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新潟、仙台・・・次々と起こるスポーツチームの不祥事と組織の対応

アルビレックス新潟交通違反を隠蔽か?

 コロナ禍でチームの運営、経営が厳しい中で、選手の管理、コントロール、そして選手の犯罪行為への対応について、多くの疑問や非難が投げかけらる出来事が数多く起こっています。

 その中で直近にあったJリーグの2つの事件をクラブのリリースと報道を元に振り返ってみましょう。

 10月15日に公表されたアルビレックス新潟のファビオ選手の酒気帯び運転からです。報道やリリースを元に時系列にまとめてみると以下の通りになります。

 ・9月17日 チーム内の会食後ファビオ選手が酒気帯び運転の取り締まりを受ける
      是永大輔社長と玉乃淳GMが警察を訪れ捜査状況を確認
      以降、公式戦6試合に出場
 ・10月13日 Jリーグからの問い合わせを受けてJリーグに報告
 ・10月15日 書類送検の見込みとなったことで受けて公表
 ・10月16日 ファビオ選手が道路交通法違反、マンジー選手がその幇助の疑いで書類送検
 ・10月19日 記者会見にて契約解除、是永社長が減給、玉乃GMが給与の返納を発表

アルビレックス新潟のリリース】
【ご報告】当クラブ所属選手の道路交通法違反に関する処分について - アルビレックス新潟 公式サイト
10月19日記者会見議事録 - アルビレックス新潟 公式サイト

 報道では、同席したスタッフから報告受けた玉乃GMは、事実を口外しないように指示したとも伝えています。実際にクラブ内でもほとんどの選手は公表まで知らなかったということです。

「道義的に間違った判断」 J2新潟の是永社長が会見で謝罪|新潟日報モア

 この出来事で、クラブの対応は次の点で問われます。

 ・事実の公表の有無とタイミング
 ・試合出場の可否、妥当性
 ・犯罪に対するクラブの意識

 こうした事件の公表は個人のプライバシーに関わります。犯罪の有無に関わらず、プライバシーが優先されるという考え方もありますし、特に刑が確定していない段階では、推定無罪の法則に沿って、公表を差し控えるべきだという考えも正しい考え方だろうと思います。一方でプロスポーツチームは、一般的な企業と異なり公共性の高い組織です。そうしたチームにとって、選手、スタッフ個人のプライバシーと社会正義、公共の利益をどのようにバランスを取るかは難しい問題です。

 記者会見では、こうした点を検討していった結果、公表が遅れてしまったとして、反省の姿勢を見せています。しかし、流れを見直すと、事実の公表の踏み切ったのは、第三者からのJリーグへの問い合わせがあり、これを受けてJリーグが新潟に問い合わせをしたことに始まります。結果的に見ると「書類送検」されることがはっきりしたから公表に踏み切り、契約解除に至ったと解釈されます。

 もし、Jリーグへのいわばタレコミが無ければ、書類送検があってもその事実が公にならなければそのまま契約を続行し、選手は試合に出場し続けていた可能性があります。

 試合に出場させることは正しい判断だったのか?という点については、負傷などがない選手を具体的な理由なく選手を試合に出さないことはありません。結果的には事実の公表とセットになってしまうのでしょう。しかし、犯罪の捜査対象になっている人物が、スタンドに詰め掛けたファンから応援されるという状況は、極めて不自然です。今回のように後に発覚した場合、ファンの目には裏切り行為を見えるのではないでしょうか。

 交通違反という犯罪に対する意識はどうだったでしょうか? リリースの中で社長は「飲酒・酒気帯び運転は極めて危険な行為であると認識しており、決して許されるものではありません。」としています。

 その認識が事実であるのであれば、酒気帯び運転が確認され、本人も認めているわけですから、送検の有無に関わらず、事実を公表し、一定期間の出場停止や減俸などの処分を行えば良いでしょう。クラブが即座の行動を取っていれば、そうした処分で済んだ出来事なはずです。

 地方では、議員や役所の関係者の酒気帯び、飲酒運転による逮捕などの報道があとを絶ちません。法律を破ることの意味をコンプライアンスの立場から、選手、スタッフだけでなく経営側もしっかりと再認識する必要があると思います。

「たかが酒気帯び運転」という意識が微塵もあってはならないのです。そうした思いが、結果的にことを大きくしてしまうのです。

ベガルタ仙台は暴行事件を隠蔽か?

 10月19日報道されたベガルタ仙台道渕諒平選手の交際女性への暴行事件はもっと複雑です。こちらも時系列でまとめてみます。

 ・8月14日 チームに被害女性の関係者からの接触道渕諒平がDV加害者である可能性を認識
 ・8月15日 公式戦出場
 ・8月17日 警察の捜査が進んでいることを把握し以降の試合出場停止、自宅待機
 ・8月17日 Jリーグへの報告
 ・9月5日 道渕選手の弁護士からの双方合意の上の解決の報告を受ける
 ・9月7日 逮捕、即日釈放
 ・9月8日 誓約書を書かせて活動復帰
 ・9月20日 公式戦復帰 以降5試合に出場
 ・10月19日 翌日発行される「フラッシュ」で道渕選手の暴行事件記事の掲載することが公表される
 ・10月20日 クラブから契約解除と経緯について公表

ベガルタ仙台のリリース】
本日発売の週刊誌報道および選手の処分について | ベガルタ仙台オフィシャルサイト

 道渕選手は、2017年にも当時交際していた女性に対する暴行容疑で逮捕されていますが、最終的に不起訴処分になっています。当時在籍していたヴァンフォーレ甲府は事実を公表した上で道渕選手に出場停止、減俸、社会奉仕活動への参加などの処分を行なっています。

女性暴行容疑不起訴処分の甲府MF道渕のクラブ処分が決定…事件後初コメント「深く反省」 | ゲキサカ

 今回の事件でのポイントも新潟と同様に下記の3点です。

 ・事実の公表
 ・試合出場の可否
 ・事件に対する問題意識

 事件が公表されたきっかけは、週刊誌での掲載だったことは明白です。9月7日の逮捕については、記者会見でクラブ側も把握していたと認めているので、もしクラブが自らの判断で公表したとすればこのタイミングだったろうと考えられます。そして、このタイミングでの公表が無かったことは、その後状況が悪化しない限り、事件は公表されず、道渕選手は試合に出場し続けていた可能性は高いだろうと想像されます。

 公表するか否かの基準については新潟と全く同じで、個人のプライバシーに関わる問題です。犯罪の有無に関わらず、プライバシーが優先されるという考え方もありますし、今回の場合は選手、被害者双方から非公開を求められたようです。しかし、そうした視点と同時に、事件の公表によって、集客やスポンサードに影響が出ることを危惧して公表されなかった可能性も高いでしょう。

 試合の出場の可否については新潟とは違って、8月17日以降自宅待機の時期があったということなので、ある程度抑制が効いていたことになりますが、これも道渕選手が先発レギュラーであれば、公表無くしては難しいと思われます。

 事件への問題意識の低さも目につきます。9月7日の逮捕については、記者会見でクラブ側も把握していたと認めています。にも関わらず誓約書のみで練習や試合に復帰させた判断は、仙台のクラブ自体が、犯罪を軽視し、危機意識が不足している結果であることは間違いありません。特に、2017年ヴァンフォーレ甲府所属に同様の事件を起こしていて言わば再犯であり、その時の甲府の処分の前例があるだけに、処分の差は明確です。

 事件への軽視には契約解除の理由にも表れています。

「当クラブが認知していなかった事実など、クラブの秩序、風紀を著しく乱す内容が含まれていたことから、同選手に事実関係を確認した上で、10月20日付けで契約解除を決定いたしました」

本日発売の週刊誌報道および選手の処分について | ベガルタ仙台オフィシャルサイト

 つまり、暴行の事実とそれによる逮捕自体では契約解除の理由にあたらないということです。

 さらにクラブ自らの意思でこの事実が公表されなかったことも、犯罪の軽視が表れていると言っていいでしょう。

 日本では、家族や交際相手への暴力、いわゆるDVは捜査機関、司法も含めて世間一般に軽視する傾向が強いことが指摘されています。痴話喧嘩を一方が大げさに騒ぎ立てたという解釈です。今回もそうした環境が背景にあると考えられます。

”DV逮捕”の道渕を電撃解雇したJ1仙台に隠蔽疑惑…問われる管理責任と納得のいく説明義務(THE PAGE) - Yahoo!ニュース

公表に関するJリーグとしての明確な基準を作るべき

 今回の2つの事件では、公表すべきかいなか、する場合にどのタイミングが良いのかは、判断が分かれるところだったと思います。

 チームでの移動中や試合会場内などで発生しない限り、事件、事故のほとんどは個人の問題であることがほとんどです。今回の場合も、新潟の交通違反は、スタッフを含めたチームメンバーとの会食の後とは言っても、違反自体は個人的な問題です。仙台の暴行事件は、交際相手とのトラブルというさらに個人的な問題です。そもそもこうした犯罪行為は、個人に帰着します。実際に公表された場合には、当事者個人に不利益をもたらすことが多く、近年厳しくなっているプライバシーの観点から、判断が分かれるところです。

 しかし、筆者は、プロスポーツチーム、特に公共性や地域貢献をうたっているJリーグクラブの社会的な責任から見ると、速やかに事実を公表し謝罪すると共に、再発の防止を誓う必要があると思います。

 少なくとも、犯罪を犯した選手が、税金で立てられた公共施設で堂々とプレーし、子供達から声援を受けるようなことはあるべきではないと思います。また、そうしたことを許せば、再発を助長することにもなるはずです。

 この2つの事件を受けて20日に行われたJリーグの臨時実行委員会のあと、メディアブリーフィングを行なった村井満チェアマンは、次のように語ったそうです。

「プライベートな内容ではあるのですが、サッカー選手そのものは社会で公的な存在でもあることをかんがみれば大変残念であります」

「選手に自重を求めるべきだった」村井チェアマンが新潟と仙台2つの“コンプライアンス事案”に言及「大変残念」 | サッカーダイジェストWeb

 各クラブの代表が出席する理事会の直後にリーグのトップが口にしたことは、Jリーグの総意を捉えて良いと思います。プロサッカー選手の公共性、公人に近い存在であることを認めた以上、それの沿った公表の基準とプロセスをルール化し、毎年選手と交わす統一契約書にもその内容を反映させるべきでしょう。それによって、クラブ側も選手側も意識が変わるはずです。

契約解除で幕引きにする姿勢は正されるべき

 残念ながらこうした事件は、Jリーグに限らずプロスポーツ全体で多くの選手が所属する中で、一定の割合で発生することは避けられないでしょう。そうして中では、いかに発生を減らし、さらに再犯が起こらないようにすることも、クラブの責任であり、半ば社会的な義務です。

 交通違反のような犯罪は、意識の向上を徹底することで大幅に軽減ができるはずです。一方、暴力行為やDVは半ば性癖の場合もあり、組織としてゼロにすることは難しいと考えられます。だからこそどちらの場合も、重要視されるべきは、再発の防止です。今回両クラブ共に、事件の公表と相前後して選手との契約を解除したことは、再発の防止から見た時には最善の策だと言えないでしょう。

 クラブ単体で見た時には、契約の解除は問題のファクターを組織内から排除したことで、リスクは解消されます。また、新潟の交通違反のような場合には、スケープゴート的な意味も持つと考えられます。しかし、Jリーグとそのクラブの持つ、社会的な意義を考えれば、無責任で短絡的なアクションだったと言えるのではないでしょうか

 プロ野球も、今年2件の大きな事件が発生しています。

 7月10日、千葉ロッテマリーンズのジェイ・ジャクソン投手が、大麻所持で逮捕され、球団は前日に本人からの申し出により契約を解除しています。彼は前々日まで登板していながら、発表時には「元投手」にしてしまっているのです。

ジャクソン投手、大麻所持容疑で逮捕 9日にロッテ退団:朝日新聞デジタル

 球団が敏速な対応したことにはなりますが、実はその後ジャクソン投手は、「送致事実を認定するに足りる十分な証拠がないため」と不起訴処分になっています。つまり犯罪事実を立証することができなかったのです。本人の申し出による契約解除だったために、問題化しませんでしたが、もし本人が契約の続行を望んでいた場合には、ロッテは難しい立場に立たされていたかもしれません。

 以前にも書きましたが、MLBでは、禁止薬物使用や所持した選手をその事実だけを理由に契約解除することはできません。選手のリハビリが優先されるのです。

 もう1件紹介したいのは、8月20日西武ライオンズから公表された佐藤龍世選手と相内誠選手のスピード違反などの行為です。コロナ禍で外出がきびしく制限されていた4月12日に、千葉県のゴルフ場の向かい、その道程で佐藤が運転し相内が同乗する自家用車が、首都高速道路を89キロオーバーで走行し、その後警察の取り調べを受けたというものです。さらにその事実が球団に報告されたのは、公表の3日前の8月17日だったそうです。

西武佐藤と相内が出場禁止、89キロ速度超過や外出 - プロ野球 : 日刊スポーツ

 この事件で、西武ライオンズは二人に無期限の対外試合出場禁止、ユニホーム着用禁止の処分を科しています。また当分の間は車の運転も禁止する処分をしています。

 スピード違反と酒気帯び運転、控え選手とレギュラー選手と、西武と新潟を比較することは難しいですが、西武の事実を把握した時点で直ちに事実を公表し、チーム内での処罰に留めたことは、チームにとっても選手本人にとっても前向きな対応だったと言えるでしょう。

 特に、交通違反を軽視するかのように事実を知りながらも試合に出場させ続け、公表が避けられないとわかると公表と同時に契約を解除した新潟の姿勢と比較するとその違いは歴然としています。マネジメントやリスク管理の点から大きな差があります。社会からのクラブへの信頼、さらに選手からのクラブへの信頼に大きな影響が出るはずです。

 Jリーグは、今後、トラブル発生時に事実を公表する透明性と同時に、トカゲの尻尾切りのごとく契約解除で幕引きをする姿勢を改め、選手との関係を維持しつつ再発の防止を目指す取り組みを行うべきだと思います。

 

【10月26日追記】

 10月26日、ガンバ大阪は所属するアデミウソン選手が、前日25日に練習に向かう途中に酒気帯び運転で接触事故を起こしたことを公表しました。

 新潟、仙台の様子を見て「人のふり見て・・・」だったのか、それともクラブ内にそうした規約が存在しているのかは分かりませんが、発生の後の対応としては、早急な対応で好感が持てるのではないでしょうか。

 26日現在、クラブ施設に立ち入り禁止を含む謹慎中で、捜査終了後に処分を決定するそうです。

 しかし、午前10時からのトレーニングに向かう途中に事故を起こし、1時間半のトレーニング終了後の尿検査で基準値を超えるアルコールが検出するとは、どんだけ飲んでトレーニングしてるんだと思いませんか? 十分に周囲からも酒を飲んでいることはわかっただろうし、別の意味でクラブの体制が問われることになるかもしれません。

ニュースリリース | ガンバ大阪オフィシャルサイト