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WBC振り返り vol,2 〜栗山監督は代表監督に適任だったのか〜

栗山英樹氏は日本代表監督として適任だったか?

日本代表を3大会ぶりにWBC優勝に導いた栗山英樹監督には、今でこそ日本中が絶賛している印象ですが、2021年に日本ハムファイターズの監督を退任したばかりの栗山氏が、今回のWBCに向けて日本代表監督に就任することが発表されると、賛否両論が噴出しました。

栗山氏が日本ハムファイターズで10年間監督を務め、その間、日本一を1回とリーグ優勝1回を実現しました。それが日本代表を率いるに足る実績かと言えば、判断が難しいところです。

特に、日本一になったのは就任1年目で、翌年は最下位だったり、後半の5年間は5位が続いたりと、順位の変動が激しく、結果を出せないシーズンも多くあります。

選手の出入りが激しいのがこの日本ハムというチームの特徴でもあるので、その順位だけを見て監督の能力を判断するのは難しいところもありますが、際立った成績ではないことは間違い無いでしょう。

監督経験が全く無かった前任の小久保裕紀氏よりは遥かに説得力はあるのですが、リーグ連覇など、間違いなく、彼よりももっと著しい結果を出している監督もいるのも事実です。

ただ、否定派の多くが、特定の球団の関係者であった印象もありました。

それまでの4大会を振り返ると、第1回、第2回は王貞治氏、原辰徳氏と読売ジャイアンツのOBが指揮を執って優勝し、第3回、第4回はジャイアンツ以外の出身者の山本浩二氏、小久保裕紀氏が指揮を執っていずれもベスト4で終わりました。小久保氏は3年間、巨人でプレーしましたが、やはりソフトバンクホークスのイメージが強い人物です。

そうした流れを踏まえて、次こそはと思っていた人たちに、この辺りを不満に思う人たちが多かったということでしょう。

しかし、栗山監督が優勝という最高の結果を持ち帰ったことで、肯定派が正解だったことになります。

栗山監督でなければできなかったこと

栗山氏が監督であったことが正解だったという理由は、3大会ぶりにWBCで日本代表を優勝を導いたことだけではありません。

それ以上に大きな要因が二つあります。それが、メンバーの構成、そして、一体感のあるチーム作りの2点です。

彼の指導者として野球界における最も大きな功績は、大谷翔平という今や野球史上最高と評価されることもある野球選手を、日本のプロ野球入りさせ、投打の二刀流を実現させて、MLBに送り出したことにあるでしょう。

豪速球投手として、また稀有なホームランバッターとして、高校で名を馳せていた大谷選手は、高校卒業と同時に渡米することを宣言していました。その彼をドラフトで単独指名し、彼の意思を覆させて、日本ハムファイターズ入団にこぎつけたのは、栗山氏とそのスタッフでした。

さらに、入団後も彼との約束通り、大谷選手が望んだ二刀流の実現をさせます。野球関係者のほぼ全員が否定的だったこの史上初の挑戦は、大谷選手本人以上に、栗山監督にとって並大抵ではない勇気が必要だったはずです。

二刀流否定派の多くは、大谷選手がMLBに移籍してからも、その持論を主張し続けました。それどころか、リーグ戦前半ホームラン争いを演じながら、最終的にホームラン王になることができなかった2021年シーズン後にさえ、打者に専念してホームラン王を目指すべきだと主張するベテランの野球関係者が数多くいました。

いかに、これまでこうした既成概念によって、野球に限らず若いアスリートの夢や可能性が摘み取られてきたかがわかる出来事でした。この年、大谷選手がナショナルリーグのMVPになったことはご存知の通りです。

このような、日本での否定的な反応を大谷選手がどこまで知っていたかはわかりませんが、そうした日本球界で、彼が二刀流を実現できたことが、いかに大変であったか、日本ハム時代の球団と栗山選手の手厚いサポートがいかに恵まれていたかは、大谷選手が一番理解しているはずです。

大谷選手は、高校時代からWBCに優勝して、MVPになることを目標にしていたことが報道されていますが、栗山氏が日本代表の監督になったことで、大谷選手は、WBC出場と優勝への思いをより一層強くしたことでしょう。

MLBでの優勝争いを目指す大谷選手が、今年単年契約でエンゼルスに残留したことも、WBC出場が大きく関係していたはずです。契約の段階でWBC出場を条件に加えた可能性もありますし、新たなチームに移籍していた状況よりも、6年目を迎えるエンゼルスにいた方が、はるかに調整も容易だったはずです。

今回のWBCに参戦に向けて、日本代表には大谷翔平の名前が、戦力的にも興行的にも必要だったのは間違いありません。というよりは、大谷選手なしの日本代表は考えられなったはずです。その実現の可能性をより確実にするために、栗山氏が監督に指名された可能性は高いのではないでしょうか。

ヌートバーという選手の存在が意味すること

野球を楽しみ、選手の意思を尊重するなど、栗山監督の日本ハム監督時代から続くモットーが、大会中から様々なメディアで発信されていました。

栗山氏の監督としてのアイデンティティを表す存在として、今回、初の日系選手としてメンバーに選ばれ活躍した、ヌートバー選手の存在があります。

そもそも、どのような経緯で彼の情報を栗山監督が目にすることになったのか、そのあたりは報道されていないと思いますが、ほぼ一度のテレビ電話でメンバー入りを決めたことは間違いないようです。

メジャーリーガーとして、昨年まで決して目立つ選手では無かった彼を選んだことに、日本の野球関係者の多くが否定的だったようです。あれくらいのレベルで選手であれば、国内にいくらでもいるというのです。

しかし、栗山監督は彼を単純な戦力としての計算だけで選んだわけではないようです。

大会前、栗山監督がその理由としてあげたのが日本の野球の国際化でした。

現在、スポーツの世界におけるナショナルチームの定義がどんどん変化しています。最も顕著なのがラグビーです。日本代表の半分以上が、日本以外の出身の選手で、その多くは日本国籍を持っていません。

他の競技でも、国籍=代表選手という定義が崩れてきています。長く、国籍にこだわってきたIOCにも変化の兆しが見えてきました。

こうした時代の変化を敏感に捉えるのも栗山監督が得意とすることかもしれません。

ヌートバー選手に関しては、本人の来日前に、栗山監督が「絶対好きになるから」とメディアに語ったことも伝えられています。

みんなが好きになる明るい性格のアメリカンが、栗山監督のお眼鏡にかなったようです。そして、栗山監督の目論見通りに化学反応が起こったのかもしれません。

彼の前向きで明るい性格が、チームを一つにして、勝利に向かって進ませました。彼を迎え入れるために選手たちが工夫を凝らしたこともチーム結束に役立ちました。

栗山監督にとっての計算違いは、彼が想像よりも戦力として貢献したことだったかもしれません。

彼の1球目から振っているスタイルは、トップバッターとしてうってつけで、短期決戦には重要な役割を演じました。

彼の広い守備範囲は、特に外野が狭い東京ドームで行われた1次ラウンドや準々決勝で、ピッチャーにとって頼もしい存在だったはずです。

栗山監督が見せた監督と選手の関係

栗山監督は、大会後の記者会見でこのチームは「ダルビッシュ・ジャパンと言ってもいい」と語ったそうです。

キャンプ初日からチームに合流し、自分の調整をそっちのけで若手選手の指導を行なっていたダルビッシュ投手への敬意を表した発言だと思いますが、やはり、監督自らそう言い切れるのは、今までの野球の監督の姿とは異なっていると思います。

大会中からメディアに取り上げられている、選手の自主性を重要視する点や選手の信頼して任せる姿勢というのは、日本ハムの監督時代から一貫したものだそうです。

とかく、上下関係になりがちな監督と選手の関係を、信頼関係をベースに対等のものに近づけようとしています。

ヌートバー選手が、すぐにチームに溶け込めたのも、ダルビッシュ選手が初日からチームに合流し若手に指導できたのも、栗山監督だけでなく、コーチ全員にもこうした空気感があったからでしょう。

大谷翔平の決勝登板は正しかったのか?

ただし、選手の自主性を重んじて彼らを信じることと、勝負にこだわる采配が必ずしもイコールの関係になるとは限りません。

特に今回の大会のように、優勝が絶対命題とされている中で、選手を信じることで、勝利のために打つべき手を打たなかったとしたら、それは本末転倒でしかありません。

栗山監督が語っている姿勢は、本来、選手の成長も考慮しながら年間を通して戦うチームでの話で、代表チーム、特に結果を求められる短期決戦の大会では、矛盾するシーンが少なくないはずです。

今回の大会では、不調だった村上宗隆選手を使い続けたことが美談のようにメディアで伝えられていましたが、3点リードされた準決勝のメキシコ戦では、村上選手の前を打つ吉田正尚選手の同点ホームランが出なければ、代打を送られていた可能性が高かったはずです。

吉田選手の打席の時、彼の後ろではスタンバイする山川穂高選手が映像に映っていましたし、別の選手はコーチから代打でバントできるように指示されていたと、試合後インタビューで話しています。

幸運にも吉田選手が同点ホームランを打ってくれたお陰で、村上選手に代打を送らずに済んだ栗山監督は幸運だったかもしれません。

勝戦では、ダルビッシュ投手と大谷投手を試合終盤のマウンドに送りましたが、これが勝利のためのベ最良の選択とは限りません。

先発の今永昇太投手が3点を奪われて以降、細かい継投でアメリカの強力打線を抑えていましたが、日本のブルペンにはまだまだ素晴らしいピッチャーが控えていました。

自ら球団と交渉して登板の許可を得たとは言え、本調子ではないダルビッシュ投手、打席に立ちながら難しい準備を強いられる大谷投手よりも、勝利への確実性が高い選択肢があったはずです。

2009年の大会の決勝戦で、原辰徳監督が、ダルビッシュ投手をクローザーとして登板させた時にも同様の議論がありましたが、大会優勝という目的を達成させるためであれば、登板すべき投手が他にいたはずなのです。

大谷選手の決勝での登板について栗山監督は「大谷選手が投げて打たれても、誰もが納得できる」と、大会後に語っていました。

これでは、栗山監督自ら勝利のためのベストチョイスでは無かったことを認めることになります。代表チームの監督としては的確な発言ではありません。

「大谷選手なら必ず抑えてくれると信じていた」というのが彼がすべき発言でした。

ブルペンには、自分が投げたかったという投手がいたはずですし、もし大谷投手が打たれていたら、自分が投げていなければ打たれなかったと考える投手もいたはずです。むしろ、あそこにいるピッチャーは誰もがそう考えるべきだろうと思います。

村上選手を使い続けたことも、決勝戦で大谷投手、ダルビッシュ投手を登板させたことも、結果的には好結果に繋がりましたが、あくまで結果オーライであって、WBC優勝のためのベストの選択肢では無かったとも言えるのです。

 

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