サッカー、J1が再開。その注目度はいかに
7月4日、サッカーJリーグのJ1が開幕戦の2月21日、22日からおよそ4ヶ月半ぶりに再開し、第2節の対戦が全国で行われました。このニュースをサッカーファン以外の人がどれくらい知っているでしょうか。先行して6月19日に開幕したプロ野球は、6試合全ての試合が全国各地の地上波で放送され、まるで1990年代以前のように、テレビ欄にはプロ野球中継の枠が複数並び、それは翌日の土曜、翌々日の日曜日まで続きました。
その様子はこちらの文章をお読みください。
中継だけでなく各局のニュースや情報番組も大々的に取り上げ、多くの時間を割いていました。
Jリーグの場合、1週間早くJ2とJ3が、再開または開幕したことで注目度が分散した可能性はありますが、CS放送を含めて各局が競うように中継をしたプロ野球の開幕とは明らかに様子が違います。一応、言っておくと全試合がDAZNでライブ配信されることは、プロ野球もJリーグも同じです。
この日のJリーグのテレビの中継は、下記のわずかに4試合です。
- ガンバ大阪ーセレッソ大阪 朝日放送(録画) 関西ローカル
- 浦和レッズー横浜Fマリノス テレビ埼玉 埼玉県ローカル
- ベルマーレ湘南ーベガルタ仙台 NHK宮城/総合(録画) 宮城県ローカル
- 川崎フロンターレー鹿島アントラーズ NHKBS
全国放送されたのはNHKBSの川崎フロンターレー鹿島アントラーズ1試合で、地上波の3試合はすべてがローカル放送で、その内2試合が深夜の録画放送でした。
プロ野球に比べてファンの年齢層が若いJリーグでは、それだけネット配信での観戦への移行が進んでいるということでしょうか。それともそれを含めて視聴率が見込めない、スポンサーがつかないということでしょうか。
J1再開についてのニュース、情報番組などの一般的な注目度はどうだったでしょうか。こうした番組での扱いも、ほとんどの番組で、先に始まっているプロ野球が6試合全試合のダイジェストが流れた後、この日注目されていた浦和ー横浜FM戦を中心に、2、3試合を映像で扱うだけで、その他の試合の結果さえ出さない番組も多かったはずです。時間を割いた局で、ガンバ大阪の遠藤選手のJリーグ最多出場記録に触れたくらいだったでしょうか? それでも、同じ日に楽天が同率首位だったロッテを破り、単独首位に立った試合に比べれば、扱う時間は短かったはずです。
Jリーグにとって不運だったのは、4日未明から熊本県、鹿児島県の襲った豪雨災害があったことかもしれません。東京都内の新型コロナウイルス感染者の連日の100人越えも、東京都知事選挙も、このニュースで吹き飛んでしまいました。とは言え、プロ野球との比較で言えば、こうした多くの出来事と重なったことも関係ありません。
Jリーグはひたすら全試合開催を目指す
筆者が気になっていたニュースがあります。
・「厳格」指針で高校総体代替大会見送り 神奈川の高校陸上―Jリーグを最優先:時事ドットコム
この記事の中で注目していただきたいのは下記の部分です。
高校生が参加できる別の大会を夏以降に開催しようと競技場確保にも走ったが、Jリーグのチームが本拠地を置く横浜市や川崎市などは「試合が再開されるかもしれない」と応じてくれず、実現できなかった。
これは、神奈川県の話ですが、Jリーグが全試合分の日程を組むことができた裏側には、実は全国で多くの一般のイベントがないがしろにされ、この記事にあるような学校スポーツや例年開催されてきた地域のスポーツのイベントが、開催できなくなっているのではないでしょうか。
地域への貢献を謳いながら、そこのけそこのけで、自らの試合開催のみを猛進する姿勢に社会的な正義を見いだすことはできません。
各自治体は、営利的な興行であるプロスポーツと学校教育の一環である部活動のイベントのどちらが優先されるべきか、行政機関としての基本に立ち返って判断基準を見直すべきだろうと思います。もちろん、これはJリーグに限ったことではありません。
COVID-19感染者増加の中、観客を入れた開催は社会のニーズにマッチしているのか?
7月6日には、Jリーグとプロ野球が合同の「第11回新型コロナウイルス対策連絡会議」を開き、予定されていた7月10日からの観客を入れた試合開催を確認しました。7月10日という日程は、5月下旬に政府が様々な規制(要請)を解除し、新型コロナウイルス感染の終息を事実上宣言した時期に作られたガイドラインに沿っていて、同じ6日に初会合があった政府専門家会議の分科会の方針にも沿ったものです。
しかし、現状に目を向けると東京都では連日100人を超える感染者が確認されているほか、全国各地でも感染者が増加傾向にありクラスターも確認されています。その影響は、飲食店を中心に既に出始めていると報道されているようです。
こうした中で、ともかく通常開催への道を突き進むプロ野球やJリーグの姿は、一般の人々の目のどのように映るのでしょうか? 少なくとも筆者には違和感しかありません。
神奈川県の黒岩知事と埼玉県の大野知事は、県民に対して東京都への不要不急の来訪を控えるように記者会見などで話しているようですが、こうしたイベントを集客して開催することは、当然、都県境を跨いだ移動を助長することにも繋がります。
「せめてスポーツくらいは普通にやって元気を与えてほしい」なのか、「スポーツどころではない」なのか。この空気を読み違えると大きなしっぺ返しを食うことになるかもしれません。
IOCはオリンピック開会式の簡素化に反対 小池都知事は?
一方、7月5日に投開票が行われた東京都知事選では、来年開催予定の東京オリンピックを、簡素化、コストを抑えた上で開催することを訴えた小池都知事が圧勝で再選を果たしました。
その翌日の7月6日夜、大会組織委員会の森喜朗会長は取材に答えて、かねてから主張してきた開会式の簡素化がIOCの反対で実現が難しいことを明らかにしました。
・五輪開会式の縮小「IOCはだめだ、と」 森喜朗会長:朝日新聞デジタル
おそらく、都知事選が終わるのを待っての公表だったのでしょう。このことが選挙戦中に明らかになれば、小池都知事のオリンピック開催の主張のベースが崩される可能性もあります。そもそも、小池都知事も含めて彼らに本気で簡素化やコスト削減の意思があるのかも不明です。簡素化を表明してから2週間以上経ちますが、未だに具体的なものは何も示されていないからです。
当確直後のインタビューで小池都知事は、「新型コロナウイルスに打ち勝った証としてオリンピックを開催したい」と、選挙戦中には表向きには見せなかった前のめりなコメントもしています。
6月末の朝日新聞の世論調査では、東京オリンピックについての三択の質問で、「来夏に開催」35%、「再延期」28%、「中止」31%と拮抗しているそうなので、小池都知事は今後もこうした世論の動向を見ながら、自らの姿勢を明らかにしていくことになるのでしょう。
・東京都民、五輪「来夏開催」が35% 朝日新聞世論調査:朝日新聞デジタル
新型コロナウイルスの感染が続く中で、スポーツの価値をもう一度見直そう
スポーツは本来、一人一人の健康を維持、促進するためのもので、その部分が優先され、その価値が重要視されるべきです。しかし、どうやら今、コロナ禍にも関わらず優先されているのはイベントとしてのスポーツ、興行としてのスポーツのようです。
しかし、本当に私たちはそうしたスポーツを求めているのでしょうか? 新型コロナウイルスの感染拡大で、生活が変化し、これまで当たり前だった多くのことを取捨選択をしなければならなくなった現在、私たち一人一人が冷静に判断すべきだろうと思います。
追記(7月10日)
ひたすら経済優先を進める政府。皆さんは安心してスポーツ観戦できますか?
7月9日には、東京都ではこれまでの最高の感染者数224人が確認されましたが、政府は経済優先の姿勢を崩さず、これまでのガイドラインに沿って7月10日からイベント開催の条件を緩和し、観客を入れての開催を許可をします。
これによってスポーツ界でもプロ野球やJリーグで、感染防止対策を行なった上で5000人または会場の収容人数の50%を上限に、観客を入れて試合の開催が可能になりました。
プロ野球では、10日開催の6試合全試合から、またJリーグでもこの日に行われるJ2の1試合から観客を入れて開催されます。今後、徐々に他の競技にも広がっていくことでしょう。
しかし、10日にも東京都では243人の感染が確認されました。
このような状況でも、皆さんは安心してスポーツ観戦ができるでしょうか? これが多くのスポーツ関係者やスポーツファンが望んだ状況でしょうか?
政府は同じ日、旅行代金を補助を与えて国内旅行を活性化する「GO to トラベル」を当初の予定から早めて、22日から行うと発表しました。
【新型コロナウイルス関連のコラム】
・Go To トラベルキャンペーンが始まる前に考えること
・東京オリンピック、パラリンピックは本当に開催できるのか?
・ジョコビッチ選手のCOVID-19感染の衝撃とその背景
・新型コロナによる夏の甲子園中止の波紋
・プロスポーツの新型コロナからの出口戦略 海外と国内の比較
・プロスポーツの新型コロナウイルスからの出口戦略
【シリーズ・新型コロナウイルス感染拡大のスポーツにおける影響を整理する】
・1 - 東京オリンピック・パラリンピックへの影響
・2 - スポーツチームの経営の危機
・3 - 選手個人と競技団体の危機
・4 - 子供や育成年代への影響
・5 - スポーツクラブ閉鎖の影響
・6 - 今だからスポーツがやるべきこと
【新型コロナウイルス感染拡大に対するスポーツ界の対応(時系列のまとめ)】
・6月〜
・4月〜5月
・1月〜3月