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東京オリンピック、マラソン、競歩は札幌で?

なぜ、IOC国際オリンピック委員会)は今になって開催地を変更しようとするのか?

 多くのメディアが伝えている通り、カタールで行われた世界陸上でのマラソン競歩の競技の様子からIOCが危機感を持ったことが直接的な原因であることは間違いないでしょう。特に女子マラソンは惨憺たるものでした。この結果、「アスリートファースト」の大号令の下、猛暑の東京より少しでも気温が低い札幌で開催しようということになったのだろうと思われます。 

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 日本国内では開催決定当初から言われてきたことなので、ここに来ての変更案は日本人にとっては今更の感は否めないですが、それを今更と強く言えない事情が日本側にもあります。2020年大会東京開催を目指した招致委員会が、このオリンピックを招致するために作成しIOCに提出したいわゆる立候補ファイルの第2項「大会全体のコンセプト」には下記のような内容が明確に書かれているからです。

東京での2020年オリンピック競技大会は7月24日(金曜日)の開会式に続いて、7月25日(土曜日)から8月9日(日曜日)までの16日間で開催し、閉会式は8月9日(日曜日)に予定する。また、パラリンピック競技大会は8月25日(火曜日)から9月6日(日曜日)までの開催を予定する。

この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である。

 【東京オリンピック・立候補ファイル 日本語版から】

 招致委員会は、東京都と日本オリンピック委員会JOC)によって作られた組織ですから、このような文章が残っている以上、前任者の猪瀬都政時代のこととは言っても、小池都知事も「最初からわかっていたことでは」とは言いづらいでしょう。もちろん、IOC組織委員会もそして国際陸上連盟もこれまで全く何もしていなかったわけではなく、例えばマラソンのスタート時間は、当初の午前7時30分から6時に早めてきています。また東京都もコースに遮熱舗装を施したりやミストサウナなど設置するなど、耐暑対策を行ってきています。

変更による日本選手と競技への影響

 せっかく、本番に近い環境でMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)を開催して来年の日本代表を決めたのに・・・という声も少なくないようです。確かに当初予定されていた東京のコースで真剣勝負ができたことはアドバンテージになるとは思いますが、それを開催地変更に反対する理由に掲げることは得策ではないように思います。「アスリートファースト」の号令の前に、日本選手だけを優先するような発言は国際的に見てプラスに働くとは思えません。

 また、本番を想定した暑さの中でレースをして、暑さに強い選手が選ばれたというコメントも少なくありませんが、これは結果論に過ぎません。MGCが行われた今年の9月15日は、最高気温が30度を超え確かに暑かったの事実です。でも、2009年から2018年の過去10年間の最高気温の平均は27度台。今年は例年にない暑さだっただけです。それでも「夏マラソン」であることは間違いありませんが、MGCのスケジュールが決められた段階で、決して猛暑が想定されたわけではありません。例えば、男子マラソンが行われる予定の8月9日の過去10年の最高気温の平均33度台と比べれば、この日の気温は平均で6度前後も低いのです。ちょうど札幌の8月上旬の平均を同じくらいです。

 また、10月13日のシカゴマラソンで、ケニアのブリジット・コスゲイ選手が女子の世界記録を更新したように、最近では比較的気温が高い時期でのレースでも好記録が出るようになっているので、8月の札幌でもアフリカ勢を中心に高速レースになる可能性は否定できません。その結果、世界の高速化に付いていけない日本選手に不利に働く可能性もあるでしょう。

 一方、日本選手が一躍金メダル候補となった競歩はどうでしょう。マラソンと同様に東京の高い湿度を伴う暑さに慣れている日本選手の方が有利だという考え方もありますが、一方で現在5時30分に予定されている男子50kmのスタート時間をさらに早めるようなことがあれば、コンディショニングがより難しくなり、番狂わせの可能性が高まることになるのではないでしょうか。

 いずれにしても、マラソン競歩も総合的に見れば、選手にとってできる限りベストに近い環境で競技が行われることが理想です。アスリートファーストは貫いていくべきだと思います。 

 ※文中の平均気温はgoo天気(https://weather.goo.ne.jp/)のデータから算出しました。

札幌開催に向けての問題点

IOC組織委員会だけで決められてよいのか?

 オリンピックは、開催都市、その国のオリンピック委員会とIOCとの間での合意書締結によって開催されます。組織委員会は、その開催都市とその国のオリンピック委員会によってオリンピックを開催するためだけに組織されるいわば実行委員会です。今回の東京大会では、これまでの大会に比べて東京都やJOCが軽んじられ、IOCは国や組織委員会だけを見てきたように思えますが、これが現IOC会長のバッハスタイルと言えるかもしれません。しかし今回のような東京都以外での開催という重要事項で、東京都やJOCを抜きにして、IOC組織委員会、国際陸上連盟だけの議論で、結論ありきに物事を進めようとするのは明らかにおかしいでしょう。個々の発言の是非はともかくとして小池知事の態度は至極当然のことだと思います。

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何も決まっていないのに浮かれる北海道と札幌市は?

 今回の流れで気になるのは北海道と札幌市が東京都の意向に関係なく、開催受け入れを表明してしまったことです。オリンピック開催に対する責任の大きな部分を開催都市である東京都が負っています。その東京都が承認していない段階で、同じ自治体である北海道や札幌が早々に受け入れを表明してしまうことは、無責任以外の何でもないでしょう。もちろん、道民、市民の皆さんが喜ぶのは当然ですが、しかし、知事や市長は自治体の首長として、責任、予算、実現性などを十分に鑑みて、さらに東京都と相談した上で発言をすべきでしょう。それとも、札幌市が目指す2030年以降の冬季オリンピック開催のためには、IOCのご機嫌とりがそれほど大切なのでしょうか?

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誰が費用を負担するのか?

 札幌開催案が出た当初、日本のスポーツ関係者(コメンテイター)や札幌市、北海道の関係者は、北海道マラソンの実績を掲げ、そのコースをベースに開催されることを前提に議論を繰り広げました。でも、誰かが気が付いたのでしょう。オリンピックのマラソン競歩のスタート・ゴールには、チケットを購入した観客を収容できるスタジアムが必要であることを。そこで登場したのが、札幌ドームでスタート・ゴールを行う案です。でも、その改修とコースの整備には数十億円がかかると報道されています。何しろ札幌ドームには、スタート・ゴールの際に選手が出入りする、いわゆるマラソンゲートが無いそうです。スタンドや建物に大穴を開けることにもなりかねない、この改修に多額にコストがかかるのは当然でしょう。何より、そうした改修が構造的に可能であるかの判断はされたのでしょうか? また忘れてはいけないのは、同じ東京オリンピックで札幌ドームはサッカーの競技会場として、5日間10試合が予定されています。安易に陸上競技専用に改修することはできないのです。

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 それよりも北海道マラソンのスタート・ゴールの大通公園に、巨大な仮設スタンドを作るという案はいかがでしょうか? 公認コースとして実績のあるコースが利用できることは、運営上でも優れていると思われますし、札幌のど真ん中でのスタート・ゴールで盛り上がりも間違いありません。

 費用の話に戻りましょう。自らの意思に反して東京で行わない競技のために東京が費用を負担することはしないでしょう。東京都民の立場で考えてみればその支出は意味がわからない。であれば、北海道や札幌市が負担をするのでしょうか。よもや、IOCは国に負担しろと言っては来ないでしょうね。

 この件については、30日からIOC組織委員会、東京都などが参加して行われる「調整委員会」で決定されるそうですが、東京都からは現在の6時スタートをさらに早めた上で、都内で開催する案が提案される見込みだと報道されています。

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 実際に札幌に移転するとなれば、スタート・ゴールの施設以外にも解決しなければならない数多くの課題があります。コースの公認と整備、ボランティアや警備の手配、販売済みのチケットへの対応。特に北海道観光のトップシーズンに、選手、スタッフ、メディアなど関係者の宿泊施設を今から確保することは現実的はないかもしれません。それでも、こうしたことが解決され準備が間に合うことが確認されれば、最終的に「アスリートファースト」を理由にIOCが札幌開催を押し通すだろうと思われます。

 多くのアンケート調査でも、札幌開催に賛成する意見の方が多いようです。しかし、多くの日本国民にとって、今回のオリンピックのあり方を再考する機会になったのではないでしょうか。かねてから多額のコストが問題視されてきただけに、今後の進め方によっては、東京オリンピックを手放しで喜ぶことができないイベントとして捉える人がさらに増えることになるでしょう。それは、東京オリンピックのレガシーに大きな影を落とし、さらには2024年以降のオリンピック開催に負の影響をもたらすリスクを負うことにも繋がるでしょう。

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