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新型コロナで問われるスポーツの価値・・・トップアスリートの決断

新型コロナで問われるスポーツの価値・・・トップアスリートの決断

NFLではアスリートの自由意志でプレーの有無が判断できる

 8月7日、9月10日から開幕するプロアメリカンフットボールNFLで、66選手が新シーズンの全試合の出場を辞退したことを発表しました。コロナ禍の中で事前に辞退者を公然と募るのも選手会が強力なアメリカらしく、それに応募する選手が数多くいるのもまたアメリカらしいと言えるのではないでしょうか。

 何より1年間プレーを休んでも、自分や家族の健康を優先できるのも日本人の私たちから見るとすごいことだと思います。

 日本では辞退を前提に公募することも考えられないし、例え公募したとしても、チームや監督からの評価、周りの選手の目を気にしてなかなか手をあげる選手はいないだろうと思われます。

 報道によると結局、NFL32チーム中29チームで辞退の申請があり、最多のチームでは8人の辞退者が出ているそうです。しかも辞退者が接触の多いポジションに偏っているようなので、チームによっては大幅な戦力ダウンの可能性があります。

 戦力的にも財政的にも公平性を重んじるNFLで、このままシーズンに突入するのか、公平性を保つために何らかの措置が行われるかが注目が集まるところです。

NFLの66選手が今季の出場を辞退 新型コロナウイルスの特例措置で“全休”を選択― スポニチ Sponichi Annex スポーツ

開催方法が感染者発生に影響を与えているのか

 世界最多の新型コロナウイルス感染者と死者を出しているアメリカでは、感染拡大は収まることを知りません。そうした状況で、7月から開幕しているプロ野球MLBでは、複数のチームでクラスターが発生して、次々と試合延期されていて、早くも全試合の開催を疑問視する声があがっています。

 一方、MLBから約1週間遅れてシーズンを再開したプロバスケットボールリーグ、NBAでは、シーズン再開前のPCR検査では多くの陽性者を出しましたが、再開後は感染者を出さずに順調に日程が進んでいます。

 MLBNBAの開催方法の大きな違いは、NBAがフロリダに全チームを集めて集中開催をしているのに対して、MLBは東西と中に3つに分けたブロックの中だけの対戦という特別ルールにしたものの、各チームのスタジアムを転戦する原則は変わらず、その分だけ感染のリスクが高いと考えられます。

 アメリカでは、NBAのように全チームを一箇所に集めて、選手やスタッフを試合会場、練習場、移動、ホテルなどで隔離状態にして開催することを、「バブル開催」と呼んでいるようです。

 4大リーグのもう1つ、プロアイスホッケーリーグNHLは、3月にレギュラーシーズンが打ち切りになり、その時点の成績をベースに現在プレイオフが行われています。カナダとアメリカにまたがって行われているリーグですが、新型コロナウイルスの防疫のため両国の検疫が強化されているので、国境を越える移動を避けてカナダ国内の2都市に全チームが集まり、いわゆるバブル開催されています。その開催方法の効果なのか、アメリカに比べて遥かに感染が沈静化しているカナダで開催されているためなのか、今の所NHLの選手の感染の報道はありません。

 そうは言っても、今後、感染の拡大が止まらず、同様に死者も増え続ける状況が続けば、選手、スタッフや関係者への感染は避けられず、選手のモチベーションに大きく影響が出るはずです。

 日本でも6月下旬からプロ野球Jリーグが開幕、再開され、原則従来通りのお互いに相手のスタジアムを転戦しながら試合を行なっていますが、一部に選手、スタッフの感染が確認されて、試合中止(延期)などの処置が取られています。

 アメリカに比べれば、圧倒的に感染者数が少なく、感染のリスクは遥かに低いと思われる中でも、選手やスタッフに感染者が確認されると言うことは、今後、秋に向かって今以上に感染が広がった場合には、選手、スタッフの感染は避けられず、それが原因での試合中止という状況は今以上に進んで、全ての日程を消化するのは難しくなるかもしれません。

テニスのナダル全米オープンを辞退。ゴルフは順調。

 個人スポーツでは対応が大きく分かれているようです。日本では多くのアスリートが、出場の場を求めているのに対して、9月に開催されるテニスの全米オープンでは、世界ランキング2位のナダルが出場辞退を発表しています。感染終息が見えないアメリカへの渡航を二の足を踏んで出場を辞退する選手がこのあとも現れるかもしれません。

 一方、ゴルフのアメリカツアーは、男女共7月に再開して、順調に日程を消化しています。8月6日からは男子ツアーのメジャー大会のひとつ、全米プロ選手権が行われていて、日本からも松山英樹選手、石川遼選手が参加しています。

 近年韓国選手が多くプレーする女子ゴルフでは、その韓国人選手たちの多くが韓国国内に留まっている以外、日本をはじめ各国の選手が参加して開催されているようです。

 日本でも広く知られてきているように、新型コロナウイルスでは若年齢を中心に、無症状の感染者が数多くいて、さらに20代、30代が死に至る可能性は極めて低いようです。日本国内で20代の唯一の死亡例は、1ヶ月以上の闘病の末亡くなった大相撲の勝武士関(享年28歳)のみです。

新型ウイルス感染の力士が死亡、28歳 - BBCニュース

 しかし、その一方で、いったん発症すると、一定以上の確率で呼吸器系を中心に後遺症が長く残ることが一般に知られるようになっています。こうした呼吸器系の後遺症は、アスリートにとって競技生活を続けていけるかどうかを左右するほどに影響があります。多くのアスリートは、そうした恐怖とも戦いながら競技を続けているかもしれません。

渋野日向子は全英女子出場、米転戦のため出国

 そうした中で、昨年ゴルフの全英女子オープンに優勝した渋野日向子選手が、8月7日に、連覇を目指す全英女子オープンに出場するために渡英しました。全英女子オープンの前週に開催されるASIスコットランド女子オープンと全英女子オープンに出場した後、日本に帰国せずにアメリカに渡り、10月までアメリカツアーに参戦する予定のようです。この間、当然国内ツアーはお休みになるので、国内ツアーの主催者がさぞがっかりしていることでしょう。日本では、全英女子オープン出場権を得ながら辞退した選手がいます。

 渋野選手の場合、昨年の全英女子オープンの優勝で、今年のアメリカツアーのメジャー大会の出場権は得ていますが、ツアー全体の出場権を得るためには例年秋に行われるツアー予選に参加して、上位成績を納める必要がありましたが、今年は開催されないことが決定しています。

 昨年全英女子オープンに優勝して以降の渋野選手は、今シーズンは国内ツアーとアメリカツアーを行き来しながら秋のツアー予選に備え、そこで出場資格を取って、2021年から本格的にアメリカツアーに参戦する予定を表明していました。

 ここに来て、国内のメジャー大会も休んで2ヶ月以上も海外ツアーに参加する理由については、日本のゴルフ界で最も注目されていると言って良い渋野選手の動向ですから、多くの記事があがっています。

 それによると、自分がゴルフができていることに対する感謝と同時に、大変な思いをされている人たちが、自分のプレーを見て勇気だったり、笑顔を与えられるようなプレーができたらいいと語っているようです。

 昨年の全英女子オープンでスマイルシンデレラを呼ばれて人気を集めた彼女らしい発言ですが、それだったら海外に行かなくてもできるのにという声も聞こえてきそうです。

 もう1つの理由としてあげられているのは、延期されたオリンピックへの思いです。世界ランキングで国内2位以内の選手に出場権が与えられますが、渋野選手は昨年の全英女子オープンの優勝でいきなり、畑岡奈紗選手に次ぐランキング国内2位にジャンプアップして、以降、2位のポジションをキープします。

 このオリンピック出場を確実にし、さらにメダルを獲得するためにも、世界の選手たちと戦い経験をすることが必要だと考えて、アメリカツアーへの参戦を考えたのかもしれません。背中を追う畑岡選手がアメリカツアーを主戦場にしていることも無関係ではないでしょう。

渋野日向子が描く世界6冠への道 「アメリカで優勝しかない」米挑戦への思いを激白(No.153629) | ツアーニュース | ツアー情報 | ゴルフのポータルサイトALBA.Net|GOLF情報

東京オリンピックの延期は多くのアスリートの心に影響を与えている

 渋野選手のように、新型コロナウイルス感染拡大やその影響によるオリンピックを前向きなエネルギーに替えることができるアスリートがいる一方で、オリンピック延期を自分の中で消化でないトップアスリートも数多くいるようです。

 オリンピックの競泳個人メドレーで、金メダルが確実視されてきた瀬戸大也選手もその一人のようです。延期決定後、オリンピック延期による喪失感やオリンピックの意味を見出すことができないようなことを取材に応えていたようですが、最近放送されたテレビでのインタビューでも、まだオリンピックに向かう心の準備ができていないことを語っていました。年齢的にも26歳とスイマーとしてピークを迎えている彼は、もう一度100%のエネルギーでオリンピックに向かうことができるのでしょうか?

最も応援されるべきスイマーの1人。瀬戸大也は発想力と情熱で苦難を乗り越える(矢内由美子) - 個人 - Yahoo!ニュース

 もう一人、東京オリンピックの延期で心理的な苦闘をした選手を紹介しましょう。ウエイトリフティング48kg級の三宅宏実選手です。彼女はアテネから4大会連続の出場し、ロンドンでは銀メダル、リオでは銅メダルと獲得している世界的な第一人者です。

 東京オリンピックが延期されると聞いて2日間涙が止まらなかったと言う三宅選手は、地元開催のオリンピックを目指して、アスリートとしての最後のエネルギーを振り絞ってトレーニングに向き合っていたきたことが伺い知れます。今年35歳を迎える彼女は、競技後の自分の姿を夢見ながら競技を続けてきたようです。そんな彼女にとって、延期された1年は果てしなく長く感じられたのでしょう。

 その後、どのようにして彼女は競技に向かい合うことができたのか、記事などでは明らかになってはいません。本当は瀬戸選手と同様、まだ迷っているかもしれません。

「父の苦労が生かされている」東京五輪を集大成に、ウエイトリフティング・三宅宏実の覚悟(矢内由美子) - 個人 - Yahoo!ニュース

 さらに、1年の延期を上手く受け入れることができず引退してしまったアスリートもいます。

 例えば、女子バレーボールでロンドンオリンピックの銅メダルに獲得に貢献した新鍋理沙選手もその一人です。怪我に加えてオリンピック延期が引退の引き金になったことを、引退の記者会見で語っています。

女子バレーロンドン五輪銅、新鍋理沙が引退会見 右手人さし指手術と五輪延期で決断― スポニチ Sponichi Annex スポーツ

 また男子の7人制ラグビーでは二人の主力選手がさくらジャージ(日本代表のユニホーム)を脱いでいます。その一人が昨年のラグビーW杯でも活躍した福岡堅樹選手です。福岡選手は兼ねてから7人制タグビーで東京オリンピックに出場し、その終了後に引退して、医師を目指すことを明らかにしていましたが、オリンピックの延期によって今年6月に代表引退を表明し、医学部受験の準備に入りました。尚、福岡選手は自分のチーム、パナソニックでのプレーは当面続けます。

福岡堅樹「自分の決めたものを貫く」、医学の道へ。7人制も日本代表引退、現役は続行。 | ラグビーリパブリック

 もう一人が、リオデジャネイロオリンピックで、キャプテンとして日本の7人制ラグビーをベスト4に導いた桑水流裕策選手です。こちらも7人制ラグビー日本代表からの引退を表明しています。今年34歳の彼にとってはオリンピックの1年延期の心理的な影響は大きく、延期決定後も代表メンバーのオンラインミーティングにも参加していたが、気持ちを1年後に切り替えることが出来なかったと語っています。

 桑水流選手もチームでのプレーは続けるそうです。

ミスターセブンズ桑水流「気持ち切り替えできず」東京五輪断念理由を告白― スポニチ Sponichi Annex スポーツ

東京五輪延期が幸運をもたらすかもしれないアスリートも

 一方で、東京オリンピックの1年の延期が幸運をもたらすかもしれないアスリートもいます。例えば、バドミントンの桃田賢斗選手です。1月に遠征先のマレーシアで交通事故にあった彼は、当初言われた鼻以外に帰国後眼底などにも骨折が見つかり、手術を受けています。

 思いの外早く練習に復帰し、影響のなさをアピールしていましたが、世界ランキング1位、向かうところ敵なしの金メダル候補として東京オリンピックに出場するはずだったプランには、少なからず修正が必要だったはずです。おそらく、1年の延期によって余裕を持ってプランニングが可能になり、さらに強くなった桃田選手を来年は見ることができるかもしれません。

 もう一人の例は、体操女子の中心選手のひとり、寺本明日香選手です。彼女は新型コロナウイルスの感染拡大直前の2月6日にトレーニング中に左足アキレス腱を断裂。すぐに手術をして、今夏に開催予定だった東京オリンピック出場への意欲を見せていました。選手選考の時期なども考えると、アキレス腱断裂からわずか5ヶ月での本番の舞台が現実的かどうかは疑わしいところだったと思いますが、1年の延期で治療、リハビリ、トレーニング、実戦のプランが鮮明になり、代表復帰が現実的になったのではないでしょうか。もちろん、1年の時間が強力なライバルの登場の機会を与えるかもしれませんが、少なくとも今の彼女は、1年の猶予に感謝しているはずです。 

寺本明日香 アキレス腱断裂も復帰へ強い決意「誰がなんと言おうと諦めずに体操人生貫く」― スポニチ Sponichi Annex スポーツ

COVID19に気持ちで負けることなく、アスリートたちを応援しよう

 現在、新型コロナウイルスのワクチンの開発が急ピッチに進んでいるようです。本当に早期の供給が実現すれば状況に大きな変化があるかもしれませんが、有効性や安全性の確認はまだ確実なものではありません。ワクチンは病原のウイルスを体に植え付けるわけですから、例え供給が始まったとしても、しばらくは接種する人は限定的になる可能性が高いのではないでしょうか。

 新型コロナウルス感染拡大によって、オリンピック、パラリンピックの延期や世界大会の延期や中止され、国内大会も同様の状況です。トップアスリートだけでなく子供達の大会などもなくなり、全てのアスリートが目標としてきたゴールを見失っているかもしれません。その結果、多くのアスリートが競技について様々な決断を余儀なくされています。
 そんな中でも、世界のトップを目指し戦い私たちに夢や希望を与えてくれる、または与えてくれるかもしれないアスリートたちを応援していきたいものです。

 

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