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Black Lives Matter運動が200年近いNFLチームのチーム名を変えさせる

Black Lives Matter運動が200年近いNFLチームのチーム名を変えさせる

先住民を表す「レッドスキンズ」の名が消える

 7月13日、アメリカンフットボールリーグ・NFL屈指の人気チームであるワシントン・レッドスキンズが、アメリカ先住民の蔑称であるレッドスキンズというチーム名の変更と先住民の姿をデザインしたチームマークの廃止を発表しました。

米アメフト「レッドスキンズ」差別的と指摘受けチーム名変更 | NHKニュース

 アメリカでは、2020年5月25日に黒人男性ジョージ・フロイドさんが、ミネソタ州で警察官の不適切な拘束方法によって死亡させられた事件に端を発した黒人差別への抗議が、「Black Lives Matter」運動として全米を巻き込んだ大きなうねりとなっています。その運動はヨーロッパをはじめとする海外にも飛び火している一方で、11月のアメリカ大統領選挙にも大きな影響を及ぼす可能性も出てきています。

コロンブスも差別の象徴となっている

 その抗議運動の対象は黒人差別だけでなく、長く差別の対象となってきたアメリカ先住民に対する差別にも向けられて、同様に動きが広がっています。
 私たちもアメリカ大陸の発見者として世界史で学んだクリストファー・コロンブスの存在もその対象です。イタリア生まれの彼は1492年にポルトガル政府の支援で行なった航海でアメリカ大陸に到達すると、その後の複数回の航海も含めて、先住民に対して虐殺、略奪の限りをつくした上に、アメリカ大陸にはそれまでなかった感染症を持ち込み、多くの先住民が亡くなったことが分かっています。
 今、これまでは英雄視されることが多く全米各地に設置されているコロンブス像が、次々と破壊されているそうです。

CNN.co.jp : 全米で相次ぐコロンブス像の破壊、先住民虐殺の歴史に矛先

変更を迫られるのはレッドスキンズだけではない

 ワシントン・レッドスキンズは、1932年ボストン・ブレーブスとして誕生し、翌年にはボストン・レッドスキンズに改名、1937年にワシントンDCに移り、チーム名も現在のワシントン・レッドスキンズになりました。
 アメリカの中でも比較的人権の意識が高い東海岸北部のチームですから、命名の段階から先住民を揶揄するというよりは、彼らの勇猛果敢さを意識してチーム名に取り入れたと考えられます。それでも、これまでも公民権運動など人種差別撤廃運動が起こるたびに、名称の変更を迫られてきたはずですが、今回の抗議運動では重い腰をあげなければならない状況になったようです。
 アメリカ4大リーグにはこれ以外にも、先住民をモチーフにしたチーム名やマークのチームがあります。その筆頭とも言えるのが、プロ野球MLBクリーブランド・インディアンスです。1990年代に公開された人気映画「メジャーリーグ」シリーズの舞台となり、日本では石橋貴明さんがメインキャストの一人として出演したことで記憶されている方も多いことでしょう。インディアンスは、すでに昨年からそれまで使っていた先住民の顔を模したデザインのマークを、人種差別への配慮から「C」だけのマークに変更していますが、今回の運動を受けて、チーム名の変更の意思も発表しているそうです。
 同じMLBでは、アトランタ・ブレーブスが、先住民の戦いの武器をデザインしたマークを使用してきましたが、チームの公式サイトを見ると、いつの間にか「A」をデザイン化しただけのマークに変更されています。一方で、先住民の英雄を表す「ブレーブス」のチーム名は変更しないそうです。
 NFLに戻るとカンザスシティー・チーフスはマークにやじりと思われるデザインを使用していて、変更を求める声が上がっているようです。チーム名のチーフスの「Chief」には先住民の酋長の意味があります。マークと関連づけて考えればその意味は明らかでしょう。

NHL「ブラックホークス」は白人多数スポーツの象徴か?

 プロアイスホッケーNHLには人気チームのシカゴ・ブラックホークスがあります。チーム名の「ブラックホーク」は、先住民の有名な酋長の名前で、先住民の大虐殺があった「ブラックホーク戦争」の名前にもなっています。またマークは先住民の横顔を模したデザインを使用しています。

 このチームにも変更を求める声が上がっていますが、チームは7月7日、チーム名やロゴは「先住民にも影響を与えた歴史的に重要な人物を象徴している」として、変更する予定がないと表明したそうです。
 多くのスポーツが黒人をはじめ白人以外の人種の選手の数が増え、そうした選手の活躍の場が増える反面、白人のアスリートの活躍の場が減っていると感じている人も多いはずです。例えば、アメリカのナンバー1スポーツのアメリカンフットボールでは、チームの司令塔クウォーターバックには、20世紀までは白人選手しかほとんどいませんでしたが、現在はNFLでも黒人のクウォーターバックが数多くいます。
 しかしNHLが今もほとんど白人の選手しかいない競技です。ブラックフォークスの選手を公式サイトで確認すると、40人近いメンバーの中で黒人の選手は一人だけです。そのことがこのチームの対応と無関係であるとは思えません。少なくともアメリカ人の中にはそのように感じる人が多くいるはずです。
 すでに変更または変更を表明しているNFLMLBのチームのチーム名やマークも、先住民を侮辱したり、揶揄する意図がなかったであろうことを考えると、今後さらに圧力が高まることでしょう。

米スポーツ界、差別撤廃でチーム名変更の動き 企業圧力も (写真=ロイター) :日本経済新聞

東京オリンピックを前に私たちも人種差別を理解しよう

 先住民の中は、今も1800年ごろに自主権の名目の下に定められたインディアン居留地(Indian reservation)に押し込まれ、州政府からの補助金で生活している人も多いそうです。居留地は全米各地にありますが、そもそも白人の都合で決められた場所ですから、産業もなく農業も難しい場所が多く、生活水準が低い家庭が多いそうです。
 今後、Black Lives Matter運動の差別撤廃の動きがどこまで広がるかはわかりませんが、過去に行われてきた人種差別撤廃運動以上に大きなうねりとなっていることは間違いありません。来年開催が予定されている東京オリンピックパラリンピックにも自ずとその影響が出るでしょう。私たちは日本人は、人種差別に対して、理解が比較的浅い傾向がありますが、現在のBlack Lives Matter運動の動向を見ながら、人種差別に理解を深める必要があるでしょう。
 その中には、紹介したコロンブスのように歴史的な常識の見直しさえ必要とされる場合もあるかもしれません。
 これもまた東京オリンピックパラリンピックが目指すダイバーシティの1つです。

 ちなみに、インディアンという言葉自体が、差別用語だと考えるアメリカ人もいるので要注意です。