経験が全くない学校の生徒にあるかもしれません。

 今年は甲子園が開催されないことで、スカウトの目が全国に分散するので、今年のプロ野球のドラフトでは、例年にない隠し球が登場するかもしれません。

代替大会の開催には慎重な検討が必要

 一方、甲子園予選をはじめ全国大会の予選に代わる代替え大会を、各都道府県単位で開催する話が、各地で起こっているようです。

 すでに愛知県高校野球連盟が甲子園予選の代わりの大会の開催を表明したそうです。タイミング的に考えて、熟慮されたとは思えません。感染予防のための対策はどのように検討したのでしょう。また、2ヶ月前後練習ができなかったほとんど学生にとって、準備期間は十分でしょうか? 猛暑の時期の開催は、新型コロナとは別に、熱中症という別のリスクも呼び、十分にトレーニングができていないことでよりそのリスクは高まります。そうしたことも踏まえて、感染予防やリスク管理の専門家の意見を聞くなどして、開催の是非、開催方法について十分に検討した上での開催の可否を検討すべきだと思います。

 また、高野連が中止の理由の1つとしたように、授業時間を確保するために夏休みを大幅に短縮する高校が多数ありそうです。そのため、こうした大会の開催が、授業実施の障害になったり、逆に授業出席のために大会に出場できない学校が生まれる可能性についても、熟慮すべきだと考えます。

 何よりも財力も発言力もある、高野連朝日新聞が中止にしたことの重みを、関係者であれば一度受け止めるべきです。

 いずれにしても、当の高校生たちは、こうした報道に一喜一憂するはずです。携わる大人は十分に検討、準備をしてから発表し、メディアの方々も憶測での報道は控えて頂きたいと思います。

秋以降の開催される大会は第2波、第3波に備えることができるか

 野球の甲子園やインターハイの一部の競技のように、夏休みの大会が年度の最後の集大成の大会となる競技がある一方で、秋以降に大会がある競技もあります。代表的なものとしてはサッカー、ラグビー、バレーボール、バスケットボールのほか、スキー、スケート、アイスホッケーなどがあります。その多くは冬休みに最後の全国大会が行われますが、その予選は、サッカーのような参加校数の多い競技では、通常であれば夏休み中や9月上旬から予選が始まります。夏休みの短縮はこうした所にも影響が出るかもしれません。

 さらに、多くの専門家が新型コロナウイルス感染拡大の第2波が秋以降に発生すると指摘しています。秋以降に全国大会が行われる競技は、次の感染拡大に備えた対応ができるのでしょうか? 予選実施の可否も含めて、関係者には難しい対応が迫られると思いますが、勇気のある早めの決断が求められています。こちらの出口戦略はまだまだ五里霧中です。

 

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