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東京武蔵野シティFCはなぜJリーグ昇格を断念したのか? 第2章

第2章 東京武蔵野シティFCが昇格を断念したわけを推察する

1.伝統があるクラブだからこその難しさ

 今年、J3クラブライセンスの承認を受けた6つのクラブは、すべてがJリーグ昇格を目指して作られたクラブです。今年だけでなく、近年Jリーグ入りを目指すクラブのほとんどが、同様でしょう。

 そうしたクラブは、スタッフも選手も、スタジアムの訪れるファンも、そして支援するスポンサーや地元の自治体も、クラブがJリーグを目指していることに共通理解し、同じ目標に向かって応援し、支援していると言って良いと思います。

 しかし、東京武蔵野シティクラブのように、Jリーグ創設以前からの長い歴史がある場合、必ずしもそうとは言い切れない場合もあるのではないでしょうか。

 今、スタンドで応援するファンの多くはおそらくJリーグ昇格を望んでいるかもしれませんが、中には以前のサッカー部時代から応援していて、今のままを望んでいる人がいるかもしれません。支援するスポンサーはどうでしょう。このクラブがJリーグ昇格を目指すことを表明してから協賛を始めた企業と、以前から現在のクラブの方向性に関係なく地元のサッカーチームだから支援していた企業とでは、温度差があって同然です。

 特に、メインスポンサーの横河電機との関係はどうだったでしょう。横河電機はこれまでもこのクラブに多くの支援を行ってきたはずですが、Jリーグに昇格となれば今まで以上に協賛金額が必要になる可能性があります。その費用が横河電機にとって、支出に相応しい金額であるかは横河電機次第ですが、ユニホームや看板での広告効果を見込んでも露出が限定的なJ2、J3では相応しいメリットがあるとは思えません。

 一方で、現在は少なくなったとは言え、社員の選手もいて、スタッフの多くは横河電気の社員です。しかし、Jリーグに昇格して本格的にプロ化した場合には、こうした選手、スタッフはクラブから去ることになるはずです。そうなってしまうと、横河電機としてこのクラブを支援する根拠のひとつを失う可能性があります。

 アマチュアチームとしての歴史が長かっただけに、横河電機社内には多くのクラブOBがいることでしょう。そうした人たちの中には、あくまでの横河電機サッカー部の延長線上にあると考えていて、Jリーグ入りして本格的にプロ化して、チームの存在が遠くなることに賛成できないOBがいても不思議はありません。

 また地元自治体の武蔵野市としても、市の施設である競技場を優先使用を許可するなど、地元のスポーツチームとしてこれまで支援はしてきましたが、Jリーグに昇格するとなれば、今以上に負荷が増える可能性もあり、対応への判断は分かれます。スタンドに足を運ぶ市民の数が増えた分だけ、逆に反対する市民が増える可能性があるからです。

 さらに、2023年からJ3の試合開催には照明が必須になるので、東京武蔵野シティFCは、2023年以降照明施設のない武蔵野陸上競技場でホームゲームを開催できなくなります。これが自治体としてジレンマになっているはずです。

 筆者は、こうしたステークホルダーとの合意形成の失敗または不足が、今回発表が、Jリーグ昇格断念だけでなく、横河電機直属とも言える一般社団法人への事業移転という形に繋がったと想像しています。

 横河電機本社がある武蔵野市の地域貢献の取り組みとしてだけを考えた場合、むやみにJリーグ昇格を目指すよりも、現状のJFLでアマチュアチームとしての活動の方が、費用対効果に優れているように感じますし、行政としても支援がし易いはずです

2.スタジアム問題に残された選択肢

 東京都でのクラブ運営は地方のクラブとは違った難しさがあります。その1つは、東京武蔵野シティFCが直面していたスタジアムの問題です。

 現在東京武蔵野シティFCのホームグランドに使用している武蔵野陸上競技場は、都内でも指折りの住宅街のただ中にある施設で、現在は、照明設備がなく、ゴール裏からバックスタンドは芝生席です。

 2023年からはJ3でもスタジアムのナイター施設が必須になるため、このスタジアムをJリーグ昇格後もホームグランドとして使用するには照明の設置が必要でしたが、住宅街の中にあるこの競技場に照明塔を作り、ナイターで試合を行うことはほぼ不可能だと言っていいはずです。地域住民の合意を得ることができませんし、武蔵野市も認めることはないでしょう。

 そうなると、このクラブに残された選択肢は2つしかありませんでした。再度「例外適用申請」を行って新スタジアム建設を目指すか、武蔵野陸上競技場以外のJリーグ基準に沿った別のスタジアムをホームスタジアムにして、再出発をするかです。

 東京都内で新スタジアムの建設が容易ではないことは、どなたにでも分かることだろうと思います。大きな敷地が少なく、あっても地代が高く投資効率が悪い。特に使用頻度が限定される天然芝の球技専用施設は厳しい経営が予想されます。また都民の住環境に対する意識が高いために、調整にも時間がかかり、これまでもいくつかの候補地で、失敗に終わっています。筆者が建設が可能だと考えるのは、都内西部の郊外の工場跡地や誘致に失敗した工業用地ですが、そうした場所の多くはアクセスが悪く集客に苦労することは目に見えています。

 武蔵野市内では、都立武蔵野中央公園の利用など、新スタジアムの建設地として可能性がある場所がないわけではありませんが、いずれにしても短期間で結論が出る場所ではありませんし、地域との調整という大きな課題は避けては通れません。

 もう1つの選択肢である、ホームスタジアムを別のスタジアムに移転することも大きな課題を持っています。

 現在、東京都内のJ3以上のJリーグの基準に合ったスタジアムは、国立競技場を含めて6つ。国立競技場は、多くのJリーグクラブにとって巨大過ぎ、またコスト的に見ても合いません。味の素スタジアムは現在FC東京東京ヴェルディが使っていて、これ以上のJリーグクラブがレギュラーで使うことはスケジュール的に難しいでしょう。町田GIONスタジアムは現在までの成り立ちも含めて町田専用と言ってよく、また都内と言っても、町田市内以外からのアクセスがよくありません。そのほかには、北区の味の素フィールド西が丘西が丘サッカー場)、夢の島陸上競技場(江東区)と江戸川陸上競技場の2つの陸上競技場があります。

 しかし、このクラブが武蔵野市三鷹周辺に極めて特化したマーケティングと集客を行ってきたことを考えると、いずれに移転したとしてもマーケティング的にはゼロからの出直しになる可能性があります。

 なにより、武蔵野市に本社を置く横河電機の歴史と共に歩んできた武蔵野市を出て、他の場所をホームスタジアムにすることは、クラブの現体制ではかなりの抵抗があるはずで、横河電機を含めたステークホルダーの中でも、そこまでしてJリーグに昇格する意味があるのかという、議論になることは目に見えているでしょう。 

3.社会的な価値と経済的な価値の創出の難しさ

 東京でのクラブ運営の難しさには、クラブの社会的価値(意義)や経済的価値の創出が難しいこともあります。簡単に言えば、社会的な価値とは、その地域にとって唯一無二の必要な存在になることで、経済的な価値とはクラブの存在や活動によって、地域経済が活性化することです。

 地方では、スポーツチームが地域の課題を自治体や地域住民の共有して、一緒に解決を目指すことができるところがあります。

 具体的な課題をあげると、人口減少や地域の活性化があります。人口減少に悩む自治体では、その地域でスポーツチームがあって試合をすることで、チームがフラッグシップとなって人を呼び込み、若者を中心に人口流出を防ぐことが可能だとアピールしてきました。

 そのチームの存在そのものが、地域の活性化に貢献すると考える自治体や地域もあるでしょう。さらに目覚ましい成績を残すことができれば、その自治体や地域の住民にとっての誇りとなることも可能です。

 Jリーグ創設当時、茨城県鹿嶋市の市長が、鹿島アントラースのおかげで、鹿嶋市の名前が全国的に覚えてもらえると言っていたと記憶していますが、全国的に見ればJリーグに限らずこうした例は他にもあるでしょう。

 その結果、地方のスポーツチームは行政から手厚いサポートを得ることが可能で、地域住民からもこぞって応援される存在になり得るのです。

 これが、クラブの社会的価値の一例です。

 さらに、地域で全国リーグの試合が開催されることで、全国から人が訪れて宿泊や飲食でお金を使ったり、地名が全国に知れ渡ることでその地域発の商品が売れるなどの効果があれば、その地域にとってクラブの経済的な価値を創出できることになるのです。

 では、東京のクラブの場合はどうでしょうか?

 言うまでもなく、東京ではほとんどの地域で人口減少や流出の心配はありません。特に東京武蔵野シティFCがホームタウンとしている武蔵野市は、都内でも指折りの住環境を誇る人気エリアです。中央線沿線という利便性や井之頭公園という都民のオアシスと隣接し多くの人の憧れともなっているエリアです。しかも吉祥寺という全国区の商業エリアも市内にはあります。

 その武蔵野市が、規模の大きさに関わらずスポーツチームに頼らなければならない必要はありません。

 長期的に見れば、少子高齢化という全国共通の社会的な課題に直面していますが、ニーズが多様化する日本の、東京というなんでも揃う環境の中では、スポーツチームの存在が、こうした社会的な問題解決に直結すると考える人は、ほとんどいないはずです。

 スポーツチームが出来ることで、地域や自治体と共有できる課題と言えば「健康」ということになりますが、スポーツの普及やスポーツ環境の提供については行政、民間を問わず多くのプログラムが提供されていて、特定のスポーツチームが無ければ成り立たないという存在になることは、かなり難しいはずです。本質的な組織の役割としてもスポーツチームではなく、総合型地域スポーツクラブのような存在の役割になります。

 それでも、地元に応援するスポーツチームがあることを歓迎する人たちはいるはずで、楽しみや喜びと言った日常生活の付加価値の部分で活路を見出すしかないように思います。

 一方で、むしろ、住宅地にある競技場で試合を開催すること自体が、地域住民の住環境にとって社会的な課題を作っていると考えている人も少なくないはずです。

 また、東京武蔵野シティFCの場合は、これまでも地域住民に対して、サッカー教室をはじめ多くのプログラムを提供して来ていて、その点では地域にとってJリーグクラブである必要はないという皮肉な現実もあります。

 このように、誰の目から見ても明らかな社会的な価値が見出せない中では、地域や市民の合意形成は難しく、その結果、行政の全面的な支援も難しくなります。

 経済的な効果は言うまでもないでしょう。J3やJ2のレベルでは東京という大都市の環境との対比では、地域的な経済的な効果を語れるほどの大きな効果は期待できません。埋没してしまいます。一足飛びにFC東京のように毎試合数万人の集客が可能になればまた別の話ですが、その場合は、先ほど挙げた住環境という社会的な課題との天秤にかけることが必要になります。

 

第3章に続く

>>第3章 東京武蔵野シティFCに他の可能性はあったのか?