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ワールドカップ雑感 〜12月9日・日本ークロアチア戦〜

PK戦で敗れた日本代表には何が足りなかったのか?

 通常の夏開催ではなく、ヨーロッパサッカーのシーズン中の12月に行われている影響で、いつもより過密日程で行われている今大会は、あっという間に日程が進み、モロッコクロアチアの3位決定戦、フランスとアルゼンチンの決勝戦を残すだけになってしまいました。

 決勝トーナメント1回戦で日本代表に勝利したクロアチアは、韓国を破った優勝候補ブラジルに、日本戦に続くPK戦勝利。準優勝だった前回大会に続いて、PK戦での強さを見せつけて勝ち進みましたが、準々決勝でアルゼンチンに敗れました。PKのシーンでの判定には少し違和感が残りますが、全体としては完敗だったと言っていいと思います。

 日本代表は、一次リーグでドイツ、スペインという強豪国に勝利し、そのクロアチアに勝利するまで、あと一歩に迫りました。

 森保監督が、敗戦のあと言葉にした通り、この大会の日本代表は、ワールドカップ優勝経験のあう強豪ドイツ、スペインに勝利、前回大会準優勝のクロアチアに120分間当店と、今までとは違う戦いを見せてくれたことは間違い無く、強豪国の仲間入りにあと一歩迫ったという実感を与えてくれました。

 しかし、ベスト8進出という目標を達成できなかったということもまた事実で、それは、日本代表にとって1998年に初出場して以来4度目の経験となりました。

 多くの方が感じているように、120分間戦って同点だったクロアチア戦は、十分に勝機をあったはずです。言い換えれば目標のベスト8に手はかかっていたはずです。同じように先制しながらも同点に追いつかれた、前回大会のベルギー戦とは明らかに違っていました。

 では、なぜ、日本代表は、勝利を手繰り寄せることができなかったのでしょう。筆者なりにこの試合の問題点をピックアップしてみます。

■フォーメーション
クロアチアが、4−3−3のフォーメーションでトップに多くの人数をかけない攻撃であるにも関わらず、日本は事実上5バックで守っていた。

この試合、最終ラインに5人のディフェンスを横一列に配置したのは、クロアチアの中盤やサイドバックがサイドに流れ込むのを警戒してのことだと思われますが、結果的にマークの受け渡しがうまくいかなかったり、ボールサイドに偏ってクロアチアにチャンスを与えていました。
失点シーンでは、左からの早めのクロスに、アウトサイドの伊東純也選手とストッパー冨安健洋選手の間に相手フォワードに入られて、ほとんどフリーでヘディングシュートを許しました。結果論ではありますが、人数を余らせず1対1であれば、もっと守りやすかったはずです。
攻撃面を見ても、攻撃の起点となる両アウトサイドを、同時に最終ラインに参加させることで、攻撃参加のタイミングと機会を失わせていました。

それでも前半の長友佑都選手と伊東選手は、比較的多くの攻撃の機会を作りましたが、後半、長友選手に代わって攻撃の切り札を期待されて出場した三笘薫選手は、守備に追われて、延長を含めて、決定機を作れたのは2度だったと思います。延長前半の自ら持ち込んでシュートしたようなシーンをもっと期待されたはずですが、守備に割かれる時間があまりに多かったようです。

■つなぎ
ディフェンスラインで奪ったボール、またはクリアできそうなボールを大きく蹴り出そうとせず、パスで繋ごうとしたボールを相手に奪われてピンチになっていた。

前半後半通じて、何度か見られたこうしたシーンは、ドイツ戦やスペイン戦ではほとんど見られなかったもので、この2試合でははっきりとしたプレーでピンチを回避していました。
逆に、コスタリカ戦の失点シーンでは、クリアなのかパスなのかはっきりしないプレーからボールを奪われ失点しています。
ゴールキーパーからのボールを繋いで前線に運ぼうとしたシーンも、ドイツ戦、スペイン戦と比較して多かったようにも思えました。
この違いはどこから生まれたものでしょうか。戦術的な理由でしょうか。メンタル的な理由でしょうか。どちらの理由でも、前回準優勝のクロアチアを、ドイツやスペインよりも下に見ていた結果ということになるでしょう。それは、おそらく分析の結果ではなく、単なるイメージによるものです。
結局、こうしたプレーが、クロアチアに勢い付けさせ、リズムを与えていました。

■マーク
動き回るクロアチアの3人の中盤の選手は、最終ラインまでほとんど自由に動くことが可能だった。

相手3人のトップに5人の最終ラインを形成したことで、余った二人分は中盤または相手の最終ライン近くで、人数が足りなくなります。この結果、世界的にトップクラスと言われる3人の中盤の選手たちが、自由に動くことが可能になっていました。

全体としては、守田英正選手、遠藤航選手のボランチの二人、2列目の堂安律選手、鎌田大地の献身的な豊富な運動量でカバーをしていたように見えますが、前線にボールを送る出どころにプレッシャーがかからないシーンが数多くありました。

特に最終ラインまで下がってゲームを組み立てる前回大会MVPのモドリッチ選手の動きについていけず、クロアチアの攻撃にリズムを与える結果になりました。
もっと中盤に人数をかけて、起点となる中盤の選手を厳しくマークする必要があったのではないでしょうか。

■ハイプレス
ドイツ戦、スペイン戦では一時的にも効果があった前線からの組織的なプレスは、この試合では全くと言って見られなかった。

森保ジャパンでは、数少ない特徴とも言われてきたこのプレーが見られなかったのは、なぜでしょう。
相手が3トップなのに関わらず、相手ボールなった時に最終ラインに5人を配置するフォーメーションでは、当然前線の人数が足りず、トップから組織的なプレッシャーはかけられません。もし、トップでそれを行なった時に、ボールを奪取できれば良いですが、それをかわされた場合には中盤ががら空きになり、例え最終ラインで数的優位を作れていたとしても、大ピンチになることは間違い無いでしょうから、行わないことは当たり前です。
もしかすると、連戦でフィジカル的に難しいという判断もあったかもしれませんが、スペイン戦のように短時間でも、流れを変えることができたかもしれません。
森保ジャパンでは大会前から練習を重ねて、ドイツ戦やスペイン戦で相手のリズムを崩し、日本を勢い付けたプレーをなぜ放棄する必要があったのでしょうか。

■選手交代とゲームプラン
ゴールをあげた前田選手に代わった浅野選手に森保監督は何を求めたのでしょうか。彼はトップとしての役割を果たすことができたでしょうか。

本来、1点差または同点で交代するフォワードは、ゴールを狙うことが要求されるはずです。先制ゴールをあげた前田大全選手に代わって、後半20分前後にトップに入った浅野選手には、どのような要求がされたのでしょう。少なくとも攻撃面ではほとんど決定的な役割を果たせませんでした。

かと言って、前田選手ほど、相手ボールを追いかける様子も見ることができかったように思えます。それは、ドイツ戦やスペイン戦の浅野選手ほどと言い換えることができると思います。
ドイツ戦ではスピードを生かして一人でゴールをあげた浅野選手ですが、スペイン戦ではほとんど存在感をアピールすることはできなかったと思います。この試合でも同様です。おそらく1対1ではサイドに追い出せば何もできないということを研究されてしまったのでしょう。
試合途中でその状況が理解できたはずにも関わらず、森安監督は試合終了まで何も手を打ちませんでした。
得点を狙うのであれば、例えば、やはり後半投入された南野選手と2トップにするとか、伊東選手をもっと浅野選手の近くでプレーさせるとか具体的な方法があったはずです。

点を取りに行く方法としては、三苫選手をもっと高い位置でプレーさせる選択もあったはずですが、ほとんど酒井選手と三苫選手のオーバーラップ頼みでした。

もしかすると、後半30分前後に本来攻撃の中心となるはずだった鎌田選手に代えて、アウトサイドの酒井宏樹選手を入れた時点で、森保監督は、ゲームプランとして積極的に追加点を取りに行くことを事実上諦めていたのかもしれません。

一方で、こうやって振り返ってみると、久保建英選手がコンディション不良でこの試合に出場できなかったことは非常に大きかったことが分かります。後半、ボールがしっかりと収まり、相手と対峙してもしっかりと時間を使うことが彼を投入することができれば、大きく戦局が変わった可能性があります。

さらに言えば、この大会のメンバーの選ばれなかった大迫勇也選手がいたらなあと思わずにはいられません。

PK戦
誰が蹴るかを選手の挙手制にしたという。試合を決定づける大切なPK戦では、監督がその判断と決定に責任を負うべき。

報道によると、PK戦で誰が蹴るか、その順番を選手たちの挙手させたそうです。クロアチアは前日にPKの練習をしたそうですが、森保監督の頭の中にはPK戦の具体的なプランになかったのかもしれません。
確かに、過去にもワールドカップで選手に自由意志でキッカーを決めたと強豪国の話は残っています。しかし、現代のトップレベルのサッカーでは、試合終了時にピッチにいた11人の内で、誰をどの順番で蹴らせるかを決めるのは監督の重要な仕事です。選手それぞれの蹴り方の特徴、得意不得意。メンタルの強さ。そうした要素を総合的に判断して、キッカーと順番を決めます。監督によっては、交代人数が許せば、PKが得意な選手を試合の最終盤に投入することもあります。
森保監督は、自らキッカーを志願した選手たちを褒めて欲しいと言っていたそうですが、本来監督として自らの責任ですべきその決定、決断をしなかった監督には、どのような言葉をかければ良いのでしょう。

 

 念願だったベスト8にあと一歩まで迫った日本。しかし、その一歩は自ら踏み出さなかった一歩だったのかもしれません。

 次回は、続投が確実視されている森保監督に、日本代表の次の4年を任せて良いのかを考えてみたいと思います。