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東京オリンピック雑感〜新型コロナと感染対策〜

世界的に深刻さを増す新型コロナ感染再拡大

 9月から始まるサッカーの2022年カタールワールドカップアジア最終予選では、本来中国国内で開催されるはずの中国ホームの日本戦が、カタールのドーハで開催されることが決まっています。新型コロナウイルスの感染拡大のために厳格な入国制限を行なっている中国政府が、自国での開催を認めなかったようです。

 さらにオーストラリアも自国での開催が難しいようです。厳しい入国制限に加えて、自治体がバブル開催のために必要なリソースの提供を拒否しているのです。スポーツの国際試合の開催より地元の安心安全を優先する至極当然の選択ですが、日本の自治体ではほとんど考えられない判断ではないでしょうか。

 一方で日本は政府のゆるい感染対策のために、日本の自国開催は今のところ支障はないようですが、日本の感染状況や感染対策のレベルから、入国時の感染のリスクの高さや、自国などへの帰国時に長期の隔離対象となるなどの理由で、日本での開催の変更が要望されたり、出場を辞退する選手が現れるかもしれません。

 世界的にワクチンの接種が進むことで、感染が抑えられると考えられて来ましたが、2度のワクチン接種でも感染する例が多数報告された上に、接種によって重症化が抑えられる可能性は高いものの、ワクチン接種が進まない国々や、日本を含めた医療体制が脆弱な国々では、これまで以上に深刻な状況に陥っています。

 もう1ヶ月前になってしまいましたが、サッカーの母国イギリスでは、ヨーロッパ選手権の決勝が6万人以上の有観客で行われ、大変な盛り上がりを見せていました。これがいわばイギルス政府の新型コロナウイルス対策に関する事実上の勝利宣言だったはずでしたが、現実的には、感染者数は高止まりしたままで収束の見込みは見えていません。イギリス政府は、その後、この決勝戦を含むロンドンで行われた8試合で6400人の感染者が発生したという調査結果を公表しています。

 一方、アメリカからは大谷翔平選手の活躍を伝える映像で、すでに入場制限が解除された賑やかなスタンドの様子が伝えられています。アメリカの感染者数は右肩上がりで、今月に入ってからは1日の感染者数が20万人を超える日もあって、それに伴って死者の数も増えています。それでもアメリカ政府が表立って感染対策を行おうとしないのは、バイデン政権がすでに経済優先の政策に舵を切っていることと、政策の成果として位置付けたコロナ対策の不備を認めることに繋がるという、日本と同様に国民の安心安全よりも政局を優先する姿勢によるものでしょう

 こうした世界の情勢に中で開催された東京オリンピックは、果たして適正に開催されたのでしょうか。

コロナ禍にも関わらずなし崩しに開催された東京五輪

 1年の延期を経て、当初、通常開催を主張していたIOC組織委員会、東京都、そして日本政府でしたが、3月に海外からの観戦者の受け入れを断念、さらに7月9日には東京都などに緊急事態宣言が発布されることを受けて、一都三県で行われる競技について無観客での開催を決定しました。

 こうした対応はあったものの、海外を中心に専門機関や大手メディアから多くの批判をされながらも、開催ありきで敷かれたレールに乗って開催の是非についての具体的な議論が全く行われないまま、東京オリンピックは1年遅れで開催されたのです。

 開催前、国内を対象とした多くの調査でオリンピックの開催に反対、または再延期を望む意見が8割を超えていました。しかし、開催後に行われた調査では、開催してよかったという意見が概ね6割を超えています。

 人々がどうして心変わりしたのか具体的な理由はそれぞれにあるようですが、東京オリンピックの招致中に開催されたロンドン大会で、日本が史上最多の金メダルを獲得した結果、東京開催に懐疑的だった世論が、一気に開催賛成に回ったのと似ています。

 一方で、アメリカでは、開催前にオリンピックをテレビ放送するNBCのCEOジェフ・シェル氏が、オリンピックが始まれば人々は全てを忘れて熱狂するとコメントしていましたが、彼の予想は外れ、アメリカでの東京オリンピックの視聴率は史上最低に終わったようです。

 この原因として、アメリカから見て地球の反対側の日本で開催されたために、時差の関係でアメリカでライブ放送を見ることが難しかったことや、アメリカで大人気の陸上競技アメリカ勢が思ったほど活躍できなかったことも挙げられます。一方で、トレンド的に手放しでオリンピックに興じる雰囲気ではなかったことも想像できますが、さきほどもあげた現在のMLBのスタンドの様子を見ると、新型コロナに関係なくスポーツに興じるアメリカ国民は相当数いそうです。無観客での開催はやはり映像を通して見ても盛り上がりに欠け、それが視聴率に影響した可能性もあるかもしれません。

 日本では、管政権が、オリンピック、パラリンピック開催を支持率浮揚に結びつけようとしたと言われています。しかし、少なくともオリンピックが終わった段階で、その効果はなく、管政権の支持率の低迷は続いています。

 そもそもオリンピックの開催は、開催都市とその国のオリンピック委員会が設立する組織委員会IOCが開催するもので、日本政府はサポート役だったはずです。過去の大会を振り返ると、明らかに身の丈に合わない計画での開催で膨大な赤字を計上した2004年のアテネ大会、国策として開催されて2008年の北京大会あたりから、国が前面に出ることが当たり前になり、東京大会ではさらに国主導が顕著になりました。

 新型コロナウイルスの感染対策にため、防疫という国レベルの判断やサポートがこれまで以上に必要になったことで、日本政府は渡りに船とばかりに表舞台に積極的に登場しました。そのきっかけは安倍前総理が高額な建設費が問題視された国立競技場の計画を、自らの判断で白紙撤回させたところから始まったと言っていいでしょう。

 一方で、政治的な主導による国家レベルでの開催は、現バッハ体制のIOCも望むところで、これを歓迎し積極的に日本政府を交渉に舞台に誘いました。

 しかし、日本政府や自民党政権にとってはこれが仇となったのではないでしょうか。先にあげた国立競技場をはじめとする競技施設の建設費の問題や大会ロゴの盗作疑惑に始まった開催をめぐる様々な問題の全てが政府、自民党公明党の政権と関連づけられることになったのです。その中には、感染の再拡大が確実視されたために世論の多くが否定的だったオリンピックをなし崩しに開催したことや、バブル方式で安全安心の開催を約束しながら、選手や関係者に多数の感染者が確認されたことにも含まれます。

 東京オリンピックへの世論の肯定的な変化は、選手の活躍や現場レベルの運営に対するもので、IOC組織委員会、東京都、そして政府や管政権への評価はさらに下がったかもしれません。

 東京オリンピックを強行開催したIOC組織委員会、東京都、日本政府に「ありがとう」と言うのは、選手やその関係者に限られているでしょう。

 あえて言えば、長引く規制のため外出ままならぬ状況の中で、オリンピックというコンテンツがテレビを通して提供されてことは、多くの人にリフレッシュの機会を提供したと思います。また、アスリートたちの懸命に競技に取り組む姿や表情が、人々の心である種の清涼剤のような役割を果たしたかもしれません。

 しかし、それが東京で開催される必然性はありません。

東京オリンピックのコロナ対策は有効だったのか?

 組織委員会IOCは、選手をはじめとする関係者と外部との接触を避けるバブル方式での開催を目指し、選手、スタッフ、関係者を対象とした感染予防対策を「プレーブック」としてまとめ、行動の制限をしています。もうすぐ始まるパラリンピックも同様の制限を行なっています。

新型コロナウイルス感染症対策|新型コロナウイルス感染症対策等|東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 東京都ポータルサイト

 人との距離を保ったり、人ごみでマスクでの着用、大声での会話の禁止、手洗いの推奨など、一般人と変わらない予防対策に加えて、入国までに2度のワクチン接種とPCR検査を義務付け、原則、宿泊施設と競技施設以外への外出を禁止し、移動は原則専用の車両を使用、また行動をスマホの位置情報によって管理するなどの項目が並んでいます。

 守らなかった場合には、参加資格を失うなどの罰則が設けれて、実際に観光目的で外出したジョージアの2選手が資格剥奪の処分を受けています。

 しかし、そもそもこのプレーブックに書かれている規約は効果と実効性が当初から疑問視されていました。

 例えば、テニスの全豪オープンで行われたような、宿泊施設内での自室以外の厳しい移動制限がなく、選手村などでいったん感染者が発生した場合に全く歯止めがかからない状態です。

 マスクの着用が義務付けられ、声を出しての応援が禁止されているにも関わらず、会場のスタンドで自国の選手を応援する関係者のグループの姿をテレビ中継で何度も見ましたが、彼らへは形ばかりの注意のみで、期間中、いつの間にかそれが当たり前の姿になっていました。

 さらに選手やスタッフの感染が明らかになった場合でも、試合や対戦を中止するなどの基準が具体的に設けられていないことも明らかになりました。感染が確認された場合でも、安全よりも日程終了が優先されて、当該の選手以外は試合を続ける前提で大会は進行されていたのです。

 本気で感染拡大を危惧していれば、開会式、閉会式に多くの選手を参加させなかったはずです。開会式や閉会式は競技とは全く関係ないセレモニーです。そのセレモニーとしてもどちらも各国1名ないし2名で十分だったはずです。

 一方で、2度のワクチン接種と事前のPCR検査が義務付けられてるにも関わらず、来日直後の選手、スタッフに感染が次々と公表されたのはなぜでしょうか。IOC組織委員会はこのあたりを検証する気も必要性も感じていないようですが、本来であれば厚生労働省が遺憾の意を示して、パラリンピックに向けた対策強化のためにも調査を要求すべきだったはずです。

 行動制限に関しても、IDを付けた選手か関係者らしき人々が、町歩きをする目撃情報がネット上に数多くありますし、筆者自身も選手村以外の宿泊施設の近くで、その施設に滞在する国名の入ったジャージを来た若者たちが、マスクをせず談笑しながら歩いている姿を見たことがありました。

 最も疑問視されていたスマホの位置情報による行動制限は、開催が近づくにつれて話題にも登らなくなったのですが、あれは実際に行われたのでしょうか?

 最終的に、組織委員会は400人を超える感染者が発生したことを公表していますが、この数字が客観的に見て多かったのか少なかったのかはわかりません。そもそも海外から大挙して来日した外国人について、組織委員会が実態を把握できているのは選手などごく一部であることとは想像できますし、把握できていたとしても事実を公表しているとは限りません。

 日本人については、バブルの接点にいたボランティアをはじめとする関係者やその人たちの濃厚接触者に相当する場所にいる人たちの感染状況が最も危惧されますが、政府、自治体も含めて積極的に追跡をする気はないでしょう。

 また、海外の選手、関係者が自国に帰った後の状況も気がかりです。こちらもIOCがフォローするとは思えません。

オリンピック開催は新型コロナ感染拡大に繋がったのか?

 オリンピック開催は新型コロナウイルスに感染拡大に無関係だという意見もあるようですが、筆者は少なくとも間接的な影響は大きいと考えます。その理由は下記の通りです

  • オリンピック開催によって多くの国民がお祭りモードになり行動抑制の阻害された
  • 開会式、閉会式の国立競技場の周辺やロードレースの会場を中心に多くの人出があり「蜜」が作られたのと同時に必要不可欠ではない大きな人流が作られた

 後者については、感染拡大につながった可能性は否定できないものの、現在のように感染者が急増した状況では、既にそれよって生じた状況自体の影響は限定的だろうと想像されますが、前者についてはその影響は無限大と言っていいほどだと考えます。 

 首都圏では感染拡大を目的とした行動が制限される期間が長期化し、いわゆるコロナ疲れ」が慢性化し、さらに4度目の緊急事態宣言が発布された中で開催されたオリンピックは、行動を抑制しない理由を与えたことになるでしょう。

 長く我慢と犠牲を強いられてきている中だけに、ムードは大切なはずです。

「オリンピックだってやってるんだからいいだろう」というムードは、「オリンピックだけ特別なのは許さない」という声とともに、国民を我慢から解放してしまったはずです。

 その結果が、オリンピック開催と並行して起こった、専門家すら想定しないスピードでの感染拡大に繋がっているのではないでしょうか。

オリンピック開催は東京の医療に負担をかけたのか?

 東京オリンピックの閉幕に前後して、テレビに出演してコメントをする医療関係者や東京都医師会の関係者から、「今までのコロナ医療の携わってこなかった医療関係者にも(コロナ治療に)関わって頂く必要ある」等々の発言を聞くようになりました。

 このメッセージの宛先は、おそらくオリンピックに関わった医療関係者なのでしょう。ボランティアの「スポーツドクター」を含めて、500人以上の医療関係者が試合会場や選手村などで、期間の違いはあるにしてもオリンピックに専従で作業にあたったはずです。

 スポーツドクターとして全国からボランティア参加した医師の多くは、整形外科などが中心なはずで、通常であれば新型コロナの治療に対応する呼吸器系、内科系の専門医とは明らかに異なりますが、新型コロナ患者を多数受け入れている大病院では、こうした専門を超えて新型コロナ患者の治療に当たっていると聞きます。ワクチンの接種には歯科医があたっている自治体もあります。実際の医療現場はそれほどの総動員体制なのです。

 むしろ、通常の業務を離れて一定期間ボランティア参加できる環境の医師は、新型コロナ治療の医療現場にも参加することが、物理的に可能であることを示しているのです。彼らがもしオリンピックではなく、例えば東京の切迫する医療現場にいたとしたら、大きな戦力になった可能性もあるのでしょう。

 また、オリンピック専従の医療関係者の中には、当然、呼吸器などに対応してきた医師もいたことでしょう。彼らについても同様です。

 茨城県は、オリンピックが始まる前に、オリンピック関係者に対して優先的に医療を提供することを拒否していて、パラリンピックでも同様です。それほど切迫した状況の中で、オリンピックの関係者で感染が確認された人たちに、どのように医療が提供されたのでしょう。

 こうして考えていくと、すでに入院の受け入れ先がなく自宅で命を落とす人、救急車を呼んでも適切な治療を受けることができないほどの医療崩壊に直面している東京で、もしオリンピックに投じられた医療資源が、こうした一般のコロナ治療に使われていたとすれば、助かる命がいくつもあったはずと考えるのは当然のことではないでしょうか。

 これはオリンピックに比べれば規模が小さくなるパラリンピックでも同様です。

 

 このブログを書いてる8月22日現在、オリンピック開催と並行するように急拡大した新型コロナウイルスの感染拡大は止まることを知らず、そのままパラリンピック開幕を迎えようとしています。

 強靭な肉体を持つオリンピアンとは違って、パラアスリートの中には、内臓疾患を持っていたり、一般の人と比べて極めて抵抗力の低いアスリートもいます。しかし、オリンピックを見る限り、IOC組織委員会によって作れたバブルは不完全で、十分な感染対策がされていると言いがたい状況です。

 国際パラリンピック委員会(IPC)は当初、感染対策に自信を見せていましたが、8月21日にはアンドリュー・パーソンズ会長が感染状況によって「新たな対応」があることを示唆しました。

 オリンピック閉幕後、IOCの関係者や世界各国のメディアからは、日本の大会運営や感染対策を賞賛する声が上がっています。確かに、未曾有の危機の中で開催を全日程終えたこと自体は評価に値するかもしれませんが、本当の評価はこれからです。

 今後、日本国内の感染状況や、世界の感染状況によっては、東京オリンピックパラリンピックが新型コロナによるパンデミックマッチポンプとして、歴史に刻まれるかもしれません。

 

最後までお読み頂きありがとうございました。先行して下記のようなブログもアップしています。ご一読頂けると幸いです。

東京オリンピック雑感 〜メディア編〜
東京オリンピック雑感 〜競技編〜
東京オリンピック雑感〜パリンピックの価値〜