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Jリーガーの新型コロナ感染、試合中止について考える

Jリーガーの新型コロナ感染、試合中止について考える

選手、スタッフ3人がCOVID-19に感染した名古屋戦が中止に

 新型コロナウイルスの感染者が全国で連日、過去最高を記録している中、7月26日には、この日広島で開催予定だったJリーグ、サンフレッチェ広島名古屋グランパスの試合が、名古屋で選手、スタッフ計3名の感染者が確認されたために、延期されました。ご存知の方も多いと思います。

 プロ野球は6月19日に開幕、Jリーグはその翌週から再開しました。そして、これまで野球の雨天延期を除き、予定通り試合が開催されていました。

 しかし、その間に、いったん落ち着いたかと見えた新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。選手の感染確認→試合中止に、「やはり来たか」と思った方もいらっしゃるでしょう。このような事態は時間の問題だったかもしれません。

J再開後初コロナで中止 名古屋、感染さらに2人…濃厚接触者特定間に合わず― スポニチ Sponichi Annex サッカー

MLBではチーム内クラスターで10人以上が感染

 アメリカでは7月24日に開幕したばかりのメジャーリーグMLB)で、フロリダ・マーリンズの選手の10人以上の感染が確認され、とりあえずマーリンズ戦を中心に8月2日までの5試合が中止になっています。

マーリンズ14人クラスターか…ヤンキース戦も中止 - MLB : 日刊スポーツ

 世界で最も多くの感染者と死者を出しているアメリカでのスポーツイベントの開催は、まだまだ難しいように思えてなりません。特に、今回集団感染が発生したマーリンズの本拠地のフロリダは、経済活動をいち早く再開した影響で、感染者が急増している州のひとつです。ですから、フロリダのチームから感染者が出たことは、ある意味必然と言えるかもしれません。

 また、今回の場合、26日の段階でマーリンズの選手に4人の感染者が確認されていたのにも関わらず、27日のフィリーズ戦の開催を認めたことで、MLB機構のコミッショナーのロブ・マンフレッド氏に批判が集まっているそうです。

 実はMLBはリーグ開幕前、7月10日にそれまでに行なったPCR検査を結果を発表しています。この発表によれば30チーム中28チームで感染者が確認され、人数はのべ83人。決して少ないとは言えない数字です。

 これまで、自分と家族の健康を考えて、今シーズンの試合に出ない決断をした選手がいたそうですが、また、同じような判断をする選手が増えるかもしれません。

 すでにアメリカのメディアでは今シーズンの打ち切りの話が上がっていますが、先に紹介したコミッショナーのロブ・マンフレッド氏は、選手に感染者が出ることは想定内で、しっかりとしたガイドラインに沿って試合を続けられるので、現時点でのシーズン打ち切りは考えていないそうです。

 さらに、打ち切りになる可能性については、「あるチームが選手たちを欠いて競争力を失った場合」にシーズンの一部、または全部を中止する可能性があると語っているようです。

【マンフレッドコミッショナーのコメントの出展】
メジャー打ち切り危機 コロナ集団感染…開幕わずか5日で - 野球 - SANSPO.COM(サンスポ)

 感染者の数自体や物理的に試合ができなくなったのではなく、感染拡大による戦力の不均衡、つまり公平性が保てなくなったらシーズンをやめる可能性があるというのは、極めてアメリカのメジャースポーツらしい発想で、日本やヨーロッパのスポーツではなかなかないものです。

 なお、アメリカのプロバスケットボールリーグNBAは現地時間の7月30日から再開予定ですが、マーリンズの本拠、フロリダ州に全チームが集まって集中開催されます。感染者が急増中のフロリダ州で、選手たちの安全が十分に守ることができるのか。それともMLBと同様に感染者を出してしまうのか。

 NBAが6月末に全選手を対象に行ったPCR検査では、16人の感染が確認されています。

Jリーグ、プロ野球の「新型コロナウイルス対策連絡会議」の提言

 日本に話を戻すと、Jリーグの選手感染と試合中止を受けて、Jリーグプロ野球は、翌27日に外部専門家が参加して両リーグが共同で開催している「新型コロナウイルス対策連絡会議」をオンラインで開催したそうです。

 報道ではその内容は骨子しか分かりませんが、専門家からは、次の3つの提言があったそうです。(筆者が記事から抜粋、要約)

  • 選手などの感染が確認された後、試合までに保健所から濃厚接触者がリストアップされなかった場合の対応を明確に。
  • 新幹線やバスの移動中の食事を避ける
  • リーグで行なっている2週間に一度のPCR検査に加えてクラブでの検査を進める

 これを読んで筆者はそれぞれに疑問があります。

 1については、選手の感染が確認された後、「濃厚接触者のリストアップのタイミングと試合」が関係するということは、選手の感染が明らかになっても試合を行う前提にあるということになります。現在のように感染の拡大が続いている中で、これは正しい方向性でしょうか。それで選手やスタッフ、その家族は守れるのでしょうか。

 2つ目の食事については、今まで制限なく食事ができていたとすれば、明らかに危機感が足りません。貸切バスでチームで用意した軽食などを食べるならともかく、不特定多数が利用する列車などで個々に購入したものを食べれば、あらゆるタイミングで感染リスクが高まります。また、チーム内の誰かが感染していた場合を想定するならば、食事に限らず行動はもっともっと限定されるはずで、これまでのガイドラインの危機意識が足りなかったのかもしれません。

 3つ目のPCR検査について言えば、元々PCR検査で感染者を発見できる精度は70%程度と言われていて、繰り返すことでその精度を高めることができます。また検査の頻度が増えれば、万一、感染があった場合にも発見が早まってクラブ内やクラブ発の感染のリスクを下げ、特にクラブ内のクラスター防止には役立つとは思います。

 しかし、検査は検査であって決して感染を防ぐわけではありません。しかも、PCR検査は無料でできるわけではありません。今回感染者を出した名古屋のように潤沢な資金があるクラブであれば、クラブの財源で何度でも検査が可能かもしれませんが、財政的にそれができなくクラブも数多くあるはずです。少なくともJ3ではおいそれと検査ができないクラブの方が多いだろうと想像されます。そうしたクラブにも同様にクラブ独自の検査を求めていくには、前提となる安全の定義、基準が必要になるではないでしょうか。

名古屋戦中止から一夜明け、専門家からJリーグに“3つの助言” | ゲキサカ

 一方、次節8月1日に名古屋と対戦予定の柏レイソルは、この試合の延期を求めているそうです。この柏の要望に、SNSなどでは批判的な投稿も多いようですが、自分のチームの選手やスタッフを守る上で、当然のアクションです。70歳と高齢のネルシーニョ監督がいることを考えれば尚のことです。

 本来、感染が確認されたチームは、その後14日間は試合を行わないなどに、試合を継続することよりも、選手、スタッフ、その家族、さらに観客の感染予防し感染拡大を抑制することを最優先に、より具体的にルールを作るべきではないでしょうか。

 感染状況は、ガイドラインが作られた時期と大きく変容しています。ガイドラインを変えていったらガイドラインの意味がないという声もあるとは思いますが、ベースになる環境が想定外になったら、早急に変更することもすぐれたマネジメントです。

Jリーグやプロ野球の全員検査は社会的に優先度が高いのか?

 もう1つの問題はPCR検査の数の問題です。Jリーグプロ野球では選手、スタッフ全員のPCR検査を当たり前のように発表し、それを私たちも当たり前のように受け止めていますが、例えばJリーグ全員の検査数は一度に4000人に及ぶそうです。

 この数は、おそらく、東京都を除く道府県の1日に検査できる数を超えているのではないでしょうか。それぞれのチームはチームの本拠地のある自治体、つまりホームタウンでPCR検査を受けているわけですが、保健所経由の検査であろうと民間ベースの検査であろうと、それだけの数の人が検査を受けることで、それぞれの自治体の医療に負担を与えことになります。

 6月下旬に、再開、または再開した頃の感染状況であればいざしらず、日々、感染者が増えて検査数を増やす必要性が叫ばれ、都市部ではすでに検査を受けたくても受けられない人がいるという報道がされています。

 そうした中で、エンタテーメント産業であるJリーグ関係者やプロ野球関係者が、優先的にPCR検査を受けることが、社会的にそれほど重要性があるとは筆者には思えません。医療関係者はもとより介護の現場、教育関係、また自宅で高齢者の介護や病人の看護をしている人など、Jリーガーやプロ野球選手よりも遥かに検査を必要としている人たちは数多くいるはずです。

 一部には異論はあるものの、安心、安全を提供し、経済活性化には、PCR検査が不可欠であることは社会的な合意が形成されています。PCR検査は、すでにある意味で社会インフラの一部と言って良いでしょう。その社会インフラに大きな負担をかけながら、Jリーグプロ野球の公式戦開催を続けるだけの価値があるのか、再度、Jリーグプロ野球の社会的な価値を再確認する必要があります。

 もし、それでも続けるというのであれば、今後絶対に感染者を出さないという覚悟とそのための行動が必要です。優先的にPCR検査を受けることで社会に負担をかけて、にも関わらず次は感染者が発生し、場合によってはクラスターを発生して、社会に大きな負担をかけるようでは、存在意義自体が疑われます。

 それができないのであれば、シーズンを打ち切る決断をすることも社会の一員として必要だと思います。

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6月〜
4月〜5月
1月〜3月