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大相撲は暴力問題から抜け出せないのか?

想像を超えた北青鵬の起こした暴行事件

2月23日、大相撲の幕内力士・北青鵬が同じ部屋の力士へ暴力行為などを行っていたことが原因で引退し、その北青鵬の行為を放置したばかりか、隠蔽を図ったとして、元横綱白鵬宮城野親方をヒラの親方に降格させた上で、宮城野部屋が事実上彼から剥奪されたことが相撲協会から発表されました。

北青鵬は2020年に初土俵に上がり、昨年3月場所から幕内力士として活躍していた22歳。身長204cmの恵まれた体格で将来を嘱望されていました。

北青鵬が同じ部屋の力士に行なっていた暴力行為は、長期に渡り行われたようで、報道されたその行為の内容は、見たくも考えたくもないばかりでした。

彼の巨体を考えれば、恐怖のために弟弟子たちが抵抗できなかったことは想像するのは容易いですし、彼らが我慢していたのには、親方と同じモンゴル出身であることも関係があっただろうと思われます。

暴力行為以外にも、自らが雇った運転手が運転するロールスロイスで会場入りするなど力士として不適切な多くの粗暴、奇行とも言える行為を繰り返していて、そうした行為を見逃してきた上に、メディアに働きかけて隠蔽をしようとしたという宮城野親方の責任が非常に重いことは言うまでもありません。

相撲協会と親方が時間をかけて作った今回の事件

宮城野親方自身、現役時代には、強ければ何をしていいという姿勢を相撲や態度で曝け出していて、メディアや横綱審議会などから横綱に相応しい品格がないと言われながらも、相撲協会も師匠である先代の宮城野親方もこうした行為を事実上黙認して、本人が引退するまでそうした取り口や態度を続けることを許しました。

歴代最多優勝の45勝をあげた白鵬ですが、現役終盤は卑怯とまで言われた取り口を繰り返さなければ勝てなかっただろうという声もあり、自らその名前と横綱の権威を傷つけることになったのです。

しかし、相撲協会幹部は、歴史的偉業とそのお陰で生まれるメリットのために、誰もNOを突きつけることができなかったのでしょう。

特に、元横綱日馬富士が引退に追い込まれた2017年の貴の岩へ暴行事件では、暴行を目前で目撃しながらも長時間放置した上に、事件発覚後の優勝インタビューでは事件の当事者意識に欠けた言動を行ったり、当時理事だった貴乃花への批判を繰り返した白鵬に対して、相撲協会はわずかな減給処分のみでことを納めています。

こうした相撲協会の対応が、白鵬を増長させ、強ければ何をしても自分は大丈夫だという意識を持ったに違いありません。

そうした現役時代に培われた彼の意識は、親方になった後も変わらず、同郷の弟子に受け継がれたのでしょう。

相撲協会の事なかれ主義は、今回の北青鵬への対応にも表れています。

部屋を出てどこに住んでいるかもわからず、ロールスロイスに会場入りした北青鵬に対して、問題視していると言いながらも、結局何も具体的なアクションをとっていませんでした。

問題が発覚して後も、本人から引退届が出されるとそれを受理して、結局、何の処分もしていません。

おそらく、北青鵬はほくそ笑んでいるのではないでしょうか。

繰り返される暴行事件

相撲部屋の暴力事件と言えば、2007年に時津風部屋で起こった力士の暴行死事件が思い起こされます。

当時の時津風親方がその年に入門したばかりの時太山関をビール瓶で殴打した上、兄弟子たちにも暴行させるなど、親方自らが主導して弟子を殺害しました。集団リンチによる殺害でした。

死因を不審に思った両親が大学病院に遺体を持ち込んで解剖をしてもらった為に事件が発覚し、警察の手で状況が明らかになりましたが、この時も相撲協会は、当初積極的に解明しようとはしませんでした。

警察の捜査と裁判で、時津風部屋の実態が明らかになり、有罪判決が出された時津風親方は解雇になりましたが、もし、警察の捜査が入らなければどうなっていただろうと考えずいられいません。

2017年の日馬富士の暴行事件では、傷害罪で50万円の罰金の判決を受けた日馬富士が引退に追い込まれますが、相撲協会は暴行事件を把握した後も、具体的な対応を取らず、日馬富士本場所に出場しています。

事件が明らかになったのは、本場所中、暴行のために受けた怪我を理由に休場した貴ノ岩関の親方だった貴乃花親方と当人が、警察に被害届を出していることが、マスコミによって明らかになってからでした。

この事件の後、相撲協会は「再発防止策」を発表していますが、その後も現在まで暴行事件が繰り返され、その度に暴力追放を公表するだけです。

どうすれば各界は生まれ変わることができるのか?

今回の北青鵬の場合、まず、暴行を受けた弟弟子たちから警察に被害届を出させて、警察に犯罪としての捜査を行わせ、その結果によって北青鵬に裁判を受けさせて、彼が犯した行為に相応しい罰を受けさせるべきです。

これまでも繰り返されてきましたが、北青鵬から提出された引退届を受理し、相撲界から出て行けば良いという考えでは、相撲協会は社会的な責任を放棄していることになります。

北青鵬は県立高校を卒業して、宮城野部屋に弟子入りしています。元々の性格的な要因を100%否定できませんが、今回の暴力事件を起こす直接的な原因は、入門後の相撲部屋と相撲関係者の間だけで過ごしていた期間に作られたと考えるべきでしょう。

その若者が暴力行為を行なったことに対して、本来受けるべき罰を受けさせ反省を促し、本人次第の部分はありますが、更生の道を提供することが、北青鵬に対する相撲協会の組織としての最後の責任です。

今後に向けては、犯罪と思しき行為があった場合には、必ず警察に通報または被害届を提出して、警察や裁判所の判断を仰ぐというルールを作るべきでしょう。

このことは、相撲協会だけでなく、例えば、主催した試合会場で来場者による暴力行為があったにも関わらず、内輪の規則と制裁だけで幕引きをしようとする他の競技団体にも必要です。

そうした競技団体も含めて、スポーツの団体はそろそろムラ社会から卒業すべきです。

そして、ムラ社会から脱却するのに必要なのは組織改革です。

相撲協会の場合は、部屋制や年寄り株など、不透明な構造が数多くあります。

健全なスポーツ団体として、相撲というスポーツ大会を運営する主催者でいたいのであれば、こうした部分にも第三者から見ても分かりやすい透明性を担保すべきです。

そして、繰り返される暴力行為に関しては、今、巷を賑わす自民党の裏金問題にも共通していますが、本人や関係者たちが悪いことをしたと本気では思っていないことに、問題の根本があります。

相撲協会の理事も含めて多くの相撲関係者やファンの「これくらいなら・・・」の蓄積が、繰り返される暴力事件を誘発していると言えます。

これを変えるには、体制を一新し、協会の風土を変える必要があります。そのためには組織の意思決定をする理事会のメンバーを一新するのが良いでしょう。

現在の理事のような力士を引退した親方衆は最小限にして、評決に必要な人数分を、相撲経験のない外部から招聘するのです。またで現役力士もメンバーに加える良いでしょう。一部には、力士全員による選挙を取り入れても良いかもしれません。

これによって、時代に合ったリアリティと社会性を持つ組織を作ることができます。

相撲協会も含めたスポーツ団体の多くは文部科学省傘下の公益法人ですから、すべてのスポーツ団体にこうした規約を当てはめ、外部から招聘する理事は第三者機関や文部科学省が選任するなどの方法もあるでしょう。

この結果が、文部科学省関連の議員と役人に癒着と裏金の機会を与えることに繋がり可能性は大きいですが。

また、これも多くのスポーツ団体にも共通しますが、若い選手、相撲協会であれば力士の人格教育も、団体として取り組むべき課題です。専門家の知恵や力を借りて、プログラム化を進めるべきです。

特に相撲の場合は、最近は大学出身の力士も多くなった一方で、中学からそのまま弟子入りする力士もいます。そうした力士には、部屋から高校に通わせることを規則化するなど、教育や人格形成に注意を払う必要があるでしょう。

そして、さらに大切なのは、支援する法人や応援するファンの姿勢です。

白鵬の場合、2007年暮の日馬富士の暴行事件発覚直後の初場所で、彼を満場の拍手に迎えたことが、その後の白鵬を作り、今回の暴力時間に結びつきました。そういう意味では、相撲ファンや谷町も相撲のムラ社会の構成員と言えるでしょう。

もし、あの時、白鵬にブーイングを浴びせていたら、今回の事件はなかったかもしれません。そういう厳しさも時には必要です。そのことを相撲を応援する人たちは考えて欲しいものです。