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Jリーグに続いた不祥事に対してリーグは何をするのか?

ガンバ大阪アデミウソンの行為の二つの問題点

 Jリーグガンバ大阪が、10月26日 に所属選手のアデミウソン選手の謹慎処分を発表してから1ヶ月が経ちました。

 アデミウソン選手は、その前日、午前10時から行われるトレーニングに向かう途中に、自分が運転中の車で他車に接触、その場をそのまま立ち去ってトレーニングに参加し、トレーニング後に警察から任意同行を求められ、署内でのアルコール検査の結果、基準値を上回るアルコールが検出されたというものです。

【G大阪】酒気帯び運転のアデミウソン 大阪・ミナミで飲酒、練習場向かう途中に接触事故(スポーツ報知) - Yahoo!

 Jリーグでは、アルビレックス新潟の選手の酒気帯び運転、ベガルタ仙台の選手の暴行事件に続く事件だっただけに、その衝撃は大きく、すぐに村井満チェアマンが遺憾のコメントを発表しています。

Jクラブの不祥事続発を受けて村井チェアマン「社会の迷惑であるならJリーグが存在する意味はない」(ゲキサカ)

 

 アデミウソン選手の事件では、二つの問題点が指摘されています。

 一つ目は言うまでもなく、酒気帯び運転と接触事故を起こしながら現場を立ち去った言わば当て逃げの道交法違反です。

 もう一つは、警察からの任意同行を受けてアルコール検査を受けたのが、トレーニングの後だったにも関わらず、高いアルコール濃度が検出されたこと。つまり彼は酒気帯びの状態でトレーニングに参加していたことになります。

 前者は、法律的な問題、社会人としての責任、Jリーグクラブの組織としての社会的な責任など、大きな問題を持っていますが、後者もまた、法律的な問題はないとしても、プロアスリートとして、スポーツチームとしての一員として大きな問題を持っています。

 さらに、こうした彼の行為を、周囲が全く気づかなかったはずはなく、本人だけでなく、それを許す組織として体質的な問題を持ってるということになります。

 現在のG大阪の監督の宮本恒靖氏やコーチの山口智氏は、現役時代比較的ストイックにサッカーに取り組んでいた印象でしたが、選手の様子をどのように見ていたのでしょう。

かつて酒臭いJリーガーは珍しくはなかった

 筆者はJリーグが始まった1993年から2010年頃まで、Jリーグクラブなどを取材していました。Jリーグが始まった当時は、少なくとも関東のチームでは、午前中の練習に酒の匂いをさせて参加している選手は、決して珍しくはありませんでした。9時か10時に始まる午前中の練習の場合、選手たちはほとんど時間ギリギリに来るので、練習前に選手たちと接触する時間はありませんでした。ですから多くの場合、彼らの酒の匂いを嗅ぐのは、今回のアデミウソン選手同様、練習後ということになります。

 ちなみに、最近の多くの記者は、まともに話を聞けるタイミングの少ない練習前から練習場に運ぶ記者は少ないようですが、当時は午前の練習であっても駐車場の車から降りてくる監督、選手を記者が出迎える姿は珍しくなく、むしろ常識に近かいものと感じていました。

 練習後、グラウンドですぐに話が聞けるか、シャワーを浴びて帰り際に聞けるかは、チームによって異なりますが、当時はほとんどのチームで、両方のタイミングで話を聞けたと記憶していて、選手次第のところがあったと思います。普段、練習直後に話を聞いている選手が、練習後駆け足でクラブハウスに向かい、シャワーを浴びたさっぱりとした様子で記者たちの前に現れる時は、シャワー前には記者と接触したくない理由があると考えられていました。

 時代はJリーグが花形スポーツとしてもてはやされ、頻繁に渋谷、六本木などでJリーガーとモデルの合コンが催されていた時代。一般的にもアルコールに対する意識が今よりももっともっとおおらかな時代でした。

 練習が午前中だと、早くから飲み始めて早めに切り上げられるので、翌日に酒が残らないと話をしていた選手もいましたが、そうしたコントロールができる選手ばかりではありません。

 こうした選手の多くは、日本リーグ時代からプレーしていた選手たちです。アマチュアの意識が抜けきれてなかったのかもしれません。その後、時代の流れとともに、Jリーグが始まってから入団した選手が増えて、特に中学、高校時代をJリーグを見て育った選手が入団する頃から、急激に様子が変わり始めます。酒もタバコもやらないという選手が増えたのです。

 それでも、ベテランの選手を中心に、酒やタバコの匂いを常にさせている選手たちがいたことも事実です。

 しかし、一般的にもスポーツ界においても、アルコールについての評価が厳格化されている現在でも、アデミウソン選手のような行為がまかり通っていたことは筆者は驚きです。果たして、G大阪が稀な存在なのか、それともそれがJリーグ全体、もしくは日本のスポーツ界全体でスタンダードなのか、それは筆者にはわかりません。

ブラジル人であること原因にしてはいけない

 アルビレックス新潟のファビオ選手の酒気帯び運転に続き、今回のアデミウソン選手もブラジル出身選手でしたが、ブラジル人であることを原因にしていては再発防止には繋がりません。

 国や出身が違えば、色々な価値観も違うはずで、ブラジルでは飲酒がこれほどの大きな問題にはならないかもしれません。だからこそ、「郷にいれば郷に従え」で、日本のルール、慣習、価値観を徹底的に伝え、それを守ることを契約の条件に盛り込んでもいいのかもしれません。

 ブラジル人を知る人は、ブラジル人が時間にルーズなのはご存知でしょう。筆者は仕事の関係で一時期ブラジル人のアスリートとその関係者に頻繁に会うことありました。最初は特にその時間のルーズさに面を食らったものでしたが、ブラジル人たちも徐々に日本の習慣に慣れて、約束の時間に集まるようになりました。

 しかし、中に一人、どうしても時間を守れない日系人がいて、1時間の遅刻にも悪ぶるそぶりも見せない彼に、約束のたびに嫌な思いをしたのですが、ある時に、彼のブラジル仲間から、実は彼は正真正銘の日本人で、10代でブラジルにサッカー留学をして、食えなくて日本に帰国していたことを知らされました。彼の使う、カタカナの名前と少し訛りのあるしゃべりにすっかりと騙されてたのです。

 ここで筆者が言いたいのは、約束事を守れる、守れないかは、国籍や生まれは関係なく、一人一人の自覚によるということです。

アスリートのタバコやアルコールをどのように捉えるか

 タバコについて言えば、法律的な対応も含めて徐々に灰皿を撤去されている中、プロ野球では、今もベンチ裏に喫煙スペースがあって、そこに多くの選手がたむろしているようです。Jリーグでは試合会場のロッカールーム近くの灰皿を撤去したら、コンコースにある喫煙所でサポーターに混じって試合前の選手がタバコを吸っていたなどという話をあります。

 アルコールやタバコの問題は、個人の習慣化がベースにあることは間違いありませんが、スポーツ団体、特にチームスポーツでは、個人の問題としてだけで片付けるべきではないと思います。組織として、その個人の行為をどのように評価するかが重要なのではないでしょうか。

 アスリートの場合、タバコの身体的な影響はもとより、アルコールも筋肉強化や体重のコントロールに悪影響があることが科学的に立証されています。こうしたアスリートとしてマイナス効果のある行動を積極的にするアスリートを、どのように評価すべきか、それぞれのチームだけでなく、リーグや競技全体として、検証、検討すべき時期に来ているのかもしれません。

選手を育て方がチーム文化の醸成に繋がる

 また、アルコールやタバコの扱いは、チームや組織としての文化、風土的な要素も大きいと、筆者は考えます。

 その文化を育むのは、選手個々の子供の頃からの育ちのようなものです。スポーツの関係では、両親の影響もさることながら、部活やクラブチームのコーチの影響が大きいのではないでしょうか?

 例えば、もし、小学校や中学校、高校のコーチが、集合時間に集まった時に酒臭かったら、子供達はどう思うでしょう。コーチとしての信頼を失うだけでなく、子供達は大人はそれで良いんだという意識が植えつけられるのではないでしょうか。

 筆者は、部活の記憶ではありませんが、高校の時の修学旅行で、担任の先生が朝の集合時間にひどく酒臭くて嫌だったという記憶があります。もう40年も前の記憶ですが、そう言った記憶はいつまでも残るのではないでしょうか。

 逆に、監督やコーチが、合宿などで、夜、子供達に酒を飲んでいる姿を見せても、翌朝、爽やかな顔でしっかりとした姿を見せれば、信頼を得るとともに、お酒の飲み方の見本を示すことができるはずです。

 そうしたことの積み重ねが、大人になってからのその選手の行動のベースを作り上げるのではないでしょうか。

 さらにそうした人=アスリートの集まりがチームや競技団体に文化や風土を根付かせるのだと思います。

 喫煙に否定的な指導者の元で育ったアスリートは、当然、本人も喫煙に否定的なはずです。しかし、残念ながら、少し前までの中学、高校の指導の現場には喫煙者が意外に多かったのが事実です。ただ言葉だけでなく行動でも示す必要があるはずです。

選手たちが過度な飲酒を控える環境づくり

 もう一つ大切なことは、アスリートとしての体づくりにプラスではない、アルコールを控えさせる環境づくりです。

 筆者も毎晩のように食事の時に、アルコールを楽しんでいるので、例えアスリートだとしても、決して絶対にアルコールを摂るべきではないとは言いません。量と節度の問題です。

 現在の新型コロナウイルスの感染拡大下では、プロ野球チームのクラスターの原因として、合コンを含む大人数の会食が原因になったことが報道されています。そうした報道を読んでいくと、彼らはどうしてそんなにも大人数で飲むのが好きなのだろうかと、不思議でなりません。選手だけでなく球団フロントもそうした行動を当たり前だと考えて、会食を禁止することが選手のストレスに繋がると考えているのが分かります。そのあたりは、チームスポーツをするアスリートに共通するメンタリティなのかもしれません。

 外での大人数で、しかも外部の人との会食の機会が多くなれば、おのずと深酒の機会も多くなるでしょう。普段顔を合わせている選手同士が2、3人で飲みに行って、翌日に残るまで深酒をするとは考えにくいです。

 現在は新型コロナの感染拡大防止を理由に、大規模な会食を禁止しているチームが多いようですが、新型コロナに関係なく、アルコールの抑制にために一定の制限を設けて、それを選手、関係者に守らせる方法を考えても良いのではないでしょうか。

 また、人気選手にはタニマチのような存在がいて、チームの地元でも、また遠征先でも、選手を呼び出して、飲み歩く人たちが今もいるようです。そういう人たちにとっては、自分が有名選手と一緒にいることを周囲に見せることも目的のひとつですから、何軒も連れ歩いて、自然に酒の量も増え、時間も長くなります。

 選手の自覚次第の部分はありますが、ただ酒を思い切り飲めるので、中には積極的にこうした機会を利用する選手もいるようです。

 こういうタニマチの存在には、今以上に積極的にチームが関わって、防止策を取る必要があるでしょう。

時代に先駆けてアスリートやスポーツの価値を高める評価基準を創造する

 Jリーグに限らず、プロアスリート、プロスポーツチームへの視線は今後も徐々に厳しくなっていくはずです。かつてあった酒豪や豪傑さを誇る武勇伝は通用せず、一般社会人と同様にモラルを求められた上に、社会の規範となる姿勢をも求められています。特に、Jリーグプロ野球Bリーグなどのプロチームスポーツは、その活動が社会的に大きな負荷を掛ける分だけ、その存在や活動により大きな社会的な意義を求められていることになるでしょう。

 また、アスリートのトレーニングに科学的な分析と評価が導入されていく中では、タバコやアルコールといった嗜好品についても、アスリートとしての目標、目的にとって有意義なものか否か、明確な指針が示されるべき時が近づいているのかもしれません。

 その指針に沿った行動を、アスリート個人もチームも求められるのです。そうした指針に沿った行動規範は、ドーピングや禁止薬物などの対応でも役に立つはずです。

 Jリーグとクラブは、一連の不祥事を積極的な自己改革の機会と捉え、場当たり的な対応に終わらせずに、自らの社会的な価値を高めるために、積極的な対応をすべきでしょう。またプロ野球Bリーグをはじめとする他の競技の団体やアスリートも、対岸の火事と考えず、自らの姿勢を見直す機会とできると良いのではないでしょうか。

 

 事件発生から1ヶ月、チェアマンがリーグの存在価値を問う発言をしたJリーグからも、当事者であるクラブからも客観的、具体的な再発防止策は表明されていません。再発防止に手をこまねいていることは、すなわち再発を助長することだと言えるのではないでしょうか。

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