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日本代表に必要なことと代表監督の適正【2024年1月再アップ】

劇的な成長を求められるのは選手だけでない

昨年開催されたカタールワールドカップは、日本選手たちがヨーロッパの一流クラブでプレーすることが当たり前になった中で開催され、ワールドカップのようないわば本番の大会でも、多くの日本の選手が堂々と自分のプレーで海外のトップレベルの選手と渡り合えることが実証された大会になりました。

その一方で、森保一監督が4年間かけて作り上げた組織、そして彼の戦術は、グループリーグ突破が限界であることもわかったというのが筆者の印象です。

グループリーグのドイツ戦とスペイン戦の勝利は、なるほど森保監督の手腕が占める割合も多かったのは間違い無いでしょう。選手たちは森保監督が示したプランを、着実に、時には監督が期待した以上の動きで素晴らしい結果を残しました。

しかし、目標としたベスト8を賭けたクロアチア戦で120分間を同点で終えることができたのは、ほとんど選手たちのパフォーマンによるものと言って良いでしょう。長い時間をかけて準備することができたドイツ戦やスペイン戦とは異なり、試合まであまり時間が無かったこの試合では、森保監督とそのスタッフは、十分な分析と具体的なプランを用意できず、クロアチアのストロングポイントに対して無策だった上に、自らの選手たち本来のストロングポイントを引き出すこともできませんでした。

その森保監督は、代表監督続投が決定した直後に出演したテレビの報道番組で、4年後の大会で日本がベスト8以上になるためには、ヨーロッパチャンピオンズリーグの決勝戦でプレーできる日本人選手が現れることだと語りました。

確かにそれは正論です。仮に、次回ワールドカップまでの4年の間に、森保監督の言葉通り、日本代表選手の数人がチャンピオンズリーグの決勝の舞台に立つようになっていれば、日本代表監督の仕事は今よりもずっと楽になるでしょう。

しかし、それだけのレベルアップを選手に求めるのであれば、森保監督自身も同様の成長が必要なはずです。しかし、今後4年間、彼が今までと同じ日本代表監督として経験を積んだからと言って、ヨーロッパを舞台でプレーを重ねて劇的に進化するであろう選手たちと同様の成長が見込めるはずはありません。4年後もベスト8以上に相応しい組織、戦術を用意できる可能性は少ないのではないでしょうか。

選手には成長を求めながら、自分は今まで同様にJリーグ監督の延長戦上で、安穏と日本代表監督として4年間を過ごそうしているのであれば、成長した選手たちからノーを突きつけられる可能性は高いでしょう。

今回の大会で、一体化したように見えた選手たちと森保監督ですが、今の段階でも、彼らの間には、大きなギャップが垣間見えました。

筆者が気になったのは、クロアチア戦直後の表情やコメントです。試合直後の選手たちは、ピッチに崩れ落ち、悔しそうな表情を見せ、言葉でも無念さを隠そうとはしませんでした。

一方で森保監督はどうだったでしょう。その表情は晴れ晴れとして達成感に溢れていました。決して敗戦の将の表情ではありませんでした。彼の言葉も、満足感がにじみ出ていました。

この時、彼が言った、選手たちを褒めて欲しいという言葉は、即ち自分を褒めて欲しいという気持ちから出ていると言って良いと筆者は思っています。

その反応の如実な違いは、リアルにヨーロッパレベルで戦っている選手たちと、選手としても指導者としても、日本やアジアのレベルでしかサッカー経験のない監督の差と言って良いはずです。

選手たちがそうしたギャップに気づいていないはずはありません。こうした心理的なギャップは、おそらく、今後不協和音となって、チーム運営に大きな障害になるはずです。特にフォアザチームのために、自分の本来のパフォーマンスが発揮できなかった中盤の選手たちにその傾向が強いはずです。

選手たちがヨーロッパのトップレベルに匹敵する力を付けたのであれば、やはり監督もそのレベルが必要です。ベンチ、ピッチが揃って高いレベルになってこそ、ベスト8以上、優勝が見えてくるはずです。

反町委員長が求めた受動的なサッカーから能動的なサッカーの転換

森保監督の続投が発表された記者会見では、反町康治強化委員長が森保監督に対して「受動的なサッカーから能動的なサッカーへの転換」を求める発言をしました。

受動的なサッカーとは、もちろん、ドイツ戦やスペイン戦の日本代表の戦い方を指しているのでしょう。クロアチア戦も含まれるかも知れません。

前回書いたように、この3試合はボール支配率、シュート本数のいずれも相手に圧倒されています。その結果、多くの時間帯で主導権を奪われ、日本は受け身の試合を余儀なくされました。こうしたサッカーが反町協会委員長の言う受動的なサッカーということでしょう。

反町委員長が述べたように、日本がワールドカップでこれまで以上に好成績をおさめるには、日本が主導権を持った試合運び、能動的なサッカーができる試合を増やすことが一つの方法でしょう。

一方で、アジア予選では、ほぼ全ての試合で能動的なサッカー、つまりボールを支配してゲームをコントロールして戦いました。今やアジア最強と言ってもいい日本に対して多くのチームが守備的サッカーで臨んでくるので、当然の展開です。しかし、勝った試合もありましたが負けた試合もありました。

この大会のコスタリカ戦も同様です。ほとんどの時間帯でボールを支配しましたが、僅かな隙をつかれて、唯一の枠内シュートを決められて敗戦を喫しました。

こうして振り返ってみると、受動的であるかどうか、ボール支配率が高いかどうかは、勝敗とは直結していないことも分かります。

さらにワールドカップ本戦で見せた相手にボールを持たせた守備的なサッカーは、森保ジャパンを通してのスタイルではないことが分かります。

確かにボールを支配することで、一見、試合を優位に進めることは可能でしょう。しかし、それは、相手との力関係によって変化することです。しかも同じ試合の中でも時間帯によって変化します。

ボールを支配するサッカー=ポゼッションサッカーを良しとするサッカーは、それにこだわって日本に破れたドイツやスペインと同様に、極めて日本的なサッカーでもあります。この場合の日本的のサッカーとは、日本代表ではなく特にJリーグのサッカーのことです。

失敗を忌み嫌い日本人のサッカーは、攻撃のシーンでもボールを奪われることを嫌い、一度奪ったボールを永遠のようにパスを回し続けます。そんな状況で、相手チームも積極的に奪いにいくことをせず、それに付き合います。Jリーグのサッカースタイルを端的に言うとそういうサッカースタイルです。極論までポゼッションを優先するのは、凋落するスペインサッカーと同じかもしれません。

ボールをキープすることを美徳とするのは、かつての日本のラグビーにも見られた姿です。

ひたすら左右にボールを回し続け早稲田大学ラグビースクラムからボールをキープしたままひたすらモールでプッシュし続ける明治大学ラグビー。そしてそれが融合したような日本代表のラグビー大学ラグビーが全盛の時代、日本のラグビーファンの多くは、そうしたラグビーが美しい本来のラグビーの姿だと信じてきました。

ラグビーにもサッカーにも共通するボールを失わないことを是とするスタイルは、日本人の気質に由来するものなのでしょう。

ラグビーはその後、日本代表に外国人監督が就任し、代表を中心に多くの外国出身の選手が日本でプレーするようになって、すっかり変わりましたが、サッカーは今も変わりません。むしろ、個々のスキルが上がってボールキープ力が高くなったことで、その傾向は強くなったかもしれません。

そして、先日の記者会見で、能動的なサッカーを求めた反町委員長もまた、選手としても監督としても日本国内での経験しかなく、日本人的サッカーの信望者なのかも知れません。

先ほど、書いたように能動的なサッカーができるかどうかは、対戦するチームとの力関係によって決まります。

森保監督が、選手たちにチャンピオンズリーグの決勝に出場するように求めたことは、反町委員長の求めに対する答えだったのか知れません。そうすれば、能動的なサッカーをできる可能性が高まります。

それでも、実際に容易いことではないでしょう。森保監督も、ボールを支配するサッカーを目指すような発言をしていましたが、ドイツ戦、スペイン戦は、森保監督にとって自分の経験の全てをぶつけた集大成とも言える試合で、国際経験の乏しい彼にとって会心と言って良い結果だったでしょう。その成功体験から、彼は逃れるのは難しいはずです。

ワールドカップを勝ち進むのに重要なのは個を生かすサッカー

ワールドカップで勝ち進むために森保監督のサッカーに欠けていた要素は、選手の個を生かす戦術です。今大会のベスト8に進んだほぼ全てのチームにはあって、日本代表に無かったのはこの点ではないでしょうか。

個を生かすサッカーの重要性は、アルゼンチンとフランスの決勝戦を見れば明らかです。

アルゼンチンはメッシ、フランスはエムパベという稀有な才能を活かし彼らにゴールをあげさせるために、全ての戦術があると言って良いかもしれません。

勝戦のアルゼンチンは、メッシに加えてディ・マリアというやはり類まれな選手も投入し、この二人のベテランが思う存分プレーできるように、他の選手たちが奔走しました。結果は皆さんがご存知の通りです。

一方のフランスも、エムバデを活かすことに専念したと言っていいと思います。特に試合が進むにつれてその傾向を強くします。

元々フランス代表には、2021ー22シーズンのバロンドールを獲得したベンゼマというエースストライカーがいましたが、怪我によってこのワールドカップのメンバーから外れ、急遽エムパデを中心にしたチームづくりが行われたと思われます。

アルゼンチンに先行を許した決勝戦では、このエムパデを活かすために、これまでエムパデと共に攻撃を支えてきたジルーとグリーズマンという2選手を試合途中でベンチに下げ、両サイドでリズムを作れるコマンとカマヴィンガという2選手が登場させて、同点シーンを引き出します。

アルゼンチンとフランスの違いは、アルゼンチンが、メッシやディ・マリアを活かすために、例えば、アルゼンチンリーグで昨年得点王になり、この大会でも4点をあげているアルバレスのような選手も、攻守に汗かき屋に徹していたのに対して、フランスの試合途中から投入された二人は、自分の得意とするプレースタイルでチームにリズムを与え、エムパデのゴールシーンをサポートしていることでしょう。それは監督のスタイルの違いもありますが、それ以上の選手層の厚さの違いもあるのかもしれません。

日本代表のサッカーは個を殺したチームプレー

日本代表はどうだったでしょう。

確かに、ドイツ戦やスペイン戦で得点をあげた堂安律選手や浅野拓磨選手は、ゴールシーンで彼らの得意とするプレーでゴールをあげています。おそらく、森保監督のゲームプランの中では、点を取るべき時間帯に、想定した方法でゴールをあげたように思われます。

しかし、彼らが持ち味である得意のプレーができた時間はそれほど多くは無かったのではないでしょうか。

攻撃陣では伊東純也選手のように、攻守に多くの機会で高いパフォーマンを発揮できてた選手もいます。それでもやはり持ち味の快足を発揮した攻撃よりも、守備に関わる時間が長かった印象です。

逆に、先発メンバーした攻撃陣の中で、最もらしいプレーができていなかったのは、鎌田選手ではなかったでしょうか。

2列目のポジションで出場していた鎌田選手は、ラストパスやシュートシーンでのプレーが期待されていたはずです。ブンデスリーガの所属クラブでのゴールゲッターとして、またチャンスメーカーとして活躍は皆さんもご存知の通りです。

今回の大会の鎌田選手は、残念ながらそうしたシーンでの活躍はほとんどと言って見ることができませんでした。その理由が、守備的な負担が大きかったことは明らかでしょう。FIFAの公式サイトには、鎌田選手が守備的なプレスがチーム内で最も多かったことが記載されています。

戦況によっては一時的に下がってボールをもらうことはあっても、基本的にはもっと高いポジションでプレーすることで、彼の持ち味の攻撃力を発揮することができたはずです。

同じサイトでは、ボールを受ける回数がチーム1多かったことが載っていますが、これはディフェンスに下がったポジションを取ることが多いために、猛攻を受けていた最終ラインからのボールを受けやすく、ボールの接触回数を増えたと想像できます。

もう一人、攻撃的なストロングポイントを生かしてきれなかった選手が三笘選手です。クロアチア戦の先制ゴールに繋がるラストパスや、同じ試合で延長途中に自陣から持ち上がって自分でシュートするまでのプレーなど、見るべき点はありましたが、物足りなさを感じた人も多いと思います。

その理由は、彼が事実上のサイドバックでプレーし、相手ゴールから遠い位置にポジションを取る時間が長く、また守備に割かれる時間が多かったことは明らかです。

TV中継では、三笘選手を「ゲームチェンジャー」になり得る選手と紹介していました。

おそらく、森保監督も同様の期待を持って、彼をピッチに送り出しているはずです。

しかし、その使われ方を見ると、彼が交代する長友選手と同じポジションで、周囲の選手のポジションにも変化はありません。

積極的に攻撃に参加し、自らゴールを狙っていた若い頃の長友選手ならともかく、今の長友選手はほ守備にかけるウエイトが高くなっています。その選手と同じ使い方で、三笘選手にゲームチェンジャーを求めたとしたら、監督として選手に頼り過ぎでしょう。そこには戦術は存在していません。

確かに、鎌田選手も三笘選手も、彼らの攻撃力と同時に、守備の強度が非常に高く、ディフェンスでも強豪国の選手と対等に渡り合えることを証明しました。しかし、ヨーロッパリーグで活躍する彼らにとっては、それはすでに当たり前のことなのでしょう。

それでも、彼らに求められるべきは、彼らが本来得意とする攻撃です。

戦術を活かすための選手か、選手を生かすための戦術か

この大会の日本と、例えば、決勝を戦ったアルゼンチンやフランスの戦術の基本を比較した時、最も異なる点はどこでしょう。

それは、日本が戦術を生かすために選手がいるのに対して、アルゼンチンやフランスは、選手を生かすために戦術があるということです。

その違いは、監督が、自ら考えた戦術によって勝利を目指すのか、選手の能力を信じてその能力を最大限に生かすことで勝利を目指すかの違いから生まれていると言っていいと思います。

アジア予選での森保監督は、具体的な戦術らしいものはほとんど示さず、過去に安定した結果を残してきた選手とその時の調子のいい選手をピッチに並べて、彼らのパフォーマンスに頼って本戦の切符を手にしました。アジアの中では、日本の優位が確立しているからこそ可能だった采配だったのでしょう。しかし、ワールドカップ本戦では、一転して、事前に決めた戦術に選手を嵌め込む采配に変更しました。

おそらく、それが森保監督と彼のスタッフが選択した、ワールドカップ本番で勝利のための方法だったのでしょう。予選の間、選手たちに自由にパフォーマンスを発揮させていたのも、本戦での戦術へのマッチングを見ていた部分もあったでしょう。

そして、もう一つの選手選考のポイントは、自分のプレーよりも森保監督が示した戦術を優先できるということだったかも知れません。

実際の本大会の試合を見ても、森保監督が考えた戦術へのマッチングが優先されたことは明らかです。

その結果、ワールドカップのメンバーに選ばれた多くの選手の持ち味が失われました。特に森保監督が受動的かつディフェンシブなサッカーを選択したことで、本来、中盤で攻撃を司る選手が、その攻撃的な能力を発揮する機会を失ったことは先に挙げた通りです。

では、森保監督はどうしたそんな判断をしたのでしょう。結局、自チームの選手たちの評価が、他国の選手たちと比較して低かったということになります。例えば、鎌田選手を中心にした攻撃のスタイルでは、ドイツやスペインから得点は上げることは難しいと考えたから、相手にボールを持たせて、最終ラインで耐え抜いて、カウンターでゴールを狙う戦術を選んだということになります。

今後に求められること

森保監督続投の後、コーチ陣も発表されました。専任のコーチとして前田遼一氏と名波浩氏が決まっています。さらに非常勤として中村俊輔氏の名前が上がっています。

皆さんは、なぜこの3人なんだろうと思われたのではないでしょうか。

まず、名波浩氏。現役時代は1990年代から2000年代前半のジュビロ磐田の全盛期にボランチで活躍し、日本代表でも名を馳せた名選手で、イタリアでもプレーした経験を持ちます。3人のコーチの中で唯一の監督経験者ですが、8シーズンの監督経験の中で取り上げるような成績を残していません。むしろほとんどにシーズンでチームは低迷し、最後の2シーズンでは、J2だった山雅FCをJ3に降格させています。もちろん、チームの成績は監督の責任や能力だけによるものではありませんが、少なくとも、日本代表コーチに抜擢するような特別な指導能力や戦術論を持っていないことは間違いないようです。

前田氏もJリーグで活躍し2度の得点王になっていますが、引退してまだ2年。ジュビロの育成年代のコーチとして指導者としてのキャリアがスタートしたばかりで、その評価も適性を判断する時期にも来ていません。

中村氏の現役時代については今更にここで書くまでもありませんが、昨年引退したばかりの彼は、まだ指導者として経験すらありません。

彼らの指導者としての能力や可能性を貶めるつもりはありませんが、日本中の選手の中から選ばれた日本代表という特殊なエリート集団を指導するのにふさわしい、根拠が見当たらないのは明らかです。

そして、この3人のコーチと森保監督とのマッチングもよく見えません。森保監督が、現役時代、今で言うボランチの選手だったのに対して、3人のコーチはいずれも攻撃的な選手でした。この辺りの分担が生まれるのか? どのような体制でチーム運営をしていくのかも全く想像がつかないと言うのが、現実ではないでしょうか。

今後、この体制でどのような成果を発揮するのか。ベンチで注目すべきは森保監督だけではなくなったことは間違いないようです。