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本当に日本のサッカーは世界から遅れているのか?

酒井高徳内田篤人が語る世界と日本の差

 気になる記事を見つけました。

 酒井高徳「日本サッカーは世界のサッカーと全く違う」【NEWS PICKS】

 酒井高徳選手は、言葉を慎重に選んではいるようですが、結局Jリーグのサッカーはヨーロッパのサッカーに比べて劣っていると言っていると理解して良いと思います。

 また、この記事の中で言及される内田篤人氏のコメントというのも同様です。彼は昨年8月に行われた自身の引退記者会見で、日本のサッカーと世界のサッカーとの差は広がったと語っているのです。

 ヨーロッパの強豪クラブで、レギュラーでプレーしていた彼らの言葉には説得力があります。

 1年間サガン鳥栖でプレーした元スペイン代表、神の子と称されたフェルナンド・トーレス氏は一昨年8月の引退後に地元スペインで作られたドキュメンタリー番組の中でJリーグでのプレーを「トップレベルではない相手に、どのようにプレーしていいかわからなかった」と話をしているそうです。

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 近年は多数の日本人選手がヨーロッパのチームでプレーしているのが当たり前になっていて、現在はその数は40人近くに登ります。ヨーロッパ組だけで日本代表が編成できたことも記憶に新しいと思います。多くても2、3人しかいなかった今から15年くらい前の中田英寿氏の時代とは覚醒の感があります。

 人数だけでなく、長年ブンデスリーガの強豪クラブの中心選手と活躍している長谷部誠選手をはじめとして、多くの選手がレギュラーとして定着しています。

 そういう意味では日本人選手のサッカーのレベルは上がったと考えていいのではないでしょうか。

 それでも尚、Jリーグヨーロッパリーグでは差があり、日本のサッカーと世界のサッカーの差は広がっているというのです。しかし、正直言えば、筆者は彼らの言葉に共感しています。

 では、なぜ劣っているのかを筆者なりの視点で解釈してみましょう。

優れた選手はみんな海外に行く

 一つの理由としては、Jリーグである程度活躍した選手は、年齢や怪我などの問題がなければ、そのほとんどがヨーロッパに渡っていることです。供給できる選手の数は限られていますから、一定レベル以上の選手が次々とヨーロッパに渡ってしまえば、Jリーグでは残りの選手がプレーしているというのが現実です。

 筆者は、野球のように年齢やキャリアによって海外移籍に制限をかけることには反対ですが、それでも現在のJリーグの状況は行き過ぎのように思います。無秩序に近いように思われるからです。

 その原因の一つは、Jリーグのクラブが、選手を放出する際に移籍金をほとんど発生させていないことにあるのでしょう。確かに選手たちの夢の実現のため、また日本のサッカーの将来のため、移籍のハードルを下げることは理念として素晴らしいことではあります。しかし、これだけ多くの日本人選手たちが海外でプレーしている現在、そうした時期は過ぎているのではないでしょうか。

 選手の年棒が高騰し続けるヨーロッパから見ると、Jリーグの人件費は極めて安く、しかも移籍金が発生しないとなれば、ほとんどリスク無く選手を獲得することができます。その結果、少しでも可能性のある選手を見つければ「とりあえず手をつけておこう」ということになるのでしょう。

 日本のサッカー史に残る快挙とまで言われた久保建英選手とレアルマトリードとの契約も、現状を見るとその一例になってしまっています。それでもスペインリーグのようなレベルの高いリーグでプレーできるのであれば良いのですが、中には多くの選手がアマチュアや兼業でプレーしているようなリーグでプレーしている選手もいます。逆にレベルの高いリーグで試合に出場できない選手もいます。

 そうした選手たちは、ヨーロッパにいてもヨーロッパでプレーしていることにならないかもしれません。

 いずれにしても、本来Jリーグで主力でプレーしているかもしれない選手の多くが、無秩序にヨーロッパなど海外リーグに渡りプレーしているのが、Jリーグのレベルが上がらない理由の一つでしょう。

日本のサッカーは攻めないサッカー

 しかし、日本のサッカーが海外と差が生まれる決定的な理由は、もっと別のところにあります。

 Jリーグや日本代表のサッカーの特徴を端的に言えば、攻めないサッカー、攻めようとしないサッカーではないでしょうか。

 Jリーグや日本のサッカーを見ていて「なんでシュートしないんだ!」と叫ばずいられない人は数多くいるでしょう。決定機に見える瞬間でもパスをしてしまったり、躊躇する。これはJリーグが始まる前、日本リーグの時代から続く日本のサッカーの伝統です。

 そして、シュートを打てるエリア、アクティブゾーンにチャレンジしないのも日本のサッカーの特徴です。シュートが打てるエリアには、相手チームは敵を入れないようにディフェンスをします。そのディフェンスの前でボールを回し続けることが、日本のサッカーの特徴となっています。

 決定的な形ができるまで、右に左にボールを回し続ける試合を、日本のサッカーファンをこれまで何度となく見せられてきたはずです。その結果、ポゼッション率(支配率)の数字だけがあがります。

 最近、日本代表がヨーロッパやアフリカと対戦した時に、ポゼッションは高いのに、ゴール数やシュート数では負けている試合がありますが、こうしたことが影響しているのでしょう。ボールを持っているだけチャレンジしないサッカーは、相手にとっては怖くありませんから、決定力のあるチームは、日本のミスを待っていればよいのです。

 もう一つ付け加えるとすれば、攻めないサッカー、チャレンジしないサッカーは見ていてつまらない。

攻めないサッカーの原因は国民性か?

 攻めないサッカー、チャレンジしないサッカーは、日本人の失敗を恐れ、失敗を忌み嫌う日本人の国民性が関係しているのかもしれません。

 子供の頃、1対1のドリブルの練習では、失敗を恐れず色々なタッチやフェイントにトライすることよりも、より長時間ボールをキープしたり、シュートの形まで持っていくことが重要視されます。ボールを失った子供は指導者に怒られるでしょう。

「今のチャレンジ、良かったよ」という指導者は滅多にいないはずです。

 一発勝負のトーナメントの高校サッカーでは、ドリプルでもパスでも積極的な仕掛けのプレーに対して、ベンチから大声で叱責の声が飛びます。

 指導の方法は時代ととも大きく変化し、レベルアップしているはずですが、失敗を許さない体質は変えることができず、それがサッカーだけでなく日本のスポーツの指導の特徴ともなっています。

 子供の頃からこうした環境で育った選手たちが、大人になってプロ選手として、エラーの可能性のあるチャレンジよりも、ボールキープを選択するのは当然なことなのかもしれません。

 メディアもまたボールを失わないことを重要視します。試合の中継を見ているとシュート数と並んでポゼッション(支配率)が表示されることが当たり前になっています。こうした数字を、選手やコーチたちが気にしないとは思えません。ポゼッションが低くても勝てればまだ良いのですが、負けた時にはそれを敗因として追求されます。ここでも失敗を恐る日本人のセンサーが敏感に反応するでしょう。

 しかし、支配率という和訳に惑わされてしまいますが、ボールをキープしている時間が長いからと言って、必ずしもゲームを支配をしているとは言えないのです。

日本人にもできるチャレンジするサッカー

 筆者が知る中で、Jリーグで最もアグレッシブにゴールを攻めたサッカーは、Jリーグクラブとして初めてアジアクラブ選手権も制した1997年から1999年のジュビロ磐田と、2003年から2005年、名将イビチャ・オシム監督の下、「人もボールも動くエキサイティングなサッカー」を演じた当時のジェフユナイテッド市原です。

 この時期のジュビロ磐田は、4試合連続ハットトリックを達成した中山雅史をはじめ多くの代表選手を擁するスター軍団で、世界的なスター、ジョルジーニャやレオナルドがいる鹿島アントラーズとリーグ制覇を争っていました。

 しかし、そのサッカーは1997年前期にこのチームの監督を務めたブラジル人監督フェリペ(・スコラーリ)氏の合理的かつシンプルに相手ゴール前にボールを繋ぐサッカーがベースになっています。のちにブラジル代表をワールドカップ優勝に導くこの監督は半年でこのクラブを去りましたが、後任で監督代行を務めた桑原隆氏は、このサッカーを忠実に守り、この年、クラブ初の後期優勝とシーズン優勝に導きます。

 藤田俊哉名波浩、福原崇、服部年宏、さらには現役ブラジル代表キャプテンのドゥンガという中盤に豊富なタレントを揃えていたにも関わらずロングパスの多用も厭わず、シンプルにスピーディにゴール前に待つ中山にボールを送り、中山もそのボールを時間をかけずに果敢にゴールにチャレンジしていました。その結果として98年のこのチームは、年間の得失点差が68点と圧倒的な強さを誇り、中山は27試合で36ゴールと今もJリーグに残る最多得点記録でこの年の得点王になっています。

 2003年からのジェフユナイテッド市原は、フォアリベロに配した稀有の天才阿部勇樹(現浦和)を中心に、オシムが鍛えあげた若い選手たちが流れるように動きながら、次々とボールに関わり、果敢にゴールを狙いました。この時期のジェフはリーグ優勝はあと一歩で逃したものの、息子のオマル氏が監督を務めた時期を含めて2度のカップ戦制覇を果たし、このクラブの黄金期となっています。

 ジュビロのフェリベ、ジェフのオシム。二人の指導に共通している点があります。二人とも選手たちにロングパスの精度のレベルアップを求めたことです。ジュビロの選手たちは、ペナルティエリアの前のラインから向かい側のペナルティエリアの前のラインに立つ選手に、ジェフの阿部は、センタースポットから両サイドのコーナーフラッグに向けて、寸分違わぬ精度でボールを送る練習を繰り返していました。

 ジェフの黄金期にリーグ制覇を競っていた横浜Fマリノスは、「ボールは疲れない」と語っていた岡田武史監督のもと、合理主義の岡田監督らしいリスクを犯さず足元でボールを細かく繋ぐサッカーを定着させて2003年、2004年にJリーグを連覇し、このサッカーが日本のサッカーの主流となっていったのです。

 日本代表監督が、オシム氏から岡田氏に交替し、その岡田氏が、2010年の南アフリカワールドカップで大会前に結果が出なかったことから、中盤の底を起点に果敢に両サイドのオープンスペースを多用するサッカーに変更して、世界の舞台で結果を残したことは一つの日本のサッカーの流れを示しています。

 この南アフリカ大会で岡田ジャパンの戦術の中心になったのが、オシムサッカーの申し子の阿部だったことを付け加えておきましょう。

 現在のJリーグで、攻めるサッカーができている数少ない例は、昨年リーグ制覇をした川崎フロンターレでしょう。他のJクラブに比べれば、両サイドやディフェンスラインの裏のオープンスペースへパスやドリブルで積極的にトライし、スピーディに一気にゴールシーンを作るサッカーが出来ていると思います。

攻めるサッカーの構築が日本のサッカーを救う

 日本のサッカーを変えて、世界のスタンダードと同質のサッカーを目指す方法として、筆者は次の3点を提案します。

1.Jリーグで得点やシュートが評価されるレギュレーション作り

 筆者は、1対0で勝つより4対3で勝つサッカーを目指すべきだと考えています。そもそも、Jリーグディフェンダーのレベルでヨーロッパの強豪のような失点をしないことを前提にしたゲームプランに無理があります。ディフェンスが安定していないために、ヨーロッパの試合に比べて、番狂わせの試合がいかに多いことか?  totoで、Jリーグが対象の時とヨーロッパリーグが対象の時の当選金の金額を比較するとよくわかります。

 ですから、3対2、4対3を前提にしたゲームプランの方が現実的です。そして、その方が観ている方も楽しめます。サッカーに詳しい方の中には、1対0の試合にも見所はあると仰ると思いますが、そうした楽しみ方をできる方は限られていますし、多くの人がそうした試合を楽しめるシチュエーションも限られています。筆者もチャンピオンズリーグの決勝であれば1対0でも十分に満足できると思います。

 しかし、日本の多くのクラブは1対0や2対0で勝つことを目指しているはずです。

 では、どうすれば良いでしょう。思い切ってリーグのルールを変えてしまうのはいかがでしょうか?

 ラグビーワールドカップでは、4トライ以上をあげた場合と負けても得点差が7点以内の場合、ボーナスポイントが与えられます。

 この方式に倣って、例えば4点以上とったらボーナスポイント、枠内シュートを10本打ったらボーナスポイントを付けるようなローカルルールを付けるのはいかがでしょうか? 守るより攻めた方が得だと意識づけをするには、もっとボーナスポイントを多くする必要があるかもしれません。

 極論に感じるかもしれませんが、日本の伝統とも言える失敗を怖がるスタイルから脱却し、全てのクラブが攻撃を重要視して点を取り合う、エキサイティングなゲームを実現するには、ドメスティックは改革が必要だと考えます。

2.育成年代の全国大会の廃止や優勝のない大会作り

 育成の時期に選手に失敗を許さない指導の多くは指導者側に理由があります。彼らは試合や大会で結果を求められているから、指導者は選手たちの失敗を許さず、リスクのあるチャレンジを認めないのです。であれば、いっそうのことこうした大会をやめてしまうのはいかがでしょうか? そうすれば、指導者の評価の基準も変わるはずです。真剣勝負の場が失われることのリスクもありますが、多くの国で育成年代で全国レベルの大会が行われていないことを考えれば、選手育成での大きなマイナスポイントではないのかもしれません。

 また、指導の現場でより積極的なプレーへの指導を促すためには、サッカー協会で、もっと詳細な指導プログラムを作って、その中で積極的なプレーについて具体的な達成目標を作ることで、指導者の消極的な指導を回避できるはずです。

3.日本のサッカーが目指す姿とロードマップを明らかにする

 最後の一つは、日本サッカー協会として、目指すサッカーを明確にして、そのサッカーに沿った強化の指針を明確にし、スケジュールとともロードマックを公表することです。

 日本サッカー協会は、2050年までに日本代表がワールドカップで優勝できるチームにすることを目標として掲げています。しかし、そのための具体的なロードマップも公表されていませんし、具体的なチームのスタイルも示していません。

 この目標が掲げられた2005年の段階で、2015年にトップ10、2030年までにベスト4という抽象的な途中目標を提示しているだけです。ちなみに2015年の達成目標として掲げた世界トップ10とサッカーファミリー500万人はいずれも達成できてません。

 JFA中期計画について | JFA中期計画 | JFA | 日本サッカー協会

 具体的な目標がなければ、ロードマップも具体的になりませんし、目標とするサッカースタイルが明確でなければ、チームや選手の強化の方法や方向性に具体性ができません。代表監督の選考のたびに迷走し、監督が代わるたびにサッカーのスタイルが変わるのもこのためです。

 よりエキサイティングで攻撃的なサッカーの完成を標榜し、代表チームだけでなく、Jクラブにもサッカーのスタイルの方向性を示し、それに沿った選手強化、育成を続けれることで、多くの課題が解決できるはずです。

 そうした方向性を明らかに、そこに向かって進化することは、サッカーというスポーツの魅力にも高めることにも繋がります。少子化や多様性が進み、競技人口の減少が危惧される中で、選手の応援やチームの応援を超えて、やっても見ても楽しいエキサイティングでアクティブなスポーツとして、新たな人気を確立するために、必ず向き合わなければならない取り組みです。