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組織委員会が示したオリンピックの新たな道筋と東京都知事選挙

東京オリンピック大会組織委員会が五輪の新たな道筋を示した

 6月10日、2020東京オリンピックパラリンピック大会組織委員会は、国際オリンピック委員会IOC)の理事会に、組織委員会と東京都が目指す東京オリンピックパラリンピックの簡素化プランなどを提出し、それが承認されたことを記者会見を開いて発表しました。

 筆者は、その後具体案の報道されるのを待っていたのですが、どうやら、200項目に及ぶと報道されたその具体的な中身については、まだ公表できる段階にはなっていないようです。

 10日に組織委員会の森会長と武藤事務総長が出席して行われた記者会見で、IOCの理事会で承認されたと話された、東京オリンピック開催に向けての「基本原則」は、次の3つです。内容は、大会組織委員会のホームページに掲載されています。

2021年の開催に向けた方針
上記のビジョンを礎に、関係者が一体となって、以下の三点の基本原則のもとに準備を進めていく。
・選手、観客、関係者、ボランティア、大会スタッフにとって、安全・安心な環境を提供することを最優先課題とする。
・延期に伴う費用を最小化し、都民・国民から理解と共感を得られるものにする。
・安全且つ持続可能な大会とするため、大会を簡素(シンプル)なものとする。

【出典】

大会延期に伴う大会の位置づけ、原則、ロードマップを公表|大会組織委員会公式ページ

 書かれていることは至極当然のことばかりですが、このことが文字にされ、IOCなど大会関係者だけでなく、一般にも共有されていることは意義あることだと思います。

五輪までのロードマップにはCOVID-19感染拡大のリスクは含まれていない

 さらに、この記者会見では、組織委員会が大会が行われる来夏までを6つフェーズに分けた下記のようなロードマップを作成し、同じくIOCと共有されたことも公表されました。

Roadmap to 2021 Summer

Roadmap to 2021 Summer

【資料】 Roadmap to 2021 Summer | 大会組織委員会公式ページ

 上記の資料を見ると、大会開催に向けて組織委員会として各フェーズごとにやるべきと考えていることの概要が分かります。 

 一方、記者会見では感染対策を最大の課題と言いながら、具体的な対策は、状況が明らかになるであろう秋以降に検討を行うとしていて、ロードマップも含めて、今後、新型コロナウイルスの感染が終息に向かうことが前提になっています。

 しかし、世界的に見れば、現在も急速に感染者が増えていて、6月16日には1日あたり新規感染者数が約14万人とこれまでの最多を記録して、感染拡大の勢いは衰えを知りません。この状況がこのまま秋以降も続く可能性も十分あり、さらに日本国内でも秋以降の本格的な第二波の襲来も予測されています。しかし、組織委員会のロードマップにはそうしたことが全く考慮されていないのです。

 第二波があることを前提に考えれば、1日も早く別の可能性、選択肢を含めたロードマップを用意することが必要だと考えます。

この記者会見の発表は今後のオリンピック開催の試金石にもなり得る

 10日の記者会見で発表された内容で、筆者が考えるポイントは次の3点です。

  • 3月末に安倍総理主導で1年間延期が決定された際に安倍総理がこだわった「完全な形での開催」からの方向転換
  • 常に一方的に主導権を取ってきたIOCに対して、開催都市である大会組織委員会と東京都が取りまとめたプランが理事会で承認され、今後その基本原則とロードマップに沿って準備が進められることが明らかになった。
  • 開催コストの圧縮の必要性を認めながら実際には拡大プランを続けてきたIOCに対して、開催都市としてコスト削減の方向性を明確に表明した

 日本政府と大会組織委員会、東京都の意思統一がどのようなプロセスを経ているのかはわかりませんが、「完全な形での開催」にこだわった安倍首相の翻意のきっかけになったのは、間違いなく5月末のトーマス・バッハ会長の中止を容認する発言でしょう。

 日本サイドとしては、おそらく、IOCから中止を言い出すわけがないと思っていたにも関わらず、バッハ会長自ら中止に言及したことで、中止を回避することが最優先になって、政府、東京都、組織委員会の意思統一が図られたのだろうと想像されます。

 これに応えるかのように、IOCは13日に、5月末にバッハ会長が中止に言及した発言を事実上撤回して、組織委員会や東京都に全面協力して来年の開催を目指すことを表明しました。

 今後、組織委員会と東京都などがこのままIOCや世界の競技団体をリードする形で、大会を迎えられるか否かが注目されます。

東京都知事選挙は、東京オリンピック開催の意義を考える絶好の機会

 7月5日には、東京都知事選挙が行われます。12日には小池都知事が再選を目指し立候補を表明しました。新型コロナ感染対策のために、選挙活動に多くの制限を加わる中で、現職の知名度による優位は圧倒的で、その上、都政第一会派の都民ファーストの会公明党の支援に加え、自民党の一部が支援に回ることを表明していて、小池都知事の再選は確実視されています。

 主な対立候補としては、元日弁連会長の宇都宮健児氏、元熊本県副知事の小野泰輔氏、NHKから国民を守る党の党首の立花孝志氏、れいわ新選組代表の山本太郎氏などが立候補を表明しています。

 新型コロナ感染対策をはじめ多くの争点がある中で、現職の小池都知事と他の候補者との違いが明らかになる争点が、東京オリンピックパラリンピックの開催についてです。

 小池都知事が、現在の都政の路線の延長線上で、できる限りの感染対策を行なった上で、予定通り来年の開催を目指すのに対して、宇都宮氏と山本氏は開催中止を、小野氏と立花氏は、2022年または2024年への延期を目指すとしています。

 新型コロナウイルスの感染拡大で経済活動が、かつてないほどに低迷し、今後も企業活動から個人の生活まで及ぶと想像される中で、東京でのオリンピック開催の是非を議論することで、開催都市としてオリンピック開催の意義を真剣に考えるのに絶好の機会になることが期待されます。

 特に反対を表明している2候補については、現在は新型コロナ感染対策の延長線上だけで中止を主張していますが、さらに踏み込んで、東京でオリンピックを開催する意義など本質的な部分でも、主張を展開して頂きたいと思います。

 先にも書いたように、小池都知事の再選は揺るがないと思われますが、オリンピック開催以外の争点では、これまでの小池都政を批判する以外、明確な差別化ができない中で、オリンピック中止を掲げる宇都宮、山本の両候補の得票が小池氏の得票を超えるようなことがあった場合には、その後のオリンピック開催に向けたロードマップにも、少なからず影響を与える可能性があります。

 さらに、オリンピックの開催の議論が活発になればなるほど、現在、組織委員会と共にコスト削減、簡素化を打ち出している小池知事が、再選後に方向転換することへの抑止力になることも期待できます。

 その東京都知事選挙は、本日6月18日に告示されました。

 

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6月〜
4月〜5月
1月〜3月