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北京オリンピック雑感5(2/10)〜ゼロコロナ体制の中のオリンピック〜

人権をも無視した徹底的な予防が行われるゼロコロナ体制

 新型コロナウイルスの発生源だと一般的に考えられている中国は、その後の徹底的な防疫対策で、一時的には世界で最も感染対策に成功した国になったと言えるでしょう。

 そんな中国も昨年後半から主流となったそれまでの3倍以上の感染力があると言われるオミクロン株の感染拡大を防ぐことは難しく、人口1000万人の大都市西安がロックダウンを行うなど、厳しい対応が余儀なくされました。

 厳しい行動制限や街中に薬剤を撒いたり、火炎放射器の高熱で防菌する様子の映像を日本でも見ることができました。ゼロコロナの大号令の元、徹底的なウイルス対策が行われたのです。

 北京冬季オリンピックはそうした中でゼロコロナの体制の中で行われているです。この大会でのウイルス対策は、中国政府にとって国の威信をかけたものだったはずです。

 海外からのウイルス流入を防ぐために海外からの観客は早々に断念していましたが、国内向けのチケット販売を諦めたのは、大会およそ1ヶ月前でした。それだけ、感染拡大に強い危機感を持っていたということになるでしょう。 

 東京大会や他の国際的なスポーツイベント同様に大会会場や施設と一般の人たちの導線を完全に分けて、人の交流も制限するバブルと呼ばれるシステムで開催されています。

 バブルとは名ばかりの穴だらけの半年前の東京大会の感染対策と比較して、中国であれば、外部とバブル内とを完全に隔絶した本来あるべき厳密なバブルを形成することができるはずです。物々しいスタッフのいでたち、何重にも建てられたフェンス。人権を無視した厳しい行動制限や管理も、中国の体制ならではのものでしょう。

 さらに、オリンピック期間中バブルの中にいることになる選手やスタッフ、メディア関係者は、中国政府は何をするかわからないという、半ば恐怖も手伝って、決められたルールを厳密に守るはずです。

 中国の厳しいシステムに否定的な意見もあるようですが、選手や関係者の感染やクラスターの発生を防ぎ、海外から中国国内に新たにウイルスが持ち込まれることを防ぐためにも、必要とされる対応なはずです。

 少なくとも競技に出場するアスリートにとっては、感染リスクが高く、名ばかりの東京大会のバブルよりも、多少の不自由があったとしても、より感染リスクが低い中国の厳格なバブルの方が、安心して競技に専念でき、彼らから支持されるはずです。

 半年前を振り返ってみれば、私たちも、東京大会の組織委員会が決めた名ばかりのバブルの様子を見て、大会関係者や選手村からの日本国内への感染拡大を危惧したはずです。

感染対策に反して会場に響く中国応援団の声

 6日に行われたアイスホッケー女子の予選リーグの日本対中国戦は、1対1で延長戦に突入し、それでも決着が付かずに、ペナルティショットによって中国が勝利するという白熱した試合が行われました。

 ネット上では、この試合で中国を応援する観客の声に否定的な意見が多数見受けられました。確かに、組織委員会では、感染防止のために観客の声による応援を禁止しているようですが。この試合ではそうした規制も無いかのようでした。

 テレビの中継では、この大会は組織委員会から選ばれた団体のみが入場していると繰り返しコメントしています。合唱したり大声での応援を感染対策上、問題視する声も多数をあるようですが、国家主席のゼロコロナの大号令の元、国家プロジェクトとして感染対策が行われる中で、組織委員会が選んだ特別な観客の感染の可能性は限りなく、感染拡大の可能性はゼロに近いでしょう。

 日本戦となれば、オフィシャルが応援を辞めさせなかったのは当然かもしれません。中国人にとっては、絶対に負けられない戦いです。特に女子のアイスホッケーの中国チームは、選手の半数以上が北米などからの帰化選手で構成されていて、自国開催のオリンピックでメダルを獲得するための国策が透けて見えています。

 多くの観客による中国への応援によって、日本にとってのアウェイ感を批判する声もあるようですが、普通にチケットを販売していても状況は同じで、多少の日本人の観客がいたところで、中国の大応援にかき消されてしまうでしょう。

 選手たちも、相手の応援であっても、全くの沈黙の中よりはプレーがしやすいはずです。幸い、中国語で多少野次られたところで、おそらく、意味を理解できる選手は日本にはいないでしょう。 

「感染のリスクよりも一生に一度の経験を」と言って強行された、東京大会の学校招待とは全く次元が違います。徹底的な感染対策と検査体制があってこそ、出来ることなのかもしれません。

陽性になると厳しい隔離生活が待っている

 このような厳しい感染対策を行っても、残念ながら全く感染者が出ていないわけではありません。組織委員会は競技が始まった2月3日の時点で、選手や関係者から350人を超える陽性反応が出ていることを明らかにしています。

 入国前から中国の厳しい検疫は分かっていましたから、多くの外国人は出国前の自国の検査で少しでも疑わしければ、訪中しなかったはずですから、東京大会で入国前後の検査で次々の陽性者が確認されたのとはかなり状況が違うはずです。聞けば、日本であれば陽性になっても、完治するまで治療してくれるという安心感があったと聞きます。

 実際に中国国内の検査で陽性になった人は、想像通り厳しい状況におかれているようです。入国直後の検査で陽性になったスケルトン女子ベルギー代表キム・マイレマンス選手は、ホテルに作られた隔離施設に移動させられて、さらに隔離が解除されるべき日に別の隔離施設に移動させられて隔離生活が続いたと報道されています。

 幸いマイレマンス選手の場合は、 IOCが介入して既に選手村に移動しているそうです。

 一方で、同じく陽性のために隔離されたバイアスロン女子ロシア代表のワレリア・ワスネトコワ選手は、量的にも内容的にも満足な食事が与えられず、骨が浮き出るほど体重が減ったと窮状をSNSで訴えています。

 こうしたところに中国の人命軽視、人権軽視の国の本質が表れているのでしょう。特に医療や福祉が進んだベルギーなどの選手にとっては苦痛な時間が続いたことと思います。また、トップアスリートに対するリスペクトを感じられないのもこの国の特徴です。自国のオリンピアンやメダリストに対する彼らのリスペクトは、トップアスリートに対するものではなく、国威高揚に繋がる英雄に対するものなのでしょう。

 オリンピアンがこの扱いでは、もし西側のメディア関係者が陽性になったらと思うと恐ろしくなります。

 早急に組織委員会や中国政府に、グローバルスタンダードに相応しい対応を求めて、状況を改善をするのがIOCの責任になります。