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アジアカップが行われている半島は戦場の目の前だ。

カタールの目の前では戦争が行われている

1月13日からサッカーのアジアカップカタールで行われています。

日本代表は、初戦の格下のベトナム相手に一時はリードを許す時間帯もありましたが、逆転で勝利を収めています。優勝候補の筆頭としてジーコジャパン時代から19年ぶりのアジアチャンピオンへの期待がかかっています。

さて、この大会が開催されているカタールという国について、少なくとも筆者が知る限り、この国が置かれている現状について説明をしているメディアはありません。

どのような説明が必要か?と言えば・・・

カタールは、巨大なアラビア半島の東側、ペルシャ湾に突き出た日本の秋田県と変わらない面積のカタール半島を国土とする、人口約270万人の小国です。

豊富な石油と天然ガスの産出国として、世界でも5本の指に入る裕福な国として知られています。

そのカタールから見て、アラビア半島を挟んで反対側、地中海に面した場所では、パレスチナ自治区があり、イスラエルによる軍事侵攻が行われています。この文章を書いている時点で、2万5千人近くのパレスチナの人々が亡くなって、その数は日々増え続けています。

この紛争は、パレスチナ人が住んでいたこの土地に、イギリスを中心とした欧米各国が、1948年にユダヤ人国家、イスラエルを建国した時から続いています。

そのパレスチナ自治区アジアカップが行われているカタールとの距離は1000キロ強と、決して遠いとは言えない距離ですが、その間のほとんどは中東屈指の大国サウジアラビアの国土のため、この戦禍が直接、カタールに影響を及ぼす可能性は、限りなく0に近いでしょう。もちろん、テロの可能性は否定はできません。

しかし、現在の中東の戦禍はこれだけではありません。

まず、パレスチナ自治区を攻撃しているイスラエルは、北に隣接するレバノンも攻撃をしています。

一方、アラビア半島の西側にある紅海では、パレスチナ支援を表明しているイエメンのフーシ派が、紅海を往来するイスラエルを支援する国の船舶に対して海賊行為などを行っていて、さらにこれに対抗してアメリカとイギリスは、イエメン国内のフーシ派の拠点を攻撃しています。

紅海は、カタールから見てアラビア半島の反対側ですが、イエメンはアラビア半島の最も南に位置する国で、カタールから最も近い場所でおよそ400キロの距離です。それでも、やはり間はサウジアラビアの国土であるために、この戦闘もカタールに直接の影響が及ぶ可能性はないと思われます。

カタールに戦禍が及ぶ可能性として最も危惧されるのは、イランの存在でしょう。

イランは、中東きっての大国で、カタールサウジアラビアなどの他の中東各国と宗教的に対立しています。また、パレスチナ問題では明確にパレスチナを支援する数少ない国の一つでもあります。中でも、今回イスラエルの侵攻の原因となる攻撃を行った武装組織ハマスへの支援を行っていると言われています。またイエメンのフーシ派もイランの支援を受けていると言われています。

イランは、アメリカやイギリスとも長く敵対関係にあります。特にイランの核開発を抑制するために2015年に締結された核合意を、アメリカがトランプ政権下で一方的に破棄して経済制裁を行ってから、両国は最悪と言って良いほどの関係が続いています。このため、双方で関連施設を攻撃する小規模な衝突が繰り返されています。

そのイランは、カタールから見るとペルシャ湾を挟んだ位置にあって、わずか200キロ程度の距離にあります。ミサイルがいつ飛んできても不思議はない距離です。

アメリカ軍に守られる中東の軍事バランスとスポーツの安全

それでも、今回のアジアカップの期間だけでなく、一昨年のワールドカップなども含めて長くカタールの安全が担保されている理由は、この国に、中東で最大のアメリカの空軍基地があり、1万人以上と言われるアメリカ軍が駐留しているからです。

カタールに限らず、UAEサウジアラビアなどの今日の繁栄は、石油資源の安定確保のために中東各国に駐留するアメリカ軍の存在を抜きにして語ることはできないのです。

ちょうど、沖縄や日本全国にアメリカ国外では最大規模と言われるアメリカ軍の基地があって、軍事的なバランスを保っている現在の東アジアの状況と似ているかもしれません。

そのカタールアメリカとの間では、アメリカ軍駐留が10年間延長する合意がされたという報道が先ごろあったばかりです。

イスラエルパレスチナの現在の紛争の長期化の可能性が高まり、中東の軍事的な不安定化が危惧される中で、カタールとしてはアメリカ軍に去られては堪らないというところでしょう。

国際的なスポーツ大会も戦争と無関係ではいられない

ロシアによるウクライナ侵攻では、スポーツ界でもロシアへの様々な制裁が加えられ、例えば今年開催されるパリオリンピックパラリンピックでは、ロシアとベラルーシの選手たちは自国の代表として参加することができません。

このことは、国際的なスポーツも戦争や紛争と無関係ではいられないことを思い出させてくれました。

一方で、イスラエルから侵攻を受けているパレスチナにも、オリンピックやパラリンピック出場を目指しているアスリートがいます。記録を見てみると、東京大会には、オリンピックには5人、パラリンピックには一人の選手が、パレスチナ代表として出場していました。彼らや彼らの仲間たちは無事にパリ大会に出場することができるでしょうか。

商業主義的思考の強い現在のバッハ体制の国際オリンピック委員会では、ロシアという大きなマーケットを失いたくないというのが本音なので、世界的な世論の反対を受けてもアスリートの権利の保護という名目で、ロシア出身のアスリートたちの出場を全力で支援してきています。

しかし、パレスチナというそもそもマーケットとして期待ができない、低所得の地域のアスリートのために、彼らが尽力するとは思えません。

おそらく、第三国の支援が必要になるはずです。それが日本でも良いはずですが・・・

分断が広がる世界でのスポーツ大会

世界は、今後、これまで以上に分断と格差が広がる時代に進むと予想されています。

その引き金となったのが、アメリカのトランプ前大統領の存在とロシアのウクライナ侵攻だと言われています。

私たちが住むアジアでも数多くの紛争が続いています。先に挙げたイスラエルパレスチナ以外にも、中東だけでシリア、リビア、トルコ、アフガニスタンなどが国内に民族紛争があり、東南アジアでもミャンマーなどで民族紛争があります。

中国にもウイグル自治区チベット自治区の人権問題もあります。

そして、日本にとっては、台湾と中国の関係は、決して対岸の火事とは言えない、身近な問題です。アメリカの軍事アナリストの多くが語る通りであれば、中国の武力行使の可能性は現実的なもので、その火の粉が日本に降りかかる可能性は十分にあるのです。

もちろん、北朝鮮が38度線から韓国国内に侵攻したり、実験を繰り返している弾道ミサイルを使用することも、可能性を否定することはできません。

アジアは、世界で最も人口が多く、多くの民族によって構成されている地域です。多くの宗教があり、価値観があります。その多様性の広がりは、そのまま分断と格差の可能性が高いことを意味しています。

2年後の2026年には、名古屋で、オリンピックのアジア版と言われるアジア大会が開催されます。果たして、すべての加盟国と地域がこの大会に参加できているでしょうか。その時、アジアは、そして世界は、どのような状況になっているでしょうか。

まもなく、ロシアがウクライナに侵攻してから2年を迎えます。2年前の今頃、世界はロシアがウクライナに侵攻するとは想像もしていませんでした。

スポーツができる平和の大切さを感じながら

2022年3月末、フィギュアスケートの世界選手権がフランスで開催されました。

ロシアの軍事侵攻開始からわずか1ヶ月後に行われたこの大会には、ロシアとベラルーシの選手の出場は認められず、女子シングルスでは、坂本花織選手が、男子シングルスでは宇野昌磨選手が優勝、鍵山優馬選手が銀メダルを獲得しました。

突如ロシアからの攻撃に晒されたウクライナからは、男子シングルス1名とペアとアイスダンスにそれぞれ1組ずつが出場し、彼らがリンクに登場するとひときわ大きな喝采を浴びていました。当時、そのシーンだけがニュースやネット動画で紹介されるという、そんな時期です。

おそらく、会場がフランスということもあって、ムード的にはウクライナ応援一色だったはずです。

筆者は、優勝した二人の日本人チャンピオンが、優勝者インタビューでどのような言葉を発するかに注目していました。ウクライナ侵攻について、世界チャンピオンとして何かメッセージを送るかどうかです。

しかし、彼らの口からは、優勝の喜びと周囲への感謝の言葉しか出てきませんでした。

アスリートの政治的な発言に眉を顰める人が数多くいるのは日本だけではありません。オリンピックや競技団体でも否定的で、規約上でも禁止事項になっています。

しかし、侵攻開始直後のあの大会は特別でした。ロシアを名指しすることをしなくても、平和への希求と自らが変わらず競技に打ち込めることへの感謝の言葉にして発することは十分に可能だったはずです。

そもそもIOC自身が、平和への願いは、政治的なメッセージではなく、人類共通の願いだと過去に認めています。

ペアの演技で優勝したアメリカ人選手、アイスダンスで優秀したフランス人選手たちがどのような言葉を発したかを確認することはできませんでしたが、彼らを含めて世界チャンピオンとして、平和を願うメッセージをあのタイミングで発することは、とても重要だったと筆者は考えます。

それは、アスリート自身が、戦禍によって自由を奪われ、スポーツをできない人たちがいることを思い出し、また自らの幸運に感謝することに繋がります。

世界を転戦するトップアスリートのメッセージは、海外の出来事を他人事にしがちな自国民へのメッセージにも繋がるはずです。

ですから、宇野、坂本両選手のこの時のコメントは、筆者にはとても残念で、テレビを通して見た会場も同様に感じただろうと思っていました。

今回のアジアカップでの優勝を確実視される日本代表の選手たちは、どんなふうに考えているのでしょうか。

優勝インタビューで、世界の平和とサッカーを通して相互理解が実現することを希望するくらいのことを言ってくれたら、筆者は同じ日本人として誇らしく思います。