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ジョコビッチ選手のCOVID-19感染の衝撃とその背景

テニス世界ランキング1位ジョコビッチ選手の新型コロナウイルス感染の衝撃とその背景

 テニス男子の世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ選手が、母国セルビアがあるバルカン半島を転戦する「アドリア・ツアー」というテニスイベントを主催し、ジョコビッチ選手本人を含むこのイベントの参加者が、新型コロナウイルスに感染したことが23日に発表されました。

 このイベントは、6月13日にセルビアの首都ベオグラードで開幕し、20、21日にはクロアチアのザダルで、7月3、4日にはボスニア・ヘルツェゴビナで試合が行われる予定でしたが、21日に出場選手の一人で世界ランク19位のグリゴール・ディミトロフ選手(ブルガリア)の新型コロナウイルス感染が発覚して中止になりました。23日には残りの日程も中止が発表されています。検査で陽性が確認されたのは、ジョゴビッチ選手、ディミトロフ選手のほかボルナ・チョリッチ選手(クロアチア)、ヴィクトル・トロイキ選手(セルビア)など。ジョコビッチの夫人も陽性でした。

ジョコビッチがコロナ陽性、主催大会で感染者相次ぐ - テニス : 日刊スポーツ

 このイベントに関しては、多くの写真や動画が投稿されていて、その様子を見ることができます。参加者たちがハグしたり肩を組んだり、記者会見ではマイクを使いまわすなどに加え、クラブで本格的なパーティも行うなど、新型コロナウイルスなど元々なかったかのような振る舞いで、世界中から非難の対象になっています。

 これに対して、ジョコビッチ選手自身も反省の弁をSNSで発信しています。

セルビアのCOVID-19感染拡大状況とジョコビッチ選手の判断の背景

 ジョコビッチ選手の母国セルビア新型コロナウイルスの感染状況を確認してみましょう。リアルタイムの情報が、下記のセルビア政府の新型コロナウイルスの情報サイトで発表されています。

【参考】
セルビア政府新型コロナウイルス情報サイト

 このサイトによると、6月25日の現在まで、セルビアでの感染者は13,235人、死者は263人。直近の24時間以内に7784人が検査を受けて、感染の確認は143人、死者は0人です。セルビア国内の非常事態宣言は5月6日に解除され、同時に外出禁止も解除されています。なお、日本の外務省は、現在もセルビアを感染リスク3で渡航中止の対象としています。

 人口わずか700万人のこの国を感染状況を人口約1.3億人の日本にあてはめてみると、毎日2500人以上の感染者が出ていることになります。日本であれば、到底緊急事態宣言を解除できる状況にはないことになります。

 しかし、イベントを開いたジョコビッチ選手に国際的に多くの批判が寄せられていますが、よく調べてみると必ずしも彼を責任とは言い切れないようなところがあります。

 5月上旬に非常事態宣言を解除したセルビアでは、すでに多くのところで新型コロナウイルス感染拡大前の生活に戻っているようです。

 6月11日には、ヨーロッパの中でも熱狂的で知られるサッカーの試合、パルチザン・ベオグラードレッドスター・ベオグラードの対戦、ベオグラードダービーが超満員の中で開催されたそうです。その写真を見ると、真っ赤な満員のスタンドに発煙筒が焚かれ、ある意味見慣れた東欧のサッカースタジアムの様子が映されています。

 こうした様子を見ていると、ジョコビッチ選手が言葉にしていた通り、すでにこの国には新型コロナウイルスはいないかと錯覚をしてしまいそうです。そうした国の状況が彼に油断させたのかもしれません。しかし、やはり新型コロナウイルス感染拡大の前とは同じことはできないのです。テニスというメジャースポーツで、世界トップランキングにいる彼と彼のスタッフはそのことを自覚し、責任のある行動すべきでした。

プロ野球を見ると対岸の火事とは言えない

 日本でも彼に対して多くの批判が展開されていますが、再開したプロ野球の様子を見る限り、他人事では無いように思えます。

 今は無観客での開催されていて、普段との違いはそこに目が行ってしまいます。

 しかし、ベンチでは、選手同士、間を空けて座ることになっていますが、多くの選手たちが普通通り並んで座っているように見えます。ホームランなどで選手を出迎える時も、ハイタッチやハグこそ直接の接触はありませんが、顔と顔が近い状態で大声で何か言い合う様子には、感染予防の意識は感じられません。

 一部、横浜ベイスターズのように監督、コーチが常時マスクを着用し、明らかに意識的に距離を取っている球団の方が、異質に感じられるほどです。

 また、試合中、審判はマスクを着用することになっていたはずですが、主審が通常付けるマスクの下部を覆っているだけで、塁審はマスクをしていませんし、主審もプレイ中以外はそのマスクを取って大声で話をしています。

 これで7月10日から人数は少なくても観客が入れば、球場のムードが高まりさらにコロナ前の状態に戻っていって、益々感染リスクを忘れてしまうでしょう。それは、おそらくこうした状況は野球だけに限りません。

 3月には阪神の藤浪選手らが、会食という合コンに参加して、その会での新型コロナウイルスの感染が報道されていましたが、今後、こうした会食も以前と同様、もしくは自粛期間を取り戻すかのうように、それまで以上に頻繁に開催されることになるでしょう。

アスリートはもっとCOVID-19感染に神経質になるべき

 メジャーリーグNBAの選手の中には、試合の再開によって自分の感染リスクが高まることを危惧する選手が多数いると聞きます。ジョコビッチ選手と同じテニス選手でも、8月中旬からの公式戦の再開を時期尚早だと批判的な意見を表明している選手が数多くいます。

 おそらく、アスリートとしてはこの反応が正しい反応だろうと思われます。

 最近、一般人の私たちにも分かってきたのが、新型コロナウイルス感染の後遺症です。多くの専門家が情報を発信しているのと同時に、感染を経験した人が、SNSでその後の様子を発信しているのです。

 新型コロナウイルスは、若いほど感染しにくく、感染した場合も無症状や症状が軽度だとして知らされてきました。また、発症しても入院や外出自粛の期間が終われば症状は無くなり、後遺症があるとは思われていませんでした。

 しかし、実際にはその軽度と言われる症状も、想像以上にきつくつらいことや、さらに治癒が終わった後も呼吸のしにくさや体のだるさなどが長期に渡って続くことが、知られるようになったのです。

新型コロナ 退院後も7%に“生活に支障” 呼吸機能低下など | NHKニュース

 こうした情報から考えると、万一、現役のアスリートが感染した場合のリスクは、我々一般人への影響よりはるかに大きく、そのことをもっと多くのアスリートが自覚するととも、競技団体やアスリートが所属する団体はアスリートにこうした情報を積極的に提供して、彼らの意識と環境の改善を促す必要があるでしょう。

 この問題はアスリートだけのものではありません。少なくとも、ワクチンや治療薬が完成し、世界中に普及できるまでは、新型コロナウイルス感染拡大以前の生活ができないことを世界の人々は自覚する必要があります。

 

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6月〜
4月〜5月
1月〜3月