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東京オリンピック雑感 〜競技編〜

秀逸の結果のひとつは女子バスケの準優勝

 今回の東京オリンピックで、史上最多の金メダルを獲得した日本は、多くの選手やチームの活躍を見ることができましたが、一番のセンセーショナルな結果は、女子バスケットボールの準優勝ではないでしょうか。全てのメダルに優劣を付けるつもりはありませんが、世界で最も多くの人が楽しむ競技でのこの銀メダルは偉業と言っても過言ではないでしょう。

 開幕前は日本のバスケットボール史上初の2人のNBAプレーヤーを擁する男子チームが、世界の強豪のように報道され注目されていましたが、蓋を開けてみれば予選リーグ全敗で敗退。少し考えればわかることで、NBAのレギュラー選手を多数擁する国がいくつもある中で、日本は世界的に見れば特筆すべきでレベルではなく、当然の結果と言えるでしょう。

 それでも、3戦全敗という結果を関係者は重く受け止めるべきです。それが日本の男子バスケットボールの現実なのです。関係者の皆さんには、国内選手の育成やBリーグの競技力のアップが必要とされる結果だったと考えて欲しいと思います。

 一方で、女子チームは近年アジアの強国としての地位を着々と固め、その選手強化と組織としてのレベルアップが結びついた結果と言えるでしょう。それは二人のNBAプレーヤーの登場でいきなり世界の舞台に現れた男子チームと対照的である一方で、過去に捉われて時代についていけないサッカー女子チームにとっても良いお手本となってほしいと思います。

 予選リーグでアメリカに惨敗しながらも2勝1敗で決勝トーナメントに進んだ日本が、ベルギー、フランスといった強国を破って再び決勝の舞台でアメリカと対戦することを信じていたのは、トム・ホーバスヘッドコーチただ一人だったかもしれません。決勝では、得意の3点シュートを徹底的なマークを封じられるなど、オリンピック6連覇中の絶対王者の実力を改めて見せつけられた印象ですが、銀メダルの価値は変わりません。

 日本で指導者としての経験を積んだトム・ホーバスヘッド・コーチの指導の下で急成長した彼女らの姿は、2015年にエディー・ジョーンズヘッドコーチの下で南アフリカから歴史的な1勝をあげたラグビー日本代表を彷彿とさせますが、バスケットボールという世界的な人気スポーツでのこの結果は、それを凌ぐことでしょう。

 バスケットボールの競技人口は4億人を超えると言われ、サッカーのそれをはるかに凌駕します。また、女子の競技者が多いことも特徴です。その競技で世界ナンバー2になったことは、本当に素晴らしいことであり、今後も王者アメリカを追いかけて新しい挑戦を続けてほしいものです。

現体制になっても変わらない女子サッカーは時代の変化への対応

 一方で、さきほどあげた女子サッカーは、約10年前に世界的に見ればこの競技が草創期だった時期に世界トップだった時代の亡霊に取り憑かれたように、世界基準に向けて進歩することができていません。この大会での強豪国との対戦を見る限り、2016年に就任した高倉麻子監督になってもその状況は変わらないようです。その間、多くのサッカー強国が女子サッカーの本格的に強化を始め、競技としても様変わりしているのです。

 最も大きな変化はスピードでしょう。走るスピード、パスのスピード。特にサイドを駆け上がるなどのロングタームの走りや、くさびやサイドをチェンジする際の長めのパスのスピードの差は歴然としています。シュートスピードにも大きな差を感じます。日本の女子サッカーは一見、男子から見るとスローモーションにようにゆっくりに見えますが、今回のオリンピックで上位の成績をおさめたチームのサッカーは、少なくとも見た目のスピード感では遜色をあまり感じません。

 日本が得意とするパスサッカーは、自らのスローさの上に成り立っていることを自覚すべきです。チームとしてスピードを高めるには、個々にもっとフィジカルの高い選手を集める必要があるはずです。それができなければ世界との差は開くばかりです。

 求められるのは小柄でも球扱いが上手い選手ではなく、体が大きくフィジカルが強くスピードのある選手です。この違いは今回の大会で露呈した球際の弱さにつながっているはずです。そうした強化ができないのであれば、男子のJリーグのように、世界基準ではなく日本独自の進化を目指すしかないでしょう

 同様のことは、今回、予選リーグで敗退した女子バレーにも言えるかもしれません。但し、長年、国内では女子の人気スポーツであり続け、世界のバレーボールの普及や強化にも貢献してきた日本のバレーボールには、おそらく、日本人の中では、身長が高く運動能力が高い選手が集まっているはずです。それでも、世界との戦いの中で、すでに限界が来ているのであれば、他の競技のようにフィジカルの能力が高い人種の血を、積極的に取り入れなければならない時期に来ているのかもしれません。

オリンピックに優勝して世界一と言えない野球の現実

 日本では大人気の野球ですが、現状のままではオリンピックで開催される競技としての意義は感じられません。その理由は、この大会で優勝してゴールドメダリストになっても、世界一とは言えない現実があるからです。

 この大会に出場している選手の上には、オリンピックに出場が認められていないMLB32チームの合計1280人の選手がいます。今回はその下のリーグの3Aの主力選手もプロテクトされて出場していないようですから、その数はもっと多いはずです。そうした中で選ばれたアメリカチームが決勝戦まで進むということは、日本をはじめとする他のチームのレベルも推して知るべしということです。おそらく、MLBの中位以上のチームが単独で出場しても優勝を争えるのではないでしょうか。

 オリンピック開催の直前、大谷翔平選手が二刀流で出場したMLBのオールスターの舞台は、田中将大投手など一部の例外を除きオリンピックの野球競技に出場したほとんどの選手たちにとって憧れの夢舞台であり、それがオリンピックの野球競技とMLBの位置関係です。

 3年後の次回パリ大会での競技実施がないことは決まっていますが、その次のロスアンゼルス大会で、母国開催となるMLBがどのような判断を下すのかが、この競技の将来を決めることになるかもしれません。

 一方で、男女のパッケージとして開催されているソフトボールが、本当の意味で、世界一を争う貴重な機会になっていることは野球と対照的で、不幸な宿命を背負わされてしまっています。

 世界で最も野球の競技人口の多い日本の野球関係者は、こうした問題についてもっと考え、世界的な議論を巻き起こすべきでしょう。この大会に優勝して「世界一」と喜んでいるようでは、オリンピックでの競技実施どころか競技人口の減少を止めることもできないでしょう。

日本の強化方法は最新化できているのか?

 今回のオリンピック期間中、中継放送で多くの競技を雑観する中で、上位の結果をおさめる他国の選手と比較して、強化の方法やフィジカルコンディションの調整の方法が、日本は違っているだろうと感じる競技がいくつかありました。その一つが女子マラソンです。

 スタート序盤、レースを先行した前田穂南選手は、中継で見る限りオフィシャル以外のドリンクステーションの水などにほとんど手を出さなかったように見えました。多くの海外の選手が、レース序盤からできる限りの頻度で水分を補給し、その水を頭から被り、ビニール袋に入った氷を手にして走っていましたが、彼女はドリンクステーションとは逆側を素知らぬ様子で走っていました。

 もちろん、それが最終的に33位だった彼女のその後の失速の原因だというつもりはありません。持ちタイムから見れば当然の成績とも言えるのですが、彼女の最大限のパフォーマンスの発揮を邪魔した可能性はあると思います。中継では、レース終了後のハイライト映像の中で彼女の様子が多く取り上げられていて、レース終盤でも、他国の上位選手のように全身に水をかぶったような様子は全くなく、帽子をかぶったまま淡々とクールにゴールまでたどり着いた様子でした。前田穂南選手ほどではないものの、8位に入賞した一山麻緒選手も、他国の選手に比べれば、ドリンクステーションの利用は明らかに少なかった印象です。

 こうした行動は、「私は大丈夫」という本人の思いと我慢を重要視する長年の日本の指導の結果だと思われますが、これ自体が誤りではないでしょうか。

 日本では市民ランナーレベルの大会でもドリンクステーションが設置されるのがあたり前になり、彼女らが出場するような国際レベルの大会ではさらに充実した対応がされています。

 ですから、レース中に水分補給を抑えて我慢する必要はありません。むしろ、普段のトレーニングの中でも、こまめに水分補給したり、氷など使って体を冷やしながらでも、効率的に走るトレーニングをすべきでしょう。また、トレーニングの中で積極的に水分補給することで、厳しいトレーニングによる体へのダメージを減らし、その結果トレーニング量を増やすことができたり、翌日には、よりフレッシュな状態でトレーニングを迎えることにも繋がるはずです。

 日本のスポーツの現場で、水を摂取するが明らかな悪だと考えられていたのは、どれくらい前だったでしょうか? その影響は、今も特にベテランの指導者を中心に残っているのかもしれません。

 女子マラソンで言えば、もう一つ気になったは、前田穂南選手の体の細さです。アフリカ系の選手は、はっきり言って、筋肉の質も骨格の構造も、白人や黄色人種とは異なるので比較の対象にはなりませんが、白人のトップレベルの長距離の女性ランナーたちは、以前にくらべて明らかに肉付きが良くなっています。ガリガリで痩せた印象の選手は少なく、今回3位になったアメリカ代表のモリー・セイデル選手にように、女性らしいフォルムを持っている選手も少なくありません。

 しかし、日本では多くのトップランナーが、極限まで絞り込んだ体型をしています。骨格と筋肉の質による個体差はあるとは思いますが、日本と世界では異なる強化の方向を見ているように思います。

 今回の大会の日本選手でも、トラックレースで結果を残した田中希実選手と廣中璃梨佳選手は、以前に比べて若干ですが肉付きが良くなった印象がありましたが、私の錯覚でしょうか? 過酷な真夏のレースに向けて、周囲が適切な対応を行ったと考えたいと思っています。

大坂なおみ選手は競技に専念すべきだった

 日本が過去最多の金メダルを獲得した中で、金メダルや表彰台を確実視されていながら、期待された結果が残せない競技も数多くありました。

 その一つが大坂なおみ選手でしょう。メンタル的なダメージを理由に、全仏オープンを棄権した彼女にとって、2ヶ月ぶりの復帰戦となったオリンピックは、それほど甘くはなかったようで、この大会の目玉の一つとも言えた彼女は3回戦で姿を消しました。

 海外メディアの中には、開会式で聖火の最終ランナーの役割を演じたストレスを理由に指摘するものもありましたが、筆者から見れば、よく引き受けたなあという印象です。多方面でメッセージを発信し続ける彼女と、多様性を大会コンセプトの大きな柱にする組織委員会の利害が一致した結果だと思われますが、彼女の状況を考えれば、アスリートの本質として、競技に専念すべきだったのではないでしょうか。テニス界にとってオリンピックのメダルがどれだけの価値があるかはわかりませんが、開会式に出演するよりも、この大会で競技者として結果を残すことの方が、彼女が発するメッセージをより強くすることに繋がったことは間違いありません。

 そもそも、アフリカ系とアジア系のハーフは日本ではまだまだ珍しく、彼らの姿を興味本位で見る人も少なくないかもしれませんが、世界の国々では日常に過ぎないはずです。世界の基準で見れば、大坂選手はあの舞台に立たなければいけない多様性の象徴ではないはずです。

起こるべくして起こったリレーのバトンミス

 もう一つ、印象的なシーンをあげるとすれば、男子4×100mリレー決勝での、日本チームのバトンミスによる失格敗退ではないでしょうか。2008年の北京大会、前回のリオ大会での銀メダルをはじめ、日本の短距離界では稀有の成績を残してきたこの競技の日本の武器は、洗練されたバトンパスでした。個々のランナーの走るスピードで劣る日本が、早いバトンパスで世界の頂点を目指してきたのです。

 結果は1走から2走にバトンが渡らずの失格。「バトンの日本」にあるはずのない失敗に、テレビ中継の解説者や実況アナウンサーは「攻めた結果」であることを強調しました。この攻めるとは「ギリギリまで早いバトンパス」を目指したということでしょう。

 なぜ、その必要があったかというと、予選での日本のタイムが全体の9位だったからです。予選から決勝の間に個々の走力がいきなり上がるわけはありません。しかも、日本は予選からベストメンバーで臨んでいましたが、上位の国は決勝に向けてメンバーを入れ替えレベルアップしてきているのです。前回大会の銀メダルに続いてあわよくば金メダルを目指すことを公言してきたリレーメンバーにとっては、そうした中で予選以上のタイムを出すには、バトンパスをギリギリまで「攻める」しかなかったのです。ですから、攻めた結果ではなく、攻めるしかなかった結果なのです。

 日本がバトンパスを失敗したシーンのスローモーション映像を見て感じたのは、限界までアップした走るスピードの中で、「攻めたバトンパス」に確実性を求めること自体に無理があるのでないか、ということです。

 私たち日本人は、日本より速い走者を揃えるアメリカやジャマイカ、カナダをバトンパスを見て、どうして彼らはバトンパスをもっと早くできるようにトレーニングしないのだろうと考えてきました。しかし、実際に走ること自体がある程度以上に速くなると日本が得意とするアンダーパスをはじめ、速いバトンパスの成功率が極端に下がるのではないでしょうか。だから、強国たちはバトンパスのスピードが高めることよりも、走力自体を高めることを優先してきたのです。

 今回選ばれた日本の4人のメンバーは、初めて全員が持ちタイムが9秒台になりました。いわば史上最速のメンバーです。だからこそ、今回のバトンパスの失敗は、日本の男子の走力の向上とともに避けては通れなかった失敗だったのです。それと当時に、日本にとってこの種目における新しい幕開けになるのではないでしょうか。

完走する価値よりも棄権する勇気を

 最終日に行われた男子マラソンでは、世界記録保持者キプチョゲ選手の別次元の走りに圧倒された一方で、劣勢が予想された日本選手の中で、このレースでの引退を表明していた日本記録保持者である大迫傑選手が、粘りの走りで6位入賞を果たしたことは心から賞賛を贈りたいと思います。

 63位の中村匠吾選手、73位の服部勇馬選手にも同様の賞賛を贈りたいとは思いますが、大会の1年延期決定直後に早々に下された代表選手を変更しない日本陸上競技連盟の代表決定方法や、2019年9月の代表決定レース以降、この2人が一度もレースを走っていないことを含めた、強化方法には多くの疑問が残ります。

 さらに、このレースで、左足の太もものトラブルと脱水症状らしい症状にも関わらず完走した服部選手に対して、元日本記録保持者で強豪チームの監督を務める高岡寿成氏は、中継の解説の中で、最後まで完走したことには意味があると語っていましたが、筆者は明らかに反対です。

 体にダメージを負った状態で走り続けることは、そのダメージをさらに悪化させることに繋がり、長く走れば走るほど、回復までの時間が長期化する可能性があるばかりか、選手生命を脅かす可能性すらあります。選手本人がダメージの程度は測るのは難しいこととは思いますが、完走を目標をした走りをするのではなく、棄権をする勇気を持って欲しいと思いますし、それはオリンピックという舞台も同じです。

 もし、ランナー自身や周囲が危険を判断しづらい環境が日本のマラソン界やスポーツ界にあるとすれば、いち早く改善を目指すべきだと思います。

 

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