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雨に翻弄された女子ゴルフと混乱する中継

雨に翻弄された女子ゴルフトーナメント

 7月1日から4日まで開催された女子ゴルフトーナメント、資生堂レディスオープンは、2017年、2019年に賞金女王だった鈴木愛選手が、2年ぶりの優勝を飾りました。

 この試合が開催された戸塚カントリー倶楽部のある横浜市周辺は、梅雨前線の影響による豪雨に見舞われ、4日間開催の予選にあたる1日目、2日目が中止になり、競技を半分にして3日目の土曜日に予選、4日、日曜日に決勝ラウンドが行われました。

 開催できた2日間も順調に行われたわけでなく、やはり豪雨のため土曜日は4時間遅れでスタートしました。7時台の予定でしたが、2度3度と延期され、ようやく11時台にスタートすることができたのです。その結果、この日のスタート時間が遅かった40人以上の選手が、日没のために18ホールをすべてをラウンドすることができず、日曜日の早朝6時半頃から予選ラウンドの残り(最大5ホール)をプレーして、その結果によって決勝進出の選手はインターバルののちに決勝をスタートしました。この結果、当初の予定から約3時間遅れのスケジュールになったのです。

 さらに、この日の内に競技を終了するために、セカンドカットと呼ばれる珍しい処置も行われています。予選突破選手の中から下位22選手が、決勝でプレーできないという処置です。これによって決勝は67人で競われることになりました。

多チャンネルとメディアの横暴がファンの混乱を招いた

 豪雨による大会スケジュールに変更で、中継放送にも大きな影響が出ました。

 この大会の放送、配信予定は下記の通りです。

 まとめると、地上波は決勝が終了する時間帯のLIVE中継のみで、その他の時間はCS放送とインターネット中継、グループのabemaTVで中継で、地上波がLIVE中継する時間をのぞいて4日間をLIVEで放送または配信するという内容です。

 以前はゴルフトーナメントのライブ中継はNHKに限られていましたが、民放でも徐々に増えてきています。長いゴルフの試合をCS放送やインターネット中継でフォローすることも最近の流れです。

  結果的にこちらも雨の影響で大きな変更を余儀なくされました。当然、1日目、2日目の中継はなくなり、4日目の決勝のスタートが遅れた影響で、地上波の放送時間の中で試合を最後まで放送することができなくなったのです。地上波に続く、BS放送は試合が最後まで放送できないスケジュールになったために、当日または前日に追加されたのではないかと思います。

 このプログラムの中でいくつか気になる点がありました。

 CS放送とインターネット中継は基本的に同じ画像ですが、インターネット中継には実況放送がない、現場音だけの時間帯が多くありました。昨年から始まった女子ゴルフのインターネット中継を見てきた中で初めてのことです。CS放送とインターネット中継で格差をつける理由がわかりません。

 Youtubeによる配信とabamaTVが並行して配信されていることはユーザーを分かりづらくしているでしょう。この二つのチャンネルでは映像の一部を変えたり実況音声を変えたりして差別化を図っています。前週のアースモンダミンカップでは7チャンネルで配信されたように、多チャンネル化が普通になってきているので、発信側は同様のつもりかもしれませんが、その割には相互の案内が不足していました。

 そして、インターネット放送とCS放送のライブと地上波の放送の間に約1時間、間があるのはどうしてでしょう。技術的な必要があるとは思えません。6月10日から行われたサントリーレディスゴルフトーナメントでは、フジテレビ系列で、土曜、日曜に、インターネットでのライブ配信に続いて地上波のライブ中継をしましたが、こちらのインターネット配信と地上波の間は5分でした。

 今回の中継の中で最も気になったは、インターネットライブの土曜日の中継の途中、15時前後に突然流された稲見萌寧選手のインタービュー映像です。のらりくらりとしただらだらとしたインタビューは30分くらいはあったはずです。

 オリンピックの中継局であるテレビ朝日にとって彼女のインタビューを流すことがいわば義務だったのか、オリンピックに出場する彼女のインタビューを流せば、ファンが喜ぶと思ったのかは分かりませんが、投稿欄には批判的な投稿が溢れ、その多くが「試合を見せろ」という内容でした。また、内容的にもレベルに低いインタビューに批判が噴出していました。

 彼女のインタビューが始まった頃には27000前後あったアクセス数が、みるみる内に減って、インタビューが終わる頃には15000前後。その後、試合の映像に戻りましたが、その数字が持ち直すことはありませんでした。

 昨今、テレビ離れの原因は、そのテレビという放送媒体の性質ではなく、テレビ局が送り出す放送の内容だという説が多くなっていて、筆者もその考えに賛同しますが、ここでもテレビ朝日の視聴者無視のコンテンツ作りを見た気がします。

JLPGAもファン不在の判断が続く

 前週のアースモンダミンカップでは、4日間全てで早朝のスタートから競技終了まで最大9チャンネルで、動画配信サイト「U-next」で配信されました。昨年、事実上の開幕戦となったこの試合は、日本女子ゴルフ協会(JLPGA)のコントロールの下、無料で配信されたことを考えると、今年もJLPGAの管理元で配信が行われたのでしょう。しかし、その判断は、残念ながらJLPGAもまたファンを置き去りしています。

 今年は4日間通しで2200円の有料配信でした。4日間全てを見ても1日だけ見ても同じ2200円です。そもそも普通の生活をしている人が木曜から日曜までの昼間、通しで見れる人はほとんどいません。見れて土曜と日曜。それでも朝から終了まで見れる人はごく僅かでしょう。にも関わらず、一括で2200円にしてしまったのです。

 スポーツ動画配信サイトのダ・ゾーンは、プロ野球Jリーグなど彼らが言う130以上のコンテンツが自由に見れて、ひと月1950円です。それと比較すれば、この金額がいかに高いかは分かるです。しかも、例えば、日曜しか見れない人にとっては非常に不公平感のある価格設定です。コースでの観戦でも多くの場合は1日ごとのチケットで、中には通しチケットが販売される場合もあるはずです。

 おそらく、制作費が先にありきの金額だと思いますが、もっと見る側、ファンの側の立つ必要があるでしょう。

 今年のトーナメントの中では、テレビ中継の時間、JLPGAは公式サイトのリーダーズボードの更新を止めている試合もありました。おそらく中継局との取り決めで、行われたと思いますが、これもファン無視した行為でしょう。

 インターネットの普及で公式サイトでの試合経過や結果の情報発信は、今や不可欠となったリーグや競技団体の責任です。特に、リアルタイムの発信は重要になっています。

 もう一つ忘れてはいけないのは、インターネット配信は世界中に向けて配信されているということです。例え日本語のサイトであっても、日本のテレビ放送が届かない地球の裏側に住む日本の女子ゴルフファンが、その更新を楽しみしているかもしれないということを、頭に入れておくべきです。

 今から25年くらい前、F1は日曜の深夜やレースから24時間近く経った月曜の深夜のフジテレビのダイジェスト放送が終わるまで、日本国内ではF1の結果は報道されませんでした。当然、国内のテレビ局やメディアにはテレックスやFAXでリアルタイムで情報が届けられていましたが、フジテレビの利益のためにそうした情報が封印されていたことになります。今も日本の大手メディアの体質は、本質的にはその当時と変わっていないのかもしれません。

 JLPGAもこのテレビ局の体質に同調していることになります。

目先の利益のため既得権益を守るスポンサーとテレビ局

 現状の女子ゴルフの放送権の問題の原因は、JLPGAが主催するメジャーと呼ばれる公式戦4試合を除いて、放送権をJLPGAの管理できていないことにあります。公式4試合以外の試合はJLPGAは試合を公認する立場で、大会名に冠をつけている企業がスポンサーであり主催者なので、放映権の契約も、この主催者であるスポンサー企業とテレビ局の間で行われ、JLPGAは原則関与してこなかったのです。中にはフジサンケイレディクラシックやミヤギテレビ杯のように、テレビ局自体が主催者の場合もありますし、さらに状況を複雑にしているのが、この放映権を購入したテレビ局が、イベンターとして、大会運営に深く関わっていることです。

 2017年にJLPGAの小林浩美会長が、放送権の一括管理を提案しましたが、その後もなかなか状況が変わらないのこうした特殊な事情があるからです。

 しかし、競技団体、選手、そしてファンの立場を考えれば、やはりJLPGAが放映権を一括管理して、まとめて年間契約ができる媒体に、番組制作ごと売ってしまう方が競技団体や選手にとってはメリットが大きいでしょう。特に現在の女子ゴルフ人気を考えれば売り時であることは間違いありません。

 インターネットの普及で、長い試合全部を配信できるようになったことは大きな進歩かもしれません。また、比較的放送枠に縛られないCSやBSでの放送も効果的です。しかし、毎回のように放送方法が変わり、インターネット配信でもチャンネルや時間帯や方法が変わった上に、無料だったり、課金制だったり、行き当たりばったりと言っても良いほどです。

 その現在の分かりづらさは、完全にユーザー(ファン)を無視した、メディア側の利益の優先の結果でしかありません。ファンにとって良いことは何もありませんから、できる限り早く解消をする必要があります。

 かつて、日曜日の午後と言えば、休みの父親が居間でごろ寝しながらテレビでゴルフ中継を見ているというのが、日本の一般的な家庭の象徴的な姿のひとつでした。その頃は、日曜の午後にテレビを付ければ、どこかしらのチャンネルで男女どちらかのゴルフを放送していたのです。それは午後7時にテレビをつければ、いつもプロ野球、特にジャイアンツ戦が放送されていたのと同じです。

 時代が変われば、人気のスポーツが変わり、情報(映像)の提供方法が変化するもの当然です。しかし、かつてのゴルフ中継がそうであったように、生活の中で定番化することは、そのスポーツの普及にとって極めて重要なファクターです。

 現在は放映権を持つテレビ局は、目先の利益に囚われず、長期的な視点でスポーツとしてのゴルフの普及、発展のために判断すべきでしょう。それは人気コンテンツを成長させて、より大きな実を結ばせるために必要な判断でもあります。