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囁かれるマラソン大会ブームの終焉にやるべきこと

ラソン大会開催に地方都市が1900万円の追加予算

3月3日に開催された三浦国際市民マラソンというハーフマラソンの大会に関して、次のような記事がアップされました。

news.livedoor.com

具体的には、メインレースのハーフマラソンと5キロ走合わせて約1万人の参加者を見込んでいましたが、7400人台になったようです。

この大会は、1981年に始まって今年で39回目を迎える歴史のある大会です。コロナ禍で中止になる2019年まで毎年開催されて、90年台頭に1万人以上が参加するようになって以降、多少の増減はあったものの2010年以降はコンスタントに1万人以上の参加者がありました。

他の多くの大会と同じように2020年〜22年までの3年間は開催できず、昨年4年ぶりに開催に漕ぎ着けました。この時の参加者が約7500人でした。

主催者の三浦市としては、コロナ禍の明けの昨年の参加者が減少することは、他の大会の様子も踏まえて折り込み済みだったのでしょう。

おそらく、今年はコロナ禍前の参加者に戻るという予測があったのだろうと思われます。しかし、達成できなかった。それが記事にもある「見通しが甘かった」という三浦市側のコメントだろうと思われます。

元々、1ヶ月半だった応募期間に加えて追加募集を行ったり、スタート地点から遠くて評判の悪かった更衣室をスタート地点近くに移動するなどの対策も行いましたが、前年割れになってしまいました。

神奈川県の沿岸部にある三浦市は、全国でも指折りの人口減少と高齢化が進んでいる自治体で、直近10年間だけでも10%以上が人口が減少し、まさにこの2024年3月に初めて人口4万人を割り込みました。その三浦市にとっては、1900万円の追加予算は大きな痛手になったはずで、来年以降の開催に向けては慎重な判断が求められることになります。

miura-marathon.com

なぜマラソン大会は定員割れするようになったのか?

ラソン大会の参加者の大幅な減少、定員割れは、コロナ禍で中止されていたマラソン大会が再開された2022年春あたりから各地で言われ始めています。そして、すでに開催ができなくなった大会、開催を見合わせている大会も数多くあるようです。

その原因について分析する多くの記事がアップされています。

hashirou.com

多くの記事を見ていくと、三浦国際市民マラソンのような地方都市のマラソンだけでなく、東京マラソン大阪マラソン、横浜マラソンと言った大都市で人気のマラソン大会でも、コロナ以前に比べると申し込み人数が激減し、今年の大阪マラソンでは通常の申し込み期間では定員割れをしたために、追加募集を行ったそうです。

参加者減少と理由として挙げられていることは、ほとんどの分析で共通していてまとめると次のようになります。

  1. 大会参加費の高騰
  2. コロナ前後の大会の一方的な開催中止
  3. 生活スタイルの変化によるランナーの減少
  4. 物価の高騰とギアの価格の高騰

1の大会参加費の高騰は明らかで、コロナ禍前に1万円前後だったフルマラソンの参加費が、コロナ明けには感染対策を理由に1万円台後半に上がって、感染対策の費用がなくなった今年も昨年と同じレベルで推移しているようです。

日本で最も高額な東京マラソンは、コロナ直前の2020年が1万6500円から再開1回目の昨年は23300円と跳ね上がりましたが、今年は1万6500円とコロナ前のレベルに戻っています。

しかし、全国的に見ると、コロナ前に比べて1,4倍から1.5倍になっているのが一般的なようです。

食費や日常生活に必要なもの価格も含めて物価が急激に高騰している中で、大幅に値上がりした参加費を前に二の足に踏み人が多いのは当然です。

2の「一方的な開催中止」には、支払った参加費が返金されなかったという問題が付きまといました。

きっかけとなったのは、2020年の東京マラソンだったようです。

3月1日に開催を予定していたこの年の東京マラソンはコロナ感染拡大を理由に一般の部は開催されず、払い込まれていた参加費は全額返金されませんでした。

世界6大マラソンの一つで、日本で最も大きな大会のこの対応に、他のマラソン大会も同様の対応をしました。

確かに、参加規約には返金しない旨は書かれていますが、天候や天変地異などで直前に中止になったわけではありません。東京マラソンの場合で言えば、2週間前の発表でしたから、ゼッケン、ICチップや記念品などの送付は終わっていたでしょう。それでも全額は無理でも、部分的に返金する余地はあったはずです

特に東京マラソンの場合は、新聞で中止の可能性を報道され、慌ててその当日に中止を発表した経緯を見ると、おそらくもっと早い段階で中止は決まっていたと考えられます。しかし、返金しなくても非難されないように、ギリギリまで発表を遅らせようとした可能性が考えられます。

こうした状況は、多くのランナーの目には、マラソンを開催する主催者や関係する事業者が不誠実だと映ったに違いありません。

多くの批判の対象となったために、コロナ後の開催では多くの大会で規約を改定し、募集サイトも必要な場合、返金ができるようにシステムの変更を行ったそうです。

しかし、「また中止になって返金されないかも」という危惧は、主にコロナ禍以降最初の開催になった去年のものでしょう。今年も参加者が増えないのは別の要因の方が強いのかもしれません。

筆者も実感するランナーの減少とギア価格の高騰

筆者も、市民ランナーの一人で、週に1、2回程度ですが、近所の海沿いの道を往復10km程度を1時間くらいかけてゆっくり走っています。

時折、大会にも参加していて、最初に取り上げた三浦国際市民マラソンも、昨年、今年と参加しました。

走り始めたのは10年くらい前ですが、コロナ禍の間の2000年の春から一昨年の秋口までの約2年半程度はお休みをしていました。走る時にもマスクをしていないと、口から飛沫が飛ぶという指摘からマスク着用を呼び掛けられるようになったのですが、マスクをしてまで走りたいとは思えなかったのです。

走らなかったその間に大きく変わったことが二つあります。

筆者は、このコロナ禍の間に60歳を超えました。おそらく、年齢的な影響が大きいと自分では思っているのですが、コロナ後ランニングを再開してから1年半以上経つのに、未だにコロナ前のタイムに戻すことができません。

おそらく、必要な筋力のトレーニングをすれば、タイムは上がるとは思いますが、今のところは年齢のせいだと考えてそのままにしています。

二つ目は変化は、走っている人の数です。

筆者が普段走っているコースは、海沿いの人気のコースです。平日でも多くのランナーやジョギングをする人、散歩をする人も見かけることができます。土日はさらに多くなります。

しかし、コロナ以前に比べると明らかにその数が減っています。走る時間帯が同じだと、顔見知りができるものですが、そうした人の姿もめっきり少なくなった印象です。

多くの記事に書かれているランニング人口の減少を肌で感じています。

特に年配の姿が少なくなっています。筆者は、体力が落ちて以前より走れなくなったことを感じてもランニングを続けていますが、続けなかった人、続けることができなくなった人が数多くいるのではないでしょうか。

コロナ禍だった2年から3年の間に、体調が変わって走らなくなった人が少なからずいるのでしょう。

コロナ禍で生活習慣が変わった人もいます。

有名な皇居ランの様子はどうだろうと思い、以前、皇居ランをしていると言っていた30台後半の知人に聞いてみると、今は皇居ランはしていないそうです。

彼は半蔵門にある企業に勤めていて、以前は月曜から金曜のフルタイム勤務でした。だから、昼休みなどを中心に時間に余裕がある時に皇居の周りを1周回っていたそうですが、今は、週の半分程度がテレワークになり、出社する日も会社いる時間はミーティングが中心になったので、走る時間もなくなったし、そもそも走る気がなくなったそうです。

代わりに自宅の近くで走っているのか聞いてみると、走っていないそうです。そもそも、フルタイムで仕事をしていたから、気分転換も兼ねて走ろうと思ったが、家にいる時間が多くなると、その必要もないし、まだ小学生の子供や奥さんの目もあるので、自分だけ走ってくるということもしづらいと聞きました。

皇居ランをしていた人の内、コロナ禍の影響でこのように生活スタイルが変わって、走らなくなった人がどの程度いるかも分かりませんが、やはり少なからずは影響は出ているのでしょう。

そもそも、彼によるとコロナ前でも昼休みに走る人の数は、言われているほどは多くなかったそうです。

実際には、平日の仕事が終わった後の時間帯や土日に、わざわざ皇居周辺に出向いて走る人の方が、ずっと多いと聞きますから、そうした人の数がどうなったかは分かりません。皇居近くのランニングステーションにでも聞けば、様子がわかるかもしれません。

ギアの価格の高騰も実感があります。筆者もそれに頭を悩ませている一人です。

ネットの記事では、主にシューズの高機能化が原因に書かれています。確かに厚底シューズの登場以降、シューズの高機能化が進み(少なくともメーカーはそう謳っている)、それに比例するように各社高額な価格帯のシューズも増えています。しかし、筆者のような市民ランナーの場合は、それよりも円高の影響が強い印象です。

あくまでも定価ベースでの話ですが、10年くらい前であれば1万円くらいで購入できたようなシューズが、今は2万円近くする印象です。

筆者は、コロナ明けに購入したシューズにダメージが出てきたので、今は、ネット検索で安売りの商品を探しています。おそらく、多くのランナーが同じような行動をしているのではないでしょうか。

高騰が続く参加費と開催費用

コロナ禍によるランニング人口の減少は、時間をかければ徐々に戻っていくのかもしれません。しかし、ランナーが誰でもマラソン大会出場を目指すような、マラソン大会ブームはもう来ないかもしれません。

コロナ後、各マラソン大会が再開された頃には、コロナの感染対策や検査のための費用が必要だということで参加費が値上げされましたが、その必要はなくなった現在も、多くの大会ではコロナ前の価格には戻ってはいません。その理由はコロナ対策以外にも開催にかかる費用が高騰しているからだと思われます。

コロナの感染拡大と東京オリンピックの開催をきっかけに警備費費用の高騰が言われています。このためにマラソン大会だけでなく、花火大会などコロナ以前に行われていたイベントを廃止したり、大幅に規模を縮小している自治体も少なくありません。

また、テントや仮設トイレ、スタートゴール地点の装飾など様々な機材の設置などのイベント開催に不可欠な委託費用も高騰し、以前のような価格には戻りません。それどころかこれからも高騰を続けるでしょう。

当然、これによってマラソン大会を開催するためにコストがあがり、主催者が負担する費用も上がる一方で、参加費を高く設定していくことになります。

その結果、参加者が減少し、開催を断念せざるを得ない大会は、これからも増えていくのではないでしょうか。

主催者が、開催コストを抑えたい、参加費を下げたいと思ったならば、開催方法を変更するしかありません。

例えば、最初に紹介した三浦国際市民マラソンでは、会場に置いてあるテントや機材などを見ると、会場の設営を全国的に有名なイベント業者に丸投げしているのが分かります。

今一度原点に立ち帰って、こうしたイベント業者の手を借りずに、市の職員とボランティアの手で開催することを考えてみてはいかがでしょうか。

どうしても専門家の手が必要な機材の設置などは、個別に地元の業者に発注すれば、おそらくこれまでに比べて大幅に出費を抑えられますし、何より地元の業者にお金が落ちることが重要です。

人口減少が激しく進む三浦市ですが、それでもそれくらいの体力はあるように思えます。もちろん、近隣自治体の力を借りる方法もあるかもしれません。

そうした対策を行なった上で、自分たちの手でできるサイズの規模の大会にリニューアルしてみてはいかがでしょうか。

川内選手の発したメッセージの意味

こうした状況下で、昨年末、かつて公務員ランナーとして名を馳せ、世界陸上の代表にもなり、現在パリオリンピックの補欠メンバーになった川内優輝選手が、地元埼玉県久喜市が開催してきたハーフマラソンの大会を、フルマラソンにする計画について、SNSで反対意見を発表しました。

主な理由としては、フルマラソンの大会はハーフマラソンの何倍も費用がかかる、多くのマラソン大会が定員割れしている、さいたま市が開催しているさいたまマラソンがフルマラソンを復活させる、市内の宿泊施設が少ない、開催費用を捻出するために行ったクラウドファンディングにわずかな金額して集まらなかった、開催ありきでコンセプトが不明確などをあげています。

フルマラソン化は梅田修一市長の再選時の公約の一つでもあったために、見直すことは難しいと考えられましたが、市議会や市警察の関係者にも慎重論が多く、1月末に市長がフルマラソンかを断念することを発表しました。

現状を考えれば、定員割れの可能性は高く、そうすれば久喜市の財政負担は当初計画よりもはるかに多くなったはずです。そういう意味では、梅田市長は川内選手に救われたと思うのですが、実際に市長がどのように思っているかは分かりません。

川内選手の指摘は、久喜市だけでなく、全国で行われている多くのマラソン大会にも当てはまるはずです。現在、マラソン大会を行なっている自治体の関係者は、今一度、彼のメッセージを我がこととして見直していくべきでしょう。

www.sanspo.com

大会の特徴と持続性を再検討

分析記事の多くには、マラソン大会の生き残り策として、大会ごとの特徴を明確にすることの重要性が書かれています。

誰も彼もがマラソン大会に出場していた時代とは違って、ただ走るだけのイベントでは参加者に物足りなくなっているということでしょうか。

東京マラソン大阪マラソンのような大規模な大型のマラソンでも、まるで観光地巡りかのようなコースで、街の魅力をPRしています。トップランナーにとっては大きなポイントではないかもしれませんが、スマホで撮影しながら走るようなFUNランのランナーにとっては、名所を背景に撮影ができることは魅力の一つになるかもしれません。

もう1点注目すべきは、こうした大型マラソン大会は、好タイムが出やすいようにコースの変更を繰り返しています。

東京マラソンが現在の東京駅前のゴールになったのは、東京駅というシンボリックな場所をゴールにしたかったと同時に、以前のコースでは終盤、運河をまたく橋をいくつも渡る必要があり、そのわずかな起伏をコースから外したかった為でもあるでしょう。

起伏の少ない平坦なコースのメリットは、日本記録などを狙うトップランナーにとってだけではありません。一般のランナーでも、少しでもタイムをアップしたい気持ちは変わりませんから、タイムが出やすいコースに魅力を感じるのは同じです。

東京マラソンのような大会で、少しでも魅力を高めようと努力しているわけですから、地方のマラソン大会は、さらに努力が必要です。

例に挙げている三浦国際市民マラソンの場合、幸い、三浦半島の最南端の城ヶ島や三浦漁港などの関東では名の通った観光地はあります。しかし、コース上でうまく活かし切れているとも言えません。

また、三浦国際市民マラソンでは、遠くに東京湾相模湾を望める広々とした田園風景の中を走ることも魅力に一つです。

ホームページでもこうした「風光明媚」な場所を走ることを魅力として文字としてはうたっていますが、その魅力を伝える画像はごく僅かです。大会の公式のSNSもありますが、そこではこうした画像ほぼ皆無で、事務的な情報しか発信されていません。

コースの魅力を具体的に伝える画像をもっと積極的にアップすると同時に、そうした魅力を年間通じて発信していくことも一つの方法です。SNSが継続性と更新頻度によって露出が異なることは今更言うことでもないでしょう。

もちろん、発信だけで大会参加者が増えるほど甘くはないかもしれません。

例えば、その魅力のあるコースを、年間を通して走ることができる環境を作ることも方法です。駅の近くにランニングステーションを作ったり、参加者数十人のミニ大会を定期的に開催するのも方法です。そうした情報を参加者とともに、SNSを通じて発信していきます。

年に1回のイベントで満足するのは、日本の行政の悪癖です。年間を通じてランナーが訪れる街づくりという視点に立てば、もっと幅広いPRができるはずですし、新たな大会スポンサーを得ることも可能になるかもしれません。

自治体が直面する大会の価値と市場経済

ラソン大会の多くは自治体や自治体の外郭団体によって開催され、ほとんどの大会に公的資金が投入されています。参加費やスポンサー料だけで開催するのは、ほとんどの場合、現実的ではないようです。

元々の開催の目的として、住民サービスや地域の活性化など諸々があったはずですが、投入された公的資金に見合ったリクープがされているかを厳密に検証している大会は、ほとんどないのではないでしょうか。

大会を開催すれば、無条件に定員以上のエントリーがあり、大会当日には会場やコースがランナーでいっぱいになる時代には、開催の意義目的はそれほど問題視されませんでしたが、最初に紹介した三浦市のように、参加者が想定より少なく追加予算が必要な状況になれば、改めて開催の意義目的を問われることになるはずです。

一方で、マラソン大会は、開催する自治体や外郭団体にとっては、市場経済と直面しなければいけない数少ない機会と言えます。

こちら点でも、どこの大会でも定員を満たす参加者が見込める時代であれば、意識しなくてもよかったかもしれませんが、コロナ以降はそれでは許されなくなっています。

しかし、自治体の公務員や外郭団体の職員は、そうした仕事に慣れていません。法律や条例に沿って、議会などで決められた予算内にで住民サービスを行うことを、仕事としてきたからです。

大会の参加者が定員に満たないということは、生産した商品が売れ残ったということになります。

では、なぜ売れ残ったのか。大会の価値が参加料=売価に見合わなかったからでしょう。その場合、参加料をその価値に見合う金額に下げるか、金額に見合うように大会の価値を高める必要があります。

提供した定員に対して、マーケット自体が小さ過ぎるということも考えられます。その場合、マーケットに合った定員に変更する必要があるでしょう。製品であればマーケットの規模に合わせて生産量を減産するということです。

しかし、定員を少なくした場合、公的資金の投入、即ち投資に見合った効果が得られない可能性、つまりそもそもの目的を達成できない場合もあります。

いずれにしても、多くのマラソン大会が、存続の分岐点に立っていることは間違いありません。果たして、税金をかけて開催することの意義は本当にあるのか。原点に帰って吟味する時に来ているのです。