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北京パラリンピック雑感3〜驚愕の閉会式〜

閉会式は1時間足らずで終わった

 3月13日夜、北京パラリンピックの閉会式が行われました。それは驚愕とも言えるほどの驚きに満ちたものでした。

 驚きの一つ目は、その長さです。総合チャンネルとEテレで21時から中継したNHKはその僅か55分後に中継を終了していました。事前の番組枠は23時までの2時間。直後の番組こそ埋めましたが、ライブの番組表では、22時30分からの30分間の枠は10分以上に渡って空白のままでした。いかに想定していなかったほど短い時間で終わったかを示しています。

 恒例だった選手入場を旗手だけにしたことが大きいですが、その他の部分でも極めてコンパクトに収められていました。

 今回のパラリンピックの開会式でも、近年恒例だった2時間30分から3時間程度だった長さから2時間を切る長さに集約されていました。さらに振り返れば、オリンピックの開会式、閉会式もこれまでの大会と比較すれば、従来に比べて時間的にかなりコンパクトだったの印象です。

 オリンピックの夏季大会ではありますが、2012年ロンドン大会の開会式でヘリコプターから映画007の主演俳優が会場に降り立ったり、閉会式ではイギリスの世界的なミュージシャンがライブを行うなど演出が行われて、いずれも3時間を遥かに超えるイベントになりましたが、本当にそうしたことがスポーツイベントに必要なのかは、当時から疑問視されてきました。

 昨年の東京大会では、コロナ禍であることや、コロナ対策も含めて予算が膨張したことから、組織委員会は開会式、閉会式の時間も含めたコンパクト化をIOCとIPCに提案しましたが、いずれも拒否され、演出面だけのコンパクト化に止まっています。

 半年後の北京大会でこれが実現できた理由は、東京オリンピックの開会式、閉会式のアメリカの視聴率が驚くほど低く、そもそもアメリカ人にとって地球の裏側で行われる東洋の開会式、閉会式などに関心を持っていないことにIOCが気づいたからなのか、中国の持つ政治力、経済力と日本のそれとの違いから来るものなのか。

 いずれにせよ、華美な開会式、閉会式はスポーツイベントには無用なもので、これからもこの方向性が継続されることが望ましいはずです。

中国を賞賛するIPC会長

 もう一つの驚きは国際パラリンピック委員会(IPC)パーソンズ会長の挨拶の内容です。先に書いたように全てがコンパクト化された閉会式にあって、最も重要かつ注目されたイベントがパーソンズ会長のあいさつだったはずです。

 開会式ではその挨拶の時間の多くを平和の重要性にあて、名指しはしないもののロシアのウクライナ侵攻を非難する内容でしたが、閉会式の挨拶は一変しました。まず、戦争や平和への具体的な言及は一言もなく、その表現は極めて抽象的でした。そして、彼のスピーチの時間の多くは中国への賞賛に使われたのです。さらに、この大会が今後の冬季パラリンピックのスタンダードになるとまで言い切ったのです。

 開会式が行われた10日前から、ロシアのウクライナ侵攻の状況は悪化の一途しているにも関わらず、平和に関する具体的なコメントはなぜ消えてしまったのでしょうか。彼はこの大会がパラリンピックのスタンダードになると語っていますが、コロナ禍で事前大会が行うことができない中で、開催国の選手が極めて有利なコースセッティングに多くの批判の声が上がっていたことを無視しての発言と言えるでしょう。彼は「違いを乗り越え、一つになれた」と賞賛していましたが、兼ねてから西側諸国から批判のあった、新疆ウイグル自治区チベット自治区での人権弾圧や香港の状況に改善があったわけではありません。

 ではなぜ、彼は徹底的な中国礼賛の姿勢を見せたのでしょう。その一つの可能性はオリンピック同様に中国の経済力と将来性にひれ伏した。そしてもう一つの可能性は、開会式でウクライナ侵攻を批判したことによって、ロシアと同調する中国当局による身柄拘束などの自らの身にリスクを感じた。または具体的な警告があった。そのいずれかが想像されます。

 11日に国際オリンピック委員会とバッハ会長が、公式サイトでロシア批判のコメントを発表し、その姿勢を明らかにしたことで、パーソンズ会長が閉会式のあいさつでこれに沿ったメッセージを発することを危惧した中国政府が、パーソンズ会長に圧力をかけた可能性もあります。

 いずれの理由があったとしても、彼の閉会式のメッセージは、多様性と持続可能性を尊重すべきパラリンピックのトップに相応しいとは言えない内容でした。

NHKのコメントの違和感とウクライナ選手団のリスク

 閉会式の中継をしたNHKのアナウンサーのコメントの中で一つ違和感がありました。

 中国のスタッフが製作しているであろう国際映像の中継の映像では、ウクライナの旗手や国旗を出来るだけ映さないようにする作為を感じられましたが、NHKのアナウンサーのコメントでは逆にウクライナ選手の活躍を積極的に取り上げていました。しかしその中で、ウクライナ選手の活躍が試合会場で特に賞賛されたというコメントがありましたが、これは明らかな誤りでしょう。

 選手村などで海外の情報を得ることができる他国の選手やスタッフは、ウクライナ情勢を知っていますが、招待でスタンドにいる中国国民は中国政府の情報統制でロシアのウクライナ侵攻の正しい情報を知りません。その中で彼らが特にウクライナ選手の活躍を賞賛したり、彼らを応援する理由がありません。

 たとえスポーツの1シーンだとしても、こうした加工された情報が、いずれは現在のロシアでのプーチン賞賛のような状況を作り出すということを、この際、メディア関係者は肝に命じておくべきです。

 最後に、この大会で開催国中国に次ぐメダルを獲得する活躍を見せたウクライナ選手とスタッフの今後の安全に注目する必要があります。

 無事に中国を出国し、ウクライナに帰国するかもしくは安全が保証される国に移動できるでしょうか。最悪の場合は、出国前に中国当局に身柄を拘束され、ロシアに強制的に移送される可能性さえあります。強権政治がまかり通る国ではそうしたことは当たり前のことで、スケープゴートとしてはパラリンピック選手はうってつけの存在かもしれません。

 会長が中国政府を賞賛したIPCには、そうした事態を防ぐ手立ては持っていないでしょう。