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ゴルフはテレビ泣かせのスポーツ

渋野選手の優勝はやはりライブ放送で見たかったか?

 11月24日まで愛媛県で開催されたLPGA日本女子ゴルフトーナメント・王子製紙エリエールレディスオープンでは、全英女子オープンを優勝して今年一躍ヒロインになった渋野日向子選手が、今シーズン4勝目をあげて最終戦1試合を残して今年の賞金女王争いに踏み止まりました。人気選手の活躍に視聴率の方も高かったようです。

 しかし、その一方で、渋野選手の逆転勝利と鈴木愛選手との賞金女王争いで盛り上がったこの試合が、録画放送だったことを怠慢と大罪と言ってしまう辛辣な記事もありました。

 スポーツの醍醐味がライブであること、生放送ならではの緊張感がスポーツの魅力を引き立てることは誰にでもわかることです。それはゴルフでも同じで、結果を知って見るのと知らないのとはでは大違いです。

 ゴルフでは、かなり以前からアメリカやヨーロッパで開催されるツアーの中継がライブで放送され、深夜から早朝にかけての放送に、毎年のように寝不足になる方もいらっしゃると思います。渋野選手が優勝した全英女子オープンはイギリスでの開催だったので、時差が少ないことから幸い24時前後で決着したのではないでしょうか。国内のツアーではNHKがメジャー大会を中継する時に積極的に生放送をしていますし、民放でも今年は生放送の試合がありました。元々録画放送のつもりが、悪天候のためライブにするしかなかった試合もあったように思います。

 この記事では、ゴルフの魅力を高めるには生放送が必要だと説くのですが、ゴルフはライブで放送するのには、テレビにとって最も苦手なスポーツの一つと言えます。

ゴルフは進行の時間が不規則なんです

 その理由のひとつは、時間が不規則であることです。その日その日のスタートは決まっていて、順番に二人または三人がグループになって事前に決められた時間に合わせてスタートしていきます。ここでは悪天候などよほどのことがない限り遅れはないと思いますが、その後は違います。

 プレーが早い選手、遅い選手。選手ごとにまちまちで、競技運営側は早いプレーを呼びかけますが、違いは明らかに出ます。さらにゴルフの悪いことは、調子が悪い選手はたくさんプレーしなくてはいけないスポーツだということです。つまりプレーに時間がかかるということです。調子が悪い選手は概して考える時間も長くプレーも遅くなるという悪循環も考えられます。さらに天候によって競技が中断することもあり、そこまでいかなくても、風や雨の影響で好天より時間がかかる場合もあります。

 その結果、中継が始まった時にどの選手がコース上のどこにいるかがはっきり決まっていません。民放では、後半どこかホールからという設定で、試合の途中から放送を開始すると思いますが、その設定通りにいかないことが多いと思います。朝7時台や8時台から全てを中継するのは、民放の場合は放送枠やCMの問題があって現実的ではないと思います。アメリカやヨーロッパではゴルフ中継はほとんどが専門チャンネルで放送されているので、遅くなろうが時間が延びようが、逆に想定よりもめちゃくちゃ早く終わってしまおうが、基本的に問題がありません。スポンサー枠とCMで縛られている日本の民放ではなかなか難しい状況です。NHKが生放送ができるのもこのあたりと関係があるのでしょう。

 さらに言えば、注目選手がどのタイミングでどこを回っているかは、途中から中継放送が始まる場合は、どこから撮り始めるか、つまり機材をどこから用意するかもかかっています。

 生放送の場合でも、18全てのホールに均等に機材を配置することはないと思います。中継が入っていない時間帯に優勝を争う選手が回るホールは機材を最小限にするはずです。機材だけでなく、スタッフの配置もそれによって変わってくるのです。

ゴルフはひとつのグランドの上で同時にいくつものをボールを使って別々の選手がブレーしているようなもの

 もう一つの理由、こちらの方がテレビにとってさらに大きな問題なのですが、ゴルフは複数のプレーが並行して行われるということです。大会初日は主催者のさじ加減で、2日目から前日の成績順で、2人または3人が一つのグループになって、成績の悪い順から時間差でスタートしていきます。一つのグループ内では順番にプレーしますが、グループ間ではプレーのタイミングは関係ありません。複数の選手が同時にプレーしていることがあるということです。テレビ的に言えば、サッカーやラグビーで、ひとつのグランドの上で、同時にいくつものをボールを使って、別々の選手がプレーしているのと同じなのです。

 だから、生放送で、同時に複数の選手がプレーした場合は、一人以外はリプレイに回す必要があります。例えば、この記事にある王子製紙エリースレディスの最終日は、記事では賞金女王争いをする渋野選手と鈴木愛選手の一騎打ちのように書かれていますが、実際にはそうではありませんでした。

 渋野選手と鈴木選手は同じグループで回っていたので問題はありませんでしたが、実はふたつ後ろの最終グループに前日まで3日間トップを続け、この試合で来シーズンの出場権がかかる森田遥という選手が優勝争いに加わっていたのです。こうなると状況は複雑です。例えば、渋野と森田が同時にプレーする場合もあります。森田と鈴木でも同じです。しかも、違うグループということは試合の中の進行状況も違っているということです。

 もちろん、この3人以外の選手も無視することはできません。例えば賞金女王争いで鈴木と渋野の間にいる世界ランキングでも2位の申ジエという選手が、この日2位で森田選手と同じグループでスタートしていましたが、放送ではほとんど触れることができませんでした。作り手にとっては幸いだったことに、彼女が早々に優勝争いから脱落していたので早めに見切りをつけることができたと思います。もし彼女が優勝争いに残っていたり、彼女の位置にもっと人気のある選手がいたとしたら、たとえ録画だとしても大変なことになっていたと思います。

 生中継で放送する場合も、日本では試合自体を優勝争いをする選手だけのマッチプレーのように演出して、二人ともプレーをしていないタイミングで、例えば彼らが移動中に、タイミングが合う他の選手のプレーを入れるという割り切った放送が多いように思います。海外のツアーでも、やはり主軸の選手をはっきりさせる演出には変わりはありません。ですから多くの選手のスコアが拮抗した試合では、優勝争いをしている選手でもなかなか画面に登場してこないということが起こります。

 生中継をしないことが大罪とは思いませんが、その醍醐味はあるに越したことはありません。ネットなどでリアルタイムで文字情報が発信される現代では、その意味は大きいと思います。しかし、一般的なスポーツは生放送と録画放送では、かかる制作費はほとんど変わらないか、場合によっては生放送の方が安くなる可能性もあります。生は何が起ころうが「放送したら終わり」だからです。しかしゴルフというスポーツは、生放送にすると、明らかに制作コストがアップします。撮り損なうというリスクを防ぐために余分な準備が必要だからです。

日曜日の午後は視聴率が取りづらい時間帯。だって家にいない。

 昔の家庭では、日曜の午後と言えば、お父さんがテレビの前に寝転がってゴルフちゅ系を見ているという家庭が少なからずあったのではないでしょうか。しかし今は違います。日曜日の午後という視聴率を取りにくい時間帯で、いかにコストをかけるかは、放送局と代理店、スポンサーの腹の探り合いになるでしょう。コストアップの結果、中継される試合が減ってしまったら本末転倒です。ひとつポイントとして言えることは、この時間帯が視聴率が取りづらいのは、テレビを付けていないとか多くの人気番組に視聴者がバラけているだけでなく、そもそも家にいないことが原因のひとつだからです。夜の時間帯であれば、試合が盛り上がったり人気選手の活躍を知れば、チャンネルを変えたり、それまで付けていなかったテレビのスイッチを入れるかもしれません。そのあたりが平均視聴率と最高視聴率の差になって表れます。しかし、日曜の午後ではそもそも家にいない人も多く、たとえ今回のように渋野選手が活躍しても、それが視聴率の反映しない可能性も高いのです。

 違う視点から言えば、上記の考え方とは矛盾しますが、今年の渋野選手のような存在があれば、ネットなどで試合結果を見て「渋野が優勝したんなら見ようか」という視聴者の掘り起こしも十分想定できます。むしろ録画の方が視聴率に反映する場合もあるのです。

 テレビがダメならネット配信という選択肢もあります。最近は大会スポンサー=主催者にネット系の企業が増えてきましたら、現実的な話だと思いますが、ライブ放送の現場の問題点は、コストも含めてテレビを同じでしょう。まさか、多チャンネルに配信することはないと思います。

 LPGAを運営するみなさんは、今の選手任せの人気に満足せず、色々な可能性を探って、活況の女子ゴルフをさらに盛り上げてほしいものです。