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組織委員会 森会長の辞任が意味すること【2月16日加筆】

政府関係者、組織委員会の多くが森氏が追い込まれるとは思っていなかった

 東京で2度目となる夏季オリンピックの開催が、新型コロナウイルスの感染拡大によって1年延期され、その後も日本だけでなく世界での感染拡大に歯止めはかからず、今年7月に予定される開幕はさらなる延期や中止が危惧されています。感染抑制の決定的な解決方法として期待されてきたウイルスも、世界規模で効果を得るにはまだ時間がかかる様子です。国際保健期間(WHO)によると、1月末時点でワクチン摂取が始まっていない国は日本をはじめ世界約130カ国にのぼり、7月23日のオリンピック開幕というスケジュールを鑑みると、世界規模のイベントを開催するには、いよいよ厳しい状況に追い込まれているようです。

 それでも、国際オリンピック委員会IOC)、東京大会組織委員会、日本政府は今年7月の開催を死守する発言を繰り返していますが、東京の感染状況やその先行き、さらに日本国民の安全を無視するような姿勢に、世論は反発し、開催に否定的な意見が多数を締め、中には中止と再延期を合わせて90%を超える調査結果もあります。

 東京オリンピックパラリンピック開催組織委員会森喜朗会長の女性蔑視と言われる発言は、こうした中、2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議会の席で発せられました。

「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」

 この発言は、瞬に日本国内はおろか世界に発信されて、彼は世界中からの批判の対象となったのです。謝罪を余儀なくされた森会長の翌日の記者会見は、文字通り火に油を注ぐ結果となりました。

 会見では十分な説明もなく、また言葉にも態度にも真摯に謝罪の姿勢はなく、記者の質問に逆ギレした様子も発信されたのです。

 それでも、日本では多くの場合、謝罪、撤回という事実をもって問題が幕引きとなってきました。特に安倍政権以降、政治家、官僚の責任を取らないうやむやな幕引きが慣例化してきました。おそらく、森会長本人も組織委員会JOCの関係者や自民党の政治家の多くはそう思っていたでしょう。これでこの件はお終いだと。しかも、失言をしたのは元総理大臣で、今でも政界に強い影響力を持つと言われる森氏なのです。

一般人の意識とかけ離れた世の中の流れの中にオリンピックもある 

 私たちを取り囲む世界は、いつのまにか一般人の心や人々が醸し出す空気とは関係なく動く世界になっています。その象徴的な存在が株価です。

 かつて株価は企業の業績や企業の製品や成長への評価や期待値によって上下しました。それは、企業への人々の評価の一端であり、それが企業と社会との繋がりの証のようなものだったはずです。

 株価はまた、人々のマインドにも大きく影響されました。消費が低迷する時期には株価も低迷し、海外では、大規模なセールが行われるクリスマス商戦の時期に株価が持ち直すという時代もありました。

 新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、期待されたワクチンがリリースされても、その勢いは衰えることを知りません。世界の消費は、多くの国々で、抑制されているはずです。巣篭もり需要に対応した製品やサービスを送り出せた企業と製薬会社の突出した業績を、市場全体に立ち込めた光明を見出せない重い空気が押し込めてしまうというのが、従来の株価なはずだったはずです。少なくとも2008年のリーマンショックまでの株価はそういうものだったと記憶しています。

 しかし、いまはどうでしょう。日本の2020年のGDPリーマンショックの影響を受けた2009年以來11年ぶりの4.8%マイナスだったことが、2月15日に発表されました。一方、この間も高騰を続けた日本の株価は、同じ日にバブル期以来40年ぶりに3万円台をつけたのです。アメリカの株価もトランプ政権の新型コロナ対策の失策を打ち消してしまうほどの勢いで高騰を続けています。世界的な金融緩和の流れが背景にあるとは言え、新型コロナウイルスの蔓延で、生活に様々な制限がされている一般の国民の生活の実態やマインドとは全く関係ないところで、その全てが動いているように思えます。

 国内史上過去最高の3兆円を超える純利益が見込まれることを発表したソフトバンクグループの利益の大半は、世界的に行なっている企業への投資のよるものだそうです。トヨタも新車販売の好調さから収益見込みを大幅な上方修正を行いました。

 多くの人々がコロナ以前以上に苦しい生活を余儀なくされている中では、この好景気を実感できる人は一部に過ぎないはずです。飲食業界をはじめとする多くの企業が苦境に仰ぎ、倒産、失業者が増えているにも関わらず、続く株価の高騰によって利益を得るのは、大企業と一部の富陽層、機関投資家だけ。それによって格差は広がり、一部で好景気に湧くことによって、一般国民のマインドは益々冷え込む結果になっているのです。

 日本の政治と官僚の世界もまた多くの国民の意識と乖離しています。安倍政権時代から後手が続く厚生省主導の新型コロナ対策や、空気を読まない政治家の言動が当たり前のようになり、お友達優先の政治や慣例、常識を無視した閣僚の言動、そして一切責任を取ろうとして来なかった政治家の多くは、国民からの声に馬耳東風の体を繰り返してきました。

 その延長線上に、今回の森氏の発言とその後の対応があり、総理現職時代から数々の失言を繰り返しながらも今も政界に影響力を持ち、その影響力を持ってオリンピックという国際的なイベントのトップに就任した森氏の存在そのものが、国民の意思と乖離した東京オリンピックというイベントの象徴だったのかもしれません。

 各種の調査では多くの国民が中止や延期を望む声が大多数を締める中で、森前会長は「コロナの感染状況に関わらずオリンピックは開催する」と言明しています。日本政府、東京都も異口同音、何がなんでも開催する方針を変えようとはしません。

 こうした言動は、国内に止まらず、IOCもまた東京オリンピックの予定通りの開催を繰り返してきていて、無観客の可能性を示唆したのはごく最近のことです。

東京オリンピックの招致には国民の意思が反映されていた

 東京オリンピック招致の時を思い出してみましょう。東京の2020年大会の招致レースでポイントの一つとなったのが、IOCの意識調査による国民のオリンピックの自国開催を望むレベルです。リオデジャネイロが選ばれた2016年大会の招致レースで東京が破れた大きな要因の一つがこれだと言われ、2020年大会の招致レースでも当初は関係者の頭を悩ませていました。

 しかし、2012年ロンドン大会の日本人選手の大活躍で、世論は急速に東京開催賛成に傾き、翌年の開催決定に繋がります。

 この頃のIOCは、ホストシティやその国の世論を意識し、オリンピックが市民、国民から応援されて開催されることを重要視していたことがわかります。しかし、それも過去の話です。東京大会の後にすでに開催が決まっている2024年パリ大会、2028年ロスアンジェルス大会の開催都市決定の経緯を見ると、開催都市の市民やその国の国民の意見や動向など伺う様子はありませんでした。

 現在、IOCが優先するのは、オリンピックというイベントの経営的な成功でありIOCという組織の経営的な安定です。大切なのはIOCの経営拡大であり、トーマス・バッハ会長の営利主義の経営方針が色濃く出ています。

 2013年9月のIOC総会で東京開催を発表したのは、現在のバッハ会長でしたが、その選考システムはこの総会が始まるまで会長だったジャック・ロゲ時代に作られたものでした。そして、バッハ会長の時代に入ったIOCアジェンダ2020などを発表し、拡大路線を突き進んでいます。東京、パリ、ロスアンゼルスのような商業的な安定が見込める、経済的に豊かな国の大都市を開催都市に選ぶのも、この方針に沿ったもので、来年の冬季北京大会も同様の判断によるものだったのでしょう。

世の中に見え隠れする変化の兆し

 そうした一般国民、市民と関係なく進む世の中の流れに、少しだけ変化が出てきたかもしれません。

 菅内閣の支持率が40%台に低下してもどこ吹く風だった自民党ですが、地方選挙で惨敗が続き変化を見せてきました。緊急事態宣言下に夜遅くまで銀座のクラブで会食をしていた3議員を離党させたことも、選挙買収の疑いで一審で有罪判決を受けた河案里前議員が、控訴を断念し有罪を受け入れて失職したのもその流れの一環だと考えれます。安倍政権時代と比較すれば大きな変化です。

 そして、もう一つの変化は言うまでもなく、東京オリンピックです。森前会長の女性蔑視発言は、思いもしていなかった風を起こしました。

 森前会長自身は、3日の失言の後、周囲に辞意の意思を漏らしていたそうですが、組織委員会内部やJOCからの慰留されたため、4日の謝罪会見となりました。

 おそらく、森氏自身だけでなく、組織委員会JOC、そして多くの自民党関係者もこの会見で、幕引きになると考えていたことでしょう。しかし、そうはなりませんでした。

 大きな原因の一つは、会見の内容そのもののです。やはり失言が失言だと理解をしていない本人の会見では、国民を納得させることはできなかったようです。記者の質問に対する逆ギレも大きな要因となったでしょう。

 国際的な人権団体や女性活動家などが遺憾の意を表明したり、海外のメディアがこの発言を大きく取り上げてネガティブに評価するなど、海外からの支援も大きかったでしょう。

 中でも、各国の在日大使館が、SNS等を通じて遺憾の意を表明したのは異例中の異例と言えるでしょう。それだけ、国際的に見れば常識から逸した発言だったと言うことです。

 国内のメディアでも次々と批判的な報道が展開されました。著名なキャスター、タレント、さらにアスリートたちもNOを突きつけました。おそらく、記者会見で森氏を追い詰めた記者に対する風当たりが、業界内で思った程に強くなかっただろうことは想像に容易く、それによって多くの立場ある人たちが発言をし易くなったのでしょう。

 そして、国内の著名人の発言の中には、ただ女性蔑視発言を糾弾するだけでなく、影響力を持つ人物の間違った言動が、謝罪や撤回だけで無かったことになってしまう、現在の日本の風潮を変えなければいけないという、強いメッセージを持つものがいくつもありました。これこそが、変化の兆しなのです。彼らが、メッセージを発信し続ければ、残念ながら国内では下火になったme too運動とは違った、成果が待っているかもしれません。

森氏が最終的に辞任に追い込まれたポイントは二つ

 ボランティアの辞退も相次ぎました。組織委員会と東京都を合わせて1000人に迫る数です。8万人のボランティアの中で、1000人が多いか少ないか、体勢に影響を与える数字であるかは難しいところですが、一般市民の一人一人の意思表明の積み上げであることを軽視してはいけません。

 聖火ランナーでも、報道されている有名人だけでなく一般のランナーから辞退者が出ているようです。組織委員会が今後も方向性を間違えれば、さらにこの輪が大きく広がる可能性があります。

 しかし、森氏が辞任した理由は、こうしたメディアからの批判や一般市民からの抗議のアクションの影響ではありません。

 一つは、IOCが、一部の報道で報道官のコメントとして伝えられていた「森会長は発言について謝罪した。これでIOCはこの問題は終了と考えている」という当初の姿勢を翻し、「森会長の最近の発言は完全に不適切であり、IOCのコミットメントと五輪アジェンダ2020の改革に矛盾している」と森氏の発言をIOCの理念を損なうものとして糾弾したことでしょう。おそらく、覇権志向の強いIOCバッハ会長と森氏は、お互いにシンパシーを感じていたはずですが、それが森氏を見離すようなリリースを発したことは、森氏にとって大きな痛手となったはずです。

 森氏にとってのIOCの裏切りは、具体的にリリースを発表したトヨタをはじめ、オリンピックのスポンサーが遺憾の意思をIOCに示したことが原因だろうと想像されます。

 もう一つのポイントは、2月17日に予定されていた、バッハ会長、日本政府橋本聖子五輪担当大臣、組織委員会森会長、そして東京都小池都知事の4者協議に、小池都知事が欠席を表明したことでしょう。

 小池都知事は、森氏の女性蔑視発言に、それほど強いトーンでは非難してきませんでしたが、森氏にとって最も致命的となるタイミングで、森氏外しを行ったことになります。

 この二つのアクションによって、森氏の組織委員会会長としての立ち位置が失われたことは間違いありません。しかし、それを可能にしたのは、政治的な局面における菅内閣自民党政権の弱体化に他ならないでしょう。今の自民党政権では森氏を守りきれなかったことに尽きるでしょう。

川淵新会長を目論んだのは誰だったのか?

 2月12日、前森会長は会長の職を辞することを表明しました。

 メディアでは、この前日から、元Jリーグチェアマンで、組織委員会の評議委員、選手村の村長を予定されている川淵三郎氏を後任として名前をあげていました。森氏自ら川淵氏に後任を依頼し、川淵氏もこれを受託したというのです。

 川淵氏の経歴を考えれば、選択肢として大きな存在であることは間違いないと思われますが、川淵氏が森氏より一つ年上の84歳であることや、大学の同窓であること等を考えれば、多くの人が川淵氏に森氏と同じ匂いを感じたとしても不思議はありません。

 本来、オリンピックの開催の担う公的組織である組織委員会のトップの人事が、森氏個人の思いや判断で決められて良いはずはありません。そもそも、自己の失言によって辞職することなった人物が、自ら後継を決めることなどあってはならないことです。

 それだけ、辞める森氏も後任を受け入れた川淵氏も事の重大さを理解していなかったと言うことになります。

 その意味でわずか1日で、川淵氏案が白紙に戻されたことは当然のことで、どこかで、正常な価値観が機能したと言うことになるのかもしれません。

 当初、森氏が川淵氏を自ら後任に指名し、川淵氏がこれを了承した報道に、メディアの多くに否定的なコメントはありませんでした。果たして、森氏が川淵氏を自宅に招き、後任を依頼することをメディアにリークし、また川淵氏に自宅前で記者会見をさせたのは誰だったのでしょう? その人物はおそらく、メディアの発信を通じて、川淵新会長の既成事実化を図ろうとしたと可能性が高いはずです。

トップが交代できない組織の問題

 ここまで、開幕まで6ヶ月を切った段階でのトップの交代を危惧する声が多かったと聞きます。一旦は辞意を決めた森氏を、組織委員会の事実上のナンバー2の組織委員会事務総長の武藤敏郎氏やJOC会長の山下泰弘氏が慰留したことが伝わってきています。森氏が辞めると大会の準備が立ちいかなくなるというのがその理由だそうですが、もしそれが事実ならそれもまた大きな問題です。

 トップ一人が交代しただけで準備が滞るとすれば、それは組織委員会が組織として機能していないことを意味しています。トップが交代しようが、人事に多少に入れ替えが行われようが、目的、目標が達成されることが組織の役割であり機能です。それは民間では当然のことです。東京都、電通、そして主にパートナー企業からの出向によって成り立っている組織委員会ですが、基本的な構造に問題があることになります。

 そもそも、森氏をトップに選んだ時点で現在の形は決まっていたのかもしれません。明治維新以降日本の政治に脈々と息づく悪習である、領袖政治のシステムが元総理大臣の森氏によってこの組織に持ち込まれ、彼がトップでなければ成り立たない組織を作り上げてきたのでしょう。こうした点は、オリンピック本番までの時間に関係なく、早急に修正されるべきです。

 もう一つの問題は、辞意を考えた森氏を組織委員会事務総長の武藤敏郎氏やJOC会長の山下泰弘氏が慰留したことです。慰留の理由はどうあれ、基本的に森氏と同じ価値観を持っていると考えて良いと思います。問題を軽視した点も含めて、森氏が辞任した以上、慰留した彼らも同様に責任を取ってその地位を辞すべきでしょう。

 慰留が組織の総意であるというならば、組織のメンバーも総入れ替えの必要があるでしょう。もっと積極的に考えるのであれば組織的な解体も必要かもしれません。その過程で、少なくとも組織委員会は、理事会、評議委員会のメンバーを大幅に入れ替え、女性の比率を50%以上にすべきです。武藤事務総長が組織委員会の女性の比率を増やすこと自体は既に表明していますが、中途半端では意味がありません。それが組織としてこの件に関して問題意識を持っているという、組織としての意思の発信方法となるはずです。

政治問題化した後任人事とオリンピックの開催への影響

 報道を見る限り、多くの候補者の中で、組織委員会の新会長の候補は、小谷実可子氏か橋本聖子氏という二人の元オリンピアンに絞られたようです。どちらも森氏に比べれば若い世代で、女性という、一般的に今求められている条件には合っています。

 橋本氏は現職の大臣であり国会議員であることがネックになるはずです。ルール上は、大臣を辞めさえすれば、国会議員のままでも就任が可能のようですが、現職の議員が会長になった組織が、政治と無縁であることをあり得ないでしょうし、より自民党の政党色や派閥の色が強いものになるでしょう。橋本氏が国会議員としてはまだ若手だけに、ベテラン議員、派閥の領袖の顔色を見ながらの運営になるのではないでしょうか。

 一方の、小谷氏にこうした心配はなさそうです。選手時代には自由奔放な言動が記憶されていますが、引退後はオリンピックの招致活動やJOCの役員としての活動という言わばオリンピアンの王道を歩いてきています。その小谷氏が組織委員会という大きな組織のトップとして、それに相応しい言動ができるかは未知数です。

 私が以前、お二人とお話をさせて頂いた印象では、小谷氏の方が国際感覚という意味では優れていたように思います。

 それでも、国際的に活躍をする女性と比較すると、50代の彼らも年齢的には高過ぎるかもしれません。国際的に強いメッセージを発信するには、40代や30代後半であることが必要かもしれません。

 例えば、新型コロナウイルス対策で高い評価を得ているニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は現在40歳ですし、一昨年最年少でフィンランドの首相になったサンナ・マリン首相は現在35歳です。世界を見回せば、30代、40代の閣僚、女性閣僚は数多くいます。企業のトップ、経営者を見れば、その数は比較にならないほど多くなるでしょう。

 女性を蔑視するだけでなく、30代、40代では政治家や組織のトップとして若過ぎるという考え方すら、世界的に見れば極めて日本的で閉ざされた考え方なのです。

 一方、橋本氏、小谷氏のいずれにしても、他の人が選ばれるにしても、今報道されているような政府主導という状況には問題があります。特に、森前会長の辞任に関して、菅総理は、組織委員会は独立した法人で会長人事に政府は口を出せないなどと、国会で野党の質問に答えています。これは、極めて正当な答弁です。もし、今の流れのまま政府または自民党の意向で会長が決められたとなれば、野党からの追求は避けられず、菅総理が、どのような答弁をするのかが注目が集まるでしょう。

 政治問題にしてしまった政府の責任は大きいと言えるでしょう。それは、開催の可否の判断やその道筋ににも影響を与えるはずです。

 この会長人事を、政治問題にしたのはメディアだったと言えます。おそらく、森氏が会長を続けようが続けまいが、そのこと自体は政局に影響は少なかったはずですから、森氏の辞任により政局混迷などとの意味不明の記事が出ても、当初の菅総理のように独立した法人の話として突き放せばよかったのです。にも関わらず、菅総理の意思か否かは分かりませんが、自民党は自らそこに首をツッコミ、政治問題にしてしまったようです。どうしても仕切りたくて仕方がない人がいるのでしょう。それはまた、それに相応しい利権がそこにあることを想像させます。

 ツッコンでしまった首を簡単には抜くことはできません。オリンピック開催の可否に迷走が続く中で、自らが据えた会長とともに、政権与党である自民党自身がその混迷に巻き込まれ、場合によってはその責任を負わされることになるかもしれません。

 今の日本では、オリンピックの開催の可否の判断が政治主導になることは、一般市民や国民の意思や思い、何より私たちの安全とは全く別の次元で判断される可能性が高くなることを意味しています。

 

【2月16日加筆】

 一度は、前述の通り橋本氏の小谷氏に絞り込まれたかのように見えた会長人事ですが、橋本氏の固辞によって、JOC会長の山下氏が有力候補として取り上げられるようになってきました。

 山下氏は、JOC会長として今回の混乱を招いた当事者であり、その責任の一旦は彼にあると言えます。辞任の意思を見せた森氏を慰留するなど問題意識も希薄だったことが明らかです。彼が会長を務めるJOCの理事会は、女性が占める割合が20%、さらに支配下の各競技団体もこの問題が具体的に取り組んでいる団体はごくわずかです。つまり、彼は組織のリーダーとしてジェンダーギャップに取り組む姿勢が皆無だということです。

 また、山下氏がJOC会長就任後、JOCはそれまで公開されていた理事会を非公開にしました。多くのシーンで透明性を求められる現代にあって、時代に逆行する判断が山下氏の下で行われたのです。

 山下氏には、かつて東海大学で何度かお話を伺ったことがあり、当時は世界の柔道界でBIGMANと称されるに相応しい人物とお見受けはしましたが、現在の状況で組織委員会の会長に相応しい人物とは思えないのです。

 さらに言質を取れば、森氏が辞任を意思を伝えた時に、余人には変えられないと慰留したと伝えられています。即ち、自分には出来ないと言ったと同じです。今後、コロナ禍で難しい判断を迫られる会長職は、前任者が窮地に追い込まれた時に、隙あらば自分がというような気概や貪欲さのある人物がこの職に相応しいと考えます。

 やる気の部分については、固辞を続けると言われる橋本氏にも同様のことが言えるでしょう。

 密室を批判されている会長選考は、元キャノン会長で経団連の会長も務めた組織委員会名誉会長の御手洗冨士夫氏を中心としたメンバーによって行われるようです。事務総長の武藤氏も大きな影響力を持つことが予想されます。武藤氏は元大蔵省官僚で日銀副総裁も務めた人物です。

 こうした森氏と同じ時代の人物が選考する基準は、彼らの時代に沿ったものになる可能性が高いはずです。また、政治の色も否定できません。だからこそ、多くのメディアが指摘するように、この選考の場を公開して、どのようなプロセスと基準で選考されているのかを明らかにする必要があったのです。

 早ければ、2月17日も新会長が決まると報道されています。その名前は、失礼ながら菅総理の就任の時よりも、国民からも世界的にも注目されているのではないでしょうか。時代を逆行させずに、国民の期待や国際的な要求に応えうる人物の名前を発表することができるのか? もしかすると、今後の日本の道筋を占う大きな日になるかもしれません。