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日米の野球の差は質の違いなのか?

MLBで活躍する大谷翔平選手への注目が集まっている

 大谷翔平選手が高校時代から目指していたピッチャーとバッターで活躍する二刀流で、アメリカ人なら誰でも知っているだろうMLBのレジェンド、ベーブ・ルースを彷彿とする活躍を見せて、日本だけでなくアメリカ人にも大人気のようです。

 アメリカ人好みの豪快なスイングで、ホームラン争いでトップに立つ彼の存在は、20年前にイチロー氏が与えたインパクトをはるかに上まわるものでしょう。今やアメリカ人にとって最も有名な日本人という報道は、言い過ぎではないでしょう。

 多くの野球選手にとって憧れの場であるヤンキースタジアムでの7月1日(日本時間)の初登板では、1回途中で7失点でKOされましたが、彼のピッチャーとしての不安定感は、二刀流、場合によっては野手も含めた三刀流の難しさを私たちに教えてくれています。エースで4番は、やはり簡単なことではないのです。

 7月13日に開催されるオールスターゲームとその前日のホームラン競争での彼の活躍が今から楽しみです。ただ、ヤンキースタジアムでの登板の際の連続フォアボールで、期待されているオールスターゲームでのピッチャーとしての出場はなくなったかもしれません。アメリカ人は、内野安打とフォアボールが大嫌いですから。

 オールスターゲームでも活躍して、彼の人気が本当の全国区になれば、白人権威主義の象徴とも言えるMLBの審判団からの人種差別的なパッシングも収まって、彼がもっと気持ちよく投げられるようになるかもしれません。

少なくなった日本人メジャーリーガー

 大谷選手が目を見張る活躍する一方で、近年MLBで活躍する日本人選手が少なくなったことは気がかりです。

 現在、MLBに登録されている日本人選手は8人。活躍する選手の筆頭は、ダルビッシュ有投手でしょう。先日MLB史上最短で1500奪三振を記録した彼は、サンディエゴ・パドレスのエースとして活躍しています。一方、昨年はダルビッシュ投手と同様サイ・ヤング賞候補に名前が挙がったミネソタ・ツインズ前田健太投手は、今年は好不調の波が激しく、防御率5点台と納得できる結果を残せていません。逆に今年結果を出しているのは、シアトル・マリナーズ菊池雄星投手とボストン・レッドソックス沢村拓一投手。菊池投手は先発投手として、澤村投手として、チームに高い貢献を見せています。特に沢村投手のいるレッドソックスは、日本人選手が所属するチームで唯一地区優勝の可能性があるチームなので今後注目です。

 今年から参戦した有原航平投手は5月上旬以降、当板の機会を与えられず、シンシナティ・レッズ秋山翔吾選手は、怪我があったとは言え、打率0.230と外野手としてレギュラーには程遠い成績です。さらに成績低迷のため5月にレイズからドジャースに移籍した筒香嘉智選手は、その後も活躍の機会を得ていません。

 1995年に超法規的にMLBに渡ってトルネード投法で活躍して野茂英雄氏がMLBの門を叩き、2001年にイチロー選手の衝撃的なデビューとその後の活躍で、日本人選手がアメリカの野球でも本格的に認知されたでしょう。その後も、ワールドシリーズでMVPになったニューヨーク・ヤンキース松井秀喜氏、レッドソックスでワールドチャンピオンの胴上げ投手になった上原浩治氏など、数多くの日本人選手が活躍してきました。

 その間、私たちは、彼ら人気選手が日本でプレーしていないという少々寂しい思いをしながらも、かつて雲の上の存在だったMLBで活躍する彼らを眺めながら、日本の野球もMLBに近づいたというある種の満足感を持っていました。その間に、ベースボールクラシックで、2大会連続で優勝したこともその気持ちを後押ししたかもしれません。

 しかし、どうやらそれは勘違いだったかもしれません。

日米のレベル差を感じずにはいられない帰国した山口投手の活躍

 2019年シーズン終了後にポスティングで、読売ジャイアンツからトロント・ブルージェイズに移籍した山口俊投手は、2020年は2勝4敗1ホールドと満足な成績を残せず、2021年はサンフランシスコ・ジャイアンツ傘下の3Aチームと契約しましたが結果を出せずに、6月にジャイアンツに復帰しました。

 復帰登板のDeNA戦で勝ち投手、2試合目の広島戦でも負け投手にはなったものの8回途中までノーヒットピッチングを披露するなど、まだ2試合とは言え、2019年に最多勝を獲得した当時と同様にエース級の活躍を見せています。

 3Aでも滅多打ちされた投手が、日本の一軍で通用するどころか、あわやノーヒットノーランを達成するかもしれない快投を見せているのです。これをどのように考えれよいのでしょうか。

田中投手が勝てないのは本当に質の違いが理由なのか?

 日本とアメリカの野球には、ボールの大きさや滑り具合、マウンドの固さや形状、さらにストライクゾーン、試合数や登板の間隔、移動距離など様々な日米の違いをあげて、海を渡った選手が活躍できないのは、そうした違いに対する適応能力や慣れを理由にして、選手の能力そのものではないかのような報道が数多くあります。しかし、そうした報道は本当に真実を表しているのでしょうか?

 これは逆に例になりますが、ニューヨーク・ヤンキースの主戦投手として7年間活躍し、今シーズンから日本球界に復帰したた田中将大投手は、楽天で思ったような成績を残せていません。

 当初は8年ぶりの日本の野球への慣れを理由にあげる解説者も多かったようですが、試合数を重ねるごとに、そうした声にも変化が出てきているように思います。

 多くのメディアが報じていた通りに田中投手が現役バリバリのメジャーリーガーであれば、なぜヤンキースは彼と契約せずに、彼より経験の少ない若手投手との契約を選んだのでしょうか? 他のメジャーチームも彼が満足するような条件を提示しなかったのでしょうか? 今季に調子が上がらないヤンキースについて、田中投手を残留させなかったからだとする地元のメディアの記事を紹介する記事が数多く見られましたが、彼が主力投手としての評価を受けていたとすれば、ヤンキースでなくても、彼にその評価に相応しい条件を提示したチームがあったはずです。

 現在の日本での成績も、そうしたアメリカでの評価に見合ったものだと言えるのではないでしょうか?

 その田中投手は、期待された結果を残せていないにも関わらず、当たり前のように東京オリンピックの日本代表に選ばれました。メジャーリーガーがほとんど出場しない勝って当然という期待の中での彼のピッチングは、彼のこれからの野球人生に大きな変化を与えるかもしれません。

結果を残せない日本人メジャーリーガーと結果を出す元メジャーリーガー

 野手に話を移せば、やはり筒香選手に触れずにはいられません。セリーグ本塁打王打点王になったこともあり、日本代表でも4番を打った筒香選手は、メジャーリーグで全く結果を出せず苦しんでいます。現在は3Aでのプレーの期間の方が長くなっています。

 216安打の日本の年間最多安打記録を持つ秋山翔吾選手も結果を出せていません。日本を代表するヒットメーカーだったはずの彼ですが、今シーズンの打率は今も2割3分台で、期待とは程遠い成績が続いています。

 一方、今シーズン、日本でプレーする外国人選手で最も評価が高いのは、昨年来日したDeNaのタイラー・オースティン選手でしょう。6月末現在、打率ではダントツのトップで、本塁打、打点でも5位にいます。

 2011年からプロとしてのキャリアをスタートしたオースティン選手は、3年後にメジャーに昇格、来日するまでの4年間で4チームを渡り歩きましたが、レギュラーに定着したことはありません。日本ではメジャー39本塁打の長距離砲として紹介されたようですが、客観的に見れば決して多いとは言えないホームラン本数です。

 そのオースティン選手が来日2シーズン目には、三冠王も狙える打者として活躍しているのです。

 こうした例は、野球ファンの皆さんであれば何度も見てきているでしょう。

 これを、日米の野球の質の違いというには、あまりにも現実を無視していると言えないでしょうか?

 サッカーでは、多年にわたりヨーロッパのトップリーグで活躍してきた二人の日本人選手が、世界のサッカーとJリーグのレベル差は広がったと語り、物議を醸しました。

 国ごとに独自文化で成長を続ける野球では、サッカーのようなグローバルスタンダードからレベルの差を見極めることは難しいかもしれません。

 しかし、大谷選手のように「世界一の選手になる」という目標を掲げる若者を生み、育てるには、客観的に日本の野球の立ち位置を判断して、頂点までの距離を正確に知ろうとすることは不可欠です。