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ワールドカップ雑感〜12月19日決勝戦〜

勝戦を見て最大の驚きはゲームの質の高さ

かつては、ワールドカップは過密日程のため、選手たちのパフォーマンスは大会終盤に向けて落ちるの常だと言われていました。だから、質の高い試合を見ることができるので、決勝トーナメント1回戦から良くても準々決勝止まりだと、言われていたのです。

それが、医療の進歩やトレーニング方法の開発、そして何より選手たちの日々のトレーニングの成果によって、大きく様変わりをしてきました。

カタール大会はこれまでの大会よりも更に過密なスケジュールで、決勝戦に出場した2チームは、中3日から4日のスケジュールで6試合をこなして、この晴れの舞台に臨んみ、最終的には120分間を戦い抜いたのです。にも関わらず、中継で見る限り極端なパフォーマンスの低下は感じられませんでした。

もちろん、両チームの監督が、6人の交代枠をうまく使ったことも一つの理由ですが、何より、ヨーロッパのトップクラブでは、国内リーグ、国内カップ戦、ヨーロッパリーグを合わせて、シーズン中、週に2試合のこなすのが当たり前になって、それに対応して選手のフィジカルの強度が高まっていることが最も大きな理由でしょう。

35歳のメッシ選手が、7試合全試合にフル出場したことが象徴的です。

もちろん、決勝戦より1日早く7試合目を迎えた3位決定戦のクロアチアとモロッコも同様です。クロアチアに至っては、10日前の日本戦よりもコンディションが良かったようにも見えました。前回ファイナリストの彼らは、コンディションのピークを準決勝、決勝に合わせるコンディショニングをしていた可能性が高いでしょう。

過酷な日程の中でも、ピンポイントでチーム全体や選手個々のコンディショニングできるようになったことも近年の進歩の一つです。もちろん、選手の怪我、今回のフランスのように選手の体調不良によって、コンディショニングが狂わされることもあります。

勝戦でもフランスの両センターバックが延長途中で突如交代を余儀なくされたのは、激戦が続いた上、万全のコンディションでない中で、この激戦を戦った影響かもしれません。

試合の流れを変えるベンチワーク

この試合は前半開始から後半30分前後まで、圧倒的にアルゼンチンペースでした。アルゼンチンのゲームプラン通りだったといいでしょう。

この最も大きな理由が、決勝トーナメントに入って出番がなかった、ベテラン、ディ・マリア選手の左サイドでの起用です。ヨーロッパ出身の選手は、利き足でない方の足でも、しっかりと蹴れる選手が多いですが、南米出身の選手には利き足しかほとんど蹴れない選手が少なくありません。彼もその一人と言っていい特徴のあるレフティです。

出場していた1次リーグでは、右サイドにポジションを取り、切り込んで左足で得点を狙いに行くという起用法でしたが、この試合では左サイドの開いた位置、いわゆるウイングとして登場。テクニシャン揃いのアルゼンチンでも一時代を築いた34歳のベテランは、後方からあらゆるフィードをしっかりと収め、華麗なドリブルでフランスディフェンスを翻弄し、チーム全体のリズムを作ります。そして、先制点のPKに繋がるファールを誘いメッシ選手の先制点をお膳立てします。さらに2点目も彼のゴールでした。

それ以上に、アルゼンチンがペースを握った大きな理由は、寄せの早さと球際での力強さだったのではないでしょうか。

日本代表の試合を見て、前田大全選手の献身的なチェイシングに感銘を受けましたが、そうしたプレーが、連戦で疲労が蓄積しているであろう決勝戦そして、その前日に行われた3位決定戦でも、随所に当たり前のように行われていました。

中でも、アルゼンチン代表のトップのアルバレス選手の本気でボールを取りに行くようなチェイシングが、フランスのリズムに影響を与えたのは間違いありません。さらに中盤の選手たちも、素早い寄せと激しい球際のプレーでフランスを圧倒していました。

戦前劣勢が予想されたアルゼンチンが主導権を握ることができたのは、42歳の若き指揮官のこうした指示に忠実に体現できたチーム力にあったのだろうと想像されます。

一方のフランスは、優勝した前回に大会に引き続いて指揮を執る名将デシャン監督が前半から積極的に選手を交代し、アルゼンチンに支配された流れを変えようと試みます。その成果が実際に表れるのは、後半25分、攻撃の中心選手の一人グリーズマン選手等を下げて、両サイドにボールをキープできて、リズムを作れる選手を入れたところからでした。

この交代以降、フランスのボールのキープ率があがり、それまでほとんどなかったアタッキングサードにもボールが運べるようになります。

リズムを得たフランスは、カウンターでアルゼンチンゴールに迫り、PKを引き出します。エースのエムバペ選手がこれを決めて1点差に迫ると、その直後にまたもエムバペ選手が華麗なボレーシュート決めて、2−2の同点で後半を終了します。

想像しないような大胆な選手交代に、フランスの選手層の厚さに驚きましたが、その起用はベテラン監督ならではのもので、選手たちへの全幅の信頼があってのものでしょう。また、選手のストロングポイントを活かしきる監督の想像力も不可欠です。

延長戦では、再びアルゼンチンがリズムを取り戻し、その流れの中で生まれたチャンスをメッシ選手が生かして追加点。しかしフランスは最終盤に得たPKの機会をエムバペ選手が再び決めて、同点で120分間のプレーを終了しました。

両エースの対決

この試合は、アルゼンチンの35歳の英雄・メッシ選手とフランスの若きスター・エムバペ選手の両エースの対決でも注目されました。この二人は、フランスの強豪パリ・サンジェルマンでチームメイトでもあります。

かつてに比べて、名だたるスターが少なくなった印象がある世界のサッカー界ですが、それでも、この大会には、メッシと並ぶ世界的なスターであるクリスティアーノ・ロナウド選手(ポルトガル)、ネイマール選手(ブラジル)も出場しました。日本と対戦したクロアチアモドリッチ選手もその一人と言えるかもしれません。

監督との確執からチームをクビになり無所属でこの大会に望んでいたポルトガルC・ロナウド選手は、代表チームでも監督やチームとの不協和から先発からも外され、失意のうちに決勝トーナメント1回戦で姿を消しました。

決勝トーナメントで怪我から復活したブラジルのネイマール選手は、クロアチア戦では圧倒的なパフォーマンスでゴールをあげましたが、モドリッチ選手率いるクロアチアPK戦で敗れました。そのクロアチアに勝利したのが、メッシ選手がいるアルゼンチンです。

35歳になったメッシ選手は、かつてのようなスピードや次々と相手を交わしてゴールに迫るプレーはそれほど多くなく、簡単にボールを奪われることも何度もありました。しかし、卓越したポジショニングとゴール対する嗅覚に衰えはなく、それを証明したのがこの試合3点目の延長後半のゴールだったと言えます。

さらに言えば、若い頃は自分中心のプレーが多く、その姿勢に対して周囲からの批判も多かったようですが、最近は若い選手や周囲とも高いレベルでコミュニケーションが取れていてプレーにも表れています。だからこそを彼を世界チャンピオンにしようと一丸になれたのでしょう。この大会の、体を張ってディフェンスをするメッシ選手の姿も新鮮な印象がありました。

一方のエムバペ選手は、今名前をあげたスーパースターたちの跡を継ぐ、新世代のスーパースターということになるでしょう。相手DFを翻弄するスピードにのったドリブルはこれまでのスターたちのそれを凌駕するものです。この大会のMVPは、ワールドカップ最多出場時間など様々な記録を更新したメッシ選手に譲りましたが、ワールドカップ史上二人目となった決勝戦ハットトリックを決めメッシ選手に競り勝った得点王の称号は、世代交代を高らかに宣言したと言って良いと思います。近年、安定した成績を続けるフランス代表は、すでにフランスリーグで4年連続で得点王となり、代表でも2017年の代表デビュー以来33得点をあげている彼を中心にチーム作りをしていくことになるでしょう。

もちろん、彼ら以外にもアルゼンチンのディ・マリア選手のように素晴らしい個性を持つタレントは数多くいます。筆者がこの決勝戦で注文したのは、デシャン監督が試合途中に投入したコマン選手とカマヴィンガ選手です。コマン選手の積極的な力強いプレーとカマヴィンガ選手の独特のリズムのあるキープ力が、一気にフランスに流れを引き込みました。こうした個性のあるレベルの高い選手がベンチにいることも、フランスが2大会連続で決勝に進出できる理由の一つなのでしょう。