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東京オリンピックは安全安心から経済優先の転換装置になるはずだったのでは?

無観客開催と有観客開催の判断に違いはどこにあるのか

 7月9日、東京オリンピックの東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の無観客での開催が発表されました。前日に決定された東京都の緊急事態宣言の発布と3県のまん延防止等重点阻止の延長の決定を受けてのものです。

 ギリギリまで観客を入れての開催を模索していたというIOCと日本政府、組織委員会が、バッハ会長の来日に合わせて開催された5者協議で、開会の2週間前になってようやく結論が出されたわけですが、オリンピック開催期間中を含めた緊急事態宣言を発布が逃れられない状況に、関係者の合意は得ていたのでしょうか。感染拡大への危機感というよりは、むしろ、7月4日の都議会議員選挙で思ったように票が伸びなかった自民党公明党が、秋の衆議院選挙に向けて、有観客で感染拡大が進んだ場合の政権与党としての危機感がそうさせたと考える方が自然です。

 これによって競技を実際に観戦できるのは、千葉県と隣接すると言ってもいいカシマスタジアムでのサッカーが開催される茨城県、同じくサッカー競技が宮城スタジアムで行われる宮城県、伊豆のペドローム富士スピードウェイなどで自転車競技などが行われる静岡県の3県での開催に限定されます。

 都道府県の実情に合わせるという理由でいったんは無観客が見送られていた北海道と福島県が、知事の判断で有観客を断念したと伝えられています。「全国で一律でないことで意義がなくなったとする」とする内堀雅雄福島県知事、「東京からの移動に対する感染対策が示されなかった」とする鈴木直道北海道知事。無観客を決断した両知事のそうした発言から見ると、組織委員会と立場を同じにすると川勝平太知事が発したという静岡県をはじめとする3県の判断は、県民の安全安心の観点から見れば疑問視せざるを得ません。

 宮城県村井嘉浩知事は感染が再拡大した場合には、方針転換の可能性を示唆したそうですが、感染が拡大した時点で既に犠牲者が出ているこということであり、県民の生活や安全を危機にさらしているということになります。しかも郡和子仙台市長は無観客開催の要請を組織委員会に出しているのです。

 宮城県では、2月に経済優先のため他県に先駆けで感染予防対策を緩和した結果、3月には、感染が抑えられてきた東北の中で際立って感染が激しい状況になりました。今回の村井知事の判断は、この時の反省が生かされているとは言えないでしょう。

 組織委員会は、人流の予防策として、チケットの再抽選の際に、抽選対象から東京など首都圏の在住者を外すことも可能だったはずです。それをしなかったことは、人流による感染リスクを軽んじていると言って良いと思います。北海道の鈴木知事が無観客を決断した背景はここにあるだろうと思いますし、宮城県も同様の要望をしても良かったはずです。

 札幌では、競歩とマラソン競技が行われます。サッカーに対して感染拡大防止の強いメッセージを発した鈴木知事が、人流をコントロールすることが難しい公道レースの開催に対して、さらに強いメッセージを発信することも考えられ、注目が集まります。

中継スタッフだけでも多くの人が移動し集まる

 もちろん、無観客にすることだけで、オリンピックによる感染拡大のリスクが抑えれたわけではありません。現在、次々と感染が発表されている来日した選手やスタッフはもちろんのこと、IOC関係者、そして中継スタッフを含むメディア関係者による感染拡大や、彼らが母国に持ち帰っての感染拡大の方が、リスクは大きいかもしれません。

 来日時から隔離状態にある選手らが日本人から感染した可能性は極めて低く、母国などから持ち込まれたと考えるのが自然です。ワクチン接種やPCR検査の来日前のルールが、決められた通り行われていたかは、甚だ疑問です。日本に行ってしまえば、なんとかなるだろうくらいの調子で来日している人もいるかもしれません。

 資格停止など明確な罰則がある選手たちでさえこの状況ですから、中継のスタッフや一般のメディア関係者が、組織委員会が定める感染予防対策などを守るはずがありません。

 オリンピックの中継は、競技ごとに世界中から選ばれた技術スタッフ、放送局が現場を担当し、それをIOCNBCが統括して、世界に映像を送り出します。日本からは毎回、NHKとその子会社の技術チームが参加していて、最新の中継車を持ち込んで、筆者が知る範囲では、柔道か体操、またその両方の中継映像の制作を担当しているはずです。

 そこで必要とされる人数は、競技の種類や中継の規模によります。日本のスポーツの中継体制で最も大きいのは、あまりに巨大で他と比較としようがない箱根駅伝を除けば、民放の日本代表のサッカーの公式戦でしょう。現場のスタッフは120名〜150名くらいでしょうか。マラソン中継では大会によってはそれ以上の場合もあるかもしれません。

 オリンピックで1会場で最もスタッフが多いのは、おそらく陸上競技でしょう。多くの種目が同じ日、同じ会場で、同時進行に行われるために、どうしても機材の数、スタッフの数多くなります。日本選手権のように、人気の無い種目はENG(ロケスタイル)で録画して編集映像で後出しするなどの手抜きは許されません。

 同じ陸上競技でも、オリンピックのマラソン中継は、日本のレースに比べればスタッフの数もカメラ台数もかなり少ないはずです。特に今回は半周回コースなのでかなり抑えられるはずです。

 とは言っても、最も多くのスタッフを必要とするのは、開会式と閉会式です。イベント進行のスタッフ、選手、ゲスト、さらにボランティアなども含めて、たとえ無観客でも相当の数の人が国立競技場に溢れることになるでしょう。

 そして、国内の大会や一般的の国際大会と決定的に違うのは、アナウンス周りです。実況アナウンサー、解説者、ディレクターなど5名〜10名程度のチームが、最大では、生放送の権利を持つ国数だけいるということになります。

 世界中のテレビスタッフが集まるオリンピックは、その腕や技術の見せ所であり、多くの人たちが共同で作業する場面も少なくありません。そうした中には法律にも無関心な人たちもいるかもしれません。7月13日にコカイン使用で逮捕された4人の外国人スタッフもそうした人たちでしょう。彼らが日本での感染予防などに興味があるはずもありません。

特権意識の強いメディア関係者が感染源になる

 メディアセンターでは、ノーマスクで食べ歩きする姿が散見されるという報道があります。これは事実でしょう。民族的や宗教的な死生観の違いなのか、ただ単に無知なのかわかりませんが、海外にはそもそもこういう人たちがたくさんいます。それはある程度以上知識があるはずのメディア関係者でも変わりはありません。大会スタッフはある程度行動をコントロールができますが、彼らはそうではありません。世界で最も勇猛果敢で、裏を返せば自己中心的な職種の人たちです。

 欧米のメディア関係者は報道の自由表現の自由を守る担い手の意識が日本以上に強く、それはそのまま特権階級という意識にも繋がっているのです。そうした意識は、自分たちは特別だという意識にも繋がり、行動にも表れます。それは、例えウイルスの前でも同様なはずです。

 日本人のメディア関係者であれば、ウイルスの感染が収まらない国に仕事で訪れたとすれば、たとえワクチンを打っていても、感染のリスクを最小限にしようという配慮をするでしょう。それは、誰か他人のためではなく、自分や家族のためにです。しかし、そうした考えを持たない人たちも、世界にはたくさんいます。

既に世界のフェーズは感染予防から経済優先に変わっている

 6月から約1ヶ月をかけてヨーロッパ各地で開催されていたサッカーのヨーロッパ選手権の決勝戦が、サッカーの聖地とも言われるイギリス・ロンドンのウエンブリースタジアムに6万人を超える観客を集めて行われました。このスタジアムは本来10万人入りますから、それでも遠慮がちな観客数ですが、これだけの人がヨーロッパ中から集まってノーマスクで集まって絶叫すれば、感染拡大は避けられないように思います。

 世界で最もワクチン接種が進む国の一つであるイギリスですが、ワクチン接種が進んでいるにも関わらず、急激な再感染拡大が進んでいて1日の新規感染者3万人を超える日があるほどです。日本の1日の新規感染者数の最多が今年1月上旬の約9000人ですから、人口が日本の約半分のイギリスでのこの数字は、検査方法や規模が違うとは言え、日本人の目から見ればかなり危機的な状況に見えます。しかし、ジョンソン首相が率いるイギリス政府は、このヨーロッパ選手権の決勝戦でノーマスクでの観戦を許可したほか、同じ時期にほぼ全面的な感染対策の解除を行なっています。

 MLB大谷翔平選手の大活躍のニュースでは、満員のスタンドで彼を応援する大観衆が映し出されています。しかし、アメリカでもまた、イギリス同様にワクチン接種が進んでいるのも関わらず、感染の急拡大が進んでいます。最近の1週間平均では約23000人の新規感染者が記録されていますが、バイデン政権は経済再興の推し進める方針を変更する様子はありません。

 この2カ国に限らず、世界的に見るとこの数週間で新規感染者数が増加傾向の国の方が多く、他の地域に比べてワクチン接種が進んでいるはずの欧州のほとんどに国々で、増加傾向にあります。また、これまで比較的感染が抑えられてきた東南アジアの国々ではこれまでにない爆発的な感染拡大が進んでいます。

 感染予防の決定打とされてきたワクチンですが、現在の世界各国の状況を見れば、ワクチンの感染予防の有効性は期待されていたほどは高くなく、変異株の出現で、さらに下がっていることはわかるでしょう。

 しかし、おそらく、世界の先進諸国は、変異株による致死率が急激にあがらない限りは、ワクチン接種を進めながら、経済優先の政策を進め、ワクチン接種者と感染者によって集団免疫ができるのを待つというのが共通した方向性ではないでしょうか。

 その中で、人気スポーツイベントは大衆から批判を受けずに、そのフェーズを転換させるための政治や経済界の道具になっているのかもしれません。

 大観衆で集まって大声で、贔屓の選手やチームを応援する。これまでの感染予防を忘れて、思いっきり叫ぶことができれば、もう元に戻ることはできない。そうした熱く強い思いはスタジアムだけでなく、映像を通して多くの人に伝播します。ワクチンも打ったし、コロナ以前の生活に戻ろうというムーブメントを作れるのです。

 もしかすると、オリンピックは、新型コロナの感染予防のフェーズから経済優先のフェーズへの転換のための、世界的なしかけになるはずだったのかもしれません。IOCや日本政府が、コロナに打ち勝った証としての通常開催にこだわったのは、オリンピックスポンサーのためだけでなく、世界や日本の経済界のこうした要望の応える意味もあったのでしょう。

 しかし、安心安全に敏感な日本の世論は、世界各国と比較すれば僅かな感染状況でも通常の開催を許しませんでした。海外からの観客の受け入れ中止、観客最大1万人50%と徐々に制限を強め、ついには自民党公明党が、都議会選挙の結果に身を案じ、ビビったことで無観客開催が決まりました。目論見が狂ったのでしょう。もし衆議院選挙が1年先だったら、スタンドいっぱいに観客が集まった中で競技が行われていたかもしれません。

 そして、無観客での開催になった今も、オリンピックのそうした転換装置としての役割を諦めていないはずです。世界に向けて発信される映像がそのツールであり、世界のアスリートたちがその転換装置そのものなのです。

 

新型コロナウイルスの感染者数の主なデータは下記から確認しました。

世界における新型コロナウイルスの感染状況・グラフ・地図