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日本選手団だけに発生したクラスタ

 日本時間の7月16日から25日まで開催されていた世界陸上では、開幕翌日に17日に驚きのニュースがもたらされました。

 男子マラソン日本代表で日本記録保持者の鈴木健吾選手とマラソン女子代表の一山麻緒選手が、選手村で行われたPCR検査で陽性が確認されたため、隔離されて、同日に行われる男子マラソンと翌日に行われる女子マラソンの競技にそれぞれ出場できなくなったというのです。さらに女子マラソン当日にも新谷仁美選手の陽性が確認され、レースに出場できなくなりました。

 最終的には、日本選手は男子200mの小池祐貴選手ら6選手、さらにコーチ、スタッフを併せて19名の感染が確認されています。

 閉幕後には、世界陸連が記者会見で、大会全体で選手10名を含む58名が陽性になったことを発表しています。いかに日本選手、関係者の割合が多かったかがわかります。

 陸上競技が盛んなアメリカの中でも特に陸上競技が盛んなオレゴン州ユージーンにある、オレゴン大学の陸上競技専用スタジアムをメイン会場に行われたこの大会は、中継映像で見ている限りは、新型コロナウイルスの感染は過去のように見えていました。

 頻繁に映し出されるスタンドの観客にマスクを付けている人は、ほとんどいません。このスタジアムの特徴でもある、スタンドがトラックと近く、フェンスが腰の高さくらいまでしかないために、好記録が出した選手が、フェンス越しにスタンドのいる人とハグをしたり、ハイタッチをしたりしている光景を何度も見ています。

 ですが、言うまでもなく、現地アメリカの新型コロナの感染は収束したのではなく、アメリカでも6月下旬から増加傾向で、最近では1日の感染者が10万人から20万人の間を推移しています。この2週間、1日の感染者数が20万人前後の日本と比べると、人口当たりの感染者は半分以下と想像されますが、それでも増加傾向にあることは間違い無いでしょう。

 それでも、この大会の会場で目に見える感染対策が行われていないのは、アメリカが完全にwithコロナの対応になっていて、それを大会を主催する国際陸上連盟も認めているからです。

 今回の世界陸上の感染対策は明確で、2回以上のワクチン接種と自国から出国前24時間以内の免疫検査での陰性、そして選手村などで随時行われるPCR検査の受診のみです。この検査で陽性が確認された場合には、州のガイドラインに従って症状がなくても隔離され、5日後にPCR検査を受けるというものです。また屋内でのマスクの使用を推奨するのみで、行動制限や接触の制限は一切無かったようです。

 日本選手の感染の報道に、SNSなどでは大会の感染対策の不備を指摘する声があるようですが、それは正しくありません。

 アメリカには、2020年夏から秋にかけて、NBAがリーグ戦とプレーオフを、周囲から完全に隔離された環境で開催するバブル方式で最初に開催して以降、徹底的な感染対策のノウハウがあります。

 にも関わらずこの大会でそうした対策を行わなかったのは、その必要はないと判断したからに他ならないでしょう。

 そういう状況の中で日本選手団にだけ、クラスターが発生したということは、結局は自己管理の問題ということになります。

 もちろん、日本人選手、スタッフ、コーチをそれを怠っていたとは言いません。ただ、一瞬でもサボる人がいたら、そこから感染が広がる可能性を秘めているということになります。特に周囲が感染防御の意識が低いアメリカでは、一瞬の気の緩みが致命傷になる可能性があったのでしょう。

 日本選手団日本陸連は、十分に感染防御を行なっていたと主張していますが、他国の選手団の感染対策を検証し日本の対策と比較する必要はあるでしょう。

 さきほど、映し出されるスタンドの様子にマスクを付けている人はほとんどいないと書きましたが、唯一の例外と言えるのが中国チームの関係者です。中国の赤いユニホームの着た彼らはほぼ例外なくマスクを付けていました。

 出場する選手たちも競技のギリギリまでマスクを付けていて、競技を終わってインタビュースペースに上がる時には、すでにマスクを付けていました。跳躍競技や投擲競技の自分の競技の合間も必ずと言っていいほどマスクを付けていたように見えました。

 中国政府のゼロコロナ政策に沿ったものだと考えられますが、彼らの抑制の効いた行動は、マスクだけにとどまらないはずです。

 一方の日本選手はいうと、選手団の中で感染者が多数確認された後も、一部の選手がスタンドで観戦している際にマスクを着用するようになっていましたが、それ以外で行動に変化があったようには見えませんでした。

 アメリカは自分の命を守るのも自己管理、自己責任の思想に成り立っている国です。そうした国での活動にはやはり、一人一人が日本国内でいる時以上に、高い意識が必要となるはずです。

 山崎選手団長は記者会見で、感染対策は十分に行なっていたと語る一方で、国際大会に出場するには免疫力をアップさせる必要があると語っていました。この点もやはり自己管理、自己責任ということになります。

日本スポーツ界に蔓延する新型コロナ感染 

 日本国内に目を向けると、やはり新型コロナウイルスの影響が大きいことはみなさんもご存知の通りです。全国での感染者は過去最高の20万人を超え、東京都でもやはり過去最高の3万人を超える感染者が毎日ように確認されています。

 ピークを過ぎた第6波の感染収束によって、7月末をめどに多くの規制が完全に撤廃される予定だったはずですが、この第7波の急激な拡大によって、規制撤廃は見送られようとしています。

 そのような状況下で、日本のスポーツ界でも感染再拡大の影響が随所に表れています。

 大相撲では、力士や部屋関係者に感染が確認された場合、感染した本人に加えて同じ部屋の力士と関係者全員を休場(欠場)することを定めています。このため、7月10日から行われていた名古屋場所では、開催前と開催中と併せて、全力士の4分の1にあたる170人以上が休場することになりました。この結果、本来行われるべき多くの取り組みが行わないことになりました。

 大相撲の取り組み(対戦)は3日前に決定するため、突然休場(欠場)となった場合、取り込みが成立せず中止になります。このため、22日には5連続で取り組みが行われないという異常事態も発生しました。

 あまり、表面化していませんが、大相撲は各部屋の親方が中心になって大会運営が行われていて、感染者が発生した部屋の親方はこうした役割も果たせませんので、当然、大会の運営にも少なからず支障が発生しているはずです。

 大相撲協会八角理事長の部屋も感染者が確認されて、表彰式では代理の親方が優勝力士に賜杯を渡しています。

 Jリーグでも、多くのチームで感染者が確認されていて、感染者が多数確認されたチームでは保健所から活動停止の指導が行われ、この結果、試合が中止される事態が発生しています。

 プロ野球では事態はもっと深刻です。読売ジャイアンツでは、5日間連続合計76人の陽性者が確認されて、22日から24日までの中日との3連戦が中止になっています。

 それ以外でも、セリーグで首位を独走していたヤクルトは、高津臣吾監督や主力選手20人以上の感染が確認されて大幅な戦力ダウンで、連敗を喫しました。この他、日本ハム新庄剛志監督他多くの感染者が発生して、それまで以上に厳しい戦いを強いられるようになっています。

プロスポーツの感染拡大は責任感とマネージメントの欠如

 こうした状況について、メディアやSNS上では、「仕方がない」「かわいそうだ」などのコメントが目に付きますが、本当にそうでしょうか?

 例えば、現在地方予選が行われている夏の高校野球では、感染者が確認されて参加を辞退する高校は極一部で、プロ野球ほど深刻な事態にはなっていません。

 それはなぜでしょう。理由のひとつには、プロスポーツほど徹底した検査体制が確立されておらず、無症状者を中心に感染が見過ごされているということもあるとは思います。しかし、それ以上に各高校が厳しい感染対策を行なっているために、実際に感染者がいないということが大きな理由ではないでしょうか。徹底的な行動制限を行なっている学校もあるかもしれません。

 だとすれば、高校生にできていることが、大人ができていないということになります。

 社会人とは違って社会的に繋がりが少ない高校生だからそうした感染対策ができるという方もいると思いますが、それは逆です。社会的に責任があるプロスポーツこそ、できるできないの問題でなく、試合を行うという目的達成のために、厳しい感染対策を行うことがプロとしての責任なのではないでしょうか。それが、プロの組織としてのマネジメントです。

 プロスポーツの基本は、ファンの前で試合をすること、プレーを見せることです。それに対して対価を払われるからこそ、プロと言えるのです。

 もし、チームの試合ができなかったり、選手が試合に望めなかったら、そもそもの価値がないことになります。

 サッカーでは、日本代表を含めた男女8つの代表チームが、7月17日から27日まで東アジア選手権で日本国内で試合を行なっていましたが、この各国代表に感染者が出たという報道はありません。

 同じ時期に来日して、Jリーグチームと3試合を行なったフランスの強豪パリ・サンジェルマンも同様です。

 同じ日本国内で試合を行う大人のチームでも、その気になれば、感染者を出さないことは可能なのです。

プロスポーツは感染拡大に対する責任を明確に

 大相撲の場合、感染者と同じ部屋の他の力士や関係者を全て濃厚接触者と考えて、同じ部屋全員を出場停止にしています。体を密着させる相撲の競技としての特性と、広くはない空間で共同生活をおくる部屋制という独特のシステムを考えれば、当然のことかもしれません。

 一度、感染者を発生させてしまえば、クラスターの発生は逃れられないという認識があればこその対応だと思われますが、その認識があるのであれば、外部との接触を制限するなど一層の感染対策が必要だったのはないでしょうか。

 その結果、多くの力士が休場し、多くの取り組み(対戦)ができなくなりました。それに対しての責任はどうすれば良いのでしょうか。本来行われる取り組みから大幅に少なくなった以上、チケット代金の一部、または全額を返金するなどの対応が、プロの組織の対応として求められるべきです。 

 一方で、巨人など多くの感染者の出しているプロ野球は、過去にあった今以上に感染力があると言われた変異株によって感染拡大していた時も、感染者をチームの一部に留めることができていました。にも関わらず、今回これだけの感染者を発生させたことは、本来できるはずの感染対策を行われていなかったことを表しています。

 ですから、ジャイアンツのようにクラスターが発生して試合が中止になったチームは、「運が悪かったね」で済ませず、中止になった試合数相当する試合の主催権を没収するなど、厳しい処分を課すべきです。これはプロ野球だけでなく、Jリーグなど他のプロスポーツでも同様です。

 プロスポーツの影響力を考えると、こうしたチームを放置することは、社会全体に向けて「感染してもいいんだ」というメッセージを発信することにも繋がり、さらなる感染拡大に繋がる可能性があります。

 また、社会全体の流れとしては、感染対策より経済活動を重視する風潮が強くなりつつありますが、ジャイアンツのようにクラスターの発生により、試合が中止になるということは、感染対策をなおざりにすることによって、経済活動の停止されることを意味します。

 もちろん、それによって観客にはおそらくチケットが払い戻されるなどの対応がされることで、球団自体も一時的には損失が発生すると思いますが、それより大きな影響を受けるのは、球場の売店だったりそこに働く人たちです。彼らの経済活動もまた、球団が徹底した感染対策を行わないことによって、一時的とは言え、中止を余儀なくされるのです。

 プロスポーツの運営者、経営者、そして選手たちは、そうした社会的な責任があるということを自覚して、慎重な行動が求められるはずです。

欧米先進国との対応の違いは医療の脆弱性にある

 世界陸上が行われていたアメリカ、そしてヨーロッパでは、すでに多くの国々でほとんどの感染対策が解除されていて、スポーツも多くの場面でコロナ前の姿を取り戻しています。

 大谷翔平選手が活躍するメジャーリーグやヨーロッパのサッカーリーグの中継映像を見ると日本との違いは歴然としています。日本の対応が遅れている印象があり、日本のスポーツ関係者や応援するファンの皆さんの不満が溜まっていると思います。

 その違いが生まれている理由のひとつには、日本と欧米人の死生観や疫病対策の歴史の違いがベースにあって、その結果、日本では今も新型コロナウイルスが深刻な感染症に定義づけられていることが理由にあります。

 しかし、それよりも大きな理由は、新型コロナウイルスの感染拡大で明らかになった日本の医療体制の脆弱性です。しかも、少なくとも感染症対策に関しては、その状況が最初の新型コロナウイルスの感染拡大から2年以上経った現在も、根本的には改善できていないのです。

 欧米各国では看過できるレベルのこの感染症の感染拡大が、日本では看過できず、本格的にwithコロナの体制に入れない理由はここにあるのです。

 そして、今後も日本の医療体制が劇的に改善する可能性はありません。ですから、今後、フェーズごとに、感染者が多くなっても重症者や死者が極めて限定的だというデータが揃うまでは、政府が欧米と同様の対応に切り替えることは、難しいはずです。

 その結果、スポーツにおける感染の対応も今まで通り、一定の制限がかかるはずで、残念ながら、我々日本人はそれを受け入れていくしかないのです。