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アメリカでは、コロナ感染拡大のために多くの野球選手の機会が失われている。

アメリカではコロナ感染拡大のために多くの野球選手の機会が失われている。

COVID19の影響で広がるマイナー選手の大量解雇

 まだまだ収まることを知らない新型コロナウイルスの感染拡大ですが、世界で最も感染者数、死亡者とも多いアメリカでは、プロ野球マイナーリーグの今シーズンの全ての試合の中止が、6月30日の時点で発表されています。

米マイナーリーグは今季中止 コロナ禍で開催断念 - 野球 - SANSPO.COM(サンスポ)

 報道によると、キャンプ開始から5月31日まで、選手たちにはマイナーリーグの最低保証である週400ドルのギャラが支払われていましたが、現在はそれも多くのチームで打ち切られ、この保証期間終了と同時に多くのチームで大量の解雇が行われ、多くの選手たちのプレーの機会が失われているのです。

 中には、カンザスシティ・ロイヤルズミネソタ・ツインズのように、シーズン終了の8月末まで契約を延長し、マイナーリーグの選手たちを守ろうとしているチームもあります。

マイナーリーグは選手だけでなくチーム大量削減の危機に直面している

 アメリカのマイナーリーグは、ルーキーリーグから1A(クラスA)、2A(ダブルA)、3A(トリプルA)と、大きく分けて4つのレベルのリーグから成り立っています。チームはほとんどの場合それぞれが独立したチーム(組織)です。日本のプロ野球の2軍のように、メジャーリーグの属しているチームはほとんどありません。

 独立したチームとして、メジャーリーグのチームと専属の契約して、自分のチームで契約した選手を育ててメジャーリーグのチームに送り込んだり、メジャーリーグのチームが契約している選手を、育成機関としてメジャーリーグ昇格前の期間に経験を積ませたり、怪我をしたり調子を落とした選手が、実践を積みながらリハビリする場所になっているのです。

 またリーグ自体もMLB(メジャリーグベースボール)とは別にMiLB(マイナーリーグベースボール)というリーグ機構があって、この両者の契約によって現在の体制がなりたっているのです。今年の9月末でこの契約が更新を迎え、MLBはコロナ禍に関係なく、経費削減のため、これまで162あったマイナーリーグのチームを、来年から120にまで減らそうとしています。マイナーリーグ側は抵抗していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、MLB案がそのまま通ることになりそうです。

 これによって、多くの選手がプレーの機会を失うだけでなく、球団関係者の多くも職を失うことになるかもしれません。

球団数大幅削減にシーズン中止…存亡の危機に立たされるマイナーリーグ | THE DIGEST

ローカル球団のある街を舞台した映画「しあわせの灯るところ」

 先日、たまたま「しあわせの灯るところ」(原題:where hope grows)という2014年のアメリカ映画をネット配信で見ました。邦題のつけ方や宣伝用のビジュアルが、2009年にサンドラ・ブロック主演で日本でもヒットした、アメリカンフットボール選手の実話を元をした映画「しあわせの隠れ場所」(原題:The Blind Side)によく似ていて、そのパクリ感ととも、主演のクリストファー・ポラーハをはじめ日本では馴染みのない俳優陣の作品だったので、あまり期待をせずに観たのですが、十分に質感の高い作品でした。

しあわせの灯る場所|ソニー・ピクチャーズ

 アメリカの田舎町を舞台に、この街で生まれ育った元メジャーリーガーが、引退のショックから立ち直れず、仕事につかず、アルコールに溺れる日々を送っている。その男が、ダウン症の若者との出会いと交流をきっかけに、人生を見つめ直し、地元のマイナー球団の監督に就任して、球場で喝采を浴びるまでのストーリーです。

 主人公とダウン症の若者との触れ合いや周囲との軋轢のシーンが中心で、野球のシーンは、主人公がこの若者にスーパーの裏やバッティングセンターでバッティングの教えるシーンと、ラストの球場のシーン、さらに主人公が球場で雨にずぶ濡れになってかつての栄光を回想するシーンくらいですが、なぜかアメリカの田舎町と野球、地元の英雄であろう主人公の存在、マイナー球団への期待感みたいなものがしっくりとくるストーリーです。

 小さな田舎町の、たぶん3千人も入ればいっぱいになっていしまうようなボールパークと街の雰囲気がぴったりくるのです。こうした映画が作られるのも、アメリカの多くの街ではローカルの野球チームが、街の人々の誇りや楽しみとしてしっかりと定着しているからだろうと思います。

 マイナーリーグのチームがメジャーリーグに昇格することは決してありません。原則クラスAのチームはずっとシクラスA、ダブルAのチームはずっとダブルAで、おじいちゃんの頃から今もずっとそのままです。日本のサッカーやバスケットボールのように、上位リーグに昇格を目指すこともないのです。上を目指すのは選手だけです。めちゃくちゃ運が良ければコーチが昇格することがなくないですが、それもごく稀な話です。それでも、たくさんの人がわが町のチームとして応援し、多く人々に愛されています。地元に根ざしたスポーツの文化というのは、本来そうしたものではないか。そんな風に思わされた映画でした。

今後もローカルチームが街の誇りと野球選手の礎であらんことを

 私たちは、華々しいメジャーリーグばかりに目が行きがちですが、メジャーリーガーが目が飛び出るようなギャラで契約している一方で、その高騰するギャラが球団の経営を圧迫し、結局は若い選手たちのプレーの機会を奪うことに繋がっているのです。

 アメリカには、メジャーリーグと契約を持たない、独立リーグがいくつもあります。ローカルなチームが集まって、リーグを形成しています。現在の日本の独立リーグと似た運営形態です。

 今後、メジャーリーグの契約を打ち切られたチームが、独立リーグなどで運営を続け、これまでと同じように、わが町の誇りとして街の喜びと娯楽を与え、野球を愛する若者たちの野球をプレーする機会を与え続けて欲しいものです。そのためにも、1日も早い新型コロナウイルスの感染の収束は不可欠です。