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「聖火リレーはナチスの人種差別政策のプロパガンダ」というNBCの記事

東京オリンピック聖火リレーが始まった

 3月25日、東京オリンピック聖火リレーが、東日本大震災福島第一原発の対応の最前線基地として使用されていたJヴィレッジから、1年遅れでスタートしました。

 映像から伝わるタレントや元アスリートの表情を見ていると、「あなた達は今の状況で聖火リレーが全国を回ったり、海外から選手を受け入れたオリンピック、パラリンピックを開催することがどんなことか、真剣に考えたことがありますか?」と問いかけたくなります。

 新型コロナウイルスの感染拡大に抑制が掛からず、開催自体に賛否がある中、組織委員会は沿道での応援の規制や付帯するイベントの縮小などの対応を取って、予定通りの日程の全国を回り、7月23日に開会式が行われている東京国立競技場に到着することを目指しています。

 先立つ21日には、政府は首都圏に出されていた緊急事態宣言を解除しました。感染の終息はまったく見えず、ワクチン接種も遅々として進まない中、まるで聖火リレーの実施が、政策と論理的に矛盾しないように、このタイミングで非常事態宣言を解除したように見えます。そう言えば、今週からサッカー日本代表の試合が国内で連続して行われ、今日26日にはプロ野球が開幕します。こうした大規模イベントは、人たちの移動を促し、また普段の生活に戻るきっかけ作りとなるでしょう。

 聖火リレーはオリンピックのムーブメントを醸成し、大会の盛り上げに重要であるというのが、IOC組織委員会の立場ですが、中止にできなかった最大の理由は、お金でしょう。

 IOC組織委員会聖火リレーマーケティングを販売しています。マーケティング的に初めて成功を納めた1984年ロサンゼルス大会から始まったこのシステムで、IOCは毎回コカコーラ社と、今回の日本の組織委員会パナソニックとマーケティグ契約を結んでいます。

 パナソニック株式会社との 「東京2020オリンピック聖火リレーサポーティングパートナーシップ契約」 締結について

 海外からの観客の受け入れ見送りや、観客数の制限など、大幅減収が見込まれる組織委員会としては、収入を減らすことはしたくないでしょう。

 24日からはコカコーラの聖火リレーと連動したプロモーションも始まっています。

 チーム コカ・コーラ、聖火リレーの通過にあわせた「都道府県ピン」プロモーションを開始 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

NBC東京オリンピック開催と聖火リレーに反対の立場か

 聖火リレーが開始されたことを海外でも多くのメディアが報じました。その中に、アメリカ三大ネットワークのひとつで、アメリカ国内のオリンピックの放送権を持つNBCがネットニュースサイトに掲載した1本の記事があります。

Jules Boykoff : Amid Covid fears, Tokyo Olympic Games' torch relay kicks off. It should be extinguished.

 このタイトルは和訳すると

「コロナ禍で東京オリンピック聖火リレーが始まった。やめさせるべきだ」

 「extinguish」には鎮火するという意味があるので、聖火を鎮火、消すという意味で使われていると思います。かなり強く、しっかりとした否定的な論調なのがタイトルだけでも分かります。

 約6000字のこの記事の骨子は次のようになります。

  • 復興をテーマに東日本大震災の被災地となった福島県をスタートにしているが、オリンピックの開催は復興の妨げになっていて、日本には開催に反対している人がいる
  • まだワクチン接種が進まない日本では、海外からの選手や関係者の来日が、感染の再拡大を引き起こすしれない。だから日本国民の多くはオリンピックの中止または延期を望んでいる
  • 聖火リレーは、1936年ベルリン大会でナチスが人種差別政策のために始めた行事であるから、やめるべきだ。

 というような内容になります。

 総じていうと、この記事はコロナ禍の日本での東京オリンピック開催自体に否定的な立ち位置であろうかと思います。

"Fukushima is being sacrificed for the sake of the Tokyo Olympics,"

    「福島はオリンピックの犠牲になっている」

"a political disguise" designed "to conceal the reality that there is no recovery in Fukushima."

    「(聖火リレーは)福島の復興してないことを隠すための政治的な偽装」

など、最近では日本のメディアが触れようとしない視点もインタビューのコメントとして書かれています。

 この記事が、IOCに最も多額の放送権料を払っているNBC発でこのニュースサイトに掲載されたことは意味があるのでしょうか? それとも記者個人の考えでしょうか?

ナチスの人種的なプロパガンダとして始まった聖火リレーを近代オリンピックの創始者クーベルタンが賞賛したと伝える

 そして、ナチスが人種的な優位性のプロパガンダのために作った聖火リレーはやめるべきだという立場も明確です。

 多様性の理解や差別の解消に積極的に取り組んでいると主張するIOCの前に、聖火リレーの問題点としてナチスを持ち出したことも大きいです。

The Nazis conjured the Olympic torch relay as a way for Germans to claim Aryan lineage from the ancient Greeks. The relay began in Olympia, Greece, before wending its way to Berlin, allowing Hitler to spray Nazi propaganda though key geostrategic areas in Europe. A stereotypical blond, blue-eyed runner concluded the torch run in Berlin, and Olympics founder Pierre de Coubertin described it as "gallant and utterly successful."

Jules Boykoff : Amid Covid fears, Tokyo Olympic Games' torch relay kicks off. It should be extinguished.

 ナチスドイツ国民であるアーリア人古代ギリシャ人と血統的に繋がることを主張するために、聖火リレーを考案し、ギリシャオリンピアからベルリンまでの道のりでヨーロッパの戦略的に重要な地域にプロパガンダすることに成功しました。典型的な金髪で青い目のランナーがベルリンで聖火リレーを締めくくり、(近代)オリンピックの創始者であるピエール・ド・クーベルタンは、偉大で完全な成功だと称えました。

(筆者訳)

 事実関係として、ここに書かれている通りナチスプロパガンダのために、聖火リレーを考案したことは事実とされています。YAHOOがこの記事を紹介した記事には、平文に下記のような記載がありますが、これは誤りです。先に聖火リレーがあってそれをナチスが利用したわけではありません。

1936年のベルリン五輪で始まった聖火リレーが、当時、ドイツ政権を担っていたナチスの政治的なプロパガンダとして利用されたという経緯があったことを紹介。

巨額放映料払う米NBCは「聖火リレーは廃止せよ!」…海外メディアは東京五輪聖火リレーのスタートをどう報じたか?(Yahoo!ニュース オリジナル THE PAGE)

 また、ナチスはボイコットを避けるために一時的にオリンピックまでに人種差別政策を封印した時期もありましたが、ドイツ人=アーリア人の優等化し、他の民族を排斥する政策は徹底していて、「A stereotypical blond, blue-eyed runner 」とはその象徴的な身体的特徴なのでしょう。

 欧米の人たちはヒトラーナチスの人種差別政策とそれによって引き起こされたホロコーストを今でも忌み嫌います。日本人の私たちには想像ができないほどです。中でもドイツ人は自国の歴史の中の最大の汚点としています。

 果たして、ドイツ人のトーマス・バッハ会長は、ナチスを引き合いに出された時に、これを看過できるでしょうか。しかも、近代オリンピックの創始者で第二代会長のクーベルタン男爵が、ナチスのこのプロパガンダを賞賛したと書き加えているのです。

 NBCニュースサイトのトップページからこの記事に誘導するサムネイルに書かれたメッセージはさらにストレートです。

「Why are we still using a Nazi propaganda stunt to open the Olympic Games?」

 なぜ私たちはオリンピックを開催するためにナチスプロパガンダスタントを使い続けるのでしょうか?

(スタント(stunt)は目を引く行為などの意味)

筆者訳