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北京オリンピック雑感6(2/12)〜ロシア・ワリエワのドーピング疑惑の衝撃〜

ロシア・ワリエワのドーピング疑惑の衝撃

 ロシアの女子フィギュアスケートのカミラ・ワリエワ選手のドーピング疑惑が、北京オリンピックに大きな影を落としています。

 2月4日から7日まで行われたフィギュアスケート団体戦は、優勝ロシアオリンピック委員会ROC)、2位アメリカ、3位日本で終了し、8日にメダル授与式が行われる予定でした。しかし、その表彰式が理由が明確でないままキャンセルされ、翌日、イギリスのオリンピック専門メディア「インサイド・ザ・ゲームズ」がワリエワ選手のドーピング疑惑を発信しました。

 

 IOCは報道担当の定例記者会見で、法的な問題があり、具体的なことは話せないと言いながらも、報道された内容を否定も非難もしなかったことから、ワリエワ選手がドーピング検査で陽性だったことは間違いない状況でした。

 大会前の検査の結果がメダルセレモニーの直前のタイミングで出たようで、今回検出された薬物はトリメタジシンという慢性的な心臓の疾患の治療に使われる薬物で、心臓の機能を高め血流を増やすことで競技能力を高めることができるそうです。

 今回IOCが、この問題の詳細を明らかにしてこなかったのは、ワリエワ選手が15歳で、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)に16歳未満のアスリートのドーピング違反については公表しないという規定があるからだと言われています。一方で、団体戦のメダルに関わる以上、事実を公表する必要がありますし、過去の例から考えれば、ROCのメダルは剥奪され、順位が繰り上げられることになるはずです。

 しかし、11日にドーピングの検査を担当する国際検査機関(ITA)が詳細を発表しました。ドーピングがあったのは、やはりワリエワ選手で、12月25日に採取された検体から陽性が8日に判明したそうです。

 本来、公表しない規定ですが、すでに実名で報道されているためITAが公表に踏み切ったそうです。

ドーピングを有耶無耶にするロシアの対応

 問題を複雑にしているのは、検体が採取されたのがロシア選手権の期間中だったためです。規定では国内大会のドーピングについて、WADAにもIOCに管轄権がないそうです。このため、陽性が判明した時点でITAが暫定的にワリエワ選手を資格停止にしましたが、資格に対して決定権を持つロシアのアンチドーピング機構は資格停止を解除し、当然ロシアのオリンピック委員会はこれを支持しています。

 このため、ワリエワ選手は15日の個人戦に向けて11日の公式練習に参加しました。このままでは、ドーピングがあったことが認定されている選手が競技に出場することになります。しかも、彼女はダントツの金メダル候補です。

 但し、オリンピックの参加資格についてはIOC国際スケート連盟にもスポーツ仲裁裁判所へ提訴する資格があります。このため両者はスポーツ仲裁裁判所へ提訴し、15日までに結論を出すように求めるそうです。

IOCはロシアの組織的なドーピングに寛大であり続けた

 そもそも、今回の問題はIOCにも原因があります。2014年に内部告発によって、ロシアの国ぐるみの組織的なドーピングが明らかになり、ロシアは国の代表としてのオリンピックへの参加資格を失いました。現在、ロシア人選手たちが、リオデジャネイロ大会以降、ROC(ロシアオリンピック委員会)の名前で出場しているのはこのためです。メダルを獲得してもロシア国旗は掲揚されませんし、ロシア国歌も流れません。

 しかし、東京、北京の大会を見ていても、ロシアがそれによって大きなペナルティを受けているように見えません。

 過去にドーピングが認定された選手は出場できないなどの規定が作られたために、処分を受けた直後のリオ大会では、ランキング上位選手も出場ができないなどの影響がありましたが、その後の大会ではそうした話はほとんど聞きません。

 このように、IOCはロシアに寛大過ぎました。パラリンピック委員会は、ロシア選手のパラリンピック・リオ大会の出場を認めませんでしたが、IOCは先に書いたように条件付きで参加を認めました。ロシアを商圏に持つスポンサーの意向が働いたと言われています。

 そもそも、国ぐるみで行われたドーピングにその国のオリンピック委員会が関わっていないわけがありません。ロシアのような中央集権の強い国では、政府の指示のもとで主導的な立場だった可能性もあります。にも関わらず、その組織の下で選手を参加させるなど、ペナルティが形ばかりのものだと思われても仕方がありません。

 しかも、ロシアのアンチドーピング機構は、今回の件で自国の選手のドーピングを平気で有耶無耶にする組織であることが明らかになりました。

 今回の大会の開会式にはそのロシアのプーチン大統領も出席しています。オリンピックの開会式の要人の出席は、組織委員会の招待リストをIOCが承認する形で決まります。つまり、IOCプーチン大統領の招待を認めたわけですが、国レベルのドーピングが行われてペナルティを受けている国の国家元首を招待するのは明らかに矛盾しています。

IOCはアンチドーピングの流れを守れるのか?

 気になるのは、出たがりのバッハ会長がこの件については、未だコメントしていないことです。プーチン大統領の顔色を伺っていると思われても仕方がありません。直接、このまま幕引きするように要請されていても不思議はないでしょう。

 世界的なアンチドーピングの流れは止まることはありません。その目的は、公平公正な競技運営とアスリートの身体の保護です。

 今回の件で、IOCが対応を誤った場合には、世界からドーピングに後ろ向きな組織だと判断され、IOCの威信や影響力にもダメージがあるかもしれません。盤石に思えたバッハ体制も一気に終焉を迎える可能性すらあるかもしれません。

おそらく、IOCとロシアとの間では様々な交渉や駆け引きも行われていることでしょう。その答えは15日までに明らかになるはずです。