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メジャーチャンピン・渋野日向子の復活はあるのか?

“メジャーチャンピオン”は捨てていいと思った

「“メジャーチャンピオン”は捨てていいと思った」渋野日向子が海外転戦を終え、率直な心境を吐露【全米女子プロ選手権】 | THE DIGEST

 10月12日、8月から10月にアメリカツアーに出場した渋野日向子選手の言葉として報道されたこの言葉に筆者は驚きました。報道された通り、渋野日向子選手がアメリカツアー参戦6試合の終了後に、この言葉を語ったとすれば、渋野選手はそれまで自分がメジャーチャンピオンであるという思いを持って、トーナメントに出場し続けていたということになります。さらに「捨ててもいい」という言葉の裏には、それでもなお、自分がメジャーチャンピオンであるという自負があるように思います。

 それは、自分の置かれている状況を全く理解できていないということにならないでしょうか。彼女は、未だに昨年の全英女子オープン優勝の余韻に酔っているのでしょうか。だとすれば、彼女の復活への道はまだまだ遠いように思えます。

  6月に行われた日本女子ツアーの開幕戦、アースモンダミンカップ以降の渋野選手の今年の成績は下記の通りです。

 06/25〜06/28<国内ツアー>
 アース・モンダミンカップ 71位タイ +2(予選落ち)

 08/13〜08/16<アメリカツアー>
 ASIスコットランド女子オープン 132位+14(予選落ち)

 08/20〜08/23<アメリカツアー>
 AIG女子オープン(全英女子) 105位 +12(予選落ち)

 09/10〜09/13<アメリカツアー>
 ANAインスピレーション 51位 +2

 09/18〜09/20<アメリカツアー>
 ポートランドクラシック 24位 -6

 10/01〜10/04<アメリカツアー>
 ショップライトLPGA 27位 −6 (予選落ち)

 10/08〜10/11<アメリカツアー>
 全米女子プロ 58位タイ +11

 渋野選手の今シーズンの成績が、アメリカツアーのメジャートーナメントの勝者に相応しい成績でないことは誰の目に明らかです。こうした状態に陥った理由については、今年の全英オープン終了後に、下記の文章にまとめています。

大坂なおみと渋野日向子に見るアスリートとコーチの関係

 それから2ヶ月以上が経ちましたが、少なくともアメリカ遠征中の渋野選手は、スランプの状況から抜け出すことができておらず、もしかすると全英オープンよりも状況は悪くなっていたかもしれません。それぞれの試合の結果もそうですし、各ホールでの落とし方や突然の崩れる様子など、昨年の彼女にはなかったものです。連続ボギーの多さも昨年はなかったものです。

 アメリカツアーのコースの難しさと慣れを理由にあげるメディアもありますが、それだけとは思えません。まず彼女自身のゴルフを見失っているからではないでしょうか。

 その原因のひとつとして、現在の彼女の状況と昨年のイメージとの間に生まれているギャップが考えられます。

 昨年のイメージとして象徴的な部分が、自分がメジャーチャンピオンであるという自負のような意識なのかもしれません。去年の良かったイメージを持ち続けている限り、今シーズンとの違いを痛感せずにいられないでしょう。にも関わらず、今シーズンのこれまでの結果を経てもなお、それを引き続き持っていたとしたら、それは驚きですし、正直に言えば呆れるほどです。

メディアがアスリートの勘違いを作る

 渋野選手がそうした状況になっている責任のいったんはメディアにあります。渋野選手を追いかける記者たちが、取材中、常に彼女を持ち上げて優しく扱っている様子が手に取るようにわかります。

 機嫌を損ねてコメントを取れなくなるのを避けることがその理由の1つですし、少しでも自分の心象をよくして、今後の取材がしやすくしようという計算もあります。それは取材の現場だけでなく、私たちが読んでいる記事にも表れています。嘆かわしいことに、これはゴルフだけでなく、日本のスポーツ全てに共通しています。

 遠征の最後、58位に終わった全米女子プロ選手権で、パーにまとめた最終日だけを取り上げて、終わり良ければ全ての良しかのような記事はその典型でしょう。

渋野日向子、最終日に「悔いなく戦えた。良い終わり方」/全米女子 - ゴルフ - SANSPO.COM(サンスポ)

 ディフェンディングチャンピオンとして迎えた今年のAIG女子オープン(全英女子オープン)では、大会公式サイトや地元のイギリスメディアは、試合前日までは前年の勝者である渋野選手を、シンデレラスマイルの凱旋よろしく歓待する発信をしていました。しかし、実際にトーナメントが始まり、初日から渋野選手が下位に沈むと、公式サイトも地元メディアもShibunoの存在はなかったかのように、彼女の名前は一切出てこなかったのです。

 結果を出せなければ、1年前の栄光もすぐに過去のものになってしまう厳しい現実が、スポーツの本場にはあるようです。

コーチもメディアもファンもアスリートを孤独にしない

 アスリートには時として孤独になる必要があると筆者は考えています。特にそれが必要なのはスランプの時です。一人で自分自身と向き合うことでメンタル的に強くなり、精神的にも技術的にも成長を促すのです。そうした孤独で自分自身と向き合う時間があることで、より早く復活できるのです。

 他の多くの個人競技では競技中に孤独な時間が存在しますが、ゴルフは競技中でもキャディと一緒に行動するので、孤独になる時間がありません。しかも、帯同キャディとアスリートが個人的にも仲が良い場合は、その関係はさらに密になり、状況によってコーチと以上の関係になる場合もあるでしょう。ゴルファーとキャディが仲が良いのは一長一短です。

 日本では、コーチがアスリートを一人にしない場合も少なくありません。特にアスリートとコーチの年齢が近い場合、コーチはアスリートを孤独にするに勇気がいるようです。精神的にダメージがある時に一番身近な存在であるコーチが寄り添うことが多いのです。日本の個人スポーツのアスリートが、なかなかスランプから脱することができない理由の1つは、ここにあるだろうと考えています。

 本来、技術的なアドバイスはしても、メンタル的には成長を促すプログラムは計画的に別の機会にすべきでしょう。

 さらにアスリートが女性でコーチが年齢の近い男性の場合、特にこの孤独の時間を作らない傾向、作ることができないことが多いようです。立場がどうあれ、悲嘆にくれた女性を放置できる男性は日本には滅多にいません。

 日本も早く、男性アスリートには男性のコーチ、女性アスリートには女性のコーチという時代を迎えなければいけません。

 日本ではメディアもアスリートを孤独にはしません。成績が悪ければ見向きもされず、ロッカールームから出ても誰も待っていないという状況があれば良いのですが、渋野選手のように特定の人気アスリートは、成績の良し悪しに関係なく、常に出待ちされ、場合によっては会見が用意されます。そして、先ほども書いたように腫れ物でも触るかのように、やさしく話を聞かれ、「今日の成績なんて気にすることはないよ」と、励まされてクラブハウスをあとにするのです。 

 渋野選手自身も、実績でも成績でも自分より上位の畑岡奈紗選手をそっちのけで、元メジャーチャンピオンである自分を追いかけるメディアの姿を見て、自分が今もメジャーチャンピオンであると思って安心していることでしょう。

 そして、選手を孤独にしないという点では一般の方々も同じです。渋野選手が帰国直後にアップした海外遠征を総括したInstagramの投稿には、短時間で3万もの「いいね!」がついたそうです。彼女は、みんなに応援してもらってることを糧に次に挑戦に挑む気持ちはあるとは思いますが、たくさんの「いいね!」にある意味で満足してしまう可能性もあります。

「成績は悪かったけど、みんな私を応援してくれているから大丈夫!」という根拠のない自信です。

 
 
 
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お久しぶりです。 約2ヶ月間、6試合の米ツアー転戦が終了しました。 6試合の中でもメジャー以外の3試合は推薦をいただき、出場させていただきました。 思ったこと、感じたこと、体験したこと、たったの2ヶ月でしたが2ヶ月とは思えないほどたくさんの経験をさせていただきました。 その経験を言葉だったり文章にしたりしたいところですが、なかなか難しいものですね。 ゆっくりですが、私なりの言葉だったり表現で色々なものを通してまた伝えていけたらと思います☺︎ 悔しい思いも楽しい思いも嬉しい思いも苦しい思いも悲しい思いも、24時間あると色々な思いを体験できちゃうものですね。 心の中頭の中、忙しかったです😂 今回1番感じたことは、ゴルフは個人競技ではありますが、私は1人では本当に何もできない。ってことです。 ゴルフだけではなくて生活から全てにおいて、今回一緒に転戦してくれて一緒に戦ってくれた、さおりさん、青木さん、みみさん(マネージャーさん) 日本からツアー中だったり忙しい中、連絡をくださった先輩プロの皆様。 テレビ中継してくださったWOWOWの皆様、全英の中継をしてくださったテレビ朝日の皆様、そして真夜中のはずなのに次の日朝からお仕事の方がたくさんいるはずなのに中継を見てくださった皆様と家族🙂 本当にたくさんの方々に支えられてるんだとまた改めて、実感しました。 いつもいつもありがとうございます☺︎ 伝えたいことは沢山あるのですが、文章を作るのが苦手すぎてまとまりのない文章すぎますねごめんなさい。 あと日本では4試合! 私らしく、頑張っていきたいと思います☺︎ 皆様くれぐれも体調にはお気をつけて。 これからもよろしくお願いします🙂 自粛生活はアメリカ生活で習得した、目玉焼き🍳を作りまくりたいと思います🐣 #🇯🇵🇬🇧🇺🇸

渋野 日向子 Hinako Shibuno(@pinacoooon)がシェアした投稿 -

 常に前向きな姿勢を見せ、元気なコメントを発信し続ける渋野選手を無条件に応援したくなる気持ちは十分に理解できます。その前向きさは本当に彼女のリアルな気持ちなのでしょうか? ポジティブシンキング、明るく前向きな発言は、優れたアスリートの条件の1つではありますが、時に自分の無力に憂い、弱音を吐き、自問自答し続ける時間も成長の過程では必要です。

リアルの場に身を置いたからこそ知ったリアルな渋野日向子

 そうした中で明るい兆しもあります。渋野選手はアメリカツアーに本格的に参戦するために飛距離を伸ばそうと、昨年から筋力アップやフォーム改造に取り組み、それが現在のスランプに繋がっている想像されています。

 しかし、渋野選手自身が今回のアメリカツアーに参戦した中で、飛距離アップ以外にも大切なものに気づいたという発言をしていることです。それに気づいたからといって、簡単に昨年のようなプレーを取り戻すことができるわけではありませんし、フォーム改造などで失ったものが返ってくるわけではありませんが、軌道修正のきっかけになるはずです。

ダブルパーで最下位転落も… 3日間の収穫はたっぷり「飛距離以外のことで何打も縮められる」【渋野日向子一問一答】(No.159353) | ツアーニュース | ツアー情報 | ゴルフのポータルサイトALBA.Net|GOLF情報

 こんな記事も見つけました。この記事では、青木翔コーチの言葉を、記者が渋野選手自身の意思かのようにすり替えてしまっていますが、飛距離アップにこだわっているのは、渋野選手ではなく青木コーチの方なのでしょう。アスリート自身が実践の中で肌で感じたものを大切にしてほしいと思います。

渋野日向子は海外ツアーを経験してどう変わったのか? 青木翔コーチに聞いてみた(No.159476) | ツアーニュース | ツアー情報 | ゴルフのポータルサイトALBA.Net|GOLF情報

ライバルが居並ぶ日本ツアーに復帰するメジャーチャンピン

 この文章を書いている時点で、世界ランキング15位、日本人で2位の渋野選手は東京オリンピックの代表候補です。そのお陰で、新型コロナ感染防止のために帰国者にかかる制限が緩和され、10月30日から始まった三菱電機レディスゴルフトーナメントに出場することができます。

 全米女子プロ以降、彼女は修正はできたのでしょうか。昨年のような怖いもの知らずの自信に満ちたプレー、そして何よりあのスマイルを見ることができるのでしょうか。

 彼女がいなかった間の日本女子ツアーは、優勝した顔ぶれだけ見ても、渋野選手と同期のゴールデン世代の日本女子オープンで優勝した原英莉花選手や小祝さくら選手、ミレニアム世代の古江彩佳選手、その間ではざま世代と言われている稲見萌寧選手、さらにミレニアム世代の下の世代の笹生優花選手も優勝しました。女子プロ選手権を制した永峰咲希選手は渋野選手より上の世代にあたる選手です。さらにベテランでアメリカツアー、ヨーロッパツアーでもランキング1位の経験を持つ申ジエ選手も優勝しています。

 2013年にプロデビューして以来、すでにツアー16勝、昨年2度目の賞金女王になった鈴木愛選手が、この間、一度も最終組で回れないほどの勢いです。

 群雄割拠、百花繚乱。数多くの選手が帰国した渋野選手を迎え打ちます。その中で彼女が存在感を示すことができるか? そのポイントは”メジャーチャンピオン”を完全に捨て去ることはないでしょうか?