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マラソン、パリ五輪選考あれこれ

パリオリンピックのマラソン代表選考が終わって

3月10日に開催された名古屋ウィメンズマラソンで、1年以上をかけて行われたパリオリンピックのマラソン代表の男女選考が終わりました。

代表に内定した男女各3人は次の通りです。

男子

・小山直城(Honda)2時間08分57秒
・赤﨑暁(九電工)2時間09分06秒
大迫傑Nike)2時間09分11秒

女子

・鈴木優花(第一生命グループ)2時間24分09秒
・一山麻緒(資生堂)2時間24分43秒
・前田穂南(天満屋)2時間18分59秒

改めて、選考方法を確認すると、昨年9月にマラソングランドチャンピオンシップMGC)という選抜メンバーによるマラソンレースが開催されました。

このレースに出場するためには、男子では2021年12月から2023年3月までの間に指定された11レース、女子は2022年1月から2023年3月までの間に指定された10レースで、日本陸連から定められた以上の成績を収める必要があって、その定められた成績は、レースの開催時期や季節によって異なっています。

その結果、昨年のMGCには、指定の成績内でゴールした男子65名、女子は27名が出場しました。

このレースで、男女ともに1位と2位の選手がオリンピック代表内定(正式にはJOCからオリンピック代表としてエントリーされて決定)。第3位の選手は、今年3月まで開催されるMGCファイナルチャレンジと称された男子3レース、女子2レースで、規定以上の成績を収めた選手がいない場合はそのまま内定、規定以上の成績の選手が登場した場合は、その中で最も成績の良かった選手が内定となりました。

MGCファイナルチャレンジの規定の成績は男子は男子は2時間05分50秒以上、女子は2時間21分41秒以上で、いずれも出場したレースで日本人最上位であることです。

ここに指定されたタイムは、MGCの予選ともなったMGCチャレンジでの最高記録を基準とされています。

男子では、ファイナルチャレンジでこのタイムをクリアした選手がいなかったために、MGC3位だった大迫選手が内定、女子では大阪国際女子マラソンで、前田選手がこの記録をクリアして日本人トップになったために、MGCで3位だった細田選手に代わって、代表に内定しました。

www.mgc42195.jp

19年ぶりに女子の記録を動かした前田穂南

この中で、特筆すべきは大阪国際女子マラソンで、19年間更新されなかった女子マラソン日本記録を塗り替えた前田穂南選手でしょう。

プロ野球で34年ぶりに日本一になった阪神タイガースの岡田監督にあやかるように、目標は「アレ」と公言して、レースに臨んだ前田選手は、序盤からハイベースのペースメーカーに引っ張られるレースながら、20km過ぎからはさらに加速し、ペースメーカーや他の選手を置き去りにして独走状態になりました。30km過ぎに2時間18分台の記録を持つエデサ選手(エチオピア)にトップを譲りますが、その後の雨や向かい風にも大きくペースダウンすることなく、野口みずきさんが2007年に出した日本記録を13秒更新する2時間18分59秒でゴールしました。

hochi.news

誰もが日本陸連が定めたパリオリンピックの派遣設定記録の2時間21分41秒のことだと思っていた前田選手の「アレ」は、日本新記録だったのです。

そして、記録と同様に前田選手が注目されたのが、このレースでのレース展開です。

序盤から高速レースだったにも関わらず、20km過ぎに彼女一人スパートして、途中でエデサ選手に抜かれはしましたが、彼女の積極的なレース運びは、記録を出すにはこうしたレースができなければいけないという印象を与えました。

ただ、こうしたレース運びは、前田選手の元々のスタイルなのでしょう。

今回で2大会連続でのオリンピック代表となる前田選手ですが、前回東京オリンピック代表の決めるMGCでは、中盤から独走状態を確立して、2位に4分近くの差をつけて優勝しています。

昨年のMGCでも、前田選手は序盤から先行してレースを引っ張ろうとしましたが、この時は早い段階で集団に吸収されて、9位に終わっています。

最後の選考レースになった名古屋ウイミンズマラソンでは、東京オリンピックで1万m代表だった安藤友香選手が自己記録を18秒更新して優勝しました。

この安藤選手と2位になった鈴木亜由子選手は、当初ファイナルチャレンジ向けて設定された派遣記録の2時間21分41秒をクリアしています。

つまり、派遣記録をクリアすることを目標にしたトレーニングは成功したことになります。

ただただ、今の日本女子には前田選手の記録が早過ぎただけ。1月からの準備期間では前田選手の記録を越えるには時間が足りなかったということでしょう。

さらに言えば、2大会連続でオリンピック出場を決めた前田選手だけが、早い段階からオリンピック出場だけをゴールと考えていなかったことがわかります。

前田選手の日本記録に消えた新谷仁美選手

前田選手の日本記録に最も悔しい思いをしたのは、大阪国際女子マラソンでペースメーカーも務めた新谷仁美選手でしょう。

昨シーズンは1月に行われたヒューストンマラソンアメリカ)で2時間19分24秒の当時日本歴代2位の記録を出したは新谷選手は、日本代表としてパリオリンピックに出場するよりも日本記録を目指すこと公言し、オリンピック選考対象となるMGCMGCファイナルの大阪国際女子マラソンや名古屋ウイミンズマラソンを回避して、記録を狙いやすいと言われる東京マラソンにエントリーしたのです。

当初は、海外のレースで記録を狙うと言っていましたが、移動のリスクを考慮して、高速コースとなった東京マラソン日本記録を目指すことにしたようです。

新谷選手の場合、出場できても海外選手に埋もれてしまうオリンピックよりも、記録として残る日本記録樹立を狙うという二者択一の決断したわけです。

しかし、前田選手はその彼女の目の前でその両方を実現してしまったのです。

ですから、新谷選手は是が非でも東京マラソンで、前田選手の記録を越して日本記録を樹立したかったはずです。

ネット上で調べてみると、東京マラソンの直前にアップされた下記の記事に、新谷選手の日本記録に向けた想いが書かれていました。

www.rikujyokyogi.co.jp

彼女と彼女のコーチは、レース後のインタビューで、前半ベースの上がらないペースメーカーに合わせてしまったことを敗因に挙げていましたが、この記事にはそれついても答えていました。

日本新を掲げてからは、練習でもレースでも、ペースメーカーに頼りすぎてしまうことに気づいた。」

新谷選手のようなベテランの選手であれば、例え1キロのラップが数秒遅くても、ペースが遅いことに気づかないわけがありません。しっかりと体にラップタイムが刻まれているはずです。

ペースメーカーが遅いことなど、時計を見なくてもコーチに言われる前から分かっていたはずです。しかし、前半からペースメーカーの前に出る勇気はなかった。

大阪で前田選手のレースを見ていたはずの新谷選手が、彼女の走りを参考にできなかったのは残念でなりません。

後輩たちを応援するつもりペースメーカーを務めたレースで、前田選手の快走を目の前で見せつけられて、そのプレッシャーに負けてしまったのかもしれません。

男子マラソンで活躍する川内選手は、オリンピックに出場しないことを明言している新谷選手が日本記録を出せば面白いことになると話していたようですが、その期待は叶えられませんでした。

一方で、肩を撫で下ろしたのは瀬古利彦ロードランニングコミッションリーダーを初めてとする日本陸連の関係者でしょう。新谷選手が日本記録を出していれば、日本一速いランナーが、自らの意思でオリンピックに出場しないという事態が起こっていたのです。

thedigestweb.com

盛り上がりに欠けた男子の選考レース

盛り上がった女子に比べて、男子は盛り上がりに欠けたようです。

昨年9月に行われたMGCのレース自体は、序盤の川内選手の飛び出しで盛り上がりを見せましたが、結局MGCで1位と2位になって出場を決めた小山直城選手と赤﨑暁選手、更にその後のファイナルチャレンジ3レースで覇権記録をクリアした選手がいなかったため、MGCで3位になった大迫傑選手の3選手が代表内定となりました。

男子の日本記録は、2018年に設楽選手が16年ぶりに日本記録を更新したあと、同じ年に大迫選手が待望の5分台に突入、さらに2020年に再度大迫選手が記録更新し、2011年1月に鈴木健吾選手が日本人初の4分台となる2時間4分56秒の日本記録を出しました。

この時期、日本陸上競技連盟日本記録達成に1億円の賞金を出していたために、その賞金の効果だと言う声もありますが、その時期はちょうど世界的にトップランナーに厚属シューズが浸透した時期と重なり、世界的にも長距離の記録が伸びた時期でした。日本でも厚属シューズの恩恵でタイムが伸びたのではないでしょうか。

そうした状況で、1年延期されて開催された東京オリンピックでは、否応なしに期待は高まりました。その期待に応えるかのように粘り強い走りを見せた大迫選手が6位入賞。夏のレースなので記録こそ伸びませんでしたが、日本人としては2012年ロンドンオリンピック以来の入賞となったのです。

しかし、その後、日本記録の更新は止まっています。つまり、2021年に行われた前回の東京オリンピック直前から、記録更新は止まったままなのです。日本人にとっての厚底シューズの効果は、2021年1月に鈴木健吾選手が出した現在の日本記録で打ち止めということでしょうか。

1月に女子の日本記録を更新した前田選手も、苦手だった厚底シューズをようやく克服し、記録更新に繋がったことをシューズメーカーのパブリシティの記事で話をしています。

number.bunshun.jp

今回のパリオリンピックの代表の選考過程でMBCチャレンジで、MGCの出場資格を得た65選手の内、2時間5分台で走ったのは、2時間4分56秒の日本記録を持つ鈴木選手だけです。しかもその記録は2022年3月の東京マラソンのものです。

2時間6分台で走ったのも前日本記録保持者だった大迫選手をはじめ3選手だけでした。

ファイナルチャレンジでは、昨年12月3日の福岡国際マラソンでは日本人トップが7分台、2月25日に行われた大阪マラソンでは3選手、3月3日の東京マラソンでも3選手が6分台にで走ったに過ぎません。

大阪マラソンでは、初マラソンだったためにオリンピック選考の対象にならなかった初マラソン新記録での優勝した大学3年生の平林清澄が、東京オリンピック以降で最も早く走ったランナーということになります。

この大阪マラソンでは、オリンピック選考への資格の無いこの平林選手の優勝した快走で、オリンピック代表選考とは別の盛り上がりを見せましたが、それでも彼のタイムは、選考基準に達していません。

まるで、時計の針が止まったどころか、遡ってしまったかのようです。

結局ブレークスルーの予感すらなく終わった男子の選考でした。

この間に、世界記録は、ケルビン・キプタム(ケニア)によって2時間突破目前の2時間0分35秒まで伸びているのです。

ペースメーカーへの不満から選考方法に対する不満へ

男子の最後の代表選考の対象となった東京マラソンでは、ペースメーカーが設定タイムより遅いことやペースメーカーが立ち止まって吸水するなど、不備が指摘されています。

女子の最後の選考レースとなった名古屋ウイミンズマラソンでも、ペースメーカーのタイムが不安定なことや、予定よりも早くレースから離脱されたことが指摘されています。

その声は、ネットなどの一般の声だけでなく、出場したランナーやそのコーチからも不満の声が上がっていました。

一方で、大阪女子国際マラソン大阪マラソンでもペースメーカーが完璧だったわけではありません。中継の映像ではタイムの不安定さがこの二つのレースでも指摘されていたようです。

しかし、日本記録を更新した前田選手も、初マラソンの新記録を出した平林選手も、序盤こそペースメーカーというよりは、ペースメーカーのコントロールによって出来上がる上位集団に合わせる形で位置取りをしていますが、その後、ほとんどペースメーカーを意識せずに自分のペースで走っていて、さらに自分のペースでスパートをかけています。

そもそもオリンピックを狙えるようなランナーたちは、日頃のトレーニングの中で、自分のペースは体が覚えているはずです。さらに、目標タイムで実際に42.195kmで走っている可能性もあります。

ですから、目標タイムを明確にして自分のレースプランがしっかりしていれば、実際のレースでは、当日の内外のコンディションや他の選手との駆け引きも含めて、想定したいた通りのランができるかできないの問題であって、本来ペースメーカーに頼る必要はないはずです。

しかも、今はスマートウォッチなどで時間だけでなく、自分の心拍などのコンディションを自動計測することすらできます。

平林選手はレース中にかなり頻繁にスマートウォッチを見ていましたが、あれは自分の体感と計測されたコンディションの違いをチェックしていたのではないでしょうか。

例えば、体感的にきついなあと感じても、データを見て許容値内だと確認できれば、ペースダウンせずに走ることができますし、だったらもっとあげようということも可能です。

何より、ペースメーカーに関して様々な批判がされた東京マラソンでは、男子では日本人トップの西山雄介選手より前に8人のランナーがゴールしていて、そのうち4人はオリンピック派遣記録をクリアしています。女子でも5人の選手が日本人トップの新谷選手より早くゴールしていて、その内4人は前田選手の記録より早くゴールしているのです。

その選手たちとオリンピック本番で戦わなければいけません。それでも尚、ペースメーカーのせいにするのでしょうか。

ネット上では、こうしたペースメーカーに関する指摘が、いつの間にか、東京オリンピックから採用されているMGCによる代表メンバーの選考方法に関する賛否に変わっていきました。

賛成の意見の多くは、公平性と透明性が保たれていることを理由にあげています。

逆に反対の意見は、本当の公平性を保つには一発勝負で決めるべきという意見が中心だと思います。

筆者も概ね、現在の方法はベストではないが、ベターだと考えています。

選考という点で何よりも重要なのは、透明性と公正性です。かつて密室でメンバー選考が行われていた時代は、毎回のようにその選考結果で物議を呼びました。特に3人目の代表には関係者のさまざまな思惑が交錯していたように思います。

そうした時代を知らない世代の人にとっては、公平性、透明性の重要性がわかりづらいかもしれませんが、その時代を見てきた世代にとっては極めて重要だと考えます。

また、オリンピックのレースが一発勝負で行われることを考えれば、選考レースも一発勝負にすることがある意味では理想ですが、長距離走では再現性も重要です。

例えば、今回の大阪マラソンで2時間6分台で優勝した平林選手が、再び同じようなタイムで走ることができるかです。過去に、初レースで好記録を出しままその記録を超えられない選手を、私たちは数多く見てきています。一発勝負にした場合には、そうしたリスクもあるのです。

また、この選考方法を企画した瀬古氏が漏らしているように、やはりスポンサーやテレビ局への配慮も重要です。日本で数多くのマラソンレースが行えるのは、レースを協賛してくれるスポンサーや中継するテレビ局のお陰です。

オリンピック予選を一発勝負にしたために、他のレースへの注目が低下し、スポンサーやテレビ局の撤退、その結果レースが開催できなくなってしまっては、競技普及という視点で見れば明らかに本末転倒でしょう。

あとは、MGCに出場を目指すレベルの選手にとって、このレースを目指すことが強化の指針となり強化の一助となる工夫やタイム設定が求められます。

例えば、東京オリンピックの選考レースだった前回のMGCでは、参加資格のタイムが高過ぎたためか、男子27名、女子11名のレースになってしまいました。男子の27名はともかく、女子11名は競技としてもイベントとしても少な過ぎます。

それに反省した今回は、資格となるタイムを緩めにしたところ、男子は67名が資格を得て65名出場、女子は29名が資格を得て27名がMGCに出場しました。人数が増えたことは喜ばしいことですが、男女ともタイムが伸びなかったのは設定タイムが低かったからだと思われます。

一定以上の参加人数を確保した上で、全体的に好タイムを引き出せるタイム設定やルール作りが期待されます。

ラソンは日本のお家芸とは誰が言った?

「マラソンは日本のお家芸

ラソン中継などの番組を見ていると、今もこの言葉をよく耳にします。スポーツにおけるお家芸とは、伝統的に競技レベルが高いことを意味する言葉だと思いますが、日本のマラソンにこの言葉が当てはまるのでしょうか。

確かに、日本でのマラソン長距離走の人気は高いことは間違いなく、日本のローカルスポーツである駅伝の人気は相当なものです。また人口あたりのランニングの競技人口も多い方でしょう。

しかし、競技レベルを見ると、日本のマラソンは決して「お家芸」だと胸を張れるほどのレベルにはないように思えます。

日本がオリンピックに初めて出場したのは、1912年に開催された第5回ストックホルム大会で、この時に派遣された2選手のうち1名が、のちに箱根駅伝を創設する金栗四三氏です。マラソン競技に出場した彼は、残念ながら脱水症状となり途中棄権します。

日本のマラソン選手が初めて入賞を果たすのは、1928年に開催された第9回アムステルダム大会で、山田兼松氏と津田晴一郎氏がそれぞれ4位と6位に入賞しています。

日本代表が初めてメダルを獲得するのは、第2次世界大戦直前の1936年の第11回ベルリン大会で、いずれも朝鮮出身の孫基禎氏と南昇竜氏がそれぞれ金メダルと銅メダルを獲得しています。

その後、1940年に予定されていた東京大会を日本が返上、大戦後1952年の第15回ヘルシンキ大会から復帰が許されて、その後初めてメダルを手にするのは、1964年東京大会の円谷幸吉氏の銅メダルです。

続く1968年メキシコシティ大会で君原健二氏が銅メダルと取ったあと、複数の大会で入賞を果たしています。

森下広一氏が銀メダルを取った1992年バルセロナ大会では他2選手も入賞を果たしていて、今から振り返るとこの大会が男子マラソンのオリンピックにおけるピークになっています。

その前後も含めてコンスタントに入賞はありますが、特にアフリカ勢が台頭してくる今世紀に入ってからは、5大会で入賞者は3人と明らかに世界的な競争力が低下していることが結果に表れています。

一方の女子は、1984年ロサンゼルス大会で競技として採用されて以降初めてのメダルとなる銀メダルを、1992年バルセロナ大会で有森裕子氏が獲得。その有森氏が続くアトランタ大会でも銅メダルを獲得し、次の2000年シドニー大会の高橋尚子氏、2004年アテネ大会の野口みずき氏の連続金メダルに続きます。

まさにお家芸と言って自慢をしていい時代です。

アテネ大会では野口氏を含む出場3選手全員が入賞を果たします。日本の女子マラソンのピークはこの大会だったと言って良いでしょう。その後、日本人選手の入賞は、2021年の東京大会の一山麻緒選手まで待たなければなりません。

日本記録と世界記録の記録の違いで見てましょう。

男子では、1965年に重松森雄氏が2時間12分0秒の世界記録を樹立します。その後、日本記録は世界の後塵を拝するわけですが、それでも1985年には中山竹通氏が世界記録まで57秒差、2002年には高岡寿成氏が48秒差まで迫ります。その後、日本の記録は16年間更新されず、その間に世界記録は伸びて、現在世界記録は2時間0分35秒に対して、日本記録は2時間4分56秒と4分44秒の差があります。

女子はもっと深刻で、2001年には前年シドニーオリンピックで優勝した高橋尚子氏が2時間19分46秒の世界記録を樹立しますが、その後なかなか記録が伸びない間に世界の記録は大きく更新されて、昨年ティギスト・アセファ選手(エチオピア)によって2時間11分53秒が記録されました。先日、前田穂南選手によって19年ぶりに更新された日本記録2時間18分59秒との差は、7分以上あります。

オリンピックのマラソン競技は他のマラソンとは別もの

「パリは上り下りがすごくてタフなコース。日本勢の得意とする練習量の多さが生かされる。五輪はただの記録(の争い)ではない」

mainichi.jp

ラソン競技の責任者である日本陸連瀬古利彦ロードランニングコミッションリーダーは、名古屋ウイミンズマラソンのあと、こう語ったそうです。

パリオリンピックでは、瀬古氏の言う上り下りだけでなく、東京大会同様、高温下でのレースが予想されます。また古くから残る石畳を走る部分も多いようです。マラソンにとって理想とは程遠いコンディションで行われるのがオリンピックのマラソン競技です。

このため記録も伸びていません。直近の3大会を振り返ってみましょう。

男子

・2012年 ロンドン大会:スティーブン・キプロティチ(ウガンダ)2時間8分1秒
・2016年 リオ大会: エリウド・キプチョゲ(ケニア)2時間8分44秒
・2020年 東京大会(2021年札幌):エリウド・キプチョゲ(ケニア)2時間8分38秒

女子

・2012年 ロンドン大会:ティキ・ゲラナ(エチオピア)2時間23分7秒
・2016年 リオ大会:ジェミマ・スムゴング(ケニア)2時間24分4秒
・2020年 東京大会(2021年札幌):ペレス・ジェプチルチル(ケニア)2時間27分20秒

いずれも日本記録よりもはるかに遅く、例えば、同じ夏レースの昨年のMGCの記録と比較してみても、男子では1位の小山直城選手、2位の赤﨑暁選手の記録と比較しても1分以上の開きはありません。

女子では8位までの選手が東京大会優勝のジェプチルチル選手の記録より早く走っています。

このように毎回タフなコンディションの中で行われるオリンピックのマラソンでは、記録よりも勝利が優先する走りが求められます。記録よりもオリンピック金メダリストの名誉を目指す走りが必要で、様々な駆け引きが行われるはずです。

そのあたりに記録としてのスピードでは劣る日本選手にも勝機があるかもしれません。

日本選手が、想定される過酷なコンディションの中で、目標をどのように設置しその目標をクリアするのか。注目のパリオリンピックは、すでにおよそ4ヶ月後です。

お家芸」復活に期待したいものです。