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ラグビー・トップリーグの新型コロナ対応を考える

トップリーグ新型コロナウイルス感染は多いのか少ないのか

 ラグビートップリーグは1月14日、19日に予定されていたトップリーグの開幕延期を発表しました。理由は8チーム合わせて62人の選手・スタッフ(その後68名に修正)の新型コロナウイルスの感染が確認されたためで、当初は2試合のみを延期と発表されていましたが、確認された感染者数が増えて、開幕の延期を余儀なくされたようです。

 トップリーグから公表されているチームごとの感染者数は次の通りです。

ニュース|ジャパンラグビートップリーグ公式サイト

 21日には、2月7日にまでに開催予定だった4節までの試合の延期が発表され、22日には2月20日に改めてシーズンを開幕することが発表されました。

 筆者は率直に言ってこの数はあまりにも多いという印象です。多くの方が同じように思われたのではないでしょうか。

どうしてクラスターが起こったのか?その経路が明らかされないのは、トップリーグリスク管理

 昨年3月の国内の感染拡大から、プロ野球JリーグBリーグなどの多くのスポーツ組織、チームで、たびたび集団感染=クラスターが発表されてきましたが、一度に発表された数としては最大級ではないでしょうか。これまでは、そのたびに、スポーツ組織やチームは、感染経路を調べて、その結果を公表してきました。時には、会食などが明らかになりチームや選手が批判の矢面に立つこともありました。そして、その度に再発防止や感染対策の徹底を誓っています。

 今回のトップリーグの場合、リーグから2週間に1回の実施が義務付けられている一斉検査で判明した場合、一部の選手が体調を崩し検査の結果、感染が確認されて、その後チーム内一斉検査を行われて他の選手、スタッフの感染が確認された場合と、確認の状況はチームごとにそれぞれであることが明らかにされています。一方、感染ルートについては一切公表されていません。チームごとにバラバラなのか、それとも例えば感染者が出たチーム間で接触の機会があって、感染が広がった可能性など、その経緯は一切明らかにされていないのです。

 トップリーグと各チームは、感染は避けられないもの、感染自体を当然のものとしてるのでしょうか。原因究明無くして、再発防止はあり得ないはずです。感染経路が分かっていながら、それを公表しようとしないのか? それとも感染経路を究明をする気がないのか?

 これだけ感染が拡大していれば、多くの人がいる一般の企業でもクラスターが発生していることは当然のことですが、都営地下鉄のような公共性の高い企業の場合を除き、企業の名前が公表されることはありません。今回24人もの感染者を出したキャノンでも、ラグビー部のホームページには掲載はありますが、キャノン自体としては企業としてこの件に関するリリースは一切ないようです。24名もの感染者がいれば、感染はラグビー部内に止まらない可能性も少くなくないと思うのですが、まるで何もなかったかのようです。

 大学などの名前も以前に比べて公表されることが無くなりました。大学関係者に話によると、クラスターが疑われる集団感染が発生して公表しなくてはならいない場合にも、少人数ごとにタイミングをずらして発表して、大規模クラスターの発生には見えないようにしているそうです。企業であればそれ同様、それ以上のイメージ対策が行われているのでしょう。

 今回の公表で共通しているもう一つの点が、これだけ集中的に多くの感染者が確認されていながら、少なくともホームページやリリースを読む限り、リーグ、チーム共に「集団感染」「クラスター」という言葉を一切使っていないことです。10名以上の感染者が確認されているキャノンやトヨタでもそうです。こうした言葉を使わないことが、リーグによるリスク管理の一旦だと思われます。

 これだけ市中感染が拡大している中で、クラスターの特定にどれだけの意味があるかはわかりませんが、しかし、これによって事実が矮小化されていると考えるのは筆者だけではないと思います。

ラグビーならでは感染リスクとガイドラインの厳格化の現実性

 日本ラグビー協会岩渕健輔専務理事とトップリーグ太田治チェアマンが、1月23日にオンラインの記者会見を開き、その中で、今後の対応については、12月31日にリーグが発表した「新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」に沿った行動の厳格化に言及したようです。

トップリーグ開催へ向けコロナ感染予防のガイドライン厳格化へ ラグビー以外の日常生活が要点 | ラグビーリパブリック

 5月に第1版が作成され、12月31日付で第2版が発表されたこのガイドラインは、先行するプロ野球Jリーグガイドラインを参考に作られているだろうと想像されます。

 一部には、ラグビーがコンタクトスポーツであることの特殊性からの、一般人や他のスポーツに比べて感染が拡大しやすさが指摘され、今回のクラスターの原因に上がられていますが、太田治チェアマンは保健所の指導の内容をもとに否定しています。本当にそうでしょうか。

 例えば、フォワードのスクラムの練習では、8対8のメンバーが長時間密着して、トレーニングを繰り返します。その長さは、試合の比ではありません。メンバーをかえて、時にはバックスも参加して、たとえ屋外とは言え、極めて密着した空間が長時間作られます。タイミングを図るため、気合いを入れ力を維持をするため、声を出さないことも事実上、難しいでしょう。

 ラグビーでは、マウスピースをする選手も多くいます。マウスピースを使ったことがある人ならわかりますが、マウスピースをすると口の中に唾液がたまりますから、それを吐き出します。ラグビーの選手は日常的にグランドに吐いているのではないでしょうか。

 マウスピースをしたままでは、大声を出すことが難しいので、声を出す時には、涎まみれのマウスピースを素手でとります。トレーニング中、その度にその手を石鹸で洗ったり除菌することが可能でしょうか?

 筆者が思いつくままでに、トレーニング中のこうしたシチュエーションをピックアップするだけで、こんなにも、野球やサッカーに比べても感染に繋がる可能性があるシーンがあります。

 インタビューで、ラグビーの感染しやすさを否定した太田治チェアマン自身もそのリスクの高さを承知しているはずです。

 一旦、中に入れてしまったら集団感染は避けられないということも分かっているはずです。だから、こそ徹底的な窓際対策、チームの活動の中に菌を入れない対策が必要なはずです。

 しかし、ガイドラインを読むとトレーニングそのものについてはコンタクトスポーツであるラグビーの特異性に配慮した記載がありますが、選手や関係者の生活面では、厚生省や総務省が公表した資料をもとに、ごく一般的な行動規制しか書かれていません。筆者には、一般人と同じレベルの対策では、今後も今回と同じ状況が発生してもおかくしくないと思えます。

 日本ラグビー界は、一昨年の秋から昨年の春にかけて、大学生一人を含めて4人の禁止薬物に関しての逮捕者を出しています。他のスポーツにはない多さです。トップリーグでは、直後には全員の薬物検査やリーグ戦の中止などの一時的な対応をしていますが、具体的な再発防止策は打ち出せないまま通常に活動に戻っています。今回の対応もその時に似ています。

新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン|トップリーグ

高校生や大学生ができることができない社会人リーグをトップと呼ぶな

 年末から年始にかけて開催された全国高校ラグビーフットボール大会では、全国から集まる54校が1校の辞退もなく予定通りに開催することに成功しています。全国大学ラグビー選手権では、残念ながら同志社大学が辞退しましたが、残り13大学は本番舞台で全ての試合を消化することできました。これは、高校、大学ラグビーの関係者、何より選手本人やスタッフ、父兄の努力の成果だったのでしょう。

 残念ながら本来、彼らのお手本になるべきトップリーグに所属するプロ選手、社会人選手やスタッフ、そしてそれを運営する企業やリーグには、高校生や大学生のような強い思いはないのかもしれません。社会人の方が人の繋がりもあり、完全に止めることは難しいという声もあるとは思いますが、それもルール作りとそれを守る強い意思次第だと筆者は考えます。 

 例えば、新型コロナの患者を扱う医療従事者の中には、家族を感染させないために、ホテル暮らしなど家族と接触をしない生活を送っている人が少ないと聞きます。徹底的な対策とはそういうことです。

 スポーツ界では、コロナ禍で安全に大会を開催するために、すでに「バブル」方式という開催方法が行われてきています。簡単に言えば、選手、スタッフ、関係者を完全隔離し、外部と一切接触させずに開催する方法です。バブル=あわの中に包んで、外部を隔絶することでこの名前が付けられたようです。

 日本では、昨年11月にコロナ禍でのオリンピック開催のテストとして代々木体育館で行われた、体操の国際大会がこれにあたります。アメリカ、中国、ロシアの代表を招いて日本代表も含めた国際大会は、わずか1日の開催でしたが、来日時から完全隔離で開催し成果を得ることができています。

 2月8日から開催されるテニスの全豪オープンも、同様の開催方式で行われるようです。出場する選手やコーチ、関係者は、2週間の開催期間の2週間以上前からチャーター機でオーストラリアに入って、隔離された環境でトレーニングをなど準備を行うはずでした。しかし、錦織圭選手ら一部の選手はチャーター機の同乗者に感染が確認され、ホテルでの隔離生活を送っています。

 新型コロナウイルスへの対応でバブル開催で最初に成功を収めたのは、アメリプロバスケットボールNBAでしょう。感染拡大のために2019-2020のリーグ戦を3月で中断したNBAは、それまでの成績下位の一部のチームを除いた22チームをフロリダに集結させて、完全隔離でリーグ戦とその後のプレーオフを開催しました。

 それまで、各チームで多くの感染者が確認され、しかも会場となったフロリダ州は、急激に感染拡大が確認されていたために、その成功が危惧されましたが、7月末に始まったリーグ戦から、プレーオフに進んだチームは最長10月中旬まで、隔離環境の中でプレーを試合を続け、その結果、感染者を出さずシーズンを終了することができました。

 日本人以上に家族を大切にする彼らが、2ヶ月以上も家族に会わずに過ごしたことは驚きです。自らが愛するスポーツに本気で向き合うことに凄さを、アメリカ国民やバスケットボールファンは感じたのではないでしょうか。

 トップリーグが、新たに2月20日に決められた開幕戦を無事に全チームを迎えることができるかどうかは、選手、スタッフをはじめとしたトップリーグ関係者の「絶対に感染者を出さない」「全員揃って開幕を迎える」という強い意志と、犠牲を厭わない厳格な行動にかかっていると思います。

 本当に、全チーム、全選手、スタッフが揃って開幕を迎えたいと思うのであれば、彼らの家族や関係者も含めて、より一層厳しい行動規制を行ってシーズンに向かうべきでしょう。

 リーグのプロ化を図るトップリーグは、現状の体制では今シーズンが最後になります。プロを目指す組織として、また選手として、本気の姿を見せてほしいものです。